愛の告白
訳がわからなかった。
魅せられてしまっただって?こんな美しい人が、誰に…私に!?
私は自他ともに(両親でさえも)認めるブスです。
もはや失笑もののかわいそうな外見のブスなんです。
相手が猛烈に嫌がって、定番の罰ゲームで告白されることすらありませんでしたよ?
この超絶美形さんはどうしてこんな苦行を行っているの…それも歯の浮くような甘ったるいセリフでなんて。
世の美女なんてよりどりみどりでしょうに、もしかしてこの人、美しすぎて壮絶ないじめにあっているとか?
ありえるかも、周りにいる貴族っぽい服の人達みんなブサイクさんとブスさんだし!妬み!?
いけませんよ、醜いからこそ心だけは醜くなっちゃいけないって私は思います!
ブス代表、私が宣言します!ブスは心だけは美しく!
…やばいです悲しくなってきました。
目のあたりが熱くなってきたのが分かります。
ちょっ、耐えろ、耐えるんだ私…!
私みたいなのが泣いたら視覚テロで周りの人たちみんなが吐いてしまう!歯を、食いしばれーー!
終わった。
頑張ったけど涙こぼれちゃいました。
ああもう、超絶美形さんがぎょっとした表情でこちらを見ている。
少しの間だけでも夢を見させてくれてありがとうございます。こんな美しい人に告白みたいなことしてもらえて嬉しかったです。
そして憤怒もののブス顔見せちゃってごめんなさい。
吊ってきまs
「なんて綺麗な、宝石のような涙だ…」
はい?
…この超絶美形さんメンタル強すぎませんか!?
まだこんなセリフ言えるの!?
頬は乙女のような薔薇色に染まり、空色の瞳はうるうるときらめいています。
ただひたすらにこちらを見つめる彼は真剣そのもので、からかいの気配はかけらも感じられません。
彼の麗しオーラがすごすぎて、周りの人々さえもう霞んで見えなくなりました。
まるで世界に2人きりみたいな空間が冗談ではなく出来上がっている気がします。
私は唖然と彼を見返す。
言わずにはおれないとばかりに、彼はうっとりと言葉を紡ぐ。
「貴方の涙の輝きにまた魅せられました…。
どれだけの美しさを秘めていらっしゃるのか、もう検討もつきません。
私のこの心は貴方に焦がれるばかりです。
愛しています。
どうか返事をいただけませんか?」
…これからの人生、こんな王子様みたいな人に美しいだの愛してるだの、そんなセリフを言ってもらえる機会があるだろうか?
ない。100%ありえない。
このまま黙ってるわけにもいかないんだし、私はさっきの告白の返事をどうしたらいいのだろう。
イエスか、ノーか?
決まってる。
たとえ罰ゲームの告白だとして、私がイエスと答えて恥をかいたって構わないじゃないか。
傷ついたっていい。
彼だってフラれるよりは、冗談だったんだよーって私のことフっちゃうほうがプライドを保てるだろうし…なんて、それは言い訳にすぎませんか。
私はとっくに彼の美しさに魅せられている。
こんな出会って早々にって思うけれど。
彼のセリフのように、恋なんてすっ飛ばして、もはや愛して…しまっているのでしょう。
ファン心理のようなものかもしれません。
胸のドキドキが止まらなくて、心の底からこの美しい人には幸せになって欲しいって気持ちになるのですから。
それに告白されて、「はい」って返事をするのは乙女の憧れなのです。
私だって乙女の端くれです。
というわけで言いましょう!
ブスは度胸!
です!
「ひゃい!」
あっ、噛んだ。
うわ、美形さんのオーラがブワッてピンクに!薔薇色に膨れ上がってる!色気に当てられてしまうー!
あちらも涙がこぼれてる。
それこそ、キラキラ光って真珠のように綺麗だ。
見惚れてしまう。
「…ッよろしくお願いします!」
美形さんは立ち上がると咲き誇る花のようにほほ笑んで、私を優しく抱きしめてくれました。
その笑顔の可憐さにあてられて、抱擁された時の男性らしい身体に胸がドクドクして、匂いに頭がクラクラしてーーー!
愛され免疫の無い私は幸せな気持ちもそのままに気を失ったのでした。
****************
知らない天井だ。
すみません言って見たかっただけです。
おはようございます醜いのに名前は麗華な私です。
あれは夢じゃなかったの…か、な?
自宅にいたはずなのにいつの間にか豪奢な大広間にいて。なんか沢山の貴族さんたちのド真ん中で、麗しの王子様(そう呼ぶことにしました)に告白をされて。私は、「はい」って返事をーーー
ーーー返事を、した。
愛の告白をされて、イエスの返事をしたんだった。
思考が一瞬止まった。
ぼんやりとした頭が徐々に覚醒してきて、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきました。
みみみ身のほど知らずにあんな返事をしてしまったたたなんてこと!
相手は麗しの王子様、私はデブス(デブ+ブス)。
逆美女と野獣じゃないですか。
抱き合って…ひーーーーーーーーー!駄目です頭がオーバーヒートしそうです!
ぷしゅう、なんて音が聞こえてきそうです。
考えちゃうけど駄目駄目!
彼と目が合ってからもうとっくに私のライフは零なのです。
眼差しひとつで昇天してしまいそうになるのですから美形とはかくも恐ろしい…。
彼の乳白色の髪が、空色の瞳が、甘い美声が心のなかをぐるぐるとしているのを自覚して、私はほうっとため息をつきました。
彼のことを考えても悩んでも、きっと後で傷つくことになるでしょう。
容姿偏差値がかけ離れているのですから。
私には過ぎた人です。
これは一生分の良い思い出として大切に覚えておくことにしましょう…。
そうと決めたら。
私の心臓のためにも思考を切り替えるべき!もーさっきからドキドキドキドキうるさいったら。
気持ちを入れ替えて今居る部屋のなかを見渡します。
振り袖のまま寝かされていたので、首や腰が痛いなぁ。
部屋のなかをと言っても、天蓋付きのクイーンサイズのベッドに寝かされていたため、まず目に入るのは目の前のベッドです。
天蓋のカーテンは薄い布を幾重にも重ねており、私の視界を覆っているのでここしか見えません。
ベッドの上は…
上品な白をベースにしたたっぷりレースのついた掛け布団。お日様と花の柔らかな香りが鼻をくすぐります。
私を囲むようにふかふかのリボン付きクッションが並べられて、わずかに空いたスペースには繊細な彫刻のある薄茶色のベッド枠が覗いてる。
華美になりすぎず清楚可愛い!
どなたですかこの素敵コーディネートをされたのは、センスが神なんでしょう。
私好みすぎる。
こんな空間にいられるのも一生で今だけでしょう、たとえ現実だろうが一時の夢みたいなものだと思うので、存分に堪能します。
ああ、クッションの肌触りが最高。
すりすりー
部屋の様子が分からなくてちょっと不安でしたが、今だけはこの天蓋カーテンに感謝ですね。
こんなだらしない顔はとてもじゃないけど人様にお見せできませんもの。
いきなり現れた極上の乙女空間に、私の表情筋はもはやゆっるゆるなのです。
もふもふー
おや?
今、何か光ったような?
一瞬でしたが青い光が見えたような。
かすかな光がすぐ右側に見えた気がします。
私にぴっとりくっついていたクッションを持ち上げてみると、真っ白な猫のぬいぐるみが顔を出しました。
体は少しツヤのある純白の生地で作られていて、目には丸い大粒のブルーサファイアが縫い付けられています。
何これ可愛い!
脇に手を入れて顔の真ん前に猫ちゃんを持ってきて、まじまじと観察します。
少し小さめで30cmくらいの猫ちゃんは少し笑ったような表情で、それもまた可愛らしいですね。
こっちまでにっこりしちゃいそう。
抱きしめてみるとまたまた肌触りが最高です。
シルクとかってこんな生地なのかな?
顔を埋めると、薔薇の香りがふわりと舞いました。
布団やクッションは花束みたいにいろんな花が混ざったようなキュートな匂いなのですが、この猫ちゃんは薔薇だけを凝縮したような、大人な匂いがします。
あ。
あの麗しの王子様と同じ匂いです。
ぬいぐるみの色の配置もそっくりなだけに、また思い出してきてしまいました・・・うう。
かっこ良かったなあ。
しばらくぬいぐるみを抱きしめて悶絶していると、扉の開く音がして、天蓋の向こうにうっすら人影が見えました。
でも影は見えど、こちらに近づいてくる気配はありません。
2人?
いや、3人?…もっと?
扉の辺りで小声で何やら言い合っているようです。
ここからだと、ごにょごにょとしか聞こえませんね。
麗しの王子様?
それとも…
一体どなたなんでしょうか。
読んで下さってありがとうございました。
次回は美形さん視点の予定です。