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違和感

「いやー……ホント、凄い騒ぎになっちゃいましたね?」


「ウチの国民はとにかく恋愛事情が大好きですからねー。

…堪えられなくてキスしてしまって、すみません」


「えええ!?ひたすら嬉しかったんだけど「好き!」な…」




思わず被せ気味に言ってしまった。

すみません。

さっきからもう色々抑えが効かなくて、理性がストライキを起こしているようなんですよ…


リィカが驚いてこちらを見ている。




「私の方が、ね?」




幸せそうにエヘヘと微笑まれた。

もうだめ骨抜きにされるああッーー!



赤くなった顔を隠すように手で覆って俯くと、クスクスという笑い声が聞こえた。

完全に持ち直している…うう、さっきまで彼女も照れに照れまくっていたというのに…!

さすがお姉さん、といった所なんでしょうか?

くやしいです…はあ。



目の前のレモン入りの紅茶を一口飲む。

やっぱりここのは美味しい。

リィカがご馳走してくれる予定だった紅茶ですが、カフェに入った瞬間に「お祝いだから!」って無料になってしまいました。

ここの店は何があろうと今まで一切割引もしなかったので、これも可愛さのおかげでしょうかね。

美人って凄い。



特産品通りの中心で、市民に煽られるままに彼女とキスをして。

お祭り騒ぎの中をなんとかこのカフェまで歩いてきました。

途中でリィカのヴェールの下を覗き込もうとした輩たちの足を引っ掛け、転ばせまくったのはご愛嬌ですね。

ドッと笑いが起きていました。

市民の皆さんには笑いの演出だったのかもしれませんけど、こっちはヒヤヒヤでしたよ…!?




カフェはいつもの行きつけの店。

リィカも気に入ってくれたようです。


シンプルな薄茶色のレンガの外壁に赤い屋根、白をベースにした落ち着いた店内には優しいピアノの音が響いている。

演奏者は、長く王宮で執事をやっていた壮年の男性…この店の店長です。

私たちが現れると同時に、選曲をラブバラードづくめにしてくれた、粋な人。




顔の熱が少しだけ収まったのでまた彼女を見ると、目を細めて楽しそうに店の外を眺めていた。

懲りずに見惚れていると、話しかけられる。



「ねぇ、ネル様。

さっき市民の皆さんがしてくれた祝福の演出、とっても綺麗で素敵でしたね。

あの時間が夢じゃないなんて、なんて幸せなんでしょう。

私に、その、キスしてくれて嬉しかった…です」



「リィカ…」



「えへへ。ファーストキスだったの」


「」


「あっ」




ゴッ、と鈍い音を立てて私の頭がテーブルに沈んだ。

いたしかたない。

展開に慣れて来ているのか、リィカは心配そうに魔法で冷やしたハンカチを差し出してくれるありがとうございます。


ーーー今、彼女はなんて?




「ファースト…!?」


「え、はい。

…こんな外見ですもの、そもそも恋人が今までいなかったのです。

ネル様が初めてのお相手なの」




ない。ありえない。

いや、むしろ逆にあり得るのか!?

美しすぎて彼女に見合う男性が今までいなかったとか?


そんな彼女の、はは初めての恋人が私みたいなブサイクで良かったのでしょうか…!

いや嬉しいですけど!

もう逃がす気も無いですけど。



いろいろと感激要素が多すぎます。

気を取り直して額をハンカチで冷やし、パッと笑顔を作って彼女の方を見た。

頬は情けないくらい真っ赤ですけどいたしかた(略)



…彼女は瞳を不安そうに伏せていた。

…どうして?


机に乗せた手をそっと握ると、ゆっくりとこちらを見て儚く笑う。

今にも泣いてしまいそうな様子で、戸惑う。




「ねぇ、ネル様。

…ずっと気にしないようにしてきたの。

その事に触れてしまわないように。


どうしてって聞いてしまったら、この優しい現実が夢になって終わってしまうんじゃないかって、思って…怖かったから」



言葉を詰まらせながら、なんとか言い続ける彼女。



………。




テーブルの上で重ねていた手にわずかに力を込めて、先をうながす。

何がいいたいのか予想もつかないけど、リィカが一生懸命伝えようとしてくれている言葉は、きちんと最後まで聞いてあげたい。


リボンの色を横目でチラリと確認した彼女は、「キスの後のタイミングで言うなんて、本当に私はズルいね」なんて、小さく自嘲気味にこぼす。

震えて消えそうな声だ。




「……どうして、皆、私みたいなブスな子に可愛いなんて言葉をかけてくれるんでしょう。

どうしてこの世界の人は、ネル様は、こんな私に優しいのかなぁ…」



「えっ?」





ーーー店内の時が止まった。



誰も彼も、口を間抜けにあんぐりと開けてこちらを見ている。

…聞き耳立ててましたね、まったく。


ーーーというか。




どうしよう意味分かんない。

リィカはうるっと涙を滲ませて、まだ言葉を続けるようだ。

と、とりあえず聞きましょうか?




「…その、私、可愛くないでしょう?

だからネル様みたいな麗しの王子様の婚約者だなんて、不相応すぎて相手が私で申し訳なくて。

でもっ、優しく接してくれるから、それに甘えてきちゃったのぉー…!

嬉しかったから…今が壊れないように触れないでおいたの。

ねぇ。

可愛いとか美しいとか、どうしてそんなキレイなものに使う言葉を私なんかにかけてくれるの…?」



「………」




どうしよう、最後まで聞いたけどひたすら意味が分かりません。


聞き間違い?それか言い間違い?と確認しようにも、リィカはしゃくり上げ出してしまっている。

取り乱して敬語が無くなっちゃってますね。

静まり返った店内の客や店員は、ついに無遠慮にこちらをガン見しだした…自重して下さい。




あまりの訳の分からなさに私も泣きたくすらなったけど、席を立って、リィカの側に寄りそい膝をつく。

私の視線がリィカより下になるので、ヴェールの下の美しい顔がしっかり見えた。

……うん。




「貴方は美しいよ」



「……!?」



「どうして、そんなに驚くんでしょうね。

小さくて柔らかい体も、つぶらで愛らしい目も、大きくて華やかな鼻と口も、最高に美しいです。

カグァム・リィカ嬢の美貌以上の女性は見たことが無いですよ。

私は貴方みたいな、外見も内面も素晴らしい女性を妻に迎える事ができて、本当に幸せです」



「ーーーえええっ…!?」



「というか、私が麗しの王子様とは何の冗談ですか。

ありえなさすぎて鳥肌が立ちましたよ。

こんな醜い男に対して…」




リィカが目を見開いている。

んん?

口も、店内の野次馬なみにあんぐりと開いています。



頬に両手を添えられてくいっと上を向かされたので、為されるがままに彼女を見つめる。

…貴方こそどうして、こんな私にカッコいいだとか言ってくれるのでしょうか。

ずっと不思議に思っていましたよ?




「…やっぱり、麗しの王子様だよ!

だってこんなに美しい人、見たことが無いんだから」



「…はっ?」



「ネルみたいな人が謙遜なんてしたら、顔に悩む人たちに失礼だよ…私とか。

こんな超絶美形さんが何言ってるの…!

目は大きくて綺麗なふたえだし、鼻はスッと通ってて高くて、唇は淡いピンク色。肌なんて真っ白でスベスベだし、身体のスタイルは抜群じゃない。

どこの至高の芸術品なの」



「……アタマ打ちました?」



「貴方がついさっきね」




まあ確かに。

いやそうじゃなくて。


どうやったらこの醜い容姿をそんなにポジティブに捉えることができるのか…!?

ホント女神様なんですか?知ってた。

しかしお互いの言葉の違和感がすごい。



なんだか噛み合わないものを感じているのか、彼女も怪訝な表情をしている。

とりあえず涙が止まっている事にはホッとしました。

眉をしかめた表情のリィカもそれはそれは美しくて、なんだか新しい扉が開きそうになったので焦って閉めた。

変態にはなりたくない。




お互い、もやもやしたものをハッキリさせたくて再び口を開こうとする。

しかしその瞬間、店の外が騒がしくなった。



バッとそちらを見やると、遠くの空が少し赤く染まっている。

煙も見えている。

通りの人々がバケツを手に慌てて走りまわっていて、彼らの叫びを聞いてこの騒ぎの理由が分かる。


…火事か!




リィカに目配せすると、理解の早いことに、頷いてからさっとティーカップの紅茶をあおった。

話は一旦、中断です。



あまりに火が酷いようなら、彼女の魔法を使うことも考えなければいけないでしょう。

できれば、人目につく所で大規模な魔法は使わせたく無いんですけどね。

…こういう時に、底辺魔力の自分を悔しく感じる。

私が行って助力できるのは、人の救助かバケツリレーくらいでしょう。

それでも、市民の助けを求める声に答えないという選択肢はありません。


デートの最中に申し訳ないなという気持ちで彼女の方を見ると、言いたい事が分かるのか「気にしないで」と言われた。

本当に、王族の妻としても申し分ない素敵な女性だ…



短く店主にお礼を言って、店を飛び出す。

呼びかけをしている内容を聞くと、火の手が上がったのはついさっき。場所はーーー教会!

今の時間は、テトラたち子供の獣人が学習塾で集まっていたはずだ…!



リィカを抱き上げ、全力で走り出した。



ついにそこに触れちゃったぁ。


読んで下さってありがとうございました!

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