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軌跡2

(3/20///イラスト追加//学生ネル&ユキ)

挿絵(By みてみん)

制服描くの超楽しかった…!

私は男らしい少年が描けませんorz



王族学校での生活はとにかく楽しかった。

勉強はもともと好きだし、魔法を知るのも楽しい。

時間を忘れて本を読み漁った。

異世界人であることは隠して、王子ラザリオンとして生活していた。



俺とネルはいつも成績トップ同士で、一緒に勉強していくうちに自然と仲良くなっていた。

あいついつも無表情だったけど、構うと笑ってくれるし親しみやすい少年だったよ?

毎日バカな事して笑ってた。

王族だろーが、男子高校生なんてこんなもんだと思う。




「うおーーりゃっ」パシン!


「甘いっ」


「…お前手加減しろよッ……痛いわ!」


「いきなり背後から殴りかかってくる人が悪いでしょう?

学生といえど王族なんですから、品のある行動を心がけなくては駄目ですよ」


「だってネル結局許してくれるし(ギギギ)いったーーーいッ!?」




ふざけて殴りかかってみたら脚払いされ後ろ手に締め上げられてしまいました。

大変痛いですごめんなさい、離して下さい。

うわイイ笑顔。

廊下の端にいた上級生達は俺が制裁された所を見て、そそくさとどこかに行ってしまった。

その背中にあっかんべーと舌を出して侮辱してやると、そんな俺を見て困ったように笑う。




「また貴方はそうして……はあ。

別に、他人に悪口を言われる程度は慣れていますから気にしなくていいんですよ?

ワザワザ注意を引くために倒されに来るなんて、物好きな人ですね」


「親友が悪口言われてると俺がヤな気分になるの。

あいつら力じゃかなわんから悪口陰口って、小心者にもほどがあるし!

あーいうの嫌い!」


「親友……えっ」


「拾うのそこなの!?ショック受けるよ俺!」


「ふふっ、親友ですね」




ぷはっと2人で吹き出し声を上げて笑った。勉強漬けの合間のイイ息抜きになっていた。



俺たちは卒業後の夢についてもよく語り合った。

どっちも国を良くしたいって同じ夢だったけど、さすが生まれ持ってのロイヤルと言うか、ネルは先見の目がすごい。

ここをこう改善したいとか、具体的な内容がすぐに出てくる。

国民のために。

ヴィレア王国こそが自分の宝物なのだと、嬉しそうに語る。

国王に言われるがまま決められた研究をしていた俺には、そんなあいつがとても眩しく見えたなぁ。

イイ国作れよ王子様、なんてお互いに声を掛け合って卒業した。




国に帰りながら、どうしたらここはもっと住み良い国になるのかと真剣に考え続けた。

俺はまだザルツェン連合王国の国民を全然知らなかったから、話し合いの場が欲しいと国王に言ってみる。

驚いた後に考える仕草を見せ、にっこりと笑いかけられた。




「…かしこまりましたぞ。

ではあさってにでも、国民との会議場を設けさせましょう。

なに、貴方様の研究のおかげで食事情は豊かになりました。

きっと感謝される事でしょう」


「ありがとうございます!」




王宮の自室に行くため2階廊下を歩いていた時、ふと小さな悲鳴を聞く。

これが、俺とレイズの出会いだった。

裏庭の隅でなぜか影にいじめられていた所を助け出す。

獣人を見たのは初めてで驚いた。

大丈夫だったかと聞くと、コクンと頷かれる。



「いつもだから、平気」


「…いつもって何だよ。

あいつら、結構本気で蹴ってただろ。

誰かに相談したりしなかったのか?」



「この国で獣人を助けてくれる奴なんていないもん。

構わないで…下さい、ラザリオン王子殿下。

私も、影、ですから」



聞き間違いかと思った。

こんな小さな子供が獣人とはいえ影の仕事をしているなんて……この世界が日本より危険とはいえ、おかしすぎる。

王族学校で勉強していたからこそ感じた確かな違和感。

結論から言うと、レイズは攫われっ子だったんだけど。


逃げ去ろうとする子ギツネを脇に抱き抱えて(めっちゃバタバタされた…痛い)国王に直談判し、俺の専属従者に欲しいとワガママを言う。


従者にしたいと言う言葉に、国王は一瞬眉を顰めた。

虐め報告の時はすました顔のままだったのに…?しばらくしてからようやく頷かれる。

その時国王は笑顔だった。





この国は、イイ国、だよな。

そうなんだよな?




ネルの語ったヴィレア王国のように、美しくて平和な国とまではいかないのだろうけど、王宮の人たちは親切でイイ人…だし。

国王も、こうしてなんだかんだ願いを聞き入れてくれるイイ人だ。

食料事情だって頼まれた研究で改善されたはず。



そう、そのはずなんだ。

なのに…自分の思考と現実の違和感が凄くて、恐ろしくなる。

キツネ獣人レイズを見下ろす。

質の悪い服を着て、身体は不健康そうに痩せていた。おまけに仕事は影の汚れ役。

どうして、こんな子がいる?



部屋に戻ってから彼女にじっくりと話を聞いた。

最初は頑なに口を閉ざしていたけど、防音魔法を部屋全体にかけてあると告げるとなんとか話し始めてくれる。




いわく、この国は歴史上稀に見る「悪の王」が治める国だ。

国王はとにかく人を騙す事に長けている。

王族や貴族たちの富の事しか考えず、平民は放ったらかしで、獣人やエルフ族に至っては迫害されている者すらいる。

食料も上部が管理しているため国民の生活は厳しいままだ。

精神を不安定にさせる「クスリ」が裏街に出回り、治安は悪化していくばかり……




そこまで言い切ると、レイズは真紅の瞳でまっすぐにこちらを睨みつけてくる。

「アンタの研究が何に使われていたのかなんて、知らないんだろ。

育てた植物は麻薬植物だよ。

随分お気楽だったんだね、異世界人っ」




叫ぶような声はガツンと身体全体に重く重く、響く。

…自分の口から「信じたくない」と呟きが漏れる。



あんなに頑張っていたのに…?

サドロククロカエデは万能薬を作るのに必要な材料だと聞いていたし、穀物研究のおかげで食料問題も解決したなんて、言われてて。

国王のいいなりで、都合のいい駒?

…頭が割れそうに痛い。

レイズは堰を切ったように話し出す。

その内容はどれもつらくて、疲れきってしまった。




2日後の国民会議でも同じように防音魔法を使い話を聞くことにする。

その結果はもちろん、全部レイズと同じようなもの。

涙ながらに、毎日がつらくて大変だと訴えられた。

吐き気がこみ上げてくる。


それから数日間は寝込んで過ごす事になり、心の異変はついに国王に気付かれてしまった。




「ーーーなんだ。もうこちらの言う通りには動かないという事か?

異世界人。

優しく接してやったというのに、随分な仕打ちだ」



「…ふざけないで下さい。いや、ふざけんなよッ!

なんで!アンタは国を豊かにしたいと願ったが、どうして国民ありきの国だと気付かないんだ…ッ!

人が幸せでない国なんて滅びるだけだぞ!」



「ふん!そのためのクスリなのだよ。

サドロククロカエデからは精神に働きかける様々なクスリが作れる。

人の思想をこちらに傾ける事もそのうち出来るようになるかもなぁ!

お前に作って貰う予定だったのだがな……ふふんッ!」



「…………ッ!!」





ぶん殴ろうと思い身体強化魔法を発動させるが不発に終わり、影たちはラザリオンの体をボコボコに殴って気絶させた。

「せいぜい心改めて再び仕えたいと乞うんだな、異世界人」

俺は魔力を封じられて、その日から1年間牢に繋がれる事になる。




日々の暴力に耐え、心を殺し続けてようやく脱出の好機に出会った。

それが、今回のヴィレア王国への手出しの命令だ。

すぐ請け負うことを決めた。

素直に蹴られ続けるようになっていたので、もう都合良く扱える駒と判断されたのだろうか?

そう振舞っていただけだったけどねー。

ザルツェンの腐った卵なんかに、いいようにされてたまるかよ。


……その計画を全部潰してやろうと決めた。




予定では、ヴィレア王国が「結びの魔法陣」を使うタイミングで惚れ薬騒動を起こし、優秀な外交官ネルを暗殺するとのこと。

ヴィレア使用人の数名、特に恋煩い中の者に「自分を魅力的に見せるおまじない」とささやき薬を渡す。

改悪した「飲む惚れ薬」なんだけどね。

ホント嘘ばっか。



新薬の効果は、飲んだその人がメイプルの匂いを発するようになり周りの人間を恋心に素直にさせること。

まあ自制心を無くさせるって事だ。

レイカさんの元に届いた黒の手紙の香りは、書いた人のメイプル臭が移ってしまったんじゃないかな?

…品質の良いサドロククロカエデがあったからこそ出来てしまった、薬。

自分の後始末をキチンとするつもりで、俺もメイドに化け潜り込んでいた。




召喚されたのが異世界人だと噂されてからは、レイカさんを攫って来いと国王から命令される。

従うフリして計画を壊した。

彼女が俺と同じ日本人だって気付いて、別口で誘拐したけどね。帰してやりたいと思って。



自分みたいに哀れな思いをする人間なんてもう作られない方が良い。




…………。


…………………。





***************






「まあ、こんな過去があってさ。

ティラーシュは所変われば厳しい一面もあるって言った事、分かってもらえたかな?

俺、結構ツラい思いして来たんだよねー。

レイカさんはこんな目に遭う前に早く帰してあげたいなって思ってさ……まあ、その……そんな感じ。

……そんな泣かないでよ?」



「ううっ、あぅ……うぅ!ザルツェン国王陛下さいてぇ、ヒドすぎるよぉ……ッうああああ……!」



「うわあーーーんッ!!

あるじ死ぬなよおうわあぁーーーんッ!!ズビィ」



「はいはい、ハンカチどうぞレイカさん。

レイズはこらやめろ!

俺の服で鼻水をふくんじゃない!

まったく…あの当時からよく懐いてくれたモンだよ、お前は」



「ううぅ…やっぱり聖女様に惚れてやがったなこの変態野郎、あたしと扱いがえらく違うじゃんか……!!

しね生きろッ、うわああーーーん!!」



「どっちだよ落ち着け子ギツネ!

あと俺は地球系美人が好きだからーーー!

…はあ。

涙誘うためにおふざけなしで過去話したけどさー。

こうまで泣かれると流石に戸惑うわぁ」




ユキは気まずそうに頭をかく。

黒紫の髪がレイカの頬にサラサラと触れていた。


少女たちはガチ泣きだ。

よっぽど悲惨な過去話が堪えたようで、チラリとユキを見てはまた涙を溢れさせる。泣き止まない。

マトモに話の続きも出来そうになくて、困る。



誘拐犯の話を信じ切って泣くレイカに過去の自分が重なり、悪い意味で懐かしくなった。

ここまで自分のため泣いてくれた事にチクリと良心が痛む。

…自分だって、善意のみで人助けをしているわけじゃないんだけど。

それも知らずにこんなに泣いちゃって、ああ甘いなぁ。


甘い彼女は、やっぱりこの世界には置いておけないよ?




ぷにぷにのほっぺを片手でつまんで、ぐいっとこちらを向かせる。

うん、ブスちゃん顔面ヤバイ事になってる!

目は腫れてるし涙で肌はぐちょぐちょ。

ちょっと俺の表情引きつっちゃったし。

行動に驚き目を見張る彼女に、優しく声をかける。




「だーかーら、ね?

絶対日本に帰してあげるから」


「………ッ!?い、いやです!」




断られた。




「手強いなー。

俺がラザリオンとして生きた8年間はさ、レイカさんの『もしも』なんだよ?

召喚されたのがザルツェンだったら、召喚者がネルじゃなかったら、貴方が美人じゃなかったら。

…この世界は貴方にも牙を剥いたかもしれないんだ。

傷ついて欲しくないと思って言ってるのにー!」



うっ、とレイカさんが声を詰まらせる。チョロい。

でも震える声ですぐ反論して来る。

その内容に、心が凍えた。




「……傷つくかも知れなくても、でも、ネル様の側にいたいんですっ!

たとえ女神様の加護が無くなって将来がどうなろうとも、私は彼を愛しぬくと誓えますから。

今、求めていてくれる限りは寄り添っていたいんです。

どうか…ここから逃がして下さい…!」



「………ッ」




涙でうるむ目をしっかりと見開いて、こちらを強く見つめてくる。

漆黒の瞳で見つめ返した。

お互いに底の見えないほど深い深い黒、この世界では見られない瞳の色だ。

同じ日本人であるという証。



ーーーこの世界で受けた扱いは、まるで正反対のものだったけれど。



…ヒトの幸せを手放しで祝福出来るほど、今のユキは高尚な人間ではなかった。

ふざけたようにへらりと笑って、レイカの頬をぷにぷにと小突く。




「だーめ。

貴方、危険認識甘いもん。

絶対そのうち足元すくわれちゃうから」



「そんなこと…!」



「俺たちがザルツェン側だったなら貴方の人生はもう幽閉コースで終わりだったよ。

この現状が甘くないって言える?」




ああ、イライラする。

自分のどろりと暗い表情を見て、レイカさんは視線こそ外さなかったもののザッと顔を青ざめさせた。

ほら、もう怖がっているくせに。



しょうがないからパッと笑顔に戻して笑いかける。

…笑えてるよね?

うーん、もう自分の表情とかもよく分からない。




「それにさー。

綺麗な気持ちだけで、命掛けて貴方を助けるワケじゃないんだ」



「!」



「だってそうでしょう?

俺たち貴方を誘拐してくるの命掛けだったんだよ。


まず、ザルツェンのクソ卵への嫌がらせだろー。

あと、貴方とネルばっか恵まれてて幸せそうだから、嫉妬。

ちょっとダケなら傷付いちゃえばいいのになーって思ってる!」




最低なこと言ってる自覚はあるよ?

でも嫉妬するくらい許されたっていいんじゃない。

俺、こんなに辛かったんだからさー。



レイカさんは泣きそうに顔を歪めた。

いやもう泣いてる、涙ボロボロ。

ぐっ、と嗚咽を堪えて、必死に叫ぶように話す。…内容にはちょっと驚かされたな。




「恵まれてて幸せそうって……

私たちだってそんな幸せばっかりな人生じゃ、無かったですよ!?

私は数日前までずっと嫌われ者で過ごしていたし、ネルだって…!

……お母さんの愛情が欲しかったのにって、どうか一番に愛してって泣いていたのにッ!!

そんな軽く、恵まれてるだなんて言わないでよぉ!

貴方はすごく辛い目に遭ったし、それにはとても敵わないのかもしれないけど、でも私達だって…辛かったんだから……!!!」




…本当に人の嫌な所ガリガリ刺激する子。

無言でハンカチで彼女の目元をグリグリと拭ってやる。

うわっぷ、と色気ない声が漏れていた。



もーこれ以上、彼女と会話したくないな。

…………。



レイズに「あとの説明はお願いね」って言って、立ち上がる。

レイカさんが必死にこちらを見てきたから、目を逸らして足早に扉の方に向かった。

あの視線は哀れみだったのだろうか。それとも怒りか、蔑みかな。

心臓がドクドク音を立てている。

ノブに手を掛けた状態で、最後にくるりと振り返った。




「あー、ごめんね?

…八つ当たりの自覚はあるよ。

でも感情はどうにもならないってね!

貴方たちが眩しくて羨ましくて、妬ましいの!」




言うだけ言って、返事も聞かずに扉を閉めた。





つらい…


読んで下さってありがとうございました

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