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宝物

深夜帯に投稿すみません(汗)




 「…見事なものですわねぇ」



 「そうでしょう。

 ミッチェラは、王子殿下の魔法陣を見るのははじめてでしょう?

 私は彼が魔法陣を使うところをよく見ておりますが、失敗したところは見たことがありません」



 選ぶ塗料も魔法陣の知識もカンペキです、とアマリエが続ける。



 「げー。ガリ勉あたまでっかち…」



 「お黙りなさい」




 

 侍女コンビの間の抜けた会話が聞こえる。

 あいかわらずテンポが良い。


 見習い侍女はその不用意な発言で、今まで何度もシメられているはずだが、てんで成長が見られない不敬さである。

 侍女長はあいかわらず、たんたんとした口調で話している。




 彼女たちが見ている先には、この国の第四王子殿下と美貌の女性がいた。

 女性は興奮したように、魔法のガラスレンズを覗き込んでいる。

 あれはなに、これはなに、と楽しそうに王子にたずねる。王子は、自分の魔法陣が彼女に喜ばれてうれしいのか、ニコニコと質問に答えていた。




 ここは、王宮の最上階。皆がちゃかして「屋上」と呼ぶ部屋である。

 

 今回は王子の希望でこの部屋を利用しているようだ。

 彼の「キレイで大切な宝物」を、自身の婚約者に見せたかったようである。





 それは、この『ヴィレア王国』そのものだった。




 

 国民がいきいきと生活し、美しい景色あふれるこの国こそが、王子の宝物だというのだ。



 この発言にはまいった。

 おもに美貌の女性が。

 小さな目はハートマークが見えるかのごとくきらめき、熱っぽい視線で王子を見やる。

 両手は胸の前でひしっと組まれ、乙女の祈りポーズが完全再現されていた。

 美しく、かつ愛らしい美貌の彼女がその姿をすると、本当に女神のようである。

 真正面から直視した王子は、たまらないとばかりに頬を染めた。

 (さりげなく鼻のあたりを押えているのは気にしてはいけない)

 見習い侍女など、「きましたわぁコレーーーーー!」なんて小声で叫びながら、自身の映像記録魔法をガンガン使用している。

 自分に素直でなによりである。

 彼女の「めがみさまメモリアル!」は今日も増えるようです。




 王子のガラスレンズ魔法は、どうやらすっっごく性能のいい望遠鏡のようなものらしい。

 高台で使うと、そこから見える範囲全てを鮮明に見ることができる。

 ガラスレンズを経由して、どの窓をのぞくかにより、見える景色がかわるようだ。

 今は季節柄、街にはほころびかけた花があふれ、カラフルな装飾が街をにぎわせている。

 



 王子は目元をゆるめて、美貌の女性を見る。



 「ふふ、あなたがこの景色を気に入ってくれて本当に嬉しいですよ。

 今は花待ちの時期ですし、あと数日もしたらつぼみが一斉に花開いて、もっと美しい景色になります。

 王都を散策でもしましょうか?」

 


 「いいんですか!

 わぁ、ぜひ行ってみたいです!

 この王都の風景は、私の故郷とはぜんぜん違うのでとても楽しみです。

 本当に…。おとぎ話の世界みたい!」



 「カグァム嬢のいた世界の風景か。

 そちらも、また話して聞かせてくださいね?

 …では、王都散策は3日後あたりにしましょうか。

 明日は王宮の案内、あさっては魔法教室の続き。…そんな感じでどうでしょう?」



 「わかりました!

 とってもとっても、待ち遠しいですね…!」




 美貌の女性がにっこりと笑って、あまりに嬉しいのかくるりとその場で一回転した。

 混じりけのない漆黒の髪が、同じくくるりとリズミカルに揺れる。

 空色のドレスはひらひらと舞って、妖精のように愛らしい。


 


 それを見た誰もが言葉をなくす。

 今日も彼女は、見た目も心も絶賛女神様のようだ。

 可愛い、可愛すぎる。

 ここが王宮の屋上で本当に良かった、人目の多いところだったら出血者(鼻)が多数でていたことだろう。

 この数日で少しは耐性ができていた彼ら3人にしても、鼻血をこらえるのが大変なレベルで彼女は可愛かった。眼福である。

 みんながただ幸せだった。




 美貌の女性には自覚はないようだ。

 しばらく固まって動かない彼らを不思議そうに見やると、小首をかしげる。



 

 たまらない!

 これ以上直視したらヤバい。鼻が。

 そう確信した王子は、彼女から視線をそらし道具箱をごそごそとあさりだす。

 紙束がいくつも入った大きな道具箱を引っぱりだしてきている。




 「あいつ、ヘタレですわー」と見習い侍女の目が冷めたものになる。セリフも口に出ている。

 王族に対して不敬だぞ。

 あっ、侍女長が見習い侍女を見ている。

 





 王子は一つの紙を取り出すと、ガラスレンズの前にそれを広げた。

 それは地図だった。

 ヴィレア王国の王都がこと細かに描かれている。



 それに魔道具らしき、直径5cmほどの円形の『枠』を置く。

 2つがペアになっており、片方は地図の上、片方はガラスレンズに付けられた。




 「これは…?」


 「地図の場所を優先的に、このガラスレンズに映すことができます。

 私の開発した魔道具ですよ」


 「開発!」


 「けっこうすごいことなんですよ?開発」



 えへん、と王子が胸を張る。

 なんだかここに来てから仕草が子供っぽくなっている。

 だが美貌の女性はうっとりと彼をながめている、バカップルってすごい。


 ちなみに、新しい魔道具の開発とは本当にすごいことである。

 日々、研究に研究をかさねている魔法ド変態が、長年をかけてやっと新作ができるかどうかと言うところだ。

 間違っても、王子が業務の片手間でちょちょいと作れるしろものではないはずなのだが。

 ネルは地味にハイスペックである。



 

 「映しますね?」




 王子がまた呪文を唱える。

 魔道具の枠の中に、よく似たガラスレンズが出現する。

 枠が地図の数cm上に浮いた。

 それを王子が長い指で、優雅にすいっと移動させる。


 大きい方のガラスレンズの風景がガラリと変わった。

 にっこりと美貌の女性に笑いかける。




 「さあ、ご覧ください!」

 

 



 


*******************






 すごいすごいすごい!





  ネルさまの指の動きにあわせて、大きなガラスレンズがその方角の窓に向きます。

 地図と照らし合わせて、色々な建物をみせてくれる。

 協会、治療院、商店街、貴族街、屋台通り、冒険者ギルド。




 もう一度言います。



 冒険者ギルドぉ!


 ロマンです!





 「すごいです、ネル様!本物の冒険者さん!」



 「冒険者のかたを見るのは初めてでしたか。

 彼らは狩りにこれから向かうところみたいですね。

 武器が使い込まれてますし、上位冒険者かもしれませんね」



 「エルフさんいたーーーー!」



 「おや、本当だ珍しい。

 彼らは少数民族だし、めったに森から出てこないんですよ。

 見た目がその、アレですしね…(ブサイク的な意味で)。

 フードをかぶっているのに、よく見つけましたね?

 ドワーフはよく見かけるんですが」



 「本当だ、斧持ったちいさなおじさんの集団がいます」


 

 「彼らは(イケメン的な意味で)大人気なんですよ。

 どこに行っても好意的に見られるので、よく街に出てきていますね」



 「へー…!確かに(武器作り的な意味で)大人気なの、よくわかりますね!

 私たちの世界の物語でも、ドワーフさんって大人気でした。

 エルフさんは確かに(イケメン的な意味で)見た目がアレ、ですね!

 あ、ネル様はエルフさんっぽいです!」




 「………!?

 そ、そうですかははは…(ブサイク的な意味で…)うっ……」




 「……?」





 なんだろう、ネル様が少し落ち込んだ?気のせいかな。



 皆さまこんにちは、引きつづき麗華です!






 私は今、ネル様に魔法で王都を見せてもらっています。

 もうーファンタジー好きにはたまりませんね!

 日本的に言うと、ゲームの世界そのものな風景が目の前のガラスレンズに映っています。



 ファンタジーゲームにありがちな、あからさまに新品の傷一つないオシャレ剣ではなく、使い込まれた歴戦の武器をたずさえた冒険者さんたちがたっくさんいます!

 剣、斧、弓、棍、刀の人もいらっしゃる。

 実用性重視な服装も、本物ー!ってかんじが出てます。


 あ、まれに魔法使いの杖を持った人もいますね。

 王宮の人くらい魔力が濃ければ杖もいらないそうですが、一般的な人は魔法を効率よく使うために杖を持つそうです。

 攻撃魔法を使う冒険者さんならなおさらですね。



 そして種族!

 なんと、この世界は多種族世界だったのです。

 エルフさん思わずガン見しちゃいました。テラ美形!

 ブスなのに面食いみたいな発言しちゃってすみません!




 3日後にはこの城下町につれてってもらえるのかぁ。

 おいしそうな屋台料理に、ファンタジーな冒険者さんに、きれいな街並み!

 カンペキに観光客気分ですね。

 とっても楽しみです!

 

 


 …………。


 おや?





 ネル様が心配そうな顔でこちらを見ている?


 むむぅ。

 何か不安にさせるような発言をしたのでしょうか?

 エルフさん女性だったけれど?

 あいかわらず捨てられたネコのような、おそろしく庇護欲をそそる表情をなさいますね。これはズルい。


 とりあえず聞いてみましょう。




 「どうかなさいましたか…?」



 「いえ…カグァム嬢は冒険者に興味があるのかな、と思いまして。

 そのですね…、あなたがしたいことを、否定したくは無いのですが…」



 「ああ!そういうことでしたか。

 おとぎ話でしか聞いたことがなかった存在だったので、興味をひかれただけです。

 冒険者になろうだなんて、無謀なことは考えていませんよ…?」



 「そうですか!

 ………はぁ、安心しました!」




 涙うるうるの瞳でじっと見つめられ、にっこり笑顔を向けられる。

 うわ、まぶしい。

 麗しい。

 大好き。




 「ふふ、心配かけてごめんなさい。

 冒険の話なんかには興味がありますけど、自分で冒険をするつもりはありませんよ。

 私はつい昨日まで、魔法も使えない体力も無い、ただの一般市民だったんですから。

 そんな行動力はありません」



 「よかった。

 冒険をすることの危険を、ちゃんと分かってくれていたんですね。

 万が一、あなたが怪我でもしたらと想像して……ゾッとしました。

 不安でしんでしまいそうでした」



 「心配性ですね、ネル様は」



 「愛しておりますので」





 頬を染めての笑顔。


 そしてサラリと爆弾を投下なさいました。


 う、うああああああああ超絶イッケメン!

 ありがとうございます視界がしあわせ!




 何気なくこんなことを言えちゃうだなんて、ホントずるいです、旦那様。

 またそのキザなセリフが似合う似合う。


 会話のさりげないところでぶっこんでくるので、私の心臓がバクバクバクバク持ちませんよー!自分がカッコいい事を自覚してください!

 大変ありがとうございました!




 そんな事を考えてて、真っ赤になった私の頭を、彼は笑いながらなでました。

 そして、ガラスレンズの方を向きます。





 「…ヴィレア王国は美しい国です。

 だけど、国として、まだまだ改善するところは山ほどある。

 貧富の差の解消、治安の向上、差別をなくすこと…。

 私は王位継承権第四位の立場です。

 影から兄上をささえ、この国をもっともっと良くしていきたい。

 そう、考えています」





 …立派な考えだなって、そう思います。


 私は太陽を見るかのように、目を細めて彼を見る。





 彼の、男性にしては線の細い肩には、いったいどれだけの重圧がかかっているのでしょうか。想像もできません。


 

 幼い頃からそのように、言い聞かされていたというのは確かにあるでしょう。

 彼はお兄さんの影となり、ヴィレアの為に尽くしている。

 普通なら逃げ出したくなるような重いものをしっかりと持っててブレない、期待にはしっかり答える。

 彼はとても強い人なのだと思います。

 


 アマリエさんに聞きました。

 ネル様は、その容姿でなかなか味方ができず苦労なさっているけど(そりゃ嫉妬もされるよね、あんなに美しいと…)、誰よりも努力して、国のために尽くしている尊いお方なのだと。

 優秀すぎることもあり、とてもたくさんの仕事をしているそうです。

 今、実質国王として国のトップに立っているグリドルウェス第一王子殿下よりも、たくさん仕事をこなしているのだとか。

 彼がいなくなったらこの国の繁栄は現状で止まってしまう、のだとか。

 今は結びの期間だから休暇をとっているけど、彼でないといけない仕事は夜にささっと終わらせているそうです。

 本当に、すごいですね………。

 



 ここまでできるのも、国への愛があってこそなんですね。



 ネル様がガラスレンズごしにヴィレア王国を眺める視線は、とても優しい。

 つり目がちな大きな瞳が、ふっとゆるんで、唇はやわらかく弧を描いている。

 長いまつげとさらさらの髪を、窓から入ってくる風が揺らし、まるで絵画のようだ。

 なんて綺麗なんだろう。


 彼は極上の声で言葉をつむぐ。






 「兄上のように、立派な国王になれる者だったら良かったですけれどね。


 残念ながら、私はパッとしない男ですし、立場も国王の影となる身です。

 あなたのような素敵な人には、本来ふさわしくない存在でしょう。

 でもどうしても、他の誰にも譲りたくないのです。

 カグァム・リィカ嬢。

 愛しております。

 


 私は、あなたの暮らしていくこのヴィレア王国を、もっと素晴らしい国にしたい。

 そのために、今まで以上に頑張るつもりです。

 どうか側にはあなたにいてほしい。

 私の側で、変わっていくヴィレア王国を一緒に見ては下さいませんか。


 私の愛しい妻…」






 …相変わらず、いじらしい言い方をなさる人です。

 何度も私を妻と呼んで、言葉をかえて、たくさん愛の言葉をくださる。



 彼に伝えるのは何度目でしょうか。

 私も彼と同じ気持ちなので、どうしてそういう言い方をしたのかよく分かります。

 

 もっとあなたを信じたい。もっと小指の印を赤く染めて。私を見て。愛してるって言葉で、態度でいっぱい伝えて。って……

 そう、思ってくれているんですよね、ネル様?

 相思相愛だって、思って、いいですよね?




 私の返事はいつだって同じ。


 いつだって乙女のあこがれのセリフはこれなの。





 「はい!」




 ブスだけど不相応だけど、でも彼が好きだから図々しく生きるって決めたの。

 



 「私も、ネル様の事を、愛していますもの!」

 

 



 手を取り合って、ピンクの気に包まれながら、いつまでも2人愛し合えたらいいな。

 幸せでどうにかなってしまいそうです。

 きゅっ、と2人で恋人つなぎ。

 見つめ合って、えへへ、と笑います。



 



 「なんですのなんですの甘酸っぱくてこそばゆくて見てられませんわぁー…!」

 

 「バッチリ指の間からのぞいているでしょうミッチェラ」


 「先輩は無粋です」


 「給湯室「きゃあ!」」




 あっ。侍女さんたちのこと忘れてた。

 人前でこんなにラブラブしちゃいました…その、照れますね。






**************






 王宮の一室、今は美貌の女神が使用しているとされる部屋だ。

 

 その部屋の中央に人影があった。




 普段は彼女か、侍女ペア、そのいずれかがいる時にしか他の者は入らないはずの部屋である。

 人影は、本来ならここにいるはずではなかった人間だと言うことだ。

 

 

 特に部屋の物にさわったりする様子はない。

 誰かに見られていないか、ささっと周囲を確認すると、素早く机の上に何かを置いた。

 そして部屋を後にする。




 机の上には黒い手紙があった。



 それはかの美貌の女神に、どのような影響をおよぼすのだろうか。


 ……。   






 


読んで下さってありがとうございました!

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