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騎士訓練所

ストラス君が絡むと話が進まないにも程がある!

 ここはヴィレア王宮の騎士訓練所。




 階級に関わらず鍛錬できる場として、いつも多くの騎士で賑わっている場所だ。

 その特徴からか、比率は平民騎士の方が多いようである。




 訓練所は、隣で組手をしている別のペアとぶつからないように敷地面積がとても広く作られている。

 真っ平らな地面は芝生のような低い草で覆われ、暖かな季節柄もあってか鮮やかな緑色が広がっていた。



 ここでは真剣が使われることもあるため、場外で抜剣などというハプニングが起きないよう、周りはぐるりと2Mほどの石壁に囲われている。

 木剣を使っている者は簡単なプレートメイルを、真剣の者は甲冑を身につけ稽古に励んでいた。

 激しく動き回ると、装備の金属がこすれる音が聞こえる。

 壁の内側からは、剣で打ち合う音が耳が痛くなるほど響いていた。

 



 ぐるりと囲まれた石壁にある門の前。

 そこに、訓練所には場違いとも言える一団がいた。

 ヴィレア第四王子殿下とその婚約者、侍女が2人に騎士が2人…異質な組み合わせである。




 門を守る新人騎士は首を傾げた。


 高貴な身分の方がどうしてこんなところに?

 それに、最近話題の美貌の女性までも連れているようだ。なんか遠くから見てるだけでまぶしい。

 王宮名物の貴族騎士の演武などを見たいのであれば、この場に来るはずもないのだが…。

 ここは汗臭い男が剣を交えるだけの訓練所である。

 彼らを楽しませる余興など、誰もできはしないだろう。

 想定外の事態に、背中に冷たい汗が流れる。




 かの醜さで有名な無表情王子は、何をここに望むのだろうか。

 自分たちにできる、可能な範囲の事であるならいいのだが。

 無茶を口にされ、それを成せずに不興を買ってはたまらない。


 覚悟を決めて口を開こうとしたその瞬間…

 彼に、予想外の声がかけられた。




 「よぉーーっす!

 非番だったけど、来ちゃった!

 場所あいてる?

 あと、木剣も2本貸して欲しいなぁ」



 「…ストラス!?

 なんでお前が、王子殿下たちと一緒に…!?」





 そう、こいつである。

 脳筋甲冑Aことストラス少年。



 ライトグリーンの髪を快活に揺らし、元気いっぱいの笑顔で新人騎士に笑いかけている。

 唇から覗く白い歯がキラリと光り、無駄に爽やかだ。



 彼らは同期のようだった。

 年齢が違っても、同期で立場が同じ者の場合は敬語は使わないのが普通である。

 なので、彼らにおいてはタメ口で問題はない。

 この場合は間違ってもストラスが非常識なのではないので、どうか偏見の目で見ないでやってほしい。

 彼にもマトモな部分はあるのだ。

 …まあ、この場合においては、という注意書きは付くのだが。


 ストラス少年は元気に続ける。




 「そう!

 それ、聞いて!

 王子殿下ねぇ、すんごい良い人なんだよ。

 俺が剣の稽古付けて下さいって言ったら、やりましょうって言ってくれたの!

 即答だったんだよほんと良い人だよねー、感動したよ俺!

 それでさぁ王子殿下は普段忙しいし、今から稽古してくれるなら善は急げってことでねそれで」



 「分かった分かったお前の話は後で聞いてやるから、な?

 ちょっと落ち着け。

 そして黙れ」



 「えー」



 「黙れ」



 ストラス少年の言動に頭を悩ませているのは、何も上司だけではないようだ。

 この新人騎士…おそらく成人したばかりであろう年若い男だが、一瞬でヒドく疲れた顔になった。

 なんとも罪深いストラスである。




 新人騎士は王子殿下に向き直る。


 あまりの醜さにちょっとひるんで、王子が傷ついたのはこの際横に置いておこう。




 「ネルシェリアス王子殿下。

 このストラスの説明では、少々言いたいことが分かりかねましたので…直接尋ねる無礼をお許し下さい。

 ここは騎士たちの訓練所になります。

 どのようなご用件で、こちらにいらしたのでしょうか?」



 「ああ、彼の説明では分かりませんよね…。

 門の警備、ご苦労様。


 ストラスの言いたかった事をまとめると、私と彼で今から剣の稽古をすることになった。だからその場を用意してもらえるか?

 ということです。

 どうでしょう、場所は空いていますか?」



 「はっ?

 …はぁ、場所は空いている筈です。

 木剣も2本ならすぐ用意できるかと。

 …稽古、ですか?

 ストラスと?」



 「ええ、そうです」



 「…少々、お待ち下さい」




 新人騎士は王子にしっかり一礼すると、ストラスの首を引っつかんだ。

 いきなりの事に一団が固まる。


 そのままズルズルと門の影に彼を持ち込み、どこからか取り出した甲冑の頭部をすっぽり被せる。

 音を聞くためにわずかに開けられた耳付近の穴に口を近づけると、すぅーーっと息を吸いこんだ。

 そして…思いっきり叫んだ。






 「こんのッ……バカ野郎がァーーーッ!!!」




 ぐわわわーーーーん!



 甲冑の中に盛大に声が響く。

 あまりの声量にストラスが身をよじって苦しむ。




 「ぎゃああああああっ!?」



 「お前は…いっつもいっつもいっつもいっつも人の迷惑も考えず、筋肉に素直に行動しやがって!

 王子殿下と稽古だ?

 お前、絶対!無茶言って了解もぎとったんだろうがァァーーーー!!!

 反省せいやァーーーッ!!」




 響く響く。

 ぐわんぐわんぐわーーーーん!




 「ちょ、ちょっと待っ」



 「それで?

 戦闘能力だけはバカみたいに高いお前が、王子殿下に怪我でもさせたらどうすんだよ。

 手加減なんて高等技術がお前にできた試しがあるか?

 先輩方をコテンパンにのして、もめにもめたのをもう忘れたのか?

 トリ頭か!

 頭冷やせやオラァァァーーー!

 もし連帯責任で、全員クビにでもなったらなんとする!」



 「そういやそんな事もあったね。

 あっ、ちょっ、ごめんってばぁーー!?」



 「ああああああーーー!!!」




 ぐわんぐわんぐわんぐわーーんっ!!





 これはまたヒドい。

 場の空気がなんとも言えないものになる。



 一体、どれだけ苦労してきたのだろうか。

 ストラス少年が勤続し始めて4ヶ月、その間のアレやコレがこの新人騎士を暴挙に走らせたのだろう。

 新人騎士の目は怒りに燃えている。

 先輩方コテンパンの後始末が、よほど大変だったに違いない。

 まして、次に控えているのは王子だと言う。

 たいがいにしろ。




 近衛騎士が新人に近付く。

 その表情は穏やかで、新人をいたわる気持ちに満ち満ちていた。

 叫びきって、ぜいぜいと肩を揺らす彼の頭にポンと手を置く。

 そのまま、よくある平凡な薄茶色の髪を撫でてやる。



 新人が近衛騎士を見た。

 先輩の顔にいたわりの気持ちを見出して、思わずちょっと涙ぐむ。



 「リ、リーガ先輩。

 お、俺……俺…!」



 「無理に声に出さなくてもいい。

 その、なんだ。

 …良く頑張ってるな。

 お前が精一杯、同期をまとめようとしているのは私も良く知っているぞ。

 大変な役目だろう」



 「はい……!はいっ!

 とっても大変です…!!」




 おもに1人が大変なやつなんです。


 堪えきれなくなったのか、新人は涙をポロポロこぼし出した。

 嗚咽を漏らさなかったのは、高貴な身分の彼らに遠慮してのことだろう。

 彼だって、騎士なのだ。

 先ほど叫んだので、もう台無しな気もしなくもないが。




 「いい。

 あとはこちらで何とかしておく。

 ストラスは今日は私が面倒を見ようと思っている。


 お前はここでこのまま警備の仕事を続けるといい。

 …ご苦労だった」




 「リーガせんぱぃぃいーー!」




 どうやら話はまとまったようだ。

 彼らの背景には青春の夕焼けが見えるかのようである。


 男の熱い師弟関係を見せつけられ、みな若干戸惑いながらもひかえめに拍手を送っていた。

 苦労をしてきた新人も、これから苦労を背負いこもうとしている近衛騎士も、あっぱれなのだ。

 拍手程度ではあるが、いたわってやらねばなるまい。

 お疲れさま!





 また頑張ってね!







 近衛騎士は、転がっていたストラスの首の後ろをむんずと掴むと、門へと歩き出した。

 「ぐえ」と聞こえたのはもはや皆気にしない。


 漢の顔で、近衛騎士は王子たちに声をかけた。




 「さあ。

 場所も空いているようですし、行きましょうぞ。

 この訓練所は私も新人時代によく利用しておったのです、案内はお任せ下さい」



 「…ああ、そうなんですね。

 よろしくお願いします」




 実力があるからといって即採用するのではなく、人柄も見極めなければいけないな…と、王子は苦笑する。

 今のところ、ストラスは自分本位な行動で周りを困らせてばかりに見える。

 それをカバーできるだけの実力があるのか、見極めさせてもらおう。

 そう、気合いを入れた。



 休暇中にも関わらず、どうしても業務的なことを考えてしまう自分を知って、愛しい人に少々申し訳なくなる。




 そうして、一連のコントを終えたあと。

 一団はようやく訓練所に足を踏み入れた。





****************






 王宮の訓練所のド真ん中。



 ネル様とストラス君が、簡易なプレートメイルを身につけ、木剣を手に向き合っています。



 緑の広がる広い訓練所に立つ二人。

 どこからともなく吹く風が、二人の髪を揺らしていく。

 ネル様の髪は乳白のオパールのようにキラキラと、ストラス君の髪は萌える若葉のようなみずみずしいグリーンに輝く。

 地球ではありえない色に、思わず目を奪われます。

 どうもこんにちは、麗華です。




 今まで訓練所で打ち合っていた騎士の皆さんは、訓練を止め、かたずをのんで遠巻きにこちらを凝視しています。

 無理も無いでしょう。

 王子殿下と、近衛に最も近いとされている騎士の模擬戦なんですから。

 こんな事、早々無いですよね。




 私は2人をハラハラと見やる。



 ネル様の剣さばきを見たいと言ったのは私です。

 でも、この訓練所で激しく打ち合う騎士たちを見て、今はとてつもない不安にかられています。

 そりゃ、そうだよね。

 地球の習い事武道とは訳が違うんだから…



 丁度訓練所に入った時に、真剣で打ち合っていた騎士が腕を切ったため運ばれて行った。

 滴る赤い血が見えました。

 顔が青ざめる。

 ネル様たちは木剣での模擬戦だから出血したりは無いだろうけど、私の軽率な発言を後悔しました。


 …言わなければ、良かったかもしれない。

 魔力玉を作った時に、もっと考えて話さなきゃって思ったばかりなのに。

 うう…。

 彼は、怪我なんてしませんから、なんて言ってくれたけど心配です。

 『稽古』なんて言っていたから、あんなに激しい訓練のことだなんて想像もできなかった。



 皆、怪我など当たり前のように殺気立って相手を攻撃しているのです。

 ここに来てすぐ出血ものの怪我を見てしまって、気迫に当てられて、ふらりとしました。

 ネル様がすぐに支えてくれて、彼の優しさに余計申し訳なさがつのる。




 今、ストラス君と向かい合っている彼を真剣に見やる。




 ストラス君は恐ろしく強いらしい。

 そして、手加減がまったくできないそうです。

 なんでも、近衛に近いと言われていた先輩達を容赦無く試合でボコボコにして、一人その地位に収まった程なのだとか。

 幼く小柄な彼ですが、よく見ると、小さくても引き締まった厚みのある身体をしています。




 対して、ネル様。

 貴族服の上着を脱ぎ、プレートメイルを身につけた細身のその姿は、少々アンバランスなはずなのにひたすらカッコ良い。

 元が美しいってすごい効果なんだなぁ。

 木剣を持っていますが、彼が手にするとレイピアを持っているかのごとく優雅に見える。


 …見たかんじ線の細い彼です。

 リーガさんも笑って『絶対大丈夫!』と言ってましたが、本当に大丈夫なのでしょうか…なんだかとても心配です。

 着ヤセするだけで実はゴリマッチョだとか?



 …想像したらとても面白い事になったので、この発想は封印しましょう。げふん。

 失礼しました。



 リーガさんによると、ネル様は本来護衛などいらないくらい強い、らしいです。

 王宮で最強なんだとか。

 なにそれ凄い。

 文武両道、眉目秀麗、ぼくのかんがえたさいきょうのおうじさま!みたいです。





 ネル様の剣さばきが楽しみなのは本当です。

 だけどそれ以上に、どうかひどい怪我だけはしないで欲しい。

 もちろん、ストラス君も。

 心配、です…





 試合開始のホイッスルなどは無い。




 お互いが相手の隙を見つけ、攻撃を仕掛けるのみです。

 じりじりと空気が焦がれる。




 やがて、ひときわ強い風が二人の間を通った時。




 お互いの足が力強く地面を蹴った。



同期君はモブです。

あんなキャラだけど今のところモブです。

お疲れさまですね。


次は戦闘(?)描写がんばるぞ!



読んでくださってありがとうございました!

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