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デートなう

(3/1)32部「裏の顔を持つ者たち」を編集しています。

クラド王子が登場し、ミッチェラが影の者の契りを交わします。

セリフを抜粋すると、

「最近王宮で恋に浮かれてる者が妙に多いし、王妃様の様子もおかしいけどアンタらの仕業?」「違うし。むしろそこは感謝してもらっていい立場だし」「は?」という会話がなされています。

只今、人生初のデートを絶賛楽しんでおります!

ネルシェリアスです。




王都屋台街の匂いにつられてリィカのお腹が可愛い音を立てたので、屋台を巡っていきます。

一つ新しい食べ物を見つけるごとに、つぶらな瞳をキラキラと輝かせている彼女。

とても20歳には見えないなぁ、ネルは私に甘すぎる、なんて会話をしつつ、売られている食べ物を紹介しながら歩く。




一歩進むごとに、ヴェールだけでは隠しきれないリィカの美貌と黒髪が人々の視線を集めだします。

皆、私たちの手に揺れる結びのリボンを見つけては『お幸せに!女神様の祝福を!』と声をかけてくれる。

軽く微笑み一礼して、また歩く。



誰かに祝ってもらえるってとても嬉しい事ですね。

こんなに沢山の人に祝福されるのは生まれて初めてです…自分たち2人に向けられる言葉の暖かさに、じんわり感激の涙が滲んでくる。

おっといけない、こらえなければ!


ヴェールを取ったら、美女と野獣すぎて別な意味で騒ぎになるかもしれませんけどね。

ここは顔をごまかしてくれるヴェールに感謝して、言葉を素直に受け取りましょう。





食べ物を買ったら、テーブルテラスへと歩いていく。


小さなテーブルいっぱいに並べられる…

肉の串焼き、ポテトフライ、ミートパイにライスコロッケ、デザートにはクレープとチョコの焼き菓子、フルーツ盛り合わせ。

どれから食べようか?それらを嬉しそうに眺める彼女がまた可愛い。


思わず、表情がゆっるゆるになる。

遠慮する彼女を言葉巧みに誘導して、食べられるだけいっぱいに買ったかいがあったというものです!




ヴェールを少しだけ持ちあげて、彼女の口元にポテトを持って行くとパクリと食いつかれる。

よしよし。

だいぶ慣れてきましたねー?


ソースなどでベタつく物以外を「あーん」して食べさせていると、周りから妬み混じりの痛い視線がビシバシ飛んできます。

が、スルーしましょう。

…ここで仲のいい所をきちんと見せておかないと、万が一デート中ちょっかいでも出されてはたまりませんから。


私も彼女から差し出されたポテトを口に運ぶ。

周りから「ああああ」「羨ましい!」といった呻き声が聞こえます。

おそれいります!

世界一の幸せ者とは、きっと私の事ですね。




デザートまでペロリと平らげたリィカが、幸福そうにふふっと笑った。




「んー、とっても美味しかったです!

ごちそうさまでした、ネル様」


「どういたしまして。

食事の量は足りましたか?」


「さすがに私といえどもうお腹いっぱいですよ!


…食べたいとかでは無いんですけど。

そういえば、屋台街って私の故郷と同じくらい何でも揃ってたけど、フワフワしたケーキは見かけなかったですよね?

パンケーキとか、ネル様はご存知ですか?」


「?

ケーキがフワフワ…?」


「あ。もしかしてそういうのって、元々無かったり?」


「心当たりが無いですねぇ」




ケーキといえば、どっしりとした大きくて甘い焼き菓子という認識です。パウンドケーキが主流ですね。

フワフワという表現からは程遠い。


望んでいる物なら用意してあげたいのですが…うーん。

何と返そうか悩んでいると、彼女から声がかけられる。




「もし気になるようだったら、貴方にお作りしましょうか?

日本ではスポンジ・ケーキっていうフワフワした生地のケーキが主流なのです。

卵を思い切り泡だてて生地に入れるとフワフワになるの。

お菓子作りは得意なのです」



「……私の女神が女神すぎる!」


「どうしたんですかそのテンション!?」




思わず頭を抱えて小さく叫ぶと、リィカが驚く。

脅かせてすみません。


でも手作りのお菓子を異性に贈る意味を、貴方は分かっているんでしょうか!

『私の身も心も貴方に甘く焦がれている』『私を食べて』なのですが。

…分かって無いでしょうねー。

照れて作ってくれなくなったら悲しいですし、まあ、言わないでおきましょう。

食べてみたいと伝えると、嬉しそうに笑う。



「そう?

ふふ、分かりました!

気合い入れて作っちゃうんですからー。

プチ・ウエディングケーキ風にしてみようかな。

材料はどうしよう?」



「このあと買いに行きますか。

ヴィレア王国には港もあるので、食材の種類も豊富なんですよ」



「わぁ、楽しみ!

ありがとうございます」




そうと決まれば、向かいましょうか。

再び手をきゅっと繋ぐ。

食べた後の紙皿や串を片付け、席を立って食材市場へと向かいます。





****************





ヴィレアの各市場は、とにかく商品の種類が豊富なことで有名です。

それぞれの店が扱っているのは食材、陶磁器、皮細工、刃物、服飾品…なんでもありますね。

この中央部から港の近くに向かって、店が軒を連ねています。


祝福の言葉を浴びるようにかけられつつ、製菓食材店を探して歩く。



何軒か店をハシゴしてリィカが買ったのは、バニラブレンドの製菓小麦粉とアーモンドパウダー、ラムリキュール、木苺の色粉。

店員の持たせてくれた蓋付きの木籠に入れて、繋いでいない方の手に持つ。

卵やミルクは痛むので、王宮の物を使うよう勧めました。



ああ、この辺りはいつも行く裁縫手芸店の近くだ。

彼女にそこに立ち寄っていいか尋ねます。



「全然構わないですよ。

ネル様は裁縫に興味があるんですか?」


「ええ。比較的得意な部類ですよ。

カグァム嬢に贈ったぬいぐるみも自作ですし」


「……えええ!?

あれ、お手製だったの!?」


「なかなか良い出来だったでしょう」


「良い出来どころか、ぬいぐるみ界の至宝みたいな完璧な仕上がりでしたよ!?」




ずいぶん気に入ってもらえてるみたいですね。

嬉しいです。

店に着くまで、裁縫トークで盛り上がる。




そうして辿り着いたのは、扉のない露店タイプの手芸用品店。

白樺の骨組みに鮮やかな緑のテント、店先には羊の看板がかけられている。

店舗は小さいながら色とりどりの布や糸が所狭しと並べられていて、そのどれもが厳選された上質な物だ。

それも、この店の主が羊の獣人だからだろう。洋裁界では羊獣人が大きなネットワークを構築していますから。



「こんにちは」


「ああっ!貴族のお兄さん!

いらっしゃいませー!」



声をかけると、棚にうもれるようにして商品を陳列していた薄桃色の髪の子供が、パッとこちらを向く。

ここの店主の娘さんです。

彼女はいつもニコニコ接客していて、私にも親切に接してくれます。



「こんにちはぁ!

お兄さん、こないだはたくさん上等な布を注文してくれてありがとう。

あの白い生地、最高の手触りだったでしょう?

今日は何をお求めかしら!」



「ええ、おかげで良いぬいぐるみが作れましたよ。

貴方の選んでくれる素材は、いつもとても素晴らしいです。ありがとう。

今日は、ドレス刺繍用の金糸を頂きに来ました」



「わぁ、もしかしてドレス作るの!?

……って、うわ、うわわ!?」




あ。

どうやら今、初めてリィカに気付いたようです。

沢山の大きな棚が並ぶこの店舗では、小さな彼女の視界はとても狭いですからね。


実は人見知りの羊獣人テトラは、顔を真っ赤に染め上げる。

リィカはそんな彼女を見て、プルプルと肩を震わせていた。



「リィカ?」



どうしたんだろう?

プルプルが止まらない。

顔を覗き込むと、うっとりとテトラを眺めている。



「かっ…かっわいい……!」


「えっ」


「えええっ!?」


「み、耳がある!角も!髪なんてゆるふわのメルヘンな桃色だし。

本当に可愛すぎるよぉー…!」




…まさかの。可愛いと悶えているようです。


そんな言葉を言われたことがないのか、テトラは目を真ん丸くしてリィカを見ている。

獣人は不美人が多いとして、あまり容姿では褒められない事が多いのですけど…異世界人のリィカの感性では、獣人は可愛く見えるのでしょうか?

醜い容姿の私にさえ可愛いと言ってのける彼女だから、もしかしたら感性が独特なのかもしれません。

うわ、すごい説得力。



お互い見つめあって動かない2人の肩を軽く叩いて、自己紹介をするよう勧める。

テトラはハッとしたように頭を振ったあと、おずおずと上目遣いでリィカを見上げた。

……リィカまた悶えてるなぁ。

え?嫉妬?

さすがにしていませんよ!




「…あのっ。

ここ、『ひつじ洋裁店めぇ』の店主の娘です、テトラと言います…!

はじめみゃして、うわ、わわ…!」



「……可愛いーーー!

初めまして。私はヴィレア王宮でお世話になっている、鏡 麗華と言います。

よろしくね、テトラちゃん」



「はっ…はいぃ!」




リィカが(可愛さに当てられて?)フラリと体勢を崩したので、それを支えつつテトラに微笑む。



「リィカは私の婚約者なんですよ。

今は、結びの儀の時に着てもらうための彼女のドレスを作っているんです。

裾に刺繍を入れようと思いまして。

祝福、してくれますか?」



「………!

今、アラネシェラ様に結ばれているのは、王子様と異世界ニホンの女神様だって聞きました!

…お兄さん、王子様だったの!?」



「はい。

隠してた訳では無いんですけどね」



「気付かなかったぁ!

王子様がお裁縫するなんて思ってなかったもん!

……っ結婚しちゃうの」



「ええ」




テトラが驚いた表情でピシリと固まる。

そして私たちの顔と、小指に揺れる結びのリボンを交互に何度も見つめる。

おや?


しばらく黙ってその視線を受け続けていると、彼女は弾かれたように店の奥へと駆け出していって、注文した金糸の束を持って来てくれました。

うん、今日もとても良い品選びです。


それを渡してくれる時に思わず顔を直視してしまう。大きな目にウルウルと涙を溜め始めていて驚く。

くしゃり、とまだ幼い顔が歪んだ。

あ、これ…泣かれる。




「う、うああ……!!

おにぃさぁん、けっこん、おめでと……ひっく!おめでとうごじゃいます、う、うわああああんっ!!」



「ちょっ、大丈夫ですかテトラっ!?」


「テトラちゃん!?」


「えうー、ごめんなさ…ひっく!うわあああん!」




…私のようなブサイクが婚約できたことに感動したのでしょうか?

それとも純粋なお祝いの気持ち?


泣き出した理由は分かりませんが、とりあえず涙をふけるようにとハンカチを渡します。

更に泣かれる。

どうしたらいいんでしょう…



すると店の外から大きくて元気のいい声が響いてきた。バタバタと、せわしない足音が急速に近づいて来る。

彼女の兄、ルクスだ。

大きなタレ目を精一杯釣り上げさせて、頑張ってこちらを睨みつけている。



「あーーーーーっ!!!

アンタ、いつもの貴族さまじゃん!

なにテトラ泣かせてんだよぉ!!」



「……っお兄ちゃん!?」




ボロボロ泣きの妹の顔を見て、彼のシスコン魂に油が注がれていく。

ああああ…



「貴族さまのばーーか!

テトラを泣かしたりして、許さないんだからな!

もうアンタとは金輪際、絶交だぁーーばかーー!!

母さん店番お願いねーー!」




私だから怒らないものの、他の貴族にそんな口聞いたら大変ですよ?

また後日、言い聞かせないといけませんね…



駆け寄り、泣き止まないテトラの手を引いて思い切り走り出すルクス。

振り返りざまに、あっかんべーした顔と目が合った。

さっすが獣人、速い速い。

あっという間に遠くまで行ってしまいます。




…………。




…兄の登場・退場は嵐のようだった。


唖然とそれを見送ってしまっていると、ピンクの髪の背の高い女性が、こちらにのんびりと歩いてくる。

柔和な微笑みを浮かべてやって来た彼女は、あの兄妹の母親です。

この裁縫店の店主。

にっこり笑って告げられる。




「こんにちはぁ。

あらあら、貴方ってば王子様だったのねぇ。

本日もお買い上げありがとうございまぁーす!

こちらの金糸の束でよろしいかしらー?」



「はい。束ごと全部ください。……って、そうじゃなくて!

息子さんたち走ってっちゃいましたが、大丈夫でしょうか?」


「今日はもうあの子たち非番の予定だったから大丈夫よ、店番は私がやるわ」


「そこじゃなくてですね」


「そのうち帰ってくるわー。

テトラは貴方に恋してるみたいだったから、恋人がいて驚いて泣いちゃったんじゃないかしら。


いやーん、婚姻だなんておめでたいわぁ!

貴方たちに女神様の祝福を!」



…相変わらずマイペースで、会話の噛み合いづらい女性です。おっと失礼。



そして今、信じられない単語が聞こえたような?

…えっ、この常にヴェールで顔を隠してて顔の分からなかった上、実は醜い男に対して!?




「「……恋!?」」




私に好意を持っていてくれたのは嬉しいですが…というか、ビックリですが…、素顔も見ていない男性を好きになってはいけませんよ!?

テトラの将来が心配なのですが!?





「あらあら、婚約者のお嬢さんまで。

そんなに心配そうな顔しないで?

小さい子供の恋だもの、失恋したってそのうち良い思い出になるわー。

可愛いわよねぇ、

初恋なんて私はいくつの時だったかしら!うふふ!」




母親はのんびりした口調を崩さない。

あまりの温度差に私とリィカが遠い目になる。



結局素直にお会計を済ませて、柔和な笑顔で手を振られつつ裁縫店を後にしました。


リィカとなんとなく目を合わせて、お互い苦笑する。

少しだけ微妙な空気になったけど、気を取り直して、王都の観光を楽しんでもらいましょう。




読んでくださってありがとうございました!

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