表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/60

王妃様と恋心

ライティーア妃はヴィレア国王陛下が好きだった。

政略結婚だったけれど、あの美しい容姿と、力強い意思を持った内面にとても惹かれていたのだ。

寡黙なところがミステリアスでまた素敵!


毎日キレイにお化粧をして、笑顔でいるよう気を付けて、少しずつ心の距離を縮めていった。

多くを喋らない人だったけれど、静かな彼といる空間はとても心地がよかった。



国王は妻の深緑の髪がお気に入りで、よくその手で優しく髪を梳いていた。

手がほのかに頬に触れるたびに、彼女は柔らかくはにかんで、その仕草を見て、また好きになっていくように感じていた。

国王のライティーアを見つめる瞳もまた、恋に染まっていたのだ。



国王は正妻をとても大切にしていた。

側室の女性には「恋に興味のない人」をわざわざ選んだ程だ。

第二席のその女性は、とにかく知ることが大好きな人で、暇さえあれば様々な分野の博士たちと討論し合っている変わり者だった。

ほとんどビジネスパートナーと言ってもいいだろう。


自由奔放な側室と、恋する乙女な正妻は、タイプが違いすぎるゆえ喧嘩する事も無かったようだ。




穏やかに月日は過ぎる。



その月日はたくさんの幸せをもたらして、また、ライティーア妃の体を蝕んでもいった。




結婚した当時はまさに美貌と呼ぶのが相応しいほどに美しく、視線を合わせた異性は惚れずにおられないと唄われたライティーア妃。

弱った体で息子を2人産んだ現在は…

丸かった体は細く痩せこけ、ハリのあった肌にはしわが目立ち、顔色は常に青く、見るものの涙を誘う容姿となっていた。

まだ美人の面影は十分にあったのだが、以前を知っているだけにどうしても比べて見てしまう。



彼女はいつも明るく笑っていて気丈に見えた。

しかし心の中では醜くなった自分に傷ついて、夜に泣いているのを国王は知っていた。

体が弱っているゆえ、愛の育みもなかなか叶わなくて、それがまた王妃のコンプレックスとなっていた。




そんな日常の中、長年をかけてようやく授かった子がネルシェリアス。

グリドを産んでから、実に10年後の高齢出産だった。

白い髪というその変わりきった容姿に驚かされたが、2人の子、愛していこうと決めていた。


けれど周りの目は容赦なくライティーア妃を責める。

なんて不細工な子、王族にあるまじき低魔力、不義の子では無いのか、と。

…しだいに伏せっていくライティーア。



国王は彼女のために「愛と美の女神の涙」を使う事に決めた。

ネルシェリアスは彼らの願いによって、間違いなく国王夫妻の愛の子だと証明されたのだった。





そうして、何年か経って。


国王と王妃は離れ離れになってしまった。





また2人が出会うためには、長い長い年月がかかるだろう。

あの世で会うのか、来世で会うのか。

それは誰にも分からない。

ただ、現世で会うことはもうできなかった。



ライティーア妃はまだ国王陛下が死んだ現実を受け入れられず、心はひたすら昔を夢見てやまない。



あんなに幸せだった日々はどこに行ってしまったの?理解したくない…


どうして私を最後まで側に置いて下さらなかったのですか。

貴方と生きて、共に死にたかったのに。


愛しい、大好きな、私の国王様…ーーー





****************





「…と、まあ、こんな事情がこの王妃様にはあってね」



「重ぇよ……ッ!!」




クラズ王子がどこか遠くを見ながら静かに語っていた。

ユキは嫌そうな暗い顔でくっ、と眉間に手をやり、うんざりとしたような表情だ。

おや、肩をふるふる震わせている。

ダメージ大!



「…君はネルに嫉妬してたって聞いたからねー。

それも兼ねて話してみたんだけど。

どう?

お母さんと苦難な人生を共に歩んだ、なかなか愛されなかった子ネルの話も聞いてみて、心は癒されたのかなー」


「ささくれたよ畜生!!俺のヘタレ!!」


「良かったよ狙い通り」




クラズ王子は軽めの口調を崩さない。

ユキの一人負けである。

頭を抱え込んでしまっている。


確かに幸せなネルに嫌がらせしたかったけどさ!

覚悟改めヴィレア王宮に来てからは、それももういいかと割り切っていたのに。

こ、この王子俺並に性格悪い……ッ!


クラズ王子はさっきおちょくられたのを実は根に持っていた。

満足そうに、内心で罪悪感と葛藤しているユキを見ている。

ヴィレア男は中々にねちっこいんで、皆さん覚えておきましょう。




「ライティーア様は本当に国王様の事が好きでねー。

国王様と話している時の笑顔は、まさに大輪の花が咲くようだったよ。

子供心に、あまりの美しさに感動してたなぁ。

僕の初恋はライティーア様なんだー」



「……へ、へぇ。

貴方も純愛派っぽいんだね。

(ボソ)腹黒系にしか見えなかったのに」




クラズ王子はベッドに広がったライティーア妃の髪に手を伸ばして、毛先を指に絡めて遊ぶ。

ユキはその仕草に違和感を感じて目を細め見ていた。まるで…




「そして今も恋は継続中なんだよね」


「ちょっと待て!!やだ!!

純愛って言っても限度があるだろやだ!!」



悩ましげな吐息とともに爆弾投下。

ユキの精神力がガリガリ削られて行く。




「愚痴くらい大人しく聞いてよ?

貴方もう影でしょー」



「ヴィレアの影業ってカウンセラーかよ!!つらい!!

いくら愛の国つったって、自重しようぜ兄さん……ネルたち泣くよ?」



「知ってる。

だから罪人制約をしてる君にしか言えないんだよ。

言っちゃダメだよ?

彼女に気持ちを伝える気はないし、今の心地いい関係を壊したりしないつもりだから」



「…なるほど、愚痴、ねぇ……」




ユキがぐったり頭垂れた。

また完敗です。この腹黒王子…


レイカさん?

影成りの刑罰、思った以上にしんどいよ!

死なないけどさ!

初めての命令が実体験火サス強制視聴とかヴィレア王国ぱねぇ…



クラズ王子は指先遊びをやめる様子がなかった。

深緑の髪を、するりするりと絡ませ滑らせ、とても楽しそうだ。

それが「普通」のような様子にゾワッとした。

濃い兄弟間でも、この人が一番アブない趣向の持ち主なのかもしれない…

半分血を分けた兄弟の母親に懸想してて、その人は絶対自分に振り向かないってのは、どんな気持ちなんだろーね。

正直、俺にはどーでもいいんだけど?

…だからこそカウンセラーにされたのか。やだよ。



ユキはなんだかんだ情を捨てきれないタイプの人間だった。

疲れた様子ではあるが、辛抱強くクラズ王子の話を聞いてくれている。


狙い通り。兄上を間近で見てきたから、似た人間だとよく分かった。

王子がクスクス笑う。




「これから君には、ライティーア妃の体調管理もしていって貰いたいからねー。

彼女への同情心を買っておくに越したことはないでしょう?

よろしくね。

君、優秀らしいから、期待してるんだ!」



「…どーも。

…せいぜい頑張らせてもらいますよ」



「うん、期待してる!!」




ダメ押しである。

大切な事なので2回言いました!

ユキはもう考えることをやめた。

ああ、今日はいい天気で、春の風が心地いいなぁ。



クラズ王子だけはユキを「罪人の影」として扱うつもりでいた。もちろん、理不尽すぎる命令はしないけれど。

このまま緩い雰囲気のまま皆に許されてしまうと、彼、変われないでしょう?

今の、自分の命を投げ捨てたい状態からは、抜け出してもらわなくちゃね。もうウチの影なんだから。


ネルはもう絆されていそうだし、グリド兄上は絶対同情してるでしょ?

飴は十分に足りてるから、誰かが鞭として、首輪を付けといてやらなきゃねー。



そんなことを考えながら、クラズ王子はライティーア妃を優しい眼差しで見た。

それはいつか、彼女がクラズ王子自身に向けてくれた、愛情のあふれる目だ。



真っ白なベッドの上で、彼女はまだ穏やかに眠っている。

起きた時には、心を蝕んだ「恋心を止められなくなる」効果も抜けているだろう。

…その時、ライティーア妃は一人の女性としてどう行動するのだろうか。

また少女に戻って、息子たちに当たってしまう?

それとも…母としてきちんと謝れるのかな。

間違えたと思うなら、謝ってくれたらいい。



研究研究でいない実母が恋しくて泣いてた自分を、いつも笑って迎えてくれた貴方が大好きなんですよ?

クラズ王子は誰に言うでもなく、小さく囁くように歌った。


ユキの精神力が(略)


誰かを傷付けたその事は罪なのだろう。

でも、また目を覚ました時に笑いかけてくれたら、それはきっと息子たちにとって、先ほどの冷たい言葉の十分な償いになるから。



夢の中ではライティーア妃は幸せでいるのだろうか。

どうか夢から覚めても、皆で笑っていられる未来がありますように。



確かに血は繋がって無いんだけどね。どの王子殿下もクセが強い。

ライティーア妃は温室育ちゆえメンタル弱めです。

周りに心配かけまいと笑顔で頑張ってもいたんだけどね、打たれ弱い。



読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ