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黒の手紙

気持ち…シリアス?

私の書けるシリアスなどこの程度です!orz

 ヴィレア王国の王宮のとある一室。

 来客用の、高価な家具が品よく置かれた広い室内で、一人の女性がため息をついていた。

 その吐息さえ芳しく香るような、美しい女性である。

 カグァム・リィカ嬢。

 日本風に言うと、鏡・麗華カガミレイカ

 2日ばかり前、このヴィレアの第四王子の結婚相手として召還された、麗しの女性だった。




 彼女は憂鬱そうに、その小さな手に持った手紙を眺める。

 また、はぁ、と何度目かになるため息をつく。



 彼女が手にしているのは、普通は手紙としては使わないであろう黒の便箋だ。

 差出人の名前は、ない。


 そこには白い文字で、彼女がもっとも望まない言葉が綴られていた。

 婚約者たる王子と仲の良い彼女にとって、これ以上ないつらい言葉である。


 それは、彼女を傷つけるために書かれたものなのだろうか。

 涙にうるんだ瞳で、今一度、手紙を読む。




 『あなたの目は曇っている。

 鏡をご覧になったほうがいい。

 あなたには、ネルシェリアス王子殿下は似合わない。

 すぐに考えを改められよ。

 あなたにお似合いなのは、グリドルウェス王子殿下だ』




 ……またひとつ、ため息をついた。





***************




 


 …おはようございます、麗華です。


 といっても、まだギリギリ日が昇りかけたかな?程度の時間なのですけどね。

 目が、覚めてしまって。

 はぁ…。




 

 昨日、ネル様たちと屋上からヴィレアの景色を見てからのこと。



 夕焼けの太陽がおちるまでは、ずっと景色を見ていました。

 そのあとは、ネル様はどうしても外せない仕事があるそうで別れ、部屋で一人食事をいただきました。

 アマリエさんとミッチェラさんも一緒に食べられたら良かったのですが、さすがに仕事中に食べるわけにはいかないそうです。

 今日のお昼は、彼女たちの休憩時間(予定)で、かつネル様が許可を出したため、一緒に食べる事ができたそうです。

 そうとう特殊な環境だったみたいですね。


 彼女たちにお茶を入れてもらって、雑談しながら食べました。

 もちろん、食べながら話すような事はしてませんよ!

 その後はお風呂に入り、乙女ちっくなネグリジェに着替えさせてもらって(可愛さに内心小躍りしてました!)、彼女たちともおやすみなさいと別れました。




 ………。





 そうして一人になった時です。

 天蓋付きベッドの脇のサイド・テーブル。

 その上に、黒い封筒を見つけたのは…。




 最初は、私が開けていいものなのかな?と悩みました。

 宛先には私の名前が書いてありますが、今までそのような手紙はアマリエさんがまとめて持ってきてくれていたからです。

 差出人も書いていないし、あやしい。

 あやしすぎる。



 アマリエさんを通していないってことは、私には伝えたいけど、他の人には見られたくない…そんな事が書いてあるのでしょう。

 うーん、開けるべきか悩む…。


 頭の中で『悪意ある魔法がかかっているなら、手紙よ光れ』と念じます。

 即席の悪意チェック魔法です。

 これで光ったら、当然手紙は開けないつもりでしたが、光りません。

 




 これは、いよいよ覚悟を決めるべきでしょう。

 手に、いやーな汗がにじんできましたが、仕方がない。

 ネル様の不利益になることが書かれてたりなんかしたら、大変ですからね。


 妻は度胸!(何コレ照れる!)


 そしてブスは度胸、です!





 手にハサミを持ち、いざ!手紙の開封にかかります。





 ちょきん、と刃を入れると、なんとも甘ったるいメイプルのような香り。

 この世界にも、メイプルシロップがあるのでしょうか?

 でもなんで手紙からこんな香りが?

 封筒と同じく黒い便箋、そして紙に鉛筆で描かれた肖像画が出てきます。

 こ、これは…!



 



 うねうねと縮れた長い髪の毛。

 小さくて肉に埋もれた目、大きな鼻と口、小柄なのにでっぷりしたその姿!

 

 このある意味印象的な男性はまさに…





 肖像画は、グリドルウェス第一王子殿下のものでした。

 なぜに!?



 私に肖像画を送ってくる意味は何?

 というか、本人が贈ってきたの?

 いやそんなまさか…

 訳が分からなくて、ハテナが頭の中をぐるぐるします。





 自分の肖像画を贈ってくるなんてそうとうなナルシストさんでもないと無理ですよね?

 ご本人は確かに堂々とした人だったけど…さすがに違う気がする。

 じゃあ、誰が?

 私と彼の接点なんて、食事に誘われて断ったことくらいなんですけど。




 悩み始めてしばらく。




 

 そうだ手紙があるじゃん、なんてやっと気づいた私は結構バカなんだと思います。

 思わず脱力しました…。



 肖像画なんて思いもよらないプレゼントに思考停止しておりましたね。

 気を取り直して、手紙を手に取りました。

 読みます。






 ………。

 




 そして、冒頭の文章だったわけです、ね。





 

 ああ、この可能性があったか!と。

 すさまじく納得した私は、脱力して思わずベッドに倒れ込んでしまいました。

 もう心の底から納得した!





  …そして、その日はそのままフテ寝してしまいました。

 さすがに心にこたえたので…。

 そして朝、こうしてため息をついているという訳ですね。



 はぁあ。









 そうだよー…そういう可能性があって当然でしょうー。



 ネルシェリアス様だよ?

 超絶美形さんですよ?

 性格もいい頭もいい、さらには王族さまですよ?





 魔法陣からたまたま召還されたポッと出の異世界人(しかも超ブス)が彼を独占しているだなんて、どう考えても妬まれて当たり前じゃないですか!!

 うわぁーー私空気読めてない!

 しかも婚約者扱いだし、人前でい、いちゃらぶしちゃってるし。

 さぞかしうっとおしかったことでしょう。

 視界の暴力ってやつですね。




 あんな素敵な彼ですもの、恋情をいだく女性がいないはず無いのです。

 男性だって、彼の美しさがねたましくて、キツく当たる事もあるのでしょうし…

 今まで、周りの人が優しかったから気づかなかった。

 私ってばニブい、ニブすぎる。




 そういえば、ネル様にお姫様抱っこされて移動している時、たくさんの視線を感じました。

 そんな格好で移動してるからかなって思ってましたが…

 なるほど、嫉妬でしたか。

 『気』を見るよう気をつけていたら、もしかしたら悪意の『気』も見えたかもしれませんね。

 いや、きっと見えたでしょう。

 確かにまとわりつくような視線がやたら多かったと、今になって思います。







 彼と並べるくらい、私が美女だったなら。


 問題なかったのかも……しれません。






 結びの魔方陣は特別なものだと聞いています。

 この世界に実在する『愛と美の女神アラネシェラ』様のもたらした秘術なのだと。

 ヴィレア王国の人々は、この魔方陣の結果をとても大切にしています。

 それこそ、身分差にかかわらず結ばれたら結婚できる、なんて決まりができるほど…

 本当に、特別なものなのです。





 なのに私には男性からのアプローチが絶えません。

 どうしてか?

 今になって、ようやく分かりました…



 手紙をまた読み返します。




 『あなたには、ネルシェリアス殿下は似合わない』




 そういう事、だったんですね…。

 思わず、自嘲するように笑ってしまいました。


 考えられるパターンは2つです。





 一つは、ネル様の美貌が妬ましくて、なんとしてでも彼の不幸を望んでいるパターン。

 彼はただでさえ優秀な方ですし、これ以上力をつけられたくないのでしょう。

 黒髪=魔力の多い私が彼と結婚するのを、阻止したいのだと思います。

 どうりで、アプローチしてくる男性が、やたら私の黒髪を褒めてくると思いましたよ…




 もう一つは、ネル様を慕っているがゆえに、ブスは身を引けって思われているパターンです。こちらの場合は、女性の可能性がありそうですね。

 彼に恋している女性もたくさんいるのでしょう。

 ネル様の代わりに、グリドルウェス王子殿下を推しているのは、ブサイク同士でおにあいよ!ってところでしょうか?

 まぁ、私も容姿に対して整ってないとは思いましたけど、手紙にしたためるとは…王族に対して不敬な話ですよね…






 はぁあ。

 ため息が止まりません。






 鏡を見た方がいい、かぁ…。


 

 日本ではさんざん言われて、からかわれたなぁ。

 こっちに来てまで同じ言葉をかけられるなんて、私のブスさにもう脱帽ですね。




 私は日本では、絶対に自分の部屋に鏡をおきませんでした。

 あんまりに醜くて、自分が生まれてきたことまで後悔してしまいそうだったからです。


 こちらでは、部屋に問答無用で鏡が置かれている。

 とってもお高そうな全身鏡です。

 もちろん自分で片付けることなんてできません。

 用意してくれた客間を勝手に荒すだなんて、失礼すぎますから。




 アマリエさんは、鏡の前で、私の髪をきれいに結ってくれました。

 丁寧に丁寧に、青薔薇の香油を塗って、キラキラのティアラを飾ってくれて。

 今日のリィカ様もとっても可愛いです、なんて、声をかけてくれました。



 ミッチェラさんは、鏡の前で、空色のドレスを着付けてくれました。

 私が苦しくないか何度も確認して、優しくリボンを結んで、柔らかいビスチェでドレスをふんわりと可愛くしあげてくれました。

 とっても良くお似合いですわ、なんて、笑いかけてくれました。



 全身をネル様の色に染めて、昨日の朝、私は鏡を見ていた。

 相変わらず醜かったけど、日本にいた頃よりはかわいく、見えた気がしたんです。


 


 私の気の持ちようが変わったからそう見えただけかもしれません。

 でも、可愛いって一瞬でも自分で思えて、嬉しかったんです。

 自分のことが大嫌いだったから。

 

 




 手紙の言葉通り、もう一度鏡を見てみる。

 やっぱり醜い顔がのぞき返してきて、苦笑してしまう。





 目を閉じて、ネル様のことを考える。

 彼があの美しい声で私を呼んで、にっこり笑ってくれることを思い出しながら、もう一度目を開ける。



 ーーーーー鏡の中の私は、幸せそうにほほえんでいる。


 ーーーーーブスだって、こんなに幸せそうな表情ができるんだ。






 彼は超絶美形、私はブス、とっても不相応だけど… 

 彼が私に愛してるよって言ってくれる限り、私はネル様以外を選びません。

 もう、決めたんです。


 

 私がネル様を離さないことで、不幸になる人がきっといるでしょう。

 ごめんなさい。

 愛される喜びを知ってしまった私は、あなたたちに遠慮することができません。




 きっといつか、こういう嫉妬の感情を向けられると、心のどこかで覚悟していました。

 手紙を書いた、名も知らない人を思う。 

 彼に嫉妬しているのか、恋慕しているのかは分からないけど…

 私はあなたに負けたくない、です。

 だって好きなの。





 …私はまだ、彼の婚約者って立場に甘えています。

 ひたすら愛する以外、彼のために何が出来るわけでもない。



 彼の横に立つのに、中身だけでもふさわしい女性になりたいと強く思います。

 なりたい……いや、なりましょう!


 国のこと政治のこと、魔法のこと、たくさん勉強して極めて、ネル様の役に立てる女性になるの。

 彼は優秀だけど、私が支えられる物事だってきっとあるはず。

 ひたすら何かに打ち込むのは得意中の得意ですもの、頑張る!

 まずは、最低限のマナーと魔法から…かな?



 よし!





 

 いっぱいいっぱい自分を磨いて、彼の側にふさわしいと言われる女性を目指しましょう。

 ブスだって中身は磨ける!




 きっと結ばれてみせます!






 私が諦めない事で、これから何が起こるでしょうか。

 テンプレでは、悪口・嫌がらせ・ハブる・シカトあたりですかね。




 よ、よーし。


 ドーーーーン!とかかってきなさい、です!

 怖いけど。



 受けてたちますよそのくらい、ネル様の側にいられることを思えばぁ!

 怖いけど!



 私はこんな手紙くらい、イジメくらいじゃへこたれませんからねーー!

 怖いけどぉぉ!!





 頑張ります負けません!

 な、泣いてないですよ?




 とりあえず黒い手紙は、テーブルの引き出しにでもしまっておきましょう。

 手紙の内容的に、おそらく相手が何かしかけてくるのは私にでしょう。

 だったら、ネル様たちに心配をかけるわけにはいきません!

 

 ネル様と一緒にいたいのは、私のワガママなのです。

 人生で初めてといっても過言では無いほど、強烈な欲なのです。

 だから、その責任は私がとります。



 

 ベッドに置かれていたネル様カラーのネコ・うさぎ人形をぎゅっと抱きしめる。

 ふんわりと、彼とおろそいの青薔薇の香りが、私の心をすこし落ち着かせてくれました。

 すぅーー、はぁーーと深呼吸をする。

 あ、変態っぽくてすみません。




 よし。

 ぬいぐるみを膝の上に置き、ぱんっ!と両手で自分の頬をたたく。

 気合い、注入ーーー!

 もやもやしていた頭が、すっきりと目覚めました。

 小さなひとえの目をしっかり開いて、前を向く。




 今日もネル様にいっぱい大好きって伝えましょう。

 まわりの嫉妬なんかに、遠慮なんかしません。

 私は図々しいブス、なんですからね!



 自分の中で方向性が決まって、いっそ清々しい気持ちで天蓋のレースカーテンを勢いよく開けました。








 そして私は悲鳴をあげた。










 ライオーーン!?






 カーテンを開けたすぐ目の前。

 ブルーアイズのホワイトライオン様がいました。

 ああびっくりした…



 ぬいぐるみでしたけど。


 もう、ものすごくリアルだったし、たてがみなんて絹糸と銀糸のえげつない合わせ技でしたよ…なにそのブルジョワライオン…




 

 これもネル様からの贈り物だそうです。

 なんとも不思議なセンスです…



 

 あわててやってきたアマリエさん(身体強化魔法済)から聞きました。

 彼女が贈り物を夜中にこっそり届けてくれていたそうで、置いた場所が悪かったとあやまられてしまいました。

 こちらこそ、叫んでしまってすみません…!


 一足遅れてかけつけてくれたミッチェラさんが『あの王子殿下のライオンっていう選択がおかしいのですわぁー』なんて、珍しく(失礼)もっともなことを言って。



 おかしくなって、3人で笑ってしまった。

 ああ、幸せ。





 ライオンのふっさふさのたてがみをなでる。

 すっごい、絶句するほどさわり心地がいい。

 やっぱり青薔薇のにおいがして、思わず頬がゆるんでしまった。



 私はこの日常を手放したくないのです。

 この日常を守るためだったら、なんだって耐えられますよ!



 

 出だしをちょっとくじかれてしまったけど、今日も元気に頑張ります!

 ネル様、待っていてくださいねー!




 

ブルーアイズのホワイト○○○ン!

彼の裁縫が捗りすぎた結果ですね☆

主人公ちゃんは、まさか本人が手作りしてるなんて夢にも思ってません。

どこに売ってるんだろこんなん、程度の認識です。



読んで下さってありがとうございました!

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