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私の妻、私の旦那様

容姿関係の話なのでどうしてもその描写が多くなってしまいますね。

クドかったらすみません。王子視点入ります。

 「だから様子を見に行くだけだと言っています」



 「様子を見に行く?

 はっ、男が一人で寝室にいる女性の様子を見に行くなんて、もうすっかり夫になったような言い方じゃないか。

 あの女神に『はい』なんて返事をされて舞い上がったか?

 少々…思い上がりが過ぎるんじゃないのか?」




 「実際に求婚をして受け入れてもらえたと考えておりますから。

 あの場には沢山の上位貴族たちがおりましたので証明はできています。

 彼女の様子を私が見に行くことに何の問題も無いはずです」




 「…いや、あの返事が本心かなどまだ分からないと思うがな。


 彼女はいきなり召喚されて混乱していただろう。

 そこにお前の求婚だ。

 さぞかし驚いただろうさ。

 正常な判断ができなかったとしても不思議じゃない」




 「…確かにそうですが、彼女はあの『結びの魔法陣』より出てきた方です。

 私たちの相性は誰よりも良いと言えます。

 彼女自身、愛してくれる人が欲しいと、そう思っていたのでしょう」




 「くっ…たとえそうだとしてもだ。

 たまたまお前が召喚魔法陣を使ったことが原因かもしれないだろう。

 他の者が同じ願いをあの陣で願っていたら、彼女がやって来たかも知れないぞ?


 彼女は愛が欲しいと思っていた。

 見た目や、財産や、性格にかかわらずだ。

 そこは2人とも完璧に一致したのだろうさ。

 だが呼び出されてみたらどうだ?

 

 目の前にはお前がいた。

 お前1人だったのならまだ良かったかもしれない、だがあそこには沢山の貴族たちがいたじゃないか。

 お前と貴族たちでは容姿に格差がありすぎるのは分かっているだろう。


 彼女は女神のように美しかった。

 望めば、愛する男などどれだけでも現れるさ。容姿の良い男も、贅沢な暮らしも、自分をひたすら甘やかす優しい者も思うがままだ!


 …そこにお前が入り込む隙間があると思っているのか?」





 「…ーーーッ!」




 「魔法陣を使ったのがお前で、その時に同じ事を考えていたのが彼女だ。それだけだよ。

 あの一瞬は甘い夢さ」





 「…そんな、こと」





 「これ以上は傷つくだけだぞ。


 …それに俺も彼女が欲しい」





 「!?」





 「あんなに美しい女性を見たのは初めてだ。心を奪われたさ。

 当たり前だろう?


 彼女を私の正妻にしたいと考えている。

 たとえ平民だとしてもだ。

 彼女のことが頭から離れない!」




 「…私だってそうです。

 彼女の事しかもう考えられない。

 ーーー愛しているんです!」




 「…本気になってるみたいだな。

 言うようになったじゃないか。

 言わずにおこうと思っていたが、そうはいかないか。


 なぁ。




 醜いお前に好かれた彼女が哀れだと、思わないか?」





 「ーーーッそれでも、今彼女と繋がっているのは私です…!

 小指の赤い印は消えておりません!」




 「ちッ…!

 小賢しいな!」




 王宮の一室の扉の前で2人の男が睨み合う。お互いイライラと焦っているような、こわばった表情をしている。

 どちらも質のいい上等な貴族服を着てはいるものの、2人の容姿は驚くほどに真逆だった。




 先ほど求婚をした男性。


 背の高い乳白の髪の男性は、その長い手足に映える白の貴族服を着用している。

 少しつり目がちでネコのような大きな空色の瞳。スッと通った鼻筋に、桜色の唇。

 色素の薄いパーツがバランス良く絶妙の配置で並んだ、繊細ながら華やかな顔立ちだ。




 もう一人は小太りでブサイk…個性的な顔立ちの男性。


 品のいいブラウンの貴族服を着用している。

 自信に満ちたその顔は色黒でデコボコとしていて、いたるところに大きなホクロが見える。

 首の後ろでくくられた長い髪は縮れたような茶色、肉に埋れた小さな藍色の瞳、大きくて主張の強い鷲鼻に赤黒いたらこ唇。



 あまりに違う2人。






 …………。





 しばらくそのまま睨み合っていたものの、侍女がやって来たことでその沈黙は解かれた。



 どんなに立場が上の人間でも彼女には逆らえない、と評判の正論武装者、侍女長その人である。


 今日もクモリ一つない眼鏡をかけ、白髪混じりの金髪を一筋の乱れもなく結い上げている。

 長いクラシックメイド服の裾を何でもないようにさばきつつ、足音も立てずに近づいて来ていた。



 お茶を持って来た彼女が呆れたようにため息をつくと、睨み合っていた2人は気まずそうに視線をそらす。



 「まあまあ、第一王子と第四王子じゃありませんか。

 こんな所で何を?

 淑女の部屋の前で立ち話など、感心しませんわね。


 …うっかり大声を出して部屋の中の彼女を驚かしでもしてみなさいな。

 私が貴方たちの反省すべき所をみっっちりと、それこそ1日まるごと使って言い聞かせて差し上げますわ?」



 侍女長のメガネがきらりと光る。




 「わ、悪かった!」


 「申し訳ありません、非常識でした!」



 いかに王族だろうと彼女が相手ではイマイチ格好がつかない。

 慌てて謝っている。

 幼い頃から厳しく日常マナーを指導されていた彼らほど、頭があがらないようだ。



 「ふむ、分かればよろしい。

 次はありませんよ」



 侍女長はけしてえこひいきをせず、規律だとかルールが大好きだ。



 私がまず中に入って彼女の様子を見ますので、との言葉に、2人の王子は顔を引きつらせながらようやく頷いたのだった。




****************







 はじめまして皆さん。


 私はヴィレア王国の第四王子、ネルシェリアス・ヴィー・レアンスと申します。



 四季があり土地の豊かなこのヴィレア王国。

 特徴といえば、まずあげられるのがとにかく美しい人が多い事です。



 他国の人々は我が国のことを「美の女神に愛された国」だと口々に称賛します。

 純血の王族はみな目もくらむ程の美しさ、貴族も言うに及ばず美形だらけ。平民でさえ整った顔立ちの者が多いと言われています。



 そんな美形の多い国では、他国に比べても圧倒的に容姿への感心が高い。

 王都の至る所にサロンが立ち並び、美容関連グッズがこれでもかと売られています。

 とある商店が、顔がふっくらして見える表面がカーブした鏡を開発して、一代で成り上がったのは記憶にも新しい。

 そんな国。



 反面、容姿の良くない者への扱いは厳しいものです。

 差別を無くすような国の政策に力を入れているのですが、生理的に受け付けられない分にはどうしようもなく、難しい所ですね。



 そんな感じでこの国はブサイクに厳しいです。





 麗しい王族は国民の自慢。


 そんな中、美形王族の汚点として有名な者が一人だけいます。

 高貴な血をどこかに忘れて生まれてきたのではないかと、噂される程ブサイクな王子がいると。

 王都の平民の間では、悪い事ばかりしてると恐ろしい王子様が迎えにくるよ!と脅し話に使われているようです。





 私なんですけどね。


 泣いていいですか。



 ギョロリと大きな目に、面白みもなく細く生えそろった眉。存在感なくアッサリと顔を縦断するひかえめな鼻、薄い唇。極めつけは真っ白でシミもホクロも見当たらない肌。

 どうしたって太らない引き締まった身体。


 もうツラい。





 この国では、身体はふわふわと柔らかく、個性ある顔立ちの小柄な人が男女問わずモテまくります。


 筋肉のないふわふわの脂肪で作られた体は富の象徴。

 小さな身体は威圧感がなく優しく感じられる。

 顔は左右非対称の個性ある造りが何より素敵な人に見える。

 目は慎ましやかに小さく、鼻は華やかに大きく、唇は色気あるぷっくりとしたものが『整っている』とされています。



 国一番の美男子は、文句無しに先ほど私と会話していた第一王子です。


 我が兄ながら、美男子すぎて毎回見とれてしまう程…もはや羨ましいと思う気持ちもおきません。

 この人は芸術そのものだと思います。



 堂々とした王者の風格も、麗しい容姿も、なにもかもが私の憧れ。

 醜い身なれど、彼の実弟であることが誇らしかった。


 彼が望むならこの命すら国のために捧げたでしょう。







 ーーー彼女に出会う前の私なら。



 ーーー何でも犠牲にできた。

  でも、今は違う。

 


 ああ、これは欲だ。


 私のこの腕で彼女を抱きしめて、私が、私だけが一番に彼女を幸せにしたい…!




 ーーーたとえ兄上にでも彼女は譲れない、と強く思う。




 手に入れることなど到底出来ないと思っていた美しい女神。

 あの愛らしい一挙一動を忘れてなるものか。

 宝石の涙で瞳を潤ませて、頬をほんのりと赤らめて…



 鈴の鳴るような声で、彼女は確かに、私の求愛に『はい』と答えてくれたのだから。



 こんなに生きていて良かったと思えたのは産まれて初めてだ。

 あの瞬間、私の世界は鮮やかな薔薇色に染まったのを覚えている。




 ああもう顔がにやけてしまいそうだ!

 私なんかが笑っても(それもニヤニヤと)周りを不愉快にさせるだけだろうに。


 今まで磨き上げてきた、無表情を作るための表情筋を総動員して口元を引き締める。

 鍛えてて良かった。

 女神の魅力は記憶の中でさえとどまるところを知らないようです。

 …わずかに唇の端がピクピクしていて、今の私は、見た目だけなら犯罪者かもしれませんね…。






 ふぅ。


 深呼吸してから彼女を思い浮かべます。




 まず目に入ったのは、その強烈な色彩でした。

 様々な濃い色の花模様が施された民族衣装に、ふわりと揺れるアップにまとめられたクセのある黒髪。

 色彩豊かな服に一切負けることのないその黒に、目が釘付けになりました。


 おとぎ話でしか聞いたことのないような、一切混じり気のない漆黒の髪です。



 同じく漆黒の瞳は完璧な美しさの一重で、長さがバラバラの短いまつ毛に彩られていて。

 柔らかそうなぷっくりとした象牙色の肌には、アクセントにホクロが目立っていました。


 顔立ちは幼く見えましたが、あの魔法陣より現れたということは、もう婚姻が可能な年齢であるということです。

 大きく華やかな口元のなんと魅惑的なことか…もうあの場で口付けてしまいたかったのは彼女には内緒にしておきましょう。

 手の早い男性は時に怖がられるものらしいですからね。

 …抱きしめてしまったのでもう手遅れな気もしますが。



 夢にまで見た、私を愛してくれる人が、まさかこんな女神なんて。


 美しい容姿、可憐な佇まい、嫌悪感なく私を見つめて優しく手を握り返してくれた人。


 なんて幸せなんだろう。






 …ふふふ、



 …さいわい、言質は取れています。






 ーーー絶対にこのチャンスは逃しません!

 彼女を幸せにするのはこの私です!



 ブサイクがなんだ!


 コンプレックスから逃げるようにひたすら打ち込んだ武術、話術、経済学。

 容姿以外のスペックなら兄上達にだって圧勝しているんですから!



 持ちうる知識は全て使って、貴方に群がるたくさんの男たちを蹴散らしてご覧にいれましょう!





 …愛しの女神、待っていて下さいね。


 貴方の夫が今迎えにまいります!





****************






 「失礼します、王宮筆頭侍女のアマリエと申します。」



 半開きだった扉をコンコン、と小気味良く叩き、侍女長が小さめの声で告げた。

 中にいる人物がまだ起きていない可能性を懸念してのことだろう。

 メガネの奥の鋭い眼差しが、抜け目なく部屋の様子を伺っている。

 彼女は部屋の中に1歩分だけ足を進めた。



 王子2人は辛うじて廊下にとどまっているようだ。

 ただ、お互いをけん制しているようで、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほど緊張した表情をしている。



 部屋の天蓋ベッドのカーテンは動かされた様子がなく、この国に現れた女性が今だここにいることを示していた。

 部屋の大きな窓からレースカーテンごしに柔らかな光が差し込み、ベッドの中をぼんやりと浮かび上がらせている。


 その中に混じり気のない黒の色彩を見つけ、改めて3人を驚かせた。




 「奥方様」




 「ーーーッはいっ!?」




 鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえた。


 侍女長が呼びかけてみたら、ベッドの中で彼女は起きていたようで、焦ったようなバタバタという音がしだした。

 うっすら見えている限りでは、乱れていた服装などを整えているようだ。



 少しだけ間を開けて、天蓋のカーテンから震える小さな手が出てきた。

 恐る恐る、といった様子で、ゆっくりとカーテンが開かれ、彼女の姿が現れる。



 皆、それを声も出せずに眺めていた。





 まず豊かなクセのある黒髪がカーテンの隙間からこぼれる。

 次いで、現れたのは傾国のとも言える絶世の美貌(この国視点)。

 身にまとうのは色彩鮮やかな見たこともない民族衣装。それ自体も上質で素晴らしいものだが、彼女の美しい容姿と合わさることでえもいわれぬ魅力を醸し出している。


 思わず、ほうっと吐息が漏れるのも仕方がない事だろう。





 誰も何も言わず(言えず)見つめ合う時間がわずかに過ぎ、そののち彼女の瞳が第四王子を捉えて精一杯広がった。

 大きな唇がわずかに開くと、先ほどの鈴鳴りの声がそこから奏でられた。


 第四王子が望んでやまなかったその言葉ーーー。




 「…ーーー私の、旦那様…?」




 声に、確かに愛の熱をのせて。






 「…っはい!私の愛しい妻…!

 貴方の夫はここにおります!」

 


 第四王子の動きは早かった。


 長い足を存分に生かして部屋を縦断したので、あの侍女長でさえ止めることができなかった程だ。

 第一王子などぽかんと惚けたまま動く様子すらない。



 抑えがきかないとばかりに、第四王子は再び愛しい人の手を取った。

 見つめ合う2人。


 空気が甘い。甘ったるい。





 侍女長は呆れたようにため息を着いた。

 まあ彼女自身、有能ながら醜さで損をしてきた王子の幸せを願っていたので、邪魔をするような無粋な真似はしなかったが。


 ぽつりとつぶやく。



 「全く、後でお説教ですわね」



 彼女は知らずに柔らかく微笑んでいた。



そこはかとないヤンデレ臭。

王子どうしてこうなった…?


(1/19/補足///女神の魔法陣は「絶対」ではありません。前列はありませんが、1週間の婚約期間に心が離れ、リボンがほどけてしまった場合は2人は結ばれません。特に、ネル様と主人公が望んだのは「ただ自分を愛してくれる者」なので、美人な主人公ちゃん(異世界視点)が愛してくれる人が欲しいって言うんなら、いくらでもイケメン(異世界視点)捕まえられるよ?ってな考えで、第一王子も狙ってる訳ですね。)


読んで下さってありがとうございました!

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