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おや?リボンの様子が…

エイプリルフールなので、こんなふざけたサブタイトルでも許して下さい




ネル王子とレイカはもう泣きあいながら、お互いの存在を確認するかのように肩に顔を埋ずめ、しばらくその場から動かなかった。

頬をふにふにと擦りつけあっている様子は、ネコがじゃれているようにも見える。

周りのピンクの幸せオーラがもうヤバい。呼吸が苦しくなる程濃かった。



従者たちの視線は生暖かい。

正直、グリド王子が制約した時のトリックに気付いていなかったのは弟だけだった。

皆、生ぬるい目で制約の様子を見ていたのだ。

兄王子は結構ぽんぽんと制約の聖剣を使うタイプの人で、文面のバリエーションもいつも多岐に飛んでいた。

このような些細なトリックなど日常茶飯事だったのである。

妙なところで頭のカタい弟は気が付かなかったようだ。



ようやく、恋人2人が多少落ち着いたようで頬を離すと、グリド王子が弟の頭をぐりぐりと撫でた。

だいぶ力がこもっていた。

「幸せにな!」とぶっきらぼうに告げると、また泣かれてあわあわする兄上。

彼もたいがいなブラコンである。


このまま弟を祝福して終わるだけなのはちょっとシャクなので、からかってやる事にした。




「…ところでネル。

どうして魔封じの手袋なんて着けているんだ?

気になってたんだが」


「!?」




弟は右手をサッと背中に隠してしまった。

その早業に、レイカも驚く。

興味を引かれたのか、彼女も手を伸ばそうとするが、器用に片手で両腕を塞がれてしまう。

むむ、手強い。余計気になるじゃないか。




「ダメですリィカ。めっ!」


「ダメなのはお前だネル」ぺこん


「いたっ!」




兄がそこそこの力で、弟の頭を叩く。

昔から石頭なのを忘れていた。カウンターで手めっちゃ痛い、なんなのこいつ。


しかしネルが油断してる所で、さっと手袋を取り去ってやる。




「あッ!?」


「全く、女性を抱きしめようという時に手袋など失礼だ。

何を隠してやが……る。うわっ…」




そう、確かに隠してた。…さすがにこれは恥ずかしくて。



Q・さて、王子の右手小指は根元から切り飛ばされててありませんね。

ここまでは皆さんいいですか?

では、現在彼の結びのリボンはどうなっているんでしょうか。



A・右手全体に紅色のリボンがぐっるぐるに巻きつけられてました。

アラネシェラ様、「恋心隠そうなんていい度胸じゃないのオラオラオラ」とでも言いたげだ。

もはや小指とか関係ない。




さすがに周りに気まずい空気が漂う。

愛情、病んでるレベルなのがよく分かりました!

目をサッと逸らされまくり、ネル王子の顔は赤くなった。




「うわあぁ……ネル、こんなにも、私の事好きだって思ってくれてるの?

嬉しいよー!もう大好きー!」


「リィカほんと女神、私も大好き!」


「えへへー、好き好き!」




レイカ様マジ天使。

この程度では彼女の愛はブレなかったようだ。

よ、良かったね王子様!


追撃で好き好き攻撃をくらって、王子の意識は一瞬飛びかけた。

もうリィカってば…見た目良し性格良しで、全てが最高すぎる。

その上自分だけをこんなに溺愛してくれるなんて、なんて素晴らしい妻なんだ……!!

もうプロポーズするしかない!




「一生大切にしますから、私と同じ墓に入って下さいませんか。添い遂げて下さい!」


重い!


「いいよー」


軽い!




王子の表情がぱあっと明るくなる。ニコニコしているレイカと、また微笑みあった。

床に座りこんだまま、きゅうきゅうと抱きしめあっている様子は微笑ましく見える。

(と、皆必死に思い込もうとしていた。

若干ギラギラした目の王子なんて見なかった居なかったんだ)



至近距離でそれを見てしまった兄上の目がさすがに死んでいたが。

一度本気でホレた女性と目の前でイチャコラされたらねー。

そりゃ、テンションも下がるわ。




放っておいたらいつまでもラブラブしてそうなこの甘い空間。


割り込んで来たのは、予想外な人物の一言だった。


その言葉は氷の魔法になって、大広間の床をピキピキ凍らしていく。

甲高い声で叫ぶように言うのは、顔の真っ青なライティーア妃だった。




「ーーーどうしてよっ、一度好きになったなら、最後までその子を愛し抜きなさいよ!

グリドっ…!!」



「母上……!?」




しん、と場が静まり返る。


魔法を使った事で体力がごっそり持って行かれてしまったのか、ライティーア妃は、クラド王子に支えられながらなんとか立っている状態。

深緑の瞳はうつろで、グリド王子を通してどこか遠くを見ているようだった。

しくしくと泣き出してしまう。

…なにやら様子がおかしい。




「…どうして、どうしてなの、どうして最後まで幸せに一緒にいられないのよぉ。

力強い声で、愛してるって言ってたのに、嘘つきっ…!

グリドの…国王様の嘘つき……!

その言葉を信じていたのに……どうしてそばに…くれな…の…」


「!?」




ふらりと力無く倒れるライティーア。

慌ててクラド王子が抱きとめる。

皆も心配して、彼女の周りに集まってきた。

どうにも複雑そうな顔で、母を見やっているグリド王子。

母上は、病で痩せこけ、美しさはもはや面影しかないが、いつも笑顔で、笑うと大輪の花のように華やかな人だったのに。

……どうしたというのだ。

思えば、最近の母上はどこか不安定だった気がする。



クラド王子が真剣な顔で皆に告げた。



「……最近はやってた、惚れ薬騒動と何か関係があるかもしれないね。

『ユークィト』を呼ぼうか。

彼はこの薬について、誰より詳しいみたいだから。

気をつけて、拘束して連れてきてくれる」


「「「はっ!了解しました!」」」




影たちが去って行く。



残った者たちは、ライティーア妃の部屋へと移動し始めた。




****************




「んん…ぅぁ……っ…」



自室のベッドに寝かされたライティーア妃はうなされていた。

苦しそうに額に脂汗を浮かべて、ぎゅっと眉を顰めている。

かろうじて瞳は閉じているが、眠っているわけではなくて、疲れから倒れている状態のようだ。



鞭ぐるぐる巻きのまま連れて来られたユキは、その様子を見て「あーー…」と声を上げた。

ヴィレアの魔道具のスコープを通して、ライティーア妃の身体の魔力の流れを見ると、うんうんと頷く。




「クラジェリウス王子殿下、大当たりっすねー。

王妃様、身体弱かったんでしょ?

魔法抵抗力が無くなってたんだね。

…部屋に出入りしてたメイドに『改悪惚れ薬』飲んでた人がいたからー、それで影響受けちゃったんだと思うよ」



「………ッどうすれば?」




皆が心配そうな顔で、縋るようにユキを見る。

シャクだが、今はこの者しか薬の詳しい事は知らないのだ。




「…部屋の換気をして空気を常に入れ替えること。

惚れ薬飲んでた人らは、しばらく彼女に近寄らせないこと。

あとは…王妃様から薬の効果が抜けるのをじっくり待つしかないねぇ」




ハッと息を飲む王子たち。

…この状態のまま、見守るしかないというのか?

ライティーア妃の体力は、どう見てもそろそろ限界だ。

このまま万が一の事があって、亡くなってしまったら…!


クラド王子がストラスを見やるも、その通りのようだと硬い表情で頷かれてしまった。

彼はなぜか惚れ薬のにおいを嗅ぎ分けることが出来た。

その彼が言うならば、間違いは無いのだろう。

顔色がザッと青くなる。



ユキが目を逸らしながらボソッと呟いた。




「…まあ、回復を早める手はあるけど」


「ッ!? 言って!」


「剣納めてってば!

…もう、ヴィレアの人って愛の国だの言ってるくせに血の気多すぎだよ!

あのねー、人の呟きに過剰反応しないで!?」




意外や意外、グリド兄上よりもクラド王子の方が詰め寄るのが早かった。

異空間から聖剣を取り出し、自分より背の高いユキに下から突きつける。

聖剣をそんなことに使っちゃいけませんよ?

いつも冷静な第二王子の取り乱した様子に、グリドとネルはぎょっとした。


ユキは不機嫌そうに王子を睨めつけて、べっ!と舌を出しながら言い放つ。




「俺の『空気清浄』魔法を使えばソッコーでメイプルの匂いも無くなるからさ?

早く良くなるだろーねー。

…というわけで、魔力封じ、早く解いてくれません?」



「!」




ギッ、とクラド王子が歯を噛み合わせる。

…このユークィトとやらのふざけた態度、すごくムカつく。

お前の国のした事だぞ!とつい喉元までセリフが出かかって、ゴクリと飲み込んだ。

…ここで八つ当たりでもして、こいつの機嫌を更に損ねたら厄介そうだ。

ライティーア妃を救うためなら、これくらい耐えてやろうじゃないか!



くるりと兄を振り返ると、迷うことなく願い出る。




「兄上。

どうか今、影成りの契約の許可を!」



「……はあ、会議にかけてからと思っていたんだがなぁ。

まあ仕方あるまい。

…事態が事態だ、許可する!」



「感謝致します!」




普段のにこやかな顔はどこへやら。

クラド王子もユキに負けないくらい、ゾクっとする顔で笑っていた。

兄が疲労感満載のため息をついた。

どいつもこいつも臨界点突破しすぎだ…疲れる…




「ついでだからこのまま僕が制約しちゃうね!


…罪人マーヴェ・ユークィトには、ヴィレア王国の影となり、生涯国に尽くすことを刑罰として命ずる!

反論は許さない。絶対の忠誠を。

ただ、誓え!」



テノールの美声が王妃の部屋に響き渡る。

えらく短縮された契約の言葉に呼ばれ、彼らの足元には輝く魔法陣が現れた。


ユキの返事は気だるげだ。




「…まあ、妥当な落とし所かぁ。

せいぜい、大事に使ってもらいたいもんだね。

いーよ、誓います」



「その言葉を胸におき、忘れてはならない!

…ふぅ。完了。

じゃ、魔封じ解くからさっさと仕事してよ!!」



「さっそく人使い荒いな!扱いも、ザツ!!」




態度が悪いからですよー?

魔法陣の光は破られることのない契約となって、もう2人の心臓に吸い込まれてしまっていた。

まさか契約直後に吠える事になろうとは。ユキは少しだけ後悔した。



やり方はちょっと気に食わないけど。

おそらく、あとでレイズも同じ扱いを受けるのだろうから、それだけは良かったと本心からホッと息をついた。

あいつには、ヴィレアの影にはなるけど、幼子な事を考慮した仕事が与えられるらしい。


どうせ罪人の自分たちには、もう生死の選択権すら無い。

この刑罰の制約によって、どんな命令でも拒否できなくなっているだろう、だったら抵抗するだけ疲れるし扱いも悪くなるし。

影業、頑張りますかー…

聖剣なんて物があるヴィレアならではの刑罰だね。

普通の国なら、裏切りが怖くてこうはいかないから。



…自分達をこの立場にまで引き上げたレイカを、ジト目で見やる。

拳をグッ!してて、視線で、頑張れ!と応援された。

……ヴィレアの影にされたからには、貴方がこれからこの国を良くしてってくれなきゃ困るんだから。

せいぜい、貴方も王弟妃業がんばってよね!と視線で返す。



ネル王子が前に進み出てきて、ユキの首元に手をかけ、魔力封じの魔法陣印を指でクッと押すと、印はすうっと消えていく。



「リィカに惚れたら許しませんよ」

「ねーよ」


念押された。目ェギラギラしてんぞ。




ユキはライティーア妃のベッド脇に立ち、彼女を中心にプ○ズマクラスター魔法をかけた。

「世界の理を知る力」を意識して目を見張ると、花粉よろしく、ポワポワとその辺を舞うにおいの元がモヤとなって見えてくる。

それらを一箇所にまとめて、結界魔法をうすーく伸ばしたフィルターに貼りつかせ、そのフィルターも氷魔法で休息冷凍。

あとで燃やしとこう。

これを何度か繰り返して、キレイな空気が出来上がった。


ストラスとやらが、くんくんと鼻を鳴らして、快適そうにニコッと笑った。

…こいつも特殊な人種だねー。

ヴィレアこんなんしかいないのかよ。そりゃ、ザルツェン国王無謀だわー。




ライティーア妃の顔色はだんだんと良くなってきた。

さすがプラ○マクラスター、効果が早い!

顰められていた太い眉はすっと伸びて、すぅすぅ、と軽やかな寝息が聞こえてくる。

身体は楽になっても疲れは取れていないのだろう。このまま寝かして置こうと、皆で決めた。


母との和解はそれから、かな。

…実の息子たちは困ったような顔で母を見て、苦笑していた。



クラド王子気を利かせて、ネル王子の背中を押す。




「さ、ネル。

早くカグァムちゃんのドレス仕上げてあげきゃでしょ?

明日着てもらうなら、裁縫、急がないと時間足りなくなるよ。

ここは僕が見てるから、部屋に戻りなよ」



「ーーーうわ!もうこんな時間ですか!?

急いで取り掛からないと。

…リィカも一緒に来てくれますか?

私の贈るドレスは手作りなのですが、嬉しいって思ってくれるでしょうか…?」



「もちろんだよー!

ドレス、とっても楽しみにしてるんだから…!

それに、いつだって私は貴方といたいよ?旦那様っ」



「ふあッッ」



「…お前それ言われたかっただけだろネル。

まどろっこしい問いかけしやがって。

ええい、立ち止まって抱きついているんじゃない!

早く自室に行かんか!泣いてんな!」



「王子殿下とリィカ様、通りまーす。道開けて開けてーー」



「わっ、アマリエ先輩力持ちぃー!」




がやがやと騒がしく、一団がライティーア妃の部屋から立ち去っていった。

カップルがのろけ、抱き合い離れないのでアマリエにまとめて運搬されている。

きゃあきゃあとミッチェラが久しぶりに映像記録魔法(動画)を使っていた。



ポツンと部屋に残るのは、王妃とクラド王子、ユキヒト。

ユキは服の裾をクラド王子に捕まえられていたため、退室出来なかったのだ。

なにこの状況こわい。

引きつった顔でちんまりした第二王子を見下ろすと、底の見えない黒笑顔で返される。うわ…




「…ちょっと愚痴に付き合ってもらおうと思ってね。口外、しないでよ?」


「ヴィレアの影業ろくでもねぇ…」



しんどそうにユキが椅子に座り込むと、クラド王子も向かいに座った。

こちらはこちらで、話込むようである。



穏やかな光の差しこむ王妃の部屋は、とても静かで。


反対に、廊下からは幸せそうな2人の声が、かすかに届いて聞こえていた。





読んで下さってありがとうございました!

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