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デートなうなう

王子殿下、アウトーーーーッ!!!



食材街を抜けて、そのまま道なりに特産品街を歩いていく。



ここでは港の観光船で海向こうに帰る人をターゲットにしているのか、ヴィレアの土産物が多く売られています。

愛と美の国らしく赤やピンクの造花や雑貨、ハートモチーフのアクセサリー、魔道具がよく見られる。



魔道具は技術の結晶なので、扱われている商品は他国に持ち出しても問題の無い、ささやかな効果の物ばかりです。

リィカはそれらに興味があるのか、楽しそうにあれやこれやを手に取って見ている。

店主の説明を聞くその顔は、真剣そのものだ。

魔法の無い国からやって来たためか、彼女の魔法熱には目を見張るものがありますね。



どうやら、ディフォルメされた天使の置物が気に入ったよう。

明るい茶色の木で作られたそれは、リィカの手のひらに収まるくらい小さく、愛らしい。丸い顔にはゆるやかに弧を描いた口元のみが彫られている。

『キューピッドの恋文』

ヴィレア王国では有名な土産物です。



ドワーフ族の店主が優しい微笑みを浮かべながら、その魔法効果についてリィカに告げる。




「お嬢さんはこれが気に入ったんだね。

とても素敵な品選びだ。

『キューピットの恋文』は、相手と嘘偽りのない心を通わせる事が出来るんだよ。

自分の髪の毛を捧げて、その長さだけ伸びたキューピットの手を、相手と繋ぐんだ。

すると、その時思っている事がお互いに伝わるよ。

それを恋文として愛を伝えるんだ!」



「わあ、素敵…!」



「わっはっは、そうだろうそうだろう!

これほどこの国にお似合いの魔道具も、なかなか無いからね!」




店主のドワーフが私に向かって茶目っ気たっぷりにウインクする。

ああ、成る程ね。

買ってやれよ王子様!といったメッセージでしょう。

たいして高価な物でも無いですし、何より彼女が気に入っているのならもちろん買わせて頂きますとも。



財布を取り出すと、会計前にしてもう、リィカの持つ天使にリボンが結ばれる。

あまりの早業に思わず笑ってしまった。

リィカも驚いた顔をしている。




「この天使、もちろん頂きますよ。

おいくらですか?」


「さっすが王子様!

こんな素敵な婚約者を連れてるだけあって、いーい男じゃないか。

祝いで半額にしとくよ!」


「ありがとう」



硬貨を数枚、ぴったりの金額分渡すと「さらにオマケだ!」と言って、その一枚をリィカの手の中に滑り込ませた。

こ、この店主リィカにただ触れたかっただけなんじゃないのか…

少しばかり引きつった顔で見やると、なんともイイ笑顔とウインクで返される。

…脱力した。


こちらの様子はおかまいなしに、店主は再びリィカに笑いかける。




「じゃあね、可愛らしいお嬢さん!

幸せになるんだよ!


その硬貨1枚でちょうど紅茶2杯分になるから、貴方の王子様に、お礼にごちそうしてやりなよ?

なーに。

俺がもらった売り上げを貴方に渡したんだから、それは貴方のものさ!」


「えっ、でも…」



どうしたらいいのかと、戸惑った様子で慌てるリィカの頭をポンポンと撫でる。

こちらを向いた彼女を安心させるように、柔らかく微笑みかける。



「じゃ、次はカグァム嬢にお茶をごちそうになりましょうか?

足も疲れて来たでしょうし、そろそろ休憩にしましょう」


「!」


「よっ、いいねぇー!

皆ぁ、王子様のお通りだぞー道開けろ開けろー!

王子様、どうか俺たちにも、最高級の幸せって奴を見せつけてって下さいよー!」




ドワーフ店主の大きな声に、通りの真ん中が綺麗に開けられる。

「きゃー!」「いいぞー!」なんて声がそこここから響いてきて、キラキラした楽しそうな視線が沢山私たちに注がれた。



ふむ。

ここまで市民に場を整えられては、王族として期待には答えなければなりませんね?


顔を赤くしているリィカの膝裏に腕を回すと、一気に持ち上げる。

お姫様だっこというやつです。

その勢いにあわてて私の首に手を回してきた、可愛らしい彼女の姿を見て、歓声が上がる上がる。



そうして抱いたまま一礼して、一歩踏み出すと花びらやら光粉やらが頭上にフワリと投げかけられた。


…また、ウチの市民は、なんとも素敵な演出をしてくれますね。

リィカはその鮮やかな光景に、見とれているようだ。



祝福や花びらをこれでもかと浴びながら道の真ん中を歩いて行く。

後ろには、大量の花びらが道を辿るかのように積もっていて目にも美しい。

途切れることなく投げられる花の追加に追われて、近場の花屋は大繁盛だ。

そんな忙しい花屋さえ、遠くから精一杯声を出して私たちを祝ってくれていた。





ああ、いつか見た夢みたいな光景。




自分がこの風景の中心にいられるなんて、正直信じられないくらいだ。

しかし腕の中の彼女から伝わる確かな温かさが、この時間が夢などでは無いと教えてくれる。



………。




リィカが私を心から愛してくれるから。

暗く重い執着のような愛さえ受け入れて、なおリボンを赤く染めてくれているからこそ、こうして皆の祝福を受けられているのだ。


本当に、全て彼女のおかげ。

どれだけ感謝しても足りない。





滲む視界のはし、一際鮮やかな衣装の踊り子たちが甲高い声を飛ばす。



「王子様ぁーーっ!

もうここまで来たらー、キス!するっきゃないわよぉー!

キッス!キッス!」



「「「おおおおお!!!」」」




空気がドッと揺れる程のとんでもない叫びと共に、始まる……まさかのキスコール。

…我が国民ながら、とんでもないノリの良さですね!?



思わず唖然として立ち止まってしまうと、リィカがこちらを見上げてくる。

そちらを見、ヴェールでほんのり隠された黒い瞳と目が合うと、カッと一瞬で身体が熱くなる。

彼女も涙を滲ませているのか、瞳の黒はゆらゆらと光り揺れている。



愛しい彼女の潤んだ眼差し。

整えられた舞台。

止めるどころか、キスを煽る国民たち。



……ああ、もはや、抑えなどきくはずも無かった。





ーーー王族規則、上等。今だけは破り捨てましょうごめんなさい。


ーーーあとでならどれだけでも怒られるから!





市民に紛れている影たちよ、どうか今だけ許して下さい。

心の中で土下座する。




熱に浮かされた衝動そのままに、リィカの身体を自分の方へと更に抱き寄せた。

…抵抗はされない。

顔を、さらに彼女に近づける。




薔薇色に染まった愛らしい頬。

とろけるような美しい女神の微笑みを、ごく至近距離で見た。

次の瞬間、





ーーー唇に、柔らかな感触。





ヴェールごしではあるものの、今、お互いの唇は……確かに甘く触れ合っていた。




わあああああっ!!!

と割れんばかりの歓声が私たちを中心に上がる。

当てられたのか、顔を赤く染めてキスしだす恋人たちもいた。

誰もが楽しげに笑い、隣にいた人と抱きしめあって、キスを言い出した踊り子たちはくるくると祝福の舞を踊る。

もはや、お祭り騒ぎだ。




身体中が甘い熱で焦がされるかのようだった、リィカとの初めてのキス。


私は生涯、この瞬間を忘れられないのでしょう。




名残惜しく顔を離して頬を撫でると、うっとりとした表情で見つめて来られる。

はあ、可愛すぎて…本当にもうどうしましょう。



距離の近さを良い事に耳元に唇を寄せて、ちゅっ、と軽く音を立てた。

面白いくらいに身体がビクッと反応する。好き!




「愛しています!」




どうか、返事を聞かせて…?




「…私の方が、愛して、る!」


「~~~!?」





ーーーうわ、年上彼女って…すごい。



もう一瞬でオトされてしまった。いや、もともとオチてましたけど。


…またヴェールごしに、彼女の甘い唇に吸い寄せられるようにキスしてしまった。




読んで下さってありがとうございました!

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