剣の稽古
時間かかっちゃいました(>人<;)
戦闘描写(?)って難しい!
冒険モノ書いてる皆さん、すごいなぁ。
ネル様無双の回ですー!
長身細身のヴィレア第四王子殿下。
小柄ながら厚みのある体つきの平民騎士ストラス。
2人がそれぞれ独自の構えで木剣を持ち、恐ろしい速度で相手に向かう。
ストラスは普段の明るさが嘘の様に荒々しい殺気を纏っている。
目はらんらんと怪しく輝き、唇はわずかに弧を描く。
小柄な身体を更に低くして、全体重をのせた重い一撃を正面から見舞った。
対する王子は表情を消し、異常なほど静かに木剣を振るう。
音も気配も『無い』と言っても過言ではないのに、その動きは速く力強い。
長い足で一気に間合いを詰め、手をしならせて相手の剣を打つ。
ーーードガッッッ!!!!
おおよそ木剣が打ち合ったとは思えないほど重厚な音が、訓練所に響きわたった。
周りで見ていた騎士たちは息を飲む。
自分たちが全力で木剣を打ったとして、はたしてあのような音が出るのか?
…いや、どうやったって出る筈がない。
長くこの場で木剣を振るっていた上位騎士たちも、このような音は聞いたことが無かった。
訓練所の真ん中を、皆がそろって凝視する。信じられないモノを見る目だ。
彼らの額には、ゾッとするような冷たい汗が滲んでいた。
2人は最初の一撃を交わらせると、即座に距離を取った。
その勢いに、足元の緑がえぐれる。
相手の実力を感じたのであろう。
間に流れる空気が、より一層真剣なものにかわった。
足をじりじりと僅かずつ移動させ、相手が隙をみせるのを待つ。
瞬きもしない。
目を見開き、一挙一動を逃すまいと凝視する。
………。
先に動いたのは王子だ。
横にズラすばかりだった足を大きく半歩ほど下げ、剣を持つ手の力をわずかに緩める。
木剣は両手で持たれてはいるものの、切っ先はもはやストラスの急所を狙っていない。
あからさまな挑発だ。
その様子を見やり、ストラスはニッと笑った。
王子の闘気は恐ろしく静かではあるものの、これっぽちも欠けていないのが分かる。
最初向かい合った時に、王子のその闘気の質には圧倒されていた。
木製であろうと剣を手に対峙した場で、殺気をまとわずにいられる者など見た事が無い。
それでいて、最初の一撃は腕が痺れるほどに重かったのだ。
彼は、強い!
身体強化魔法を使っていないにも関わらずだ。
身体の底からカッと熱が昇ってきて、ストラスの脳みそを焦がしていく。
心臓がやかましくドクドクと鼓動する。
国中の猛者が集まる王宮で、一番強いと言われる第四王子殿下…か。
ワクワクする!
彼のせっかくの誘いだ、ノラずにいられようか!
高揚する気持ちもそのまま剣の軌道に乗せて、ストラスは軽やかに地面を蹴った。
体勢は低く。
剣はしっかりと強く握り、相手のプレートメイルの隙間を狙う。
肩!
王子はその剣を受けようとはしない。
自身の剣をストラスの体の軌道めがけて横薙ぎにはらった。
騎士との稽古では見たことのないその動き。
まるで重さが見えないその剣に、ストラスの警戒心が跳ね上がる。
警告を鳴らすのは、彼の鋭い本能だ。今までこれに素直に戦ってきた、確かな信頼のおけるもの。
慌てて足に力を込め、速度を殺そうとした。
だが間に合わない。
リーチが全然違うのだ。
一瞬の事である。
後ろに下げていた王子の長い足が、いつの間にか目前に迫っている。
飛び込んできたストラスの勢いを利用して、重い蹴りを腹めがけて繰り出す。
ゴッ!!!と鈍い音がした。
ストラスが体勢を崩し、吹っ飛ぶ。
おおよそ2Mだろうか。
彼の剣は結局、王子にかすりもしていない。
そして王子はプレートメイルを蹴ったにも関わらず平然として、足を痛めた様子も無かった。
そこで油断などしない。
ストラスが起き上がろうとしているその瞬間にも距離を詰める。
今度は剣がしっかりと握られているのが見える。
王子とて最初の一撃にストラスの実力を見ていたのだ。
体重の乗せ方が恐ろしく上手い、そして速い。
初撃の重さには驚愕した。
けして甘く見ていい相手などではない。
殺気など、背筋が凍ったほどだ。
小柄な彼が何倍にも大きく感じられ、剣を持つ手が震えそうだった。
間違いなく国有数の戦い手となる者の器だ。
欲しい。
逃してはいけない。
ここで彼の成長を伸ばさねば。
彼より弱い者ばかりを相手にさせて、成長を止めさせてなるものか。
感情をそぎ落とした王子の瞳に、一瞬だけ、施政者としての炎が灯った。
荒々しさのない、ともすれば優雅にも見える王子の剣。
しかし闘気を確かに纏って、それはストラスに吸い込まれていく。
体制を崩している彼は、腕につけたプレートでその剣を受けた。
ゴッ、と嫌な音が耳をつく。
わずかに顔を歪めるストラス。
だが次の瞬間には、詰められた間合いなど無かったかのように器用に跳ね起き距離をとる。
口元には笑みが浮かんでいた。
対する王子は目を見開いていた。
彼の利き手の肩を、確かに狙っていたのだ。
それをいとも容易くよけられ、受け流された…なんてやつ!
剣が当たったのは利き手とは反対の腕だった。
反射神経がいいなんてもんじゃない!
王子は後ろに下がらない。
またも加速し、ストラスへと追撃を開始する。
ストラスは既に立ち上がっていた。
両足でしっかりと地面を踏みしめ、その体に凶暴なまでの殺気を纏っている。
視線は王子から離さない。
ガツンッッ!!と重い音を立て、2人の剣が交差する。
角度をかえ、速度の緩急でまどわし、相手に一撃を加えようと剣が踊る。
ガッ!
ゴッ!
ドガッッ!!
……!
……………!!
木剣にあるまじき音を響かせ、何度も何度も剣が交わる。
一人は静かに、一人は荒々しく。
いずれも疲れている様子はなく、驚愕の速度で相手に向かっていく。
お互い相手に隙は無く、自分から切り崩していくのみ。
どちらも積極的に足を進め、急所を的確に責め続けていた。
乳白とライトグリーンの髪が揺れ、日の光を浴びてまぶしく光る。
周りの騎士達も、風変わりな一団も、息を飲んで2人の攻防を見つめていた。
騎士達など、最初はストラスが無茶をしそうだったら身体を張ってでも止めに割り込むつもりだったのが、今ではすっかり魅せられていた。
なまじ普段から本気で稽古をしているが故に、彼らの途方もない強さがよく分かるのだ。
その動きを、技を忘れまいとして、視線は熱く戦いに見入っていた。
………!
………………!
…………。
いつまで続くかと思われた剣の打ち合い。
その最後はようやく訪れた。
えぐれた緑と土に足を取られた者が、わずかに隙を見せたのち、一気に終息へと向かって行ったのだ。
足を取られたのはストラスだ。
その柔軟な関節をバネのように跳ねさせて、細やかな動きで王子を牽制していた彼だったが、その動きの多さがアダとなった。
彼の足元の土が、一部ひどく盛り上がっていたのだ。
普通ならえぐれたりなどしない常緑種の根の強い芝である。
それがこうなったのは、ひとえに彼らの地を蹴る足の力強さゆえなのだろう。
運が悪かった、とも言える。
だがその運さえ身に付けなければ、いざという時には命を狩られるかもしれないのが騎士なのだ。
彼らは『守る』ためなら命を掛けねばならない。
それが国に仕えるという事である。
今回の勝負。
『運』に選ばれた者は王子だった。
いや、『運』にさえ、と言えようか。
もともと彼の動きは、ストラスに勝るとも劣らない恐ろしく規格外なものだったのだから。
避けにくいであろう低い斬撃を難なく剣で払う。
時たま混ぜられる拳や蹴りなどを己の腕でしっかり受け流す。
その動きは、こういった本気の稽古にとても慣れているように見えた。
どうして、守られる立場である王子殿下がこのような剣術・武術などを身に付けているのか…
それを知るのは、騎士たちが王子を敬い、膝まずいてからになる。
…王子は、ストラスの一挙一動を逃さないとばかりに神経を尖らせ闘っていたのだ。
はたして隙は見逃されなかった。
ストラスが前のめりになるように重心を持って行かれると、王子は素早く彼の剣を持つ手を打った。
手のひらはプレートに守られていたが、握り込むための指は無防備なままだった。
そのわずかに覗いた急所を、神業と言えるだろう的確さで、強く鋭く打ちつける。
カッッ!!!
と、今までとは違うわずかに軽めの音が響いた。
…指の骨は確実に折れているだろう。
ストラスはたまらないとばからに舌打ちする。
気合いで剣を握れる範囲はこえている。
指には力が入らず、自分はもはや剣を手放すしかない。
もっと戦いたいという意思とはうらはらに、悔しくも剣は手のひらをすり抜けていった。
それを視界の端で確認した王子は、剣の勢いをギリギリまで殺して、次いでストラスの首を狙う。
丁度意識を奪うほどの重さの剣を、首の後ろに叩き込んだ。
フッ、とストラスが目を閉じる。
彼の緊張が解けたのだろう、まとっていた荒々しい殺気は一瞬で拡散していた。
それが稽古の終了を告げる合図となった。
ストラスがそのまま地面に伏せるかというその直前。
王子は彼の胸に素早く腕をまわして、上体を起こしてやる。
結果、彼は尻もちをつく形で地面に座り込んでしまった。
キョトンとした顔をするストラス。
その様子に王子がいたずらっぽく笑う。
自らも剣を手放し地面に置くと、ストレスに利き手とは反対の手を差し出した。
しばらく、じっとその手を見つめる。
ーーーやがて、観念したかのように。
ストラスはいつもと同じ、快活そうな笑顔をその顔に浮かべた。
ひどく満足気な表情だ。
わずかに動きの鈍い腕を上げ、王子の差し出した手をとった。
「ーーー……負けたぁーーッ!!」
ストラスは楽しそうに楽しそうに、空に向かって叫んだ。
彼はとても満ち足りた気分だった。
この王宮の騎士達にも負けたことのなかった自分が、王子様に負けた!
やんごとない身分の、守られるばかりであろうかと思っていた王子様にだ!
それは新鮮で、この国がいかに素晴らしい者におさめられているのかを強く印象付けるものだった。
ストラスの心はひどく晴れやかになっていた。
その声を合図に、ピンと張りつめていた空気が暖かなものに変わる。
この稽古を真剣に見やっていた周りの者たちは、一斉にわあぁっっと歓声を上げた。
****************
ヴィレア王宮の片隅にある騎士訓練所。
そこは未だかつてない、割れるような歓声に包まれていた。
中心にいるのはヴィレア第四王子殿下と、近衛に最も近いと言われる平民騎士だ。
彼らは先ほどまで、とんでもなく高度な剣のやり取りを周囲に見せ付けていた。
その技術に、実力に、惜しみない賞賛が贈られる。
騎士から、一団から、次々と言葉がかけられていた。
「王子殿下ぁ!
強いとは聞いてたけど、もう何と言うか感動しました!
強いなんてもんじゃないです、きっと貴方が最強ですよ!!」
「どうやったらあんな動きができるんだか!
王子殿下、身体強化魔法使って無かったですよね?
それであの重さの一撃、ありえねぇですよ!」
「よぉストラス!
お前、強いとは思ってたけどあそこまでできるのかよ!
もうあんなん俺らが適うはず無いじゃないか。
よくも稽古なんて申し込んでくれたなオイ、ははは!」
「そうだぞー、どんな鍛え方してたら王子殿下の動きに反応なんてできるんだよ。
もうお前変態だよ変態!」
「そこはほら、本能ですよ本能。
やべって思ったら身体が動くの!」
「やべぇ変態だわ」
「やべぇバカだわ」
「ないわー」
「ないわぁー!」
「ひどくないですか!?」
ストラスがからかわれまくっている。
先日モメにモメたという先輩騎士の姿も見えるが、今回彼が王子に負けたことで溜飲も下がったのかもしれない。
もちろん、ストラスが非常に良い稽古を見せたことも大きい理由だろう。
もともと騎士は脳筋が多いのだ。
場は和やかな空気に包まれていた。
それをどこかホッとした様子で見やる王子。
自己中心的な所のあるストラスが騎士達と馴染めているのか、結構心配していたのだ。
そんな彼の元にも、たくさんの賞賛の言葉が寄せられる。
彼はそれを照れたような表情で聞いていた。
「王子殿下。
流石でございました!
ストラスが相手だったから思い切り力を出せたのもありましょうが、更に腕が上がったように見えましたなぁ。
素晴らしかったですぞ!
いやはや、若いとはいいものですなぁ」
「ええ、ええ。
相変わらず無駄の無い動きで、私でももはや敵いませんわね。
…強くなられましたね、王子。
感慨深いですわ…!」
「頭でっかちかと思いきや、武術もいける人だとは。
驚きましたわぁー!
それでこそライバル!
ここは素直に貴方を褒める所だと思うので、褒めましょう。
王子殿下、あっぱれでしたわぁ!」
「王子を褒めるとは上から目線にも程がありますミッチェラ。
立場をわきまえなさいチョップ」
「あいたぁぁっ!?」
賞賛の途中に侍女たちのコントが入る。
相変わらずマイペースなようだ。
身体強化をしていないとはいえ、見習い侍女の頭にはけっこうなチョップが入った。
チョップと来るとは。侍女長、どうやら王子に感化されましたね?
「侍女長さんたち面白くね?」
「ああ、ムードメーカーって感じだな」
「こんなに親しみやすい感じだとは思ってなかったよな、今度話しかけてみるか」
「おやめなさい地獄を見ますわよ「給湯室チョップ」なんですかそれあいたァーーー!!」
「面白いな」
「ああ、面白いなぁ」
「失礼ですわよ!」
場が暖かな笑いに包まれた。
見習い侍女からしたらたまったものではないが、ここは空気を読み、大して抗議もせず引き下がる。
唇はへの字に曲がっているが。
珍しく、侍女長が驚いた表情でミッチェラの頭を撫でてやっていた。
ミッチェラは くうきをよむ を おぼえた!
そのスキルどこぞのストラスに分けてやって!
王子もおかしそうに笑っている。
「ふふ、みんなありがとう。
ストラスはとても手強い相手でしたよ。
急な話だったけど、今回稽古ができて良かったと思っています。
彼の見逃せない実力も知ることが出来たし、私自身まだまだだと改めて気合いが入りましたよ!」
「まだなんですか!?」
「ぱねぇ……王子殿下ぱねぇぇ!」
「すごいです。マジリスペクトです」
「ウチの王国、最強すぎません?」
「バカ、それを言うならウチの第四王子殿下様が最強!なんだろ?」
「ははっ…違いない!」
もう一度言う。
騎士は脳筋がとても多いのだ。
ストラスが彼に軽い感じで接していたのを見たからだろうか。
騎士達の王子に対する態度は、親しげでどこかくだけたものだった。
普段、容姿で人から避けられがちな第四王子殿下。
彼の元には、その努力と実力、優しい人柄に感銘を受けた者たちが、確かに集おうとしていたーーー。
ガヤガヤとやかましい集団の中、一際美しい鈴の鳴るような声が響く。
「ーーーーーネル様!」
その瞬間、王子は脇目も振らずにそちらを向いた。
それこそ音速だった。
周りはギョッとした。
先ほどの稽古中にも見せなかった王子のその恐ろしい反射神経に、騎士達は改めて驚愕したようだ。
勝手にこう解釈していた。
あの稽古で、まだ手加減をしていたというのか………!?
…と。
そして更に慕う者が増えた。
王子は、本人の知らぬところで大量の信者を獲得していた。
ある意味、彼女に感謝である。
そう、この声の主は彼の愛してやまない、かの麗しの女神。
「ーーーカグァム嬢…!」
小走りに駆け寄ってくる姿なんてもう最高に可愛い!愛してる!
王子の心の声は表情にダダ漏れていた。
向かって来た彼女をそのまま腕の中に閉じ込め、きゅっと抱きしめる。
柔らかな感触に、表情がゆっるゆるにとろける。
カグァム嬢は、抱きとめられるとは思って無かったのか目を白黒させて、もそもそと腕の中から王子を見上げた。
上目遣い大変ありがとうございました!
王子は幸せになった。
今日も今日とて美しい、
カグァム・リィカ嬢。
彼女の前では、冷静沈着な無表情王子などという人はもう存在していなかった。
「勝ちました。褒めて下さい!」
ニッコリ笑って堂々と言い切った。
彼女の前では、王子はひたすら欲望のままに生きるのみである。
自重しない。
語尾にハートが付きそうな甘ーい声で、カグァム嬢にねだる。
あたりにはむせる程のピンクの気が舞っていた。
魔力の無い王子には見えないので関係無い。
知らないって怖い。
王子のあまりの変わりように、さすがに騎士達もちょっと引いていた。
だが、気付かない。
王子たちは相思相愛なのだ。
もはや相手しか目に入っていないらしい。
お相手のカグァム嬢の瞳も、とっくにハートになっていた。
彼女からすると、醜い王子のおねだりする姿も『可愛い可愛いお願い!』に見えるようだ。
恋ってすごいですね。
可愛さ…に?悶えているのか、肩がフルフルとわずかに震えていた。
ぷくぷくの頬は赤く染まる。
もう、一日に何回赤くなれば気が済むんだか…
お幸せにー!
カグァム嬢も、王子に負けず劣らずの甘ぁーーい声で言い切った。
「ネル様みたいなカッコいい人、見たことない、です!
元から惚れてたけど、もっと大好きになりました…
ネル様は凄いです!
とっても凄いです!
素敵すぎてもう…愛してます…」
「」
「」
「」
「………マジかッ!?」
絶句する騎士たち。
大半が目を剥いて驚いている。
彼らは王子たちがラブラブ(ハァト)だと知らなかったのだ、無理もない。
見た目的には、天と地ほどの格差がある彼らである。
結ばれている事は知っていたけど、こんなにも想い合っていたとは!
騎士達は羨望の目で王子をみた。
彼ほどブサイクな見た目でも、こんなに美しい恋人と愛しあうことができるのか。
…俺も頑張る!
実力重視の平民騎士は、どうしても筋肉が付いてしまい、あまり見た目のよろしくないカタい身体の男が多い。
王子はそんなモテない彼らの目標となったようだ。
また、彼の知らないうちに信者が増えていた。
そんな王子は、ただひたすら幸せを噛み締めている。
デレ、などとは生ぬるい程の溺愛ぶりである。
表情やばいですよ?
彼女が痛くない程度に抱きしめる力を強くし、漆黒の艶髪に顔を寄せる。
そこに自分と同じ青薔薇の香りを確認して、うっとりと呟いた。
涙ぐんでさえいる。
「ほんと、生きてて、頑張っててよかったぁーー……!」
彼が言うと言葉の重みがすさまじい。
本当に良かったね、王子様!
結ばれるまであと数日、頑張るのです!
貴方の愛しい人は美貌の女神。
そんな彼女が何事もなく結びの儀を迎えられるだなんて、そんなお気楽な展開が待っているはずがないのですから。
…………。
今はただ、どうか2人が幸せでありますように…ーーー
頑張れ王子様!
読んで下さってありがとうございました!




