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魔法教室

なんかもう皆色々とアレです。

インフル治りました!

お騒がせしましたー>_<

 私の女神が女神すぎて本当に女神。


 ネルシェリアスです。








 何を言っているか分からないですって?

 一生分からなくていいです、むしろお願いですから分からないままでいてください。


 彼女の魅力は私だけが把握していれば良いのです。

 ただでさえあの美貌には男性が群がっているというのに、その上、性格まで優しくて最高に可愛いなんて知れたらどうなることか・・・想像に容易すぎます。

 魅了される前に去って下さい。

 恋路を邪魔する者はグールに喰われて死んじまえ、ですよ?


彼女の夫になるのは私なんですから!






 女神が女神すぎて取り乱しました。



 それもこれも、今目の前に揺れる空色のドレスのせいでしょうか?

 愛らしくて眩しくて、頭がクラクラします…。







 昨日、女神と…いえ、カグァム嬢とお呼びしましょう。カグァム嬢と分かれてから 私は、王宮ご用達の衣装屋を呼び寄せ、早急に贈るドレスについて相談をしたのです。

 衣装屋にはあらかじめ、彼女の髪色を伝えてあったので、揃えられたのは色濃い素晴らしいドレスばかりでした。

 ですが…。

 どうにもしっくり来ない。

 既製品のドレスでは、彼女の漆黒の髪色を引き立てることすら出来ないような気がしたのです。

 かと言って、カグァム嬢ほどの魔力を持つ者はいなかったため、黒のドレスが作られているはずもありません。

 これには参りましたね…。

 私は多いに悩み、衣装屋を夜中拘束して困らせたあげく、結局ドレスを用意できずに貴族たちに先を越されるという大ポカをやらかしたのです。

 もう、私自身がグールに喰われるべきだと思いましたね。

 魔力の無い者はグールすら嫌って喰いませんが。

 ははは






 取りあえず、私だけ何も贈らずにいる訳にはいかないので、アマリエに頼んでこっそりウサギのぬいぐるみ(2体目)を持って行ってもらいました。

 昨日、私がベッドに置いておいたぬいぐるみを彼女がいたく気に入ってくれたと聞いたからです。

 なんと、もふもふスリスリする程までに気に入ったとかぬいぐるみ羨ましい。

 教えてくれたのは安定のアマリエ。

 本当に侍女長には頭があがりませんね。

 知りたい時に必要な分だけ情報をくれる彼女は、本当に優秀な『影の者』です。

 今後も彼女に、カグァム嬢の様子を逐一報告するよう命じておかなければ。





 裁縫や刺繍、編み物は私の得意分野です。

 醜さゆえ遊び相手に恵まれなかった幼少時代、ひたすら無心になれる裁縫などにどっぷりハマって、今や一流の職人にすら負けない腕前になりました。

 昨夜彼女に贈ったのは、純白の生地にブルーサファイアを瞳にしたぬいぐるみです。

 2回とも色合いが同じで芸が無いと思うかもしれませんが、私自身を思い出して欲しくてこの配色のままに決めました。

 ねちっこくて気持ち悪い?

 その程度の言葉など言われ慣れてますドンとこい、です。

 カグァム嬢は私と同じ色の手作りぬいぐるみを愛用しているのですよ、羨ましいでしょう私もぬいぐるみが羨ましい。

 …失礼しました。





 さいわい、カグァム嬢は2体目のぬいぐるみも喜んでくれたらしく、朝起きて増えていたぬいぐるみに歓喜の声を上げていたとの事です。

 それはとても嬉しい。

 だけど、問題はドレスです。





 貴族たちとて、彼女の髪色のような漆黒のドレスは用意できなかったでしょう。

 おそらく、深い色合いの…深読みをしてしまえば、自身の髪色と同じ色のドレスを贈っているやもしれません。

 由々しき問題です、彼女が他の男の色彩を身につけるかもしれない。そのままその男性の色に染まってしまうかもしれない。…心変わりしてしまうやもしれない。

 私は醜く、ドレスすら用意できない能無しで、出来ることと言えば彼女をひたすら愛することくらいです。

 他のイケメン貴族たちへの嫉妬で身を焦がされそうになります…!

 しかし自業自得、私には誰かを責める事などとても出来ません。

 彼女へドレスを用意できなかった私に責があるのですから。

 悔しい…!






 そんな、よどんだ気持ちで私は、カグァム嬢を待っていました。

 今日は彼女へ魔法を教える予定になっています。

 彼女の故郷ではドレスを普段着る習慣が無いそうで、着付けに手間取っているのか、約束の時間はギリギリにまで迫ってきていました。






 つのるネガティブな気持ち。

 湧き上がる後悔。

 いいかげん、どうにかなってしまいそうだったその時です。

 アマリエの声が聞こえたのは。








 我ながら何と単純なことか!





 カグァム嬢に会える。

 ただその事実に舞い上がってしまいました。

 とたん、彼女の笑顔を思い出して、一瞬で幸せに包まれているような気持ちになる。




 まず思い出したのは、抱きしめた時の身体の柔らかさと、黒髪から香る優しい花のかおり。

 私よりずっと低い視点から、じっとこちらを見つめる漆黒の瞳。

閉じ込めた手のひらは私の手で覆えてしまえるほど小さくて、ぷっくりしていて可愛らしかった。


 …どうか、貴方の手をとる男性は私だけのままであってほしい。

 カグァム・リィカ嬢。私は一生をかけて、あなたを愛し続けると誓えます。

 あなたは1週間後に、私と同じ気持ちでいてくれるでしょうか。

 待ちきれない。

 ………私の、私だけの女神!








 はやる気持ちもそのままに扉をぶち開けて、アマリエにキレられたのは割愛します。もうしませんごめんなさい。

 (あんなアマリエは初めてだった…)





 それより、

 私は目の前に現れた爽やかな空色のドレスと、昨日よりさらに美しさを増したカグァム嬢の美貌に釘付けになってしまいました。

 なんということでしょう。


 あの美貌の、さらに先があったとは。






 アップにまとめられた黒髪には見事なまでの艶が足され、とんでもない色香を放っている。

 整った顔は、そのままが一番美しいとメイクすら施されていないが、それでいて髪や服に負ける事もない。

 口元にのみ、黒みをおびた紅色のルージュが引かれていて、彼女を少し大人びて見せていた。

 象牙の肌には真珠のパウダーがふられ、キラキラと輝いて、ホクロとの色のコントラストが素晴らしい。





 そして、空色のドレス。

 それは私が想像も出来なかったドレスの色で。

 そして、毎日毎日自分を通して、よく知っている色だった。


 貴族たちが贈るはずもない淡い色のドレス…どうして彼女がそのドレスを選んだのか考えて、私はカッと顔に火がついたように赤くなった。








 もう私の女神は本当の本当に女神だった。





 正直、不安だった。

 小指の印は、今だ赤々としているけど…

 カグァム嬢を他に愛してくれる人がいて、その人が兄上のような絶世の美男子だったら、彼女をとられてしまうんじゃないかって。

 私が願ったのは、『愛してくれる人』…つまり、醜い者でも愛せる慈悲深い人、だったから。


 私だけを愛してくれる、わけじゃない。

 あんな美貌の女性と繋がるだなんて想像もしていなくて。

 彼女はとてもモテるし…時間が経つにつれ、自信を無くしていたんです。





 だけど彼女は、どんなに素晴らしい濃い色のドレスよりも、豪奢な宝石の装飾よりも。ただ私のことだけを想ってこの空色のドレスを選んでくれていた。

 なんと嬉しいことか!

 彼女が想っている相手は、この私なのです。

 うぬぼれなんかじゃないと、そう感じる。

 自分に絶望的にネガティブな私が、そう思える程に、そのドレスは私の瞳そのものの色をしていた。

 どうやって手に入れたのか不思議な程にそっくりだ。






 身に付けているのは、この国の主流であるエンパイアドレス。胸下を装飾付きのリボンで引き締め、その下はゆったりしたスカートが足首までを覆うものだ。

 薄い空色の生地が幾重にもかさねられ、まさに私の瞳と同じ色になっている。


 小物や髪飾りも全て、淡い色をベースにして統一されている。

 白と銀の糸を織り交ぜて作られた、手首までのレースの手袋。

 主張しすぎない上品なパールのネックレス、乳白色のパンプス。

 胸下のリボンには、唯一色濃いみごとな青薔薇が飾られ、みずみずしさもそのままに咲き誇っている。

 頭上には銀色のティアラが。



 カグァム嬢の身に付けているのはまさに私の色。

 そして、とろける様な笑顔で「ネルシェリアス」と呼ぶのです。






 愛する人にここまで見せつけられ、歓喜しない男性がいないはずがありません。

 鼻血確定待ったなし。

 もうこれはたまりません。

 …ハンカチが血まみれになってしまいましたが、カグァム嬢が心配して背中をさすってくれたので後悔はありません。

 むしろ大変ごちそうさまです。





 なんとか鼻血を気合いで止めて(あまり彼女に心配させすぎるのも良くありませんから)。

 せっかく近くにいたので腕の中に閉じ込めて、「今日はまた一段と最高に可愛いです!」ってささやいてみました。

 正直、ブサイクが言うと気持ち悪いことこの上なしですが、大丈夫!きっと彼女は私を愛してくれてる!とネガティブな心をねじ伏せます。

 おそるおそる目を合わせる。

 と、……。





 カグァム嬢のふくよかな頬が熟れたリンゴのように赤らんでいる。

 なにこれ可愛い!!!




 思わず頬を撫でると、恥ずかしそうに上目遣いで微笑んでくれて、もう昇天しそうになる。

 そして色気ある唇から、可憐な爆弾を落としてくれました。




 「…ありがとうございます!

 ネル様も、その、今日もとーーってもカッコイイです…」







 思わず彼女の唇にキスしてしまいそうになった私は悪くないと思います。




 アマリエと見習い侍女に全力で阻止されましたが。




 双方とも容赦ありませんでしたが、私、第四王子殿下なんですけど?

 特に見習い侍女、殺気が目に見えるようなんですけど?

 ああ、平手された両頬が痛い…。





 仕方ありません。

 彼女と愛を育むのは1週間後まで我慢して、今はまだ清い交際にとどめましょう。

 顔を青ざめさせてこちらを見上げているカグァム嬢に、心配ないですよと笑ってみせた。





 今日は彼女の楽しみにしていた魔法の授業。

 始まる前からゴタゴタしてしまいましたが、そろそろ開始しましょうか。

 目の前には愛しい妻にして、最高の生徒。

 私の持つ知識全てを、貴方のために捧げましょう。




 さあ、魔法教室を始めましょうか。






****************







 応接間には、4人の人影。

 他国の使者をもてなすのにふさわしく、邪魔にならない程度の豪華な装飾が施された、見事な部屋である。


 落ち着いたベージュと栗色をベースに、観葉植物や生花が置かれ、レース越しに注がれる日光と合わせて優しい色合いになっている。

 広い室内は、4人で利用するには贅沢なほどだ。

 今回は魔法教室を目的としているためか、黒板のようなものも用意され、机の上には3人分の『王子直伝魔法基礎書』が置かれている。


 生徒の態度は様々であり、授業に真剣に取り組むもの、やる気なくパラパラページをめくっているもの、誤字脱字のチェックをしているものに分かれていた。





 そんな室内には、魔法の定義について朗々と述べる男性…第四王子の声がひびいている。





 「ーーーこの世界における魔法とは、大きく分けて二つのものがあります。

 一つ、自分の魔力を使うもの。二つ、魔道具化された自分以外のものの魔力を使うもの。



 一つ目はとても分かりやすいと思います。

 最も一般的なのは、自己魔力の循環による身体強化術。

 ただ、これ以外にも術者のイメージ力により、魔力量が許す限りにどんなことでも成すことが可能です。


 『浮遊』『幻影』『発火』『製氷』など、出来ることには限りがありません。

 使用される魔力量は、術をかける範囲が大きいほど、自分から離れているほど多く必要になってきます。


 魔力切れを起こした場合はかなりの確率で気絶しますので、倦怠感を感じたらすぐに魔法の使用を止めること。

 すでに発動しかけていた魔法が『発火』のような、攻撃にもなりうるものだと、込めていた魔力の分だけ術が暴走します。

 とても危ないので気をつけて下さいね。




 2つ目のものは、更に2つに分けられますね。

 まず、魔法陣を書く時に使われる塗料などがこれに当たります。

 最低ランクの塗料の場合だと、『乾燥ヒカリゴケ』『百年ネズミのひげ』『桃梨の絞り汁』『世界樹に降り注いだ朝露』の4つの魔力が含まれています。

 これに幾つか材料を足すか、材料レベルそのものをランクアップさせることで上位塗料が出来ることになりますね。

 材料ランクアップとは、『百年ネズミ』→『千年ネズミ』→『万年ネズミ』とネズミを例を上げるとこんな感じです。

 他の素材については資料を参考にして下さい。



 そして、もう一つ。

 魔力玉です。

 他者の魔力とは、生きるものを対象にした言い方ですので人間にも適用されます。

 人間は自分の魔力を元にして魔力玉というものを作ることができ、これを他者が使うことができます。

 これを動力源にして魔道具を作ることもできますし、直接飲み込めば魔力回復の効果があります。

 作れる魔力玉は、作成者の魔力100を使ったとして、出来上がるのは1の魔力玉です。

 100分の1、ということですね。

 というわけで、大掛かりな魔道具に使用出来るほど強力な魔力玉を作れる者は、そうとう珍しいと言えます。

 平均としては、自動茶の湯沸かし機が作れる程度の魔力玉が市場には多いですね。」




 王子は資料も見ずにすらすらと話してゆく。

 驚く程の知識量だが、余分ないらない情報ははぶき、順を追って説明しているので生徒たちも聴きやすいようだ。

 侍女長も、少々感心したように王子を見ていた。

 美貌の女性など目をうっとりと瞬かせて、彼から片時も目を離さないしまつだ。




 王子はそんな視線に照れたような笑みを返して、説明を続けた。




 「今日はまず皆さんの魔力量を計りましょうか。

 魔力量は日常的に魔法を使うことで、最大値が増えることがありますので、アマリエとミッチェラも計り直しましょう。

 魔力玉作成機を用意しましたので、これで魔力玉を作ってもらいます。

 自分の魔力の何割を魔力玉に込めるか設定できますので、逆算することで魔力量が分かります。

 その後、自分の魔力を使って魔法を使ってみましょう。


 ここまで、何か質問はありますか?」




 「はい」



 手を上げたのは、派手な紅髪の見習い侍女だ。

 瞳は半開きだが鋭く、けして授業が退屈だからでは無いだろうが、不機嫌なのがありありと伝わってくる。


 あまりの剣幕に少々顔を引きつらせつつも、王子は彼女の名を呼んだ。





 「ミッチェラ?」





 彼女はバンっと机を両手で叩いて立ち上がり、王子に人差し指を突きつけて高らかに言い放った。

 自慢の色濃い紅髪がぴょこんと跳ねる。

 大きな瞳はいよいよ釣りあがっていて、きつく王子を睨みつけている。いわれのない視線に、王子はすでに内心半泣きだ。




 「…甘いです、

 空気が甘ッすぎますわぁ!

 なんなんですかその王子殿下とリィカ様の間に流れるピンクの、気、は!

 気になって妬ましくて魔法の授業などやってられませんことよ…!

 王子殿下、一体リィカ様にどのような魅了の魔法を使ったのです!

 羨ましい是非に私とかわ 「給湯室」 ごめんなさーーいっ」






 「ええええええええ」

 「ええええええええ」



 質問じゃないし文句だし魔法関係ない!





 「…ッまあこんなタイミングでも息がぴったりなご様子でなんて妬まし「給湯室」すみませぇーーーんっぐえっ」






 …王子と美貌の女性は、唖然とその光景を見ていた。

 鮮やかな手際で、見習い侍女がシメられてゆく。





 1度の注意で直せないものなど王宮には基本的にいない。

 なぜなら、侍女長は仕事の細かな所まで指摘してくれる良き先輩だが、2度目の注意となると容赦が無いのだ。

 特に、手を抜いている、ふざけていると取れる者に対してはなおさらである。

(※ミッチェラは本気です)





 …侍女長の動きは素早かった。



 まず足払いで体制を崩し、見習い侍女の首をカタめ引きずるようにして、後ずさりながら給湯室を目指している。

 より長く制裁を与えるためか、足取りはひどくゆっくりだ。

 身体の周りには黒紫のオーラが見え、身体強化魔法までも使用しての、ガチの制裁であることがよく分かる。

 苦しいのか、見習い侍女も必死に足をバタつかせているが、やがて力尽きたかのように大人しくなった。

 目は白目を剥いていて、口には泡を吹いている。

 侍女長は道端の石ころでも見るような目で、そんな見習い侍女を見ていた。





 と、ふと視線を上げて王子と視線を合わせる。

 王子の肩がかわいそうなくらいビクッと震えた。



 「ネルシェリアス殿下。

 申し訳ありませんが、私には急用ができました。

 本日の魔法教室はこれ以上ご一緒できそうにないですわ…馬鹿者をしつけるのも、侍女長たる私の役割なのです。

 不愉快ですけれども。

 ええ、不愉快ですけれども。」




 侍女長の額にはまるでビキビキと青筋が見えるようだ。

 いや、見えている。

 身体強化魔法を使っているせいか、冗談のようなえげつない迫力の青筋が浮かんでいる。

 男性はもうドン引きである。




 「あ、ああ…後はこちらで進めておくよ。

 昼食には間に合いそうかな?

 カグァム嬢も、君も一緒の方がリラックスできるだろうし、どうだろう?

 …そこの彼女は、その、任せるけど…?」




 「お気づかい感謝しますわ。

 では、昼食には一旦、間に合わせます。

 リィカ様、私達もご一緒してもよろしいでしょうか?」





 にっこり。

 侍女長が浮かべる優しげな微笑。

 しかし青筋が浮かんだままなので恐ろしく、美貌の女性も、さすがに表情が引きつっている。




 「え、ええ!

 2人もいてくれたらきっと楽しいです、お待ちしてます。

 是非ご一緒させて下さい!」




 「まあ!嬉しいですわ。

 それでは、お昼は楽しみにしておりますね。必ず、時間までには終わらせますわ。

 …いつもの3倍速でお説教、ですね」




 ミッチェラ逃げて超逃げて。






 「!?」

 「!?」




 「まあまあ、仲のよろしいこと。

 私は、応援していますよ?

 貴方がたに愛の女神の祝福を!」





 そう言って、イイ笑顔で見習い侍女をシメつつ、侍女長は応接間を後にした。




 残されたのは、恋人以上夫婦未満なウブな2人の男女。

 あまりの怒涛の展開に、見習い侍女へのフォローも忘れて、ぽかんと立ち尽くしていた。

 やがて、ゆっくりと視線を合わせる。

 先に口を開いたのは女性の方だった。

 唐突な言葉が、その麗しい唇からこぼれ落ちる。






 「…ネル様、ちょっとかがんで下さい」



 「旦那様と呼んでください私の女神、寂しいです」




 調子に乗るな、と侍女ペアの声が聞こえるようだ。

 ブサイク王子は今日もタフ。





 「っちょっ!?

 ーーーッあのですね、旦那様と呼ぶのはなんだか照れくさくて、ですね。

 ネルシェリアス、ってとっても綺麗で好きな響きなんです。

 だから、こっちで呼びたいと思って…。

 その、ダメですか?ネル様…?」




 「仰せのままに!

どうぞネルとお呼び下さい!」





 「はやっ!?

 ……じゃ、ネル様。ねぇ、かがんで欲しいです」



 「こうですか?」




 王子は膝をおり、下がった視点から女性を見上げる。

 醜い男がしても気持ち悪いだけの仕草だろうが、女性は頬を染めて幸せそうに彼を見ていた。

 しばらくそのまま見つめあう。


 少し躊躇していたようだが、女性は小さな手のひらでキュッと握りこぶしを作り、またパッと開く。

 そして、もしやまた叩かれるのではないかと戦々恐々としていた彼の頬を、優しく包み込んだ。

 思わず目を見開く王子に、控えめに笑いかけると、触れ合っている頬のあたりがうっすらとピンクのオーラに包まれる。

 王子の身体がピタッと固まった。

 赤く膨れていた頬の痛みが徐々にやわらいでいき、かわりになんとも言えない甘美な余韻が脳をとろけさせた。

 じんわりと、ぬるま湯に浸かっているような暖かさだ。

 あまりの心地よさに、王子は驚くことも忘れてなすがままに快楽にひたっていた。

 耳に、鈴鳴りの美しい声がしみ込むように響く。




 「私の中の魔力さん。

 どうか、愛しい人の怪我を治してくださいな。

 頬がとっても痛そうなの、彼の肌を綺麗に白く染めてくださいな。

 私の愛しい人の名前は、ネルシェリアス・ヴィー・レアンス様よ。

 どうか、お願い」




 ピンクのオーラは熱を吸ったとばかりに色濃く、赤く変わっていき、揺らめいたあと消えていった。

 女性はそっと、指の隙間から彼の頬を確認して、ホッと息をつく。

 そして名残惜しそうに、ゆっくりとした動作で手を離した。

 そこにはいつもと変わらない、キメ細やかでシミ一つない透き通る白さの肌。

 王子は、今だに夢見心地でうっとりとしながら、とろんとした目で彼女を見上げていた。




 そんな様子に少し驚いたような顔をしつつも、美貌の女性は照れたように告げる。





 「えっと…。

 頬、治って、良かったです!

 心配してました…。

 さっき、ミッチェラさんが言ってたピンクの気っていうの、意識したら見えちゃいまして。

 アマリエさんの身体強化魔法を見たら、どうやって魔力を使える状態に気を巡らせられるのかも見えて、分かっちゃって。

 その…。

 もしかしたら、と思ってやってみたんですけど。

 魔法、使えちゃいました。

 ありがとうございます」







使えちゃいました。

次もまだ魔法教室です。

魔力玉作ってないもん。



読んで下さってありがとうございました!

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