魔法教室/魔力結晶宝石2
ネル様にあげる『お守り』を作りたい。
そう思ったので、宝石は彼に似合う色を選ぼうと思いました。
ええ、思いました。
過去形なのです。
がーーーーん…
彼に似合うのは、きっと髪の色そのものな乳白のオパール。
もしくは、空を閉じ込めたようなブルートパーズか、サファイヤ。
この辺りにしようと決めて、宝石を識別していたのですが…
まあ、なんという事でしょう。
私の作ったえげつない魔力玉(黒)との相性が良くないようでして!!
………。
全滅です。
選択肢が、全滅!
魔力玉と宝石を隣りどうしに置いて、上に手をかざして念じます。
でも何の反応も無いのです。
魔法失敗!
がーん…
机の上には、いろんな種類の宝石がまだまだあります。
真紅のルビー、新緑のエメラルド、はちみつみたいなイエローダイヤ、などなど。
でも、彼に似合うかって考えるとどうにもしっくり来なくて。
うーん。
ネル様に似合う色の宝石で、お守りが作りたいんだけどなぁ。
妥協したくないし……うーん!
唸っている私に、見かねた彼が声をかけてくれる。
「なかなか、合う石がありませんね?」
「はい…すみません」
「謝らないで。
好きな色と融合させようとするのではなく、相性優先で濃い色どうし合わせるのも手ですよ?
魔力玉と色が似ている方が融合しやすいという説もあります。
そちらも試して見ませんか?」
…なんて出来た18歳。
優しく私を諭してくれます。
貴方が好きな色が白と青だっていうのは嬉しいですけどね、なんて微笑んでくれる。
私が身体強化魔法の件で落ち込んじゃってたから、いつもよりさらに口調が優しいです。
うう、ありがとうございます!
「ネル様…
今回お守りづくりが成功したら、それを貴方にもらって欲しいなって思ってたんです。
だから、貴方に似合う色の宝石がいいなって」
「ーーー…!
そうだったんですか。
ありがとうございます。
カグァム嬢。
だったら、やっぱり濃い色の宝石で試してみましょう?
私に似合うかは分かりませんが、私は、貴方の色を身につけたいとずっと思っていたんです。
魔力量の少ない私では貴方の髪色のような服は着れなくて、ずっと悔しく思っていました。
貴方がお守りを贈ってくれるなら、それは貴方の色だったら嬉しい。
ワガママ言っても、いいですか?」
思わず目を見開く。
ワガママ?
いやいや謙虚すぎる。
なんなんだ天使か。
すぐ正面に、彼の照れくさそうなはにかんだ笑顔が見える。
可愛い……!
あまりの破壊力にガン見してしまいます。
私の髪は、光を全て吸収してしまうかのような混じり気のない漆黒。
この色は、ネル様を上手く飾れるかな?
彼がこんなにも可愛い事を言ってくれてるんだもの。
黒でいきましょう。
お姉さん、作成頑張っちゃう!
「~~~分かりました!
お任せ下さい!
この中で一番髪色に近い、オニキスで作ってみます。
ネル様。
もう、そんなに可愛いこと言われちゃうと…何でも叶えたくなっちゃいますよ?」
………。
あっれ?
ピシリ、と彼の顔が微笑みの表情のまま固まった。
そして周りの空気もなんだか寒い。
お兄さんたちが、驚愕の表情でこちらを見てる…なんで?
「可愛いとかさ…」
「嘘だろ…」
えっ可愛かったよ?
私がそう脳内で考えた瞬間、周りの温度がさらに下がった気がした。
えっ!?
…イヤーな予感がして、空気を紛らわすかのようにオニキスに手を伸ばす。
伸びない。
ネル様に掴まれている。
なにこれこわい。
彼は凄みのあるイイ笑顔のまま、私の耳元に顔を寄せる。
わー麗しい。
ギリギリ唇が触れない程度の所で、スッと息を吸う音がして…
ああああこれはまさかああああ!?
「だーれーがー、可愛いですって?
そんな風に見ちゃ嫌ですよ。
リ、ィ、カ?
私は貴方の夫として側にいるんですから、きちんと男性に使う言葉をくださいね?
ね!」
耳がァァァァァ!
声の色気アッーーー!
「ごめんなさーーーい!!」
****************
つ、疲れた…
私の目の前には最高級のオニキスと魔力玉。
今からこれを融合させて、魔力結晶宝石を作ります。
ネル様に贈るための『お守り』にするの。
どうか魔法が成功しますように!
「いきます!」
魔法はイメージが大切。
どんな魔力結晶宝石になってほしいか、目を閉じてしっかりと念じます。
私が望むのは、彼の『お守り』。
彼を守って、ずっと側にあってくれる消えない宝石がいい。
見た目は望んでくれた通りの漆黒。
でも、宝石として身につけてもおかしくないツヤと輝きが欲しいな。
ネル様に似合うように。
色は黒のまま、あのオパールのような虹色の光が足されたらきっと綺麗な宝石になる。
魔力さん、よろしくお願いします!
手元がぱあっと輝き始める。
おおっと、これは…!?
「成功、ですーーー!」
やりました…
ついに!
ついに私も、魔力結晶宝石を作ることができましたよー!
恐る恐るかざした手をのけると、そこには一つにまとまった黒の宝石がありました。
色もイメージ通りの仕上がり。
私の髪色に、ネル様の髪のきらめきを合わせたような艶のある宝石です。
自分で作っておいてなんだけど、ビックリするほど綺麗……!
感動してしまいました。
皆が口々に褒めてくれます。
「さすがですわぁ、リィカ様!
なんて綺麗なのかしらー!」
「本当に。
これはまた素晴らしい色ですね。
リィカ様は『お守り』を作るとおっしゃっていましたが、もしかしたら付与付きの魔力結晶宝石になっているかもしれませんね?」
「これ、ネルの髪色と合わせた色を作ったんだね。
ふふ、見せつけられちゃうなぁ」
「なんとも、羨ましい…!」
えへへ。照れますね?
皆さん、褒めて下さってありがとうございます!
ネル様は気に入ってくれるでしょうか…
ドキドキしながら、彼の方をチラリと見る。
うわ。
真っ赤っか。
色の白い肌が驚くほど鮮やかな赤に染まってる。耳までも。
綺麗な手で顔を隠すように覆ってるけど、うるうるな瞳が見えていますよ?
なんてこと。
あまりの可愛(略)と美しさはもはや視界の暴力。ごちそうさま…!
こちらまで赤くなってきてしまいますね。
ネル様は絞り出すように声を出した。
「貴方という人は……!
はあ。もう女神すぎて今すぐ結婚したい。
好き」
「わ、私も好きです…」
「~~~ッほんと、大好きです!」
言うが早いが、前髪をくしゃっとかいて、ちょっと顔を背けちゃった…可愛「リィカ?」ごめんなさい!
今回はどうやら恥ずかしがっているみたいです。
そんな姿もまさに眼福。
すごいな。どんな反応してても視界が幸せすぎる。
「ねぇネル様。
まだ終わりではないのです」
「?どういうことですか…?」
「ふふ、見てて下さいね」
私は手首に巻いてあった白銀のリボンを解くと、それにも魔法をかけました。
日本ではインドアに部屋に引きこもって、乙女小物作りまくってたのです。
技術も知識もありますよ?
せっかくだからこの宝石も、身に付けやすいように加工しちゃおうと思います。
天然石にワイヤーを巻いてペンダントトップにする過程をイメージ。
リボンがくるくると細くなっていき、金属のようなつややかな光沢を放ち始めます。
綺麗な丸の宝石に、クルリとうねりながら巻きつく。
さながら植物のツル模様のようですね。
更にそこに小さな薔薇の花をイメージして咲かせます。
宝石に巻きつかなかった分のリボンは鎖のように変化させて…
魔力結晶宝石ペンダントの完成!です!
んー我ながら良い出来。
唖然としているネル様の首にかけてみた。
おお…よいではないですか!
いい感じに似合っててくれて、嬉しいです!
「どうでしょう?
気に入ってくれましたか…?」
「…ハッ!
ああ、もちろんです!
気に入らないはずがないです。
魔力結晶宝石としてもアクセサリーとしても、素晴らしい物ですね…
これを本当に、私に?」
「はい!
いつも貴方は私に良くしてくれるけど、こっちからは何も返せて無いなーって思ってたから。
贈り物ができて嬉しいです。
この宝石がネル様を守ってくれますようにって、心を込めて魔法をかけたの」
口に出して言うのは本当に照れますね?
私はうっすら赤い顔のまま、彼に笑いかける。
「「「「ぐっは!」」」」
周り4名が崩れ落ちる。
あ、すみません。
ブスのこんな笑顔は破壊力高すぎますよね、皆さん。
でも図々しく生きるブスなので、怯みませんよ!笑顔笑顔!
涙目?うん、若干ね。
そしてこちらはガチ泣きである。
「あ、貴方だと思って一生大切にしますから…ーーー!
たとえこの身が傷つこうと、このリィカだけは守ってみせます!」
「この私ってなんですか!?
その宝石、そのまま私の名前とかやめて下さいよ…
というか、お守りなので守られて下さい!
これ『お守られ』じゃないんで!」
「嫌です亡くしたくない」
「人間扱い!?
もーーーーーーーーー!」
ボロボロ泣きながら正気を疑う発言をするネル様。
たまにこういう重いの入るよね、彼…
もうー!
ビックリしますよ!?
いち早く私の顔面被害から復活したアマリエさんが、なにやらスコープのようなもので『お守り』を見て固まっています。
ええい、お守りなのです。
お守られではない!断じて!
あのスコープは鑑定器具かな?
なんか結果を聞くのが怖いのですが…?
「アマリエさん。
そのスコープって?」
「ああ。
魔力結晶宝石の効果が詳細にわかる魔道具ですわ。
いや、まあしかし、そうきましたか…」
どうしよう聞きたくない。
クラド王子が横からスコープを覗き込もうとして無言で渡され、ヒッとか声を上げている。
「…『愛守りの結界石』
魔力は50,000。
効果『対象者ネルを結界にて守る。悪意のこもった攻撃を彼にするべからず。制裁として同等以上の攻撃反射が起こる場合がある』
継続時間は、カグァム・リィカからの愛が続いているかぎり」
私の愛こそ重かったようです。
すみませんでした。
応接間は静まり返り、もはや誰も何も言わなかった。
****************
なんとか空気も元に戻りましたよー。
(みんなして現実から顔を背けたとも言える)
今は、私がアクセサリー化の魔法を教えています。
こういう巻く発想は今までこの国には無かったみたい。
金物職人さんの作った台座に宝石を嵌めるっていうのが当たり前で、ワイヤーで巻いて吊るすデザインは初めて見たそうです。
アマリエさんとミッチェラさんは、特に楽しそう。
うふふ、やっぱりこういうの、乙女心をくすぐられますよねー!
そうして和気あいあいと魔法教室を楽しんでいると、コンコンと応接間の扉がノックされる音がしました。
おや。
誰でしょう?
本日2人目の訪問者です。
ネル先生が開ける許可を出すと、現れたのはメイドさん。
ヴィレアの制服を着ていますが、私は初めて見る方です。
ここにいるのは珍しい人、なのかな?
アマリエさんが驚いています。
メイドさんは無表情のまま、私だけを見て言いました。
「異世界人カグァム・リィカ様。
国王妃ライティーア様がお呼びでございます」
………!
やっと魔法教室おわったー!
皆さん長いよ!
読んで下さってありがとうございました