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魔力玉

少し短い?

今回は第三者視点のみです。


ひえええブクマ1000件ありがとうございました!!!



 この大陸における、自己の魔力を使う魔法に必要なのは、感覚と才能である。





 自分の体内魔力の集め方は、一人一人がちがう。

 大きな魔力を持つ者は、比較的魔力を感知はしやすいが、そこから魔法が使えるまでの時間には個人差がある。


 どうやって身体に魔力を巡らせ、外へ魔法として発動させるのか…そのイメージ力こそが、どれだけ早くに魔法が使えるかのカギなのだ。

 他者の魔法を見るのも、参考程度にはなるだろう。

 だがそれだけである。

 魔法を見て、全く同じものを同じやり方でマネしようとしても、それはとても難しい。

 身体のつくり・精神の人格・細かなクセなどで、魔力の集め方や出力は変わってくるのだ。




 だから自分で探すしか無い。

 魔法を始めたいという者が、まずつまずく理由はそこである。

 そこで貴族の子供たちには、まず魔法を使えるまでの『とにかく魔力に触れる期間』が用意される。

 この間は、感知できた自分の魔力の感覚を忘れないように、それ以外の一切の勉強を免除されるらしい。

 感覚の鋭い幼少期の方が、魔法を学びやすいと考えるためだ。


 そしてこれは確かな効果を出している。

 現在、貴族はほぼ例外なく、皆が魔法を使用できる。





 もちろん、平民にだって魔法を使えるものはいる。

 ただ平民の子どもは即戦力として、実家の仕事の手伝いをしていることがほとんど。

 よって、自身の魔力に触れる時間の差か、貴族に比べて魔法使いの絶対数は少ない。

 半数以上の者は体内の魔力が感知できずに諦め、魔力が練れずに諦め、イメージと魔力量が重ならず魔法が使えずに諦めるのだ。

 貴族のように髪色の濃いものが少ないのも理由だろう。

 さいわい、魔道具が買える収入さえあれば、ヴィレア王国は豊かな国であるのでそこそこ便利な暮らしもでき、平民に不満はみられない。

 それは、この国の王族・貴族が比較的善政をしいているためであると思われる。




 そういう訳で、魔法を使えるようになるのはとても難しい。

 そこから、イメージが命と言われる魔法師として頭角を表すのは更に難しい。

 変態と言われるまでに魔力の燃費にこだわり、魔法への魔改造を繰り返し、日々妄想(イメージ力)へと精を出すものたちこそが超一流の魔法師へとなれるのだ。

 そんな超一流たちは、総じて個性が突き抜けているという。

 …どこかに国民総変態な国家があると聞いたこともあるが、それはこのさい置いておくことにしよう。

 耳が痛いですね?





****************






 「まあ、魔法とは感覚と才能であるとは言われています。

 しかし、こんなにも早く自力で視て、実際魔力を動かして、しかも魔法が成功するだなんて…前例がないですねぇ。

 全くもって規格外です。

 天才という言葉すら生ぬるいように感じますね、魔法の申し子とでも言うべきなんでしょうか?」



 「そ、それはなんだか恥ずかしいような…!

 天才って言葉ですら恥ずかしいのに、魔法の申し子って。

 そこまですごい事なんですか、これ…?」




 「すごいことです」


 「すごいことですか」




 応接間で男女が2人、顔を見合わせている。

 一人はこの国の第四王子。もう一人は、王子の結婚相手として呼ばれた美貌の異世界人、カグァム・リィカ(鏡 麗華)である。

 二人の距離は付かず離れず、なんともこそばゆい。

 お互いに頬はうっすらと染まり、周囲にはしつこいくらいのピンクの気がふわふわしている。

 最も、王子は魔法師適性がないため、それが見えているのはカグァム嬢だけのようだが。

 気がピンク色なのが嬉しいのか、彼女はこっそりと王子以上に頬を染めた。





 「ネル様にすごいって言ってもらえるの、嬉しいです…。

 私の故郷には、魔法が現実としては存在していなかった分、たくさんの魔法の物語があったんですよ。

 本や、ゲームや、絵や…とにかく大人気でした。

 だから、魔法のイメージ力だけはもともとあったのかもしれません。

 …あこがれの魔法を使えるだなんて夢みたいです!」




 「ふふ、それは良かった!

 貴方に魔法を教えようとしたのは大正解だったんですね。そんなに好きだったなんて。

 こちらこそ、頬をキレイに治してくれてありがとうございます。

 完璧です、もう全然痛くありませんよ!

 治してくれたのがカグァム嬢だと思うと、むしろ前よりも肌の調子まで良いくらいです」




 「もう、ネル様はお上手です…」



 「…本心ですから」





 王子は幸せそうに目尻を下げてほほえむと、カグァム嬢の左手を軽く持ち上げた。

 彼女も自分の左手を見る。

 そこに、王子の薄くて指の長い手のひらが更に重ねられた。





 彼女の左手と、彼の右手の小指。



 そこには『結びの魔法陣』で繋がれている証の、赤いリボンのような印が揺らめいている。

 どちらかの心が離れてしまったら、次第に色が薄れていってしまう印。

 やわらかく静かに揺れるリボンは、二人の心の距離そのものだ。

 これは『愛と美の女神』の加護を受けたもの。

 かの女神は、こと愛と名のつくものに対しては間違いは起こさないと言われている。

 (だから結婚相手の希望の一致で、異世界人までがこちらに来てしまったのかもしれません)

 赤く色付くそれを見て、にやけた顔になってしまうのも両想いなら仕方のない事だろう。

 まして、まだ若くウブな男女なのだ。

 お互い愛情を隠そうともしない熱い眼差しで、相手の目を見つめ、そこに自分自身のみが映っていることに歓喜しーーー





 ーーーそして、自分の容姿のヒドさに落ち込んだ。








 少しだけ部屋のピンク密度が下がったようだ。

 他者からしたら、ようやく楽に息ができるかという空気である。

 ツッコミが誰もいなかったのだ、糖度は酷いことになっていた。

 2人とも一気に頭が冷やされたのか、少し表情に影を背負っている。

 しかし手を離していないのは、さすがバカップルと言えるだろうか。





 ラブラブモードはいったん止めることにしたようだ。

 手を繋いだままではあるものの、落ち着いた様子で大きな魔道具の前にやってきた。



 ゆうに王子の背丈も越す大きさである。

 見た目は、地球で言うパイプオルガンに似ているだろうか。

 わずかずつ細さ、長さの違うパイプが上に向かって伸びており、パイプ下にはUの字型の受け皿がある。

 装置の真ん中にはぽっかりと丸い穴があり、そこに両手を入れると魔力を吸い出す仕組みのようだ。

 どれくらいの魔力を入れるのか設定するのは、これまた妙に鍵盤じみたカラフルな色の長方形の板である。

 アラビア数字で『1/5』『1/10』などと彫刻されている。

 この魔道具は装飾品としてもレベルが高く、いたるところに花だの天使だのの黄金の彫刻が施されていた。

 パイプの、時たま虹色の光が入る白銀と合わさって、えも言われぬ美しさだ。

 女性なら誰しもがその美しさにうっとりとするだろう。

 ツヤツヤに艶出しされていたため、正面から魔道具を見た2人がまた、そこに映った自分に打ちのめされたのはもう放っておこう。





 「…そろそろ先に進めましょうか。

 魔力玉について先ほど説明したことは覚えていますね?」




 「はい。

 自分の魔力を球状にして取り出したもの、そのまま食べたら魔力回復、道具に組み込むと魔道具になる。

 ということでしたね」




 カグァム嬢はすらすらと答える。

 先ほど、真剣に(王子に見惚れていたのはともかく)授業に取り組んでいたのはダテではないようだ。





 「あなたはとても優秀な生徒です、素晴らしい。

 今言ってもらったことがほぼ全てですね。

 魔力玉はとても便利な物です。

 そして取り出した魔力玉の魔力値を逆算することで、自分の中の存在魔力を数値化することもできる。

 この機械はご想像のとおり、魔力玉作成機です。

 ではこれで、カグァム嬢の魔力値を測ってみましょう」



 「はい!」





 カグァム嬢は、わくわくが止まらない!とばかりに、小さな両手を機械の穴のなかに入れた。

 レースの手袋は少々お行儀悪く、机の上に脱いだときのまま置かれている。

 よほど待ちきれなかったのだろう。

 彼女の黒い瞳は、好奇心にキラキラとかがやいていた。


 そんな様子を見てクスリと笑い、離れてしまった手にわずかな寂しさを覚えながら。王子は鍵盤に手を置いた。





 「では。

 カグァム嬢は魔力が多いでしょうから、『1/100』から始めましょう。

 このキーを使うことは滅多にありません。

 この国では王族と、あとはいくらかの上位貴族くらいです。


 『1/100』の魔力を込めたら、その込めた魔力の『1/100』の魔力玉ができます。

 つまり魔力玉は『1/10,000』の数値の物になります。

 それで逆算してみましょう。

 これほど倍率を下げれば、まず大変な代物は出来上がらないと思います。


 開始しますね」






………。


 それ、なんてフラグ?






 王子の長い指が、鍵盤を軽やかに叩いていく。

 鍵盤は数値の書いていないものも多く、それも数値のもの以上に数がある。

 おそらく、押す組み合わせで『開始』などといった命令を機械に組み込むためのものなのだろう。

 魔力玉作成機は、こっそり悪用されてはとんでもない事になるので、国に認められた知識ある良人にのみその操縦が許されている。

 王子の指が止まると、パイプが澄んだ音を奏で始めた。

 表面は虹色のきらめきが強くなり、より一層美しい。



 穴に入れたカグァム嬢の手からは、まばゆいばかりの光の粒子があふれ、次々とパイプに吸い込まれて行く。





………。







 平均的な魔力を持つ人の場合なら、一瞬キラリと光って終わりなはずだ。

 2人は唖然とこの光景を見ていた。



 規格外。

 これをそう呼ばずになんと言う。

 そして待っても待っても、魔力の吸収が終わらない。

 魔力を余分に吸い取られていないだろうかと、王子は焦って彼女をみたが、ケロリとしながら光の芸術に釘付けになっているようだ。

 そこだけは安心してホッと息をつく。

 しかし終わらない。


 終わらない。








 終わらない。






 終わらない。







 「…終わりませんね…」


 「…そうですねぇ…」





 もはや30分。



 さすがに参ってくる。

 ここまでくると目は眩しいし、音もうるさいように感じられる。

 むしろうっとおしい。

 いかに綺麗な響きであろうと、30分も至近距離で巨大なパイプから出る音を聞いていると、耳が疲れてくる。


 カグァム嬢は手を離すわけにもいかず、少々ぐったりとしていた。

 ふくよかな彼女だ、きっとパンプスにヒールはなくとも、長く立ち尽くしているのは足腰にクるのだろう。

 王子はそんな彼女を痛ましそうに見ている。

 鍛え抜かれた細身の彼は30分棒立ちなどなんてことは無いが、彼女と代わってやることなどできないのだ。

 そっと近付き、少しフラついているカグァム嬢を優しく支える。

 右肩に置かれた手をつたって、じんわりとした暖かさが彼女をなぐさめた。

 彼女は疲れているだろうに、いじらしくもほんのりと微笑んで、愛しの彼の名を呼んだ。





 「ありがとうございます、ネル様…。

 私、まだ頑張れます」




 「…すみません、私のミスだ。


 あなたは史上最高の魔力量を持っているのだから、もう少し可能性を考慮して魔法玉を作るべきでした。

 こんなに長く時間がかかるなんて。

 …あなたをつらい目に合わせたくなんて無かったのに」




 王子は醜い顔をさらに歪めて、絞り出すように言った。

 そんな様子に、カグァム嬢は困ったように豊かな眉を下げ、ゆっくりと彼に語りかける。




 「そんな大袈裟なものでは無いですよ?

 単に、足が少し痛いだけです。

 ネル様は十分、色々と考えて私に良くして下さっていますよ。

 とても感謝しています。

 今回はたまたま、予想外のことが起こっただけですから」



 「カグァム嬢…。

 なんて優しい女性なんだ…」



 「ネル様こそ…。

 とってもとっても、優しい人です…」





 一瞬の痛ましい雰囲気はどこへやら。

 こんな時にまでいちゃつけるとは、さすがの2人である。

 先ほどやわらいだピンクの気がもう息苦しいほど濃い。

 本当に濃い。

 交わらせたお互いの視線が、だんだんと熱を帯びてくる。

 王子がカグァム嬢を支えたことで、お互いの距離はもういかほども開いてはいなかった。

 息づかいさえ、気を付ければ聞くことができる。

 お揃いの青薔薇の香りが鼻をくすぐる。

 …ここにいるのは2人だけ。

 その事実が、男女の熱をさらに上げさせた。

 ここまでムードが高まれば、この後に訪れるのはそう、あのロマンティックイベントしかありえない。

 2人の顔がゆっくりと近づきーーー









 しかし運命はいたずらが大好きだった。






 いざ、お互いの唇がすぐそこというその瞬間である。

 魔道具のパイプから、ピィーーーーッという一層カン高い音が響き渡った。

 次いで、まばゆかった光が落ち着きはじめ、カンカラカンカラと、何か丸い物が装置の中を落ちてきている音がする。

 長いパイプの中を滑り落ち、受け皿にころりと落ちたのは見事な漆黒の丸い玉。


 なんとこのタイミングで魔力玉が出来てしまったのだ。

 2人は毒気の抜かれたような表情でそれを見ていた。

 さっきまでの甘い雰囲気はまたしても拡散してしまっていた。






 「…鑑定、して、みますか?」


 「………そうですね…ッ」




 王子の瞳に少しだけにじんだ涙を、誰が咎められようか。

 その日の夜は裁縫がはかどりにはかどったと、王子は語った。






そうなるよね、王子だもん。

前回、1週間後までは清い交際でって言ってたのに流されやす過ぎますねすみません。




読んで下さってありがとうございました!

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