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ドレス

朝チュン?

違います。

 現在のヴィレア王国は花待ちの月。


 地球とは季節の巡りが少々ずれており、朝晩はわずかに肌寒さが残っているものの、うららかな暖かさに包まれていた。

 あといくぶんも待てば、『天使が歌い花咲きほこる楽園の春』と他国に称される、ヴィレア王国の美しい季節が始まる。

 皆その訪れを、今か今かと楽しみに待っている。


 すでに花々は慎ましやかな蕾をたずさえ、鳥たちは共にさえずる子供の卵をせっせと温めている。

 人々はどことなくそわそわと、街は活気づき、商店には季節によく似合うカラフルな服や雑貨が並び始めていた。








 そんな爽やかな朝の日差しが差し込む、王宮のとある一室。



 その室内は最高級の家具が惜しげも無く揃えられ、とても上品に整えられていた。

 普段は上質ながらも比較的安価な家具が置かれていたこの部屋だが、今はほぼ全てが入れ替えられ、ことさら色彩豊かに模様替えされている。

 それは果たして、花待ちの月が人の心をそうさせたからなのだろうか。

 それとも、昨日この世界に舞い降りた美しい女神のために、王宮中のものが好意を注いだ結果なのだろうか。

 開けられた窓から入ったささやかな風が、繊細なレースのカーテンを優雅に揺らしていた。







 室内には女性が3人居るようだ。


 一人は侍女長。

 今日も磨き上げられたメガネを光らせ、上から下まで完璧にクラシックメイド服を着こなしている。


 二人目はまだ見習いの侍女。

 くるくるとカールした濃い紅色の髪に薄紫の瞳、細身で平均顔の、いわゆる『ブス』の類の少女である。



 三人目は…。

 誰もが目を疑うような、目もくらむような美しい女性。

 必ず後世に語り継がれるであろう、凄まじいまでの美貌。

 最高の魔力を持っていることを表す漆黒の髪、同色のつぶらな瞳。

 たくさんのホクロが散りばめられたたぐい稀なる象牙色の肌。

 鼻と唇は大きく華やかで、誰しもがその魅惑的な色気のとりこになるだろう。

 背は小さく身体は丸く、彼女の幼い顔立ちをさらに愛らしく見せている。





 一見すると、美貌の女性のために2人の侍女が仕えているようにも見えるこの組み合わせ。

 だが、美貌の女性は困ったように豊かな眉毛をハの字に曲げて、低姿勢で侍女2人に語りかけている。


 一生懸命に見ぶり手ぶりを加えて話すその愛らしい様子に、同性であるはずの侍女2人もうっとりと顔を赤らめている。

 侍女たちの手には鮮やかな色のドレスがこれでもかと言うほど下げられている。

 男性でもつらい重さのはずだが、さすがはプロと言うべきか、重みで腕を震わすそぶりも見せない。

 紅色、群青色、深緑色、黒紫色と、どのドレスも深みのある色合いである。それぞれ、これでもかというほど花飾りや宝石が付いていた。

 そのどれもが『美貌の女神のために』と、昨夜贈られた物だと言うのだ。





 美貌の女性はいよいよ眉をこれでもかと下げ、小さな瞳を瞬かせて侍女たちに訴えかけていた。







 「その贈られたドレスは着られません。

 確かにみな素敵なドレスですけれども、贈って下さったのは、会ったことも無い貴族の方々なのでしょう?

 …無理です。

 ネル様に申し訳がたちませんもの」




 イヤイヤと軽く首をふる。


 侍女たちはまたしてもその仕草に打ちのめされそうになるが、こちらも譲らず、その手に持ったドレスの素晴らしさを語り始めた。





 「リィカ様のおっしゃる事は良く分かりますわ。

確かに、ネルシェリアス殿下が贈られたドレスがあれば一番良かったのですが…リィカ様に既製品のドレスなど贈れないと、今だ衣装屋と打ち合わせをしているようで。

 今日着るドレスはこちらの中から選ぶことをオススメします。

 どれも王国の一流店で作られた物ですから、貴方様にきっと良く似合うはずですわ」




 「そうですよぅ!

 リィカ様は素晴らしい黒髪をお持ちですから、きっとどのドレスを着ても衣装負けすることなどありませんわ。

 貴族たちが私財を投げうるようにして用意したドレスだけあって、どれもとってもゴージャスですしぃ!

 こーんな素晴らしいドレスを見たの、私、初めてです!

 歴代の王妃様たちだって、早々身につけることなんて出来なかったんじゃないかしらー?」




 「こらっ!

 ミッチェラ、その口を慎みなさい。

 あなたのその間延びした口調は直すようにと言ったはずです。

 あとで給湯室にいらっしゃい」




 「…そんなぁ!?」






 中々いいコンビの様である。

 侍女長がツッコミ、見習いの少女はがっくりと肩を落とした。



 給湯室にいらっしゃい、は侍女たち皆に共通する『恐怖のお説教待ったなし』コースのフラグである。

 どれだけ給湯室に近寄らないように作業予定を詰め込んでも、その日のウチに給湯室に行かざるを得ない事情が生まれる。

 そして僅かな時間しか滞在しないにもかかわらず、確実に侍女長が現れる。

 まるでホラーゲームさながらの、回避不可のイベントなのだ。







 「…それを聞いて、ますます着ることなんて出来なくなりました…」




 ネル様の気持ちは嬉しいけどタイミングが悪かったなぁ、と女性はぽつりと呟く。



 そして、はぁ、と悩ましげな吐息を吐いたのだった。






****************








 皆さんおはようございます。麗華です。

 日本はまだまだ寒いと思いますので、風邪などお気をつけ下さいね。





 さて、

 私は今、どうやって侍女さんたちのドレス攻撃を回避しようかと頭を悩ませております。

 朝起きたらアマリエさんと新人侍女さん(美人!)がすでにベッド脇にスタンバイしていてビビりました。

 私、イビキかいて無かったですよね?

 天蓋カーテンのおかげで寝顔は見られていなかったものの、音が聞かれてたらと思うと悶絶ものですよ…。

 人の気配がしたから恐る恐るカーテンを開けてみると、そこにはとても良い笑顔で腕にドレスを携えた侍女ペアさんがこんにちはしていました。

 お、おはようございました…。

 寝坊してしまってすみません。

 目覚まし時計なんて無いんですもの…。








 話がそれました。




 貴族。

 だって貴族さんからのドレスですよ?

 うっかり受け取って着て、これにはこんな意味がーとか、意思表示があってーとか、そんな事を言われたら困りますよね?

 というわけで着ません。

 ワガママなブスですみません。

 どれもとっっても乙女心をくすぐる仕様なのですが、リスクを考えると着るわけにはいかないと思うんですよ。

 それに、ネル様もドレスを作って下さっていると聞きましたしね…。

 彼は自分によく似合う、センスの良い純白の貴族服を着ていました。

 そんな彼が私にもドレスを作ってくれていると言うことは…なんて、期待しない方が難しいと思うんですよ。

 にやけます。





 侍女さんたちの手にあるドレスは、どれも深い色のものばかりです。

 ゴージャス可愛い!って感じですね。

 いたる所に宝石が縫い付けられていて、刺繍なんかも金糸で職人技ですし、購入金額を考えると頭がクラクラします。

 なにポッと出のブスに貢いでるのよー!?と混乱の極みです。





 魔力を重視するこの国において、衣服は髪と同じくらいの濃さのものを身につけるのが一般的なんだとか。

 髪の色より極端に濃い服を身につけると、髪が服に負けちゃうかららしいです。

 服色が濃いのは良い魔術師の証。

 だから大広間の貴族たちはなんだか色が地味だったんですね。

 代々、市民からも髪色の濃い人を血筋に加えて、家の格の向上につとめているそうです。



 ネル様の服が純白だったのは、こんな事情がありました。


 彼は髪の色的に、魔法陣(自分の魔力を使わず、陣を描く塗料に含まれた魔力をつかう)はかろうじて使えるものの、魔術師としては最底辺なのだとか。

 すさまじい知識量であらゆる魔法陣を描けるために、なんとか魔術師としては認められる…かな?というレベルらしいです。




 魔術師になりたければ、魔術師に習うべし。

 だけど高位の魔術師じゃなくていいそうで、むしろネル様は最高の先生なのだとか。

 感覚がものをいう(つまり、ぐるぐるーっと貯めて、ガーッと出す!的な例えでしか教えられない)魔術を始めていくには、彼のような『使えない』人ほど教師に向いているそうです。

 ぐるぐるーとか、ガーッととか、余計な単語を挟まないだけまだマシ、という事ですね。

 元から頭がいい人より、頭は悪くても努力した人のほうが教え方が上手っていうのと似ているかもしれません。

 加えて彼は超絶美形さんなので、私としてはウハウハなのです!








 っとと、また話がそれました。

 いけませんね。




 どうやって断りましょう。

 どう言ったら納得してくれるでしょうか。

 むーん…。








 あ、そうだ。


 これなら!





 「アマリエさん、ミッチェラさん。

 私はネル様の瞳のような空色のドレスが着てみたいです。

 今お持ちのドレスはどれも違う色ですよね?

 髪色のドレスを着るのはそれが一般的というだけで、私が淡い色のドレスを着ても問題は無いんですよね。

 だったら、せっかく結ばれたご縁ですもの。

 彼の色を身につけたいと思うんです」






 どうだろう!

 乙女攻撃です!


 納得して諦めてくれるでしょうか?

 地球ではこの価値観は乙女として当たり前でしたし、この世界でも通用すると思いたい!






 ………。



 2人は口をポカンと開けて唖然とこちらを見ています。

 えっ、この反応は何。

 予想外なんですが…。


 次第に彼女らの顔が耳まで染まって行きます。

 おお。

 これは、もう一押しでいける、かな?








 好きな人の色を身につけるのは女の子のロマン。


 侍女さんたちにもー、響け!このこっ恥ずかしい乙女心!









 「…だめ?」



 小首かしげてみました。


 ブスがしたら殴られそうなぶりっ子ポーズですが、彼女たちは独特の女神ネタで許してくれると思いたい。

 ごめんなさい。








 「ぶはっ」

 「きゃああああああ!!!」




 アマリエさんは鼻の辺りを抑えつつ小さくかがみこんだ。

 1hit!


 ミッチェラさんは…ッ!?

 2hit!

 2hitだけれども!




 キラキラした目でこちらを見つめながら私の手取ってウットリしています!?

 うわまぶしい!

 なにこの昨日さんざん見た光景!

 人物は違うけれどもデジャヴ感がハンパないです。

 美人まぶしい!




 ネル様の空色の瞳も綺麗だけれども、ミッチェラさんの薄紫の瞳もアメジストのようでとっても素敵です。

 ラベンダーアメジストっていう天然石があって、私も密かに持っていましたが、それにそっくりです。

 光の加減で銀色も混じって、宝石そのものみたい。



 そんな事を考えながら彼女の瞳を覗きこみ返すと、彼女はますます感激したように頬を高揚させた。

 ますますつのる既視感。

 あの、メイドさんとしてあんまり暴走してると、侍女長さんに怒られませんか…?







 彼女はたまらないとばかりに声高く言い切った。



 「なんて愛情深い方なのかしらぁ!

 自分の魔力量を誇示することなく、ただ愛しい人を思いやるためだけにドレスを選ばれるなんて!

 このミッチェラ、心より感激致しましたわ。

 任せて下さいまし!

 ネルシェリアス殿下の瞳とそっくりな色のドレスをすぐさまご用意いたします、たとえ実家の伯爵家を脅してでも最高級のものを。

 ふふふ、ネタはいくつも持っているのです、伯爵家御用達の衣装屋を必ずこちらにつかせてみせますわぁ!

 ご安心くださいまし!」







 「待って!

 脅しヨクナイ!

 待って、ミッチェラさん…!」



 らんらんと妖しい光を放ち出した瞳もそのままに。

 彼女は素晴らしく優雅な一礼を残し、嵐のようにこの部屋を飛び出して行きました。

 そんな速度で走ったにもかかわらず足音が一切しないだなんて、さすがプロ。

 スカートがひるがえっても足首までしか見えませんでしたよ、どうなっているんですかプロ。

 王宮クオリティですか?



 部屋に残されたのは私とアマリエさん2人のみ。








 ぎぎぎ、と音がしそうな鈍い動作で私はアマリエさんを見た。




 うっわ。


 冷たい!

 視線で凍死できそうなくらい冷たい!

 絶対零度の視線で、先ほどミッチェラさんが飛び出して行った扉を眺めています。

 (丁寧にも、ミッチェラさんは突撃しながらも扉はきちんと閉めて行きました。)

 先ほどの取り乱した様子はみじんも残っていませんね。



 アマリエさんは『普段の長さのお説教では絶対済ませません』と小さくこぼしました。

 ひええええええ!

 生きて、

 ミッチェラさーーーーーん!





 絶対零度の瞳をまばたき一つで隠し、柔らかく微笑みながらアマリエさんはこちらに向き直りました。

 やっぱりさすがプロ。

 はい、なんでしょう。

 言うこと聞きます。

 私は貴方のマナールールに逆らいませんよ。

 だから、こちらに向ける視線はその優しいままでお願いしますね!

 本当にお願いします。






 アマリエさんはさすがの貫禄でゆっくりとしたお辞儀をした。


 「私の部下の教育不足で、お見苦しいところを見せてしまいましたわ。

 大変申し訳ございません。

 バタバタとあわただしく、不愉快な思いをされた事でしょう。

 今後 い っ さ い このような事の無いように指導してまいりますので、どうかご慈悲を。

 彼女を許しては頂けないでしょうか」



 「そんな、許すだなんて、全然不快に感じて無いので大丈夫です!

 頭を上げて下さい。

 私は怒ってなんて無いので、あのくらいなら気にしないでもらえた方が気楽なくらいです。」



 「お言葉、大変感謝いたしますわ…!」




 むしろ怒らないであげて下さい。

 このくらいで謝罪なんて大げさにされると、かえって気を使っちゃいますよー。




 アマリエさんはにっこり笑ってこちらを見た。

 ホッとしたような表情。

 仕事熱心でマナーに厳しいけど、部下のために頭を下げることができる、思いやりのある優しい女性です。

 だからこそ、彼女が侍女長なのでしょう。

 お説教は怖そうです…・誰かを叱るのってとっても体力気力を使うんですって。

 いわば彼女の『給湯室の刑』は、愛のムチなのですね。

 私、アマリエさんもとても好きです。





 「ふぅ。

 …ミッチェラが用意してくると宣言したんですもの、もう幾分も待てばドレスは届くはずですわ。

 彼女はこういう事でしたら失敗はしませんの。

 その間に、御髪のセットを済ませてしまいましょうか。

 香油はどれにいたしますか?」




 わーミッチェラさん何者ですか。





 「はい!

 えっと、香油は…」



 「ちなみに、ネルシェリアス殿下はこちらの青薔薇の香油を使っておりますよ」



 「!

 …はいっ!」




 「ふふ、ではそれにいたしましょうか。

 任せて下さいな!

 リィカ様の美貌をさらに高めてみせますわ。

 髪結いは私の得意とするところなのですよ?」



 「わぁ、楽しみです!」






 アマリエさん、乙女心をよく分かっていらっしゃる!



 ミッチェラさんが何者かはこの際置いておきましょう。

 今、深く事情を聞いてしまったら、この後の魔法教室で集中できなさそうですからね。

 世の中には知らない方が幸せな事も多いのです。




 部屋の大鏡の前に座る。

 アマリエさんは青薔薇の香油を手に取ると、丁寧に丁寧に私の髪に馴染ませ始めた。

 ふんわりと王子様の香りに包まれる。

 寝起きでモサっとしていた髪に、見事な艶が足されていく。

 ブスな顔面とのギャップにほんの少しだけ頬が引きつったのは、もうご愛嬌と言うべきでしょう。

 見れば見るほど醜い私ですが、この世界では頑張って生きていくと決めたのです。





 まっすぐに鏡を見つめる。

 ビビるほど醜い顔が見返して来ましたが、その顔は、造りはともかく幸せそうな表情を浮かべていて。


 地球にいた頃よりもほんのちょっとだけ可愛く…見えた。






 少しだけ、自分を好きになってあげてもいい気がしました。









 それもこれも、この世界の人が私に優しくしてくれるからです。

 生きてて良いんだよ、一緒に隣あって生きようねって言ってくれるから。

 アマリエさん、ミッチェラさん、…ネルシェリアス様。

 ありがとう。

 大好き。





 「ねぇ、アマリエさん」


 「いかがなさいましたか?」






 「大好き、です」


 ありがとう。

 大好き




 たくさん、この人たちに伝えて行きたいな。







 アマリエさんはカーーッと耳まで真っ赤になっちゃいました。


 一瞬、視線をキョロキョロさせた後、鏡ごしに私に向かって微笑んでくれます。

 柔らかくてあったかい笑顔。

 可憐で、私の顔までなんだか赤くなっちゃう。





 「はい、私もリィカ様のことが大好きですわ!

 これからも、どうぞお仕えさせて下さいませ」




 ただ、この事はミッチェラには内緒ですわよ、なんてアマリエさんが小さくささやいて。


 私たちはまた微笑みあった。









 この後、ちょうど髪が結いあがったところで、本当にミッチェラさんがドレス片手に現れました。

 驚きですね。



 叱るアマリエさん、ひー!なんて悲鳴をあげるミッチェラさん、仲裁する私。


 なんだか楽しくなってくすりと笑うと、つられて2人も笑いだしました。




 さぁ、銀のティアラに空色のドレスで、愛しの彼のもとに向かいましょう。







****************







 城の廊下を3人の女性が歩いている。

 まず、先導は王宮では知らぬ者のいないマナーの鬼の侍女長。次いで、空色のドレスの女性、派手な赤髪の見習い侍女と続く。



 彼女らを視界に入れたものは、みな身分を問わず惚けたように立ち止まっていた。

 ある者など、鼻血を出してハンカチを汚している。



 その原因は真ん中の、空色ドレスの絶世の美女にあるようだ。

 アップにした豊かな黒の艶髪を揺らし、少し急いだ様子で、周りの者など気にもとめずに歩いている。

 1歩歩くたびに彼女が吐く吐息は、ほんのりと色づいてさえいるように感じられ、更に犠牲者を増やしていく。

 赤髪の侍女はそんな者たちの様子を当然と言わんばかりに、鼻高々に足を進めていた。




 美貌の犠牲者を増やしながら彼女らが向かう先にあるのは、他国の使者をもてなすための応接間だ。

 一息にそこまで歩ききると、侍女長は息を整え、慣れた所作でコンコンと扉をノックした。




 「失礼いたします。

 侍女のアマリエにございます。

 奥方様をお連れいたしました」






 とたん中から、ガタッと何かを蹴倒したような音が響いた。

 それに足をぶつけでもしたのか、その大きな音の後に、声を堪えて悶絶しているような気配がする。

 中の様子を想像するのも容易いのか、侍女長は呆れたような表情で、後ろの2人に5歩分ほど下がるように伝えた。



 その直後、常軌を逸した速度でその扉が開け放たれる。








 「…ッ!

 万が一、リィカ様に怪我でもさせたらどうするおつもりですか、殿下!

 八つ裂きにしますよ!」




 「ごめんなさいやめて!

 …カグァム嬢、おはようございます!」






 にっこりと彼女に笑いかけ、そのまま固まった醜い王子。



 そんな彼に、これまで周りの美男美女を無視して歩いてきた女性は、とろけるような笑顔を向けた。

 昨日よりもより一層美しさが増したその笑顔は、ただ一人、醜い王子にのみ向けられる。

 天使のしらべで彼女は王子に話しかけた。







 「ええ、おはようございます!

 ネルシェリアス様!

 本日はご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」








 その瞬間、最後の砦の侍女たちも含め、3人皆が鼻を押さえて悶絶した。


 この日、王宮の洗濯係の元にはたくさんの血濡れのハンカチが届き、王宮100物語の一つとして口伝いに広められたのだった。






魔法編いかなかったorz

すみません


(1/19/風邪で更新遅れそうですorzすみません)


読んでくださってありがとうございました!

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