誓い
長かったーーー!
やっと書き終わった、眠いですorz
訓練所では、見習い侍女に拷問魔法……いやいや、治療魔法を受けたストラスがうずくまっていた。
侍女と治療魔法はよっぽど相性が悪かったらしい。
治療魔法の精度には、性格がよくあらわれるのだ。
荒っぽく治せば痛みをともない、優しく治せば心地よいのが治療魔法である。
見習い侍女のかしましい性格は、痛みとなってストラスの怪我に届いてしまったようだ。
そんなストラスに王子が近づいていく。
ひどくゆっくりとした優雅な動きである。
顔は慈愛に満ちた表情をしていた。
ただ、向かって来られたストラスがビビっているようなのは何故なのだろうか。
…不思議ですね?
「ストラス」
「はい!
どのようなご用でしょう、王子殿下!」
ストラスの返事が早い。
そしてキレが良い。
おお、と先輩騎士たちから感嘆の声が上がった。
今までの彼は単独行動上等だったし、先輩への返事ものんびりした声でしかしたことがなかったのだ。
肉体言語で制裁しようにも、返り討ちにされるのがオチだったし、言葉での注意の効果は言わずもがなだった。
とてもとても、大変な新人だったのだ。
そんなストラスを躾けた王子へは、多数の尊敬の目が向けられることとなった。
王子は言葉をつむぐ。
「…ヴィレアの騎士ストラス。
この王宮騎士団の門を叩いたのは、騎士としてヴィレアに尽くす気持ちがあったからだと考えます。
そうですね?
その上で、いま一度問いましょう。
貴方はこれから、更なる強さを望みますか。
この王宮にて技術を磨き、国のための矛となり、盾となる覚悟はありますか?」
「………はっ?」
笑みを消し、真剣な表情でストラスに語りかける王子。
唐突な言葉に、ストラスは目を真ん丸くしている。
しばし沈黙が降りた。
言われた言葉を脳内で反芻していたのだろう。
ストラスの顔も、徐々に真剣なものに変わっていった。
いつも楽しそうに半月を描いていた目をキリリと引き締め、背筋をピンと伸ばして立ち上がる。
王子は黙ってそれを見下ろしていた。
身長差があるため、ただストラスを見やるだけでも、雰囲気もあいまってひどく威圧的に見えた。
ストラスは慣れないながらも、王子にゆっくりと最敬礼をとる。
その仕草は堂々としていて、まだ4ヶ月の新人だというのに自信に満ち溢れていた。
「ネルシェリアス王子殿下。
どうか俺を国の矛として、盾としてお使い下さい。
この身は騎士としてここにあります。
嘘は申しません。
覚悟も、あります。
貴方が守れというものを、国であろうと人であろうと、全て守るために強くなってみせますよ。
貴方に忠誠を」
「受け取った!」
王子はその顔に、とても満足げな表情を浮かべた。
ストラスの忠誠の言葉は実に見事なものだった。
けしていい加減な気持ちで無いのは、目を見れば分かる。
その言葉の一音一音が、本気だ!
認めよう。
彼が、すでに近衛騎士にも値する確かな器であると。
王子は空中に向かって右手をかざした。
そして、何かを確かめるように手をパッパッと開く様子を見せる。
そしてギュッと握りしめた。
何があるわけでもないだろうに、右手を握りしめるその仕草に迷いは見られない。
彼は、腕を顔の高さまで上げると、そのまま一気に横薙ぎに引き抜いた。
一瞬まぶしく輝いた白の光。
神々しいその輝きに、周りの者はみな目を眩ませられる。
はたして、何が起こったのか?
皆が目を見開いた。
ーーー視線の先、王子の手には神々しいまでの光を纏った一振りの剣が存在していた。
侍女長アマリエが、顔を驚きの色に染めている。
あの剣のことを彼女は知っているのだ。
自分が『影の者』として王宮に仕える事になった時に、あの剣にて契りを交わしていた。
普通なら、自分のような特殊な立場にある者か、重要な国同士の同盟に使うような代物だ。
ストラスのような新人騎士に使うものでは、断じてない。
目を細めて王子を見る。
そこまで彼の強さを認めていたのか。
この国のために、彼は無くてはならないとそう判断なされたのか…。
人の能力には極めて厳しい判断をする第四王子が、この剣を人に使うことはめったになかった。
彼自身が信頼できる者を見つけ出せたことに小さな喜びを感じて、侍女長は口元に、柔らかな笑みを浮かべていた。
この剣の由来は相当な昔に遡る。
女神アラネシェラが初めて人間に加護を与えた、初代ヴィレア国王夫妻。
彼らに女神が与えたのが、この光り輝く剣である。
王族の血が流れる者のみが呼び出せる『制約の聖剣』。
使う者と使われる者が心から同意して、あの剣を介してされた約束事はけして破ることができないのだ。
神の力を使った、とても強い魔法である。
それはことさら「永遠」を大切にする愛の女神らしい、ある種の祝福の形だった。
1Mほどの細身の剣は純白で、うっすらと神々しい光を纏っている。
剣の刃は見事な光沢を持ち、柄には優雅な装飾が施されていた。
そこに輝く宝石はルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドなど…いずれも現代ではなかなかお目にかかれないような、大粒の一雫。
平民であったストラスは、このような美しい剣など見たこともなく、視線は釘付けになっていた。
下級騎士が使う鈍色の剣などとは格が違う。
純白の刀身に、彼の驚いた顔がキラリと映る。
王子はスッと短く息を吸うと、一思いに聖剣を地面に突き刺した。
聖剣は音もなく、吸い込まれるように地面にささる。
そして、剣を中心に放射状に光が溢れ、虹色の魔法陣を描いていく。
その色は常に変化しており、王族の血が心臓に流れるリズムに合わせて、トクトクと波打っていた。
あまりの美しい光景に、静寂が場を支配する。
その中でただ一人、王子が力強く言葉を発した。
普段の優しい口調からは想像もできないような、重く厳格な声だ。
彼は間違いなく王の血を引く者であった。
「ヴィレアの血の継承者、ネルシェリアス・ヴィー・レアンスが問う。
対象は、騎士ストラス・ミズィー。
我は、汝をヴィレア王国に仕える騎士として認めよう。
祖国を愛し、守り、戦う者として絶対の信頼を置くものとする。
汝、生涯をかけて誓え。
裏切るなかれ。
こちらが与える以上の信頼と忠誠を、絶対として汝に求める。
これは破られる事のない誓いである。
故に我、汝に問う。
心より誓うかと」
「ーーーーー…!!」
破られる事のない、生涯をかけた誓い。
それを求められる事は騎士として最高の名誉であり、しかしとんでもなく重い枷でもある。
絶対、という言葉のなんと重いことか…
ストラスは王子を見上げる。
どこまでも抜ける空のような青の瞳が、燃えるような熱を宿して、彼を見ていた。
………。
返事など決まっていた。
自分は騎士である。
仕えるべき者が望んだ時に、その力を振るうためにここにいるのだ。
自分の戦闘力の高さは自覚していた。
幼い頃より、異常なまでの運動能力を発揮し、その力を止められる者などいなかったほどだ。
両親にも恐れられたこの力。
仕えるべき相手を間違えれば、間違いなく災厄となってしまうだろう。
目の前の王子殿下はどうか?
考えるまでもない。
彼に忠誠を誓えと、本能がうるさいほどに声を上げていた。
素晴らしき戦いを見せた第四王子殿下のおられる王国を守る誓いに、何を躊躇うことがあろうか。
最高の栄誉だ!
ストラスは誘われるように膝を折った。
王子と目をしっかりと合わせた後、片膝を立てた状態で頭垂れる。
「俺の忠誠は変わりません。
国のために、王子殿下のために、この力を振るうと約束します。
絶対、です!
ヴィレア王国の騎士でありたいと心から誓います!」
ストラスが聖剣に誓った瞬間。
女神アラシェネラの美しい祝福の声が、皆の耳に確かに響いた…ーーー!
魔法陣の円が、2人を中心にくるくると回り始める。
一つ回るごとに円は小さくなっていき、2人に光が降り注ぐ。
虹の輝きが弾けて、次々と心臓に吸い込まれていった。
幻想的な光景に、ストラスは頭を下げ続けることができず思わず見惚れてしまう。
自身の身体までもがキラキラと光っているかのようだった。
そんな惚けた表情をしている彼を見て、先程までの厳格な顔を崩してクスリと笑いながら、王子は声をかけた。
「ふふ、ご苦労様。
貴方が誓いを受けてくれて良かった!
ストラス・ミズィー。
今日から貴方は、近衛騎士見習いとして王宮に仕えることを命じます。
よろしいですね?
稽古は私が、週に1度直々につけましょう。
それ以外はリーガ達にもお願いして鍛えてもらいましょうか」
「本当ですか!
また王子殿下と戦えるなんて、最高です!
俺、頑張って強くなります。
だから近衛騎士になるの待ってて下さいね!
絶対、損はさせませんからっ」
「楽しみにしていますよ!」
王子は今度こそ声を出して笑うと、聖剣を地面から引き抜いた。
わずかに残って揺らめいていた虹色の光が、パッと散って消える。
ストラスはまぶしい者を見る目で、その光と聖剣、そして王子を見つめていた。
魔法陣の光は2人の心臓に、印となって刻まれているのだろう。
期限のない『生涯』をかけた契約である。
それはお互いにとって、不足のない満足のいくものだった。
王子は良き騎士の器を得て、ストラスは仕えるべき主人を決めたのだから。
王子が柄を持った手を高く掲げると、聖剣はまるで幻であったかのように、空間にスッと消えていった。
それを合図に、周りで見ていた者たちがふぅーっと長い息を吐いた。
「…お待たせしました。
騎士の皆さん。
急な話ではありますが、先ほど私が告げたように、ストラスは今日より近衛騎士見習いとなります。
彼の実力を直接感じて、不足が無いと判断をしたためです」
………。
騎士たちは何も言葉を発しない。
王子殿下の言いたい事は、分かるのだ。
ストラスは規格外に強い。
それこそ、彼より長く騎士を勤めている自分たちよりよっぽど実力がある。
彼の強さを、みな今日改めて認めたのだが…
心のどこかに引っかかるモノがあるのも事実だった。
しょうもない小さな嫉妬心だ。
下級騎士のままで一生を終える者もたくさんいるのだ。
平民から近衛騎士になれるのは、力を王族に認められた怪物ばかり。その地位に着くことは、どちらかといえば脳筋な、騎士たち皆の抱く夢であった。
ストラスには間違いなく才能がある。
若く輝く才能を、まぶしく目を細めて眺めた。
…王子殿下の続けての言葉を待つ。
「…早すぎる、と思う者もいるでしょう。
その通りです。
彼はまだ若く、戦闘技術や近衛としての立ち振る舞いなど、たくさんの覚えるべき課題があります。
それは私が教育しましょう。
伸ばすべき所を伸ばしてやれば、彼はまだまだ強くなる。
その可能性を逃すことはできない、と判断しました。
強くなる限界まで強く、教育します。
皆さんはストラスの能力について、私よりもよく知っていると思います。
…彼の門出を、どうか祝ってやってもらえますか?」
………。
騎士の一人が、耐えきれずといった様子でプッと吹き出した。
次いで、そこらここらから愉快だと言わんばかりの笑い声が起こる。
やがてそれらは、下手をしたら先ほどの稽古後より大きな笑いの渦となって、訓練所をドッと揺らしていった。
王子の一番近くで、かたずを飲んで言葉を聞いていた騎士が、笑って快活な声を上げる。
「…もちろんです、王子殿下!
ストラスの門出だなんて、めでたくない訳が無いですよ。
よっしゃ、ストラスおめでとう!
いやあ、面倒なヤツ背負い込んでくれて本当にありがとうございます!」
「ほんとですよー、こいつの世話大変だと思いますけど応援してますから。
一生捕まえといてやって下さい!」
わはははは、と笑い声が響く。
王子が首をかしげて、楽しそうにその会話にのっかる。
「あっ………。
早まったかな……?」
「ちょ、酷いですよ王子殿下ぁ!
さっきのセリフ感動したんですからねー!
俺、頑張りますよ!?」
「頑張れよー」
「帰されてくんなよー」
「爆発しろー」
「あんまりだと思います!」
「そんだけ、みんなに世話になってたんだよお前!
感謝しろよー!」
ストラスはなんだかんだと、先輩たちに荒いが暖かな言葉をもらっている。
頭をなでくりまわされ、腕やら肩やらを小突かれ、もみくちゃにされていた。
しかし顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
その様子を見て、王子が笑顔で追撃した。
「まあ、私が直接指導できるのは週に1回が限度です。
色々と多忙な身ですのでね?
というわけで、それ以外の日には別の先生を付けなければなりませんね。
基礎訓練をリーガ。
マナー講習をアマリエ。
容赦なく限界まで教育することを命じます。
よろしくお願いしますね!」
「仕方ありませんなぁ。
承知しました」
「お任せ下さいませ」
「王子殿下ぁ、さっきの甘い雰囲気ブチ壊しちゃったこと根に持ってますよねーーーー!?」
「何のことでしょうね?」
また暖かな笑いが起きた。
異世界人の麗しの女神は、彼らの周りに柔らかなオレンジ色のオーラを見て、優しく微笑んでいた。
****************
私たちは今、ネル様のご家族に挨拶するために再び廊下を歩いています。
昼食は先ほど済ませました。
今日の昼食もとても美味しくて、シェフの方に笑顔でそう伝えたら卒倒されました。
なんかすみません。
麗華です。
………とっても気まずい思いです。
いえ、シェフの方の事ではなくてですね。
その……
「今日の予定が全て済んだら、何があったかじっっっっくり教えて下さいね?リ ィ カ?」
にーーーーーっこり(ハァト)
あああああごめんなさーーーーい!
これですよ、これー!
そんな耳元で色気全開でささやかないで18歳。
ありえないよ18歳、何の冗談ですか!
背筋がゾクゾクゥーーッてなります……!
えーと、どうしてこんなことになってるかと言いますとね。
黒い手紙の件がバレました。
はい。
私マジで隠し事ヘタですね。
訓練所から立ち去る時、ストラス君が気付いちゃったんですよ。
「今から昼食なのー?
俺も腹減ってきちゃった!
貴方の手からメイプルの香りがするんだもん、今日は甘い物食べようかなー☆」
だって!
あ、あんちきしょうー!
嗅覚どうなってるの!?
朝わずかに手に持っただけの手紙の匂いを嗅ぎ分けるなんて、野性的すぎる!
アマリエさんさえ気付かなかったのに…
その言葉を聞いてからのネル様の行動は早かったです。
私が言いづらそうに何か隠していると見るや、速攻で泣き落としからの色仕掛けです。
もう本当に何なのあの子。
涙でうるうるの顔が可愛すぎるのは、言わずもがなだけど…
18歳があんな色っぽい声出すな!
鼻血出るわ!
ごちそうさまです!
年下だと判明してから、甘えた属性が追加された模様です…心臓持たないよーーー。
幸せだけども、ね?
はぁ。
とりあえずは、なんか不気味な黒の手紙(悪意の魔法は無し)が届いてて、それからメイプルみたいな匂いがしてたって事だけ伝えておきました。
…いえ、聞き出されました。
手紙の内容はまだ言っていません。
私が半泣きになっちゃってたので、今晩部屋に戻ってから皆さんでご覧になるそうです。
あれ、これフラグ?
もしかしなくても隠してた事さらに怒られるフラグ?
ああああああ
メイプルみたいな匂い、って言った時点で、ネル様とアマリエさんが顔を見合わせていました。
…何か、心当たりがあるんでしょうか。
結構焦った様子だったからちょっと不安です…
そう思うと、私が手紙開けちゃったのは、いくら悪意魔法探知つかったとしても危険だったのかもって反省です。
すみませんもうしません。
今後はちゃんとまず報告します。
足取りが重いです。
効果音を付けるなら、とぼとぼ…という感じでしょうか?
いけないいけない、これからネル様のご家族に会うんだから!
気合いいれて、きちんと挨拶しないと。
私、しっかりしろーー!
ビビッと背筋を伸ばして前を向きます。
あまりの勢いにネル様がちょっとビックリしてる。
さ、さっき貴方の色気に驚いたののお返しなんですからねー。
もっとビックリしたっていいんですよ?
「そんなに張り切りすぎると転んじゃいますよ」
わお、すみませんでした肩に手をまわさないでくださいいやもっとして声が甘すぎて溶けしんでしまうーー!
わーん!
そんなアホアホしい事を脳内で叫んでいると、数メートル前の応接間の扉が開きました。
まずメイドさんが2人出てくる。
そして中からはまんまるいタマゴ型の影が…
………。
なんだあれ、ハンプティ・ダンプティ?
どうやら人のようです。
くるりとしたオシャレ髭が印象的なおじさんです。
着ている服的に、この人も相当エライ身分の人なのかな…?
ふくふくと丸い身体に、手足だけはやたら細い不思議な体型をしています。
顔の作りはあっさりとしたしょうゆ顔。
ネル様たちはどちらかといえば彫りが深い顔立ちなので、新鮮ですね。
他国の人らしく、ヴィレア王宮とはまた違うデザインの服を着たメイドさんたちを連れています。
彼の後には、グリドルウェス王子殿下が扉から出てきました。
あ、ハンプティ氏がこっち見た。
…その瞬間、反射的に『オーラ識別魔法』を使いました。
彼がネル様の姿を捉える。
ブワッと、濁った黒さの気が背後に見えた。
ゾワリと肌が粟立つ。
…禍々しい、って表現がピッタリの重たいオーラです。
思わず、目を見開いて硬直してしまった。
アマリエさんとミッチェラさんが、不思議そうに私を見てるのが分かります。
し、しまった。
魔法使ったことがバレちゃう、平穏を装わねば。
ネル様はあのハンプティ氏(仮)と目を合わせている。
一瞬、本当に一瞬だけどわずかに眉をしかめました。
ネル様にとって、今までも嫌な人だったのかな…?
心配です…
ハンプティ氏(仮)はふんふん!と鼻息を出すと、その細い足で、えっちらおっちらとコミカルにこちらに歩いて来ます。
「おやおや、ネルシェリアス王子殿下。
お久しいですなぁ。
今は休暇中なんですとな。
貴方が交渉の席にいないと、やりやすくて仕方ないですな!
このまま奥方様とずっとお休みしていてもらいたいくらいですぞ?
ふんふん!」
「ザルツェン連合国王様。
どうもお久しぶりでございます。
今は珍しく長めの休暇を頂いていて、ゆっくりと休ませてもらっていますよ。
そんなに嫌がられると、少々寂しいものですね?
また休暇が終わりましたら外交の席にも着かせてもらいますので、その時はよろしくお願いします。
…私の学友の、ラザリオン王子殿下はお元気でしょうか?
最近、便りが無いもので」
おお、どうやらハンプティ氏は国王様みたいです。
ザルツェン連合国、という所があるんですね。
またアマリエさんに周辺国の地図でも見せてもらおう。
ネル様の奥さんを目指すなら、大切な事だもんね…?
照れるー!
しかし、嫌なオーラを纏った人です…。
『オーラ識別魔法』はもう使ってないから、黒くて禍々しいのは見えてないけど…
顔の歪め方が、こわい。
この人…悪意を隠そうともしてないんだ。
アーモンド型の鋭い目がつり上がって、口元は皮肉気に歪められている。
低い鼻から、ふんふん!と息を吐いて話す。
「はて、そのような者は私の息子にはおりませんぞ?
ははは!
王子殿下はおちゃめですなぁ。
それとも、休暇中に奥方様に惚けすぎて頭がぼんやりしているのですかな?
私方としては、ずっとその方がありがたいですがな」
「………はっ?
いない、とは…?」
ネル様が思わずといった感じで顔をを顰めている。
私も首をかしげる。
…ネル様のお友達が、この人の息子さんの中にいるんだよね?
なのに、ザルツェン連合国王様はそれを否定している。
今は体調を崩してて、とかじゃなくて、最初からそんな人はいなかったみたいに。
どういうことなの…?
ザルツェン連合国王様はふと私を見て、ニヤリと笑った。
真正面から見ると怖さが増します。
「…奥方様はお綺麗ですなぁ。
これは惚けるのも仕方ないというものです。
ネルシェリアス王子殿下、しっかりと捕まえておかなくては横からかっ攫われてしまいますぞ?
貴方にはこれといった魅力がございませんからな!
ーーーでは、私も忙しいので失礼しますぞ。
奥方様、ネルシェリアス王子殿下。
ごきげんよう!
ふんふん!」
そのままトッコトッコと歩いて行ってしまう。
早い挨拶だった。
いやそれよりも。
な、なんて嫌な人なんだ……
散々ネル様をバカにしてーーー!
さらに、最後にはネル様の前に私のことを呼んで挨拶する始末だ。
常識がなってないですよ、王様なんですよね!?
ありえない……!
不敬だし常識無いし笑い方怖すぎるし、あの人はどうしても好きになれそうもありません。
わざと、なんでしょうね。
あまりにも王様の態度が酷かったので、心配でネル様を見上げます。
傷つかないはずない。
あんなあからさまに悪意を向けられて、落ち込んでないかなー…
チラリと覗き込みます。
………。
ネル様は難しそうな表情をして、何やら考え込んでいるようです。
ああ、そんな姿も麗しいけど、貴方にはできれば笑ってて欲しいなぁ。
彼がこうした表情をするのも、ここ数日でもう何度も見ました。
頻度多いですよね…。
優しい気持ちだけに包まれて、ネル様が幸せでいられたらいいのに。
王子様だし美形すぎるしで、中々敵が多いようですね…
視線に気付いたのか、彼が私を見ました。
少し眉の下がった、悲しげな笑顔を向けられる。
しゅんと折れたネコ耳が幻覚で見えるかのようです。
本当は悩んでいるのに、私に気遣わせまいとして笑ってくれてる顔ですね。
い、いじらしいー!
無理はしないで下さいね…?
「すみません、カグァム嬢。
嫌なところを見せてしまいましたね」
「いえ、私は大丈夫なんです!
でもネル様が…傷付いて無いかなって…」
「優しいですね、貴方は。
ーーーそうですね、傷付いたかもしれない。
あの人はいつも悪意をそのまま言葉にされるんですよ。
慣れっこですけど、やっぱり疲れるものですね。
せっかく貴方といるのに、嫌な気分にさせられるなんて、あの人は本当に…!ふぅ!
ーーーカグァム嬢、慰めて下さい」
「えっ……きゃっ!」
ちょっ、わーーーー!
お姫様だっこ再びーーーー!
あっという間に持ち上げられて、ネル様が顔をすり寄せてくる。
可愛すぎる。
頬と頬が触れ合って、カーーッと顔が赤くなっちゃいました…!
私重いよ、申し訳ないから下ろして…って、言いたいけど言えない。
何故なら彼の瞳が不安そうに揺らいでいたのを見ちゃったからです。
ほ、微笑みが儚い!
なんだか彼の策略にハマってるのは気のせいだと思いたい!
………。
よし。
傷付いたの心配だもん。
覚悟を決めろ、私!
ええい、羞恥心がなんだ、思う存分抱きしめて下さい旦那様!
それで貴方の気が晴れるなら…
「分かりました遠慮なく」
私声に出して無いんですけど、心の中の叫びにまでは反応しないで下さいこわい。
「顔に書いてありますから」
ブスの顔面ガン見しちゃ、イヤーーー!
でも、幸せ!
私が幸せになっちゃっても仕方ないんだけどな。
………。
堪能しますスリスリ。
モチモチのお肌がすっごく気持ちいい。
「…おい、俺に対する当て付けか。
当て付けだろ、ネルシェリアス。
こっち見向きもしないな、お前!
見せつけるようにイチャイチャしやがって、羨ましいわ!
ちょっとは自重しろ!
…ほら、さっさと母上の部屋に行くぞ!」
あ、グリドルウェス王子殿下が私たちの先頭に立ってくれていますね。
ありがとうございます。
危うく収拾がつかなくなる所でした!
彼の目の辺りに涙が光ってる。
………。
ような気がする?
んーと、きっと気のせいだと思うので気にしないでおきます。
だって私、彼との繋がりってお食事断ったくらいですから。
そんなに泣かせるほどの事はしてないはず…うん。
そうだ。
もうそろそろ移動しないと、お母さんに会えなくなっちゃう!
お母さんは身体が弱いらしく、謁見の時間は限られているのです。
これを逃したらもうしばらく挨拶出来ないかもしれないからね。
そんな失礼な事、しちゃいけませんよね。
行かねば!
こ、こら、そんなすがるような目で見ても駄目なんですからね!
こうかはばつぐんだ可愛い!
いけないごまかされる!
えーーい、お母さんのもとに行きましょうー!
王子の甘えたが酷い。
あれ、このお話、ネル様が主人公だっけ?
……。
読んで下さってありがとうございました!




