結婚式
おはようございます、麗華です!
私が一人語りをするのはずいぶんと久しぶりな気がしますね。
色々なハプニングがあって、なんとも濃ゆい一週間でした。
でもネル様と両想いのまま今日を迎えることが出来て、とっても嬉しいです!
幸せだなぁー……えへへ
今日は朝早くから起きて、厨房の片隅をお借りしています。
ウエディングケーキを!
旦那様に贈るために作るのです!
アマリエさんとミッチェラさんも早朝からわざわざ付き添ってくれていて、ちょっと申し訳ないですね。
眠いのか、なんだか半眼です。
さあ!
ささっと、ふわふわのスポンジケーキを作っちゃいましょうか。
この後は結婚式なので、時間は限られているのです。
まず桃色鳥の大きな卵をボウルに割り入れ、丁寧に解きます。
お砂糖を2~3回に分けて加え、混ぜる。
魔法で泡立て器(作りました)を高速回転させて、ふわふわになるまで卵液を泡立ていったん止めます。
薄力粉とアーモンドパウダーをボウルに振るい入れて、ゴムべらでさっくり、泡を潰さないように合わせ混ぜる。
とろとろに温めたバターと牛乳を加えたら、生地は出来上がり!
型に入れてオーブンで焼いていきましょう。
待ってる間にデコレーション素材作り。
生クリームと砂糖を合わせて泡立て、ホイップクリームを作ります。
木苺パウダーを加えて、ピンクのクリームに。
色とりどりのフルーツは可愛く飾り切り。赤の苺はハート型にして見ました!
スポンジが焼けたら熱を冷まして、ラムシロップをハケで塗る。
日本で引きこもってお菓子作りに没頭していた技術を生かしてデコレーション!!
生クリームの絞りもまかせて下さい。
桃色乙女ちっくな2段ウエディングケーキの完成ですーー!
やったぁ、満足な出来ーー!!
厨房のパティシエさんコックさんたちが、まじまじとケーキを見ています。
ウエディングケーキはこの世界では珍しいみたいですね。
ふわふわのスポンジに興奮しているようです。
ふふ、絶賛されちゃいました…!
パティシエさんには作り方を教えて欲しいと言われたので、是非どうぞ!と伝えておきました。
これが流行って、ヴィレア国内のどこでもふわふわケーキが食べられるようになったら嬉しいなー。
アマリエさんミッチェラさんにはケーキを見てちょっと泣かれた。
「お幸せに…!」なんて絞り出すような声で言われる。
え、えええぇ…!?
そんなに乙女心に刺さったのかな?
またお二人にも、日頃の感謝を込めてふわふわケーキを焼きますね。
そう言ったら笑ってくれました。
では、お着替えしにまいりましょう。
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この日のために旦那様が手作りした真っ白なウエディングドレスを、レイカは身につける。
ドレス生地の絹には上品な光沢があって、計算された流れるスカートラインが美しい。
ふわりとゆらめく薄いかけ布の裾には、金糸の刺繍が施されている。
5枚花弁の小花は、ヴィレアの昔話に語られる"愛の花"だった。
透ける素材の手袋をはめると、赤いリボンが揺れているのがうっすらと見える。
それがなんだかくすぐったくて、レイカは照れたように笑った。
(笑顔に当てられたミッチェラが鼻血を出した)
アマリエが美しく黒髪を結い上げる。
顔サイドの髪束は残して、他は後ろで一つにまとめて青薔薇の生花を飾った。
どこまでも混じり気のない漆黒に、明るい空のような青が映えてとても綺麗な仕上がり。そう言って、繊細なレースのヴェールをふんわりと被せた。
今日、カグァム・リィカ嬢は確かに、ネルシェリアス王子と結ばれるのだと。多くの人たちが涙ながらに祝福していた。
廊下を歩いて待ち合い室に着くと、こちらも純白の貴族服に身を包んだネル王子が、目をうるませながら微笑んでいる。
本当は感動のあまり思い切り抱きしめたかったようだけど、グッと我慢していた。
いつかそうしたように、恭しく一礼する。
紅色のリボンが巻かれた右手を、スッと彼女に差し出した。
「異世界ニホンの、麗しの女神様。
どの世界の誰よりも、私が貴方を愛しています。
どうか…この手を取って下さいませんか?」
「っはい!」
今日は、幸せな結婚式。
2人はリボンも頬も赤く染めて、微笑みあって、ゆっくりと外の婚姻会場テラスへと歩いていった。
国民たちの待ちきれなかったような大歓声が、わああっ!と聞こえてくる。
幸せに目が眩みそうなほどのこのワンシーンは、絵画となり歌となり、ヴィレアの後世まで永く語り継がれていくのだった。
太陽の柔らかな光は2人の影すらも包み込んでいき、その姿をなお白く輝かせている。
ティラーシュ世界そのものが、彼らを祝福しているかのようだった。
ーーーこれから、貴方の色に染まりましょう。
ーーー私はもう貴方の色に染まりました。
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結びの魔法陣を使って一週間目。
結ばれた恋人同士は、両想いのままならば、女神アラネシェラの相互の魔法陣を使って愛の制約がなされるのだ。
もう一つの対の魔法陣があるのは、王宮3階の屋外テラス。
広い中庭からもよく見える位置にあり、国民たちは解放された中庭に集まっていた。
ネルシェリアス王子とカグァム・リィカ嬢の婚姻の儀を、今か今かと待ち望んでいる様子。
2人が現れると、口々に祝いの声を上げた。
グリドルウェス王子殿下が、厳かに告げる。
「ーーー只今より、婚姻の儀をとり行う!
この度結びの魔法陣を使用し結ばれたのは、ヴィレア第四王子ネルシェリアス・ヴィー・レアンス。
そして異世界人カグァム・リィカ嬢である。
2人はこの一週間で、見事に愛を育んだ。
両手の赤いリボンがその愛情の証である!!」
グリド王子がリボンの結ばれた2人の手をとり、見えやすいように大きく掲げた。
美しく揺れる赤色に、国民たちはハッと息を飲む。
王子のリボンおかしくね?
ま、幸せそうだからいっか!
その手を下ろすと、レイカのヴェールが外された。
あらわになった素晴らしい黒髪と、あまりの美貌に、中庭からはきゃーー!!とかうおおお!!とか悲鳴に近い叫びまでが聞こえてくる。
美しい異世界人は優しく微笑んでいた。
青い瞳の旦那様を見つめては、うっとりと吐息をもらす。
その吐息すらかぐわしく香るようだ。
王子を含め、多数の人々がゔっ!と鼻頭を抑えた。
「…カグァム嬢。
ネルは、バカな弟ではありますが、誰より貴方を愛して幸せにしてくれるでしょう。
どうかよろしくお願いします」
グリド王子が、国民には分からないくらいに僅かに頭を下げて微笑んだ。
恋人2人は涙目でその言葉を噛みしめる。
一生変わらぬ愛でパートナーと歩んで行こう。
自分に与えられるだけの愛情を、沢山貴方に捧げよう。
「晴れて、カグァム・リィカ・レアンスとなる訳ですな。
いやはやめでたい!
家族一同、貴方の王族入りを歓迎しますぞ」
「ありがとうございます…!
でもそこは、リィカ・カグァム・レアンスかと」
「おいこらネル」
「うっかり」
「ざっくりだな!
ああもう、それならそうと早く報告しろよ!
貴方はリィカ・カグァム・レアンスとなる訳だ。
…異論は、迷いはありませんね?」
レイカはこっくりと力強く頷く。
この時を待ち望んでいたのだ、躊躇いなどあるはずもなかった。彼を愛している。
ネル王子はそれを半泣きで見ていた。
くっと目元に力を入れて、鼻をすんっと鳴らす。絶対、幸せにする!
ーーグリド王子が聖剣を取り出し、魔法で美声を拡散して高らかに告げる。
「時期国王グリドルウェスが告げる。
本日…ここに新たな夫婦が誕生した!
妻はリィカ・カグァム・レアンスと名を改め、王子ネルシェリアスの妻として、王族入りを果たしたと宣言する。
どうか皆様からも祝福のお言葉を。
結ばれた夫婦に幸あれ!
その人生に、愛と美の女神アラネシェラ様のお導きあれ…!!」
ざわめきは収まり、貴族も国民も静かにその時を待っていた。
カッ!と魔法陣がプリズムの光をまとい輝き出し、ネル王子とレイカを包みこむ。
合わさった手のリボンが溶けて、手の甲に赤い制約印が浮かび上がった。
小指の無い右手と、ヤケド跡の残る左手。
愛のあとの遺る手は、何よりも美しい赤で飾られる。
複雑な文様の小さな魔法陣、その中央には"愛の花"が描かれていた。
光が収まると、一段と大きな歓声が上がる。
グリド王子は改めて「おめでとう」と告げて、むせび泣いた。
感動のシーンである。
超絶イケメンの号泣する姿につられて、国民たちもまた泣きはじめた。
ヴィレア国民はとりわけ感情が豊かで、よく笑い、よく泣くのだ。
夫婦となった2人も、涙目で幸せそうに抱き合っていた。
王宮のいたる所から、嵐のような沢山のおめでとうが2人に降り注いでいる。
祝福は収まらず、淡く色付いた桃色の花びらが、魔法陣の真上の空から舞い落ちてきた。
読んで下さってありがとうございました!




