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屋上へ

今日は予定があるのでこの時間に投稿しちゃいます。

(1/25/イラスト追加/ミッチェラ)

挿絵(By みてみん)

 「今日はまだカグァム嬢も疲れがとれていないでしょう。

 王宮の案内は明日にして、今日はあなたに見せたいものがあります!」



 「見せたいもの?

 なんでしょう…それはどんなものですか?」



 「ふふ、着くまで内緒にさせて下さい。

 王宮の一番高い所にいきましょう。私の、とても綺麗で大切なものがあるんですよ」



 「とても綺麗で、大切なもの…。

 私が見ても大丈夫なものですか?」



 「はい。

 むしろ私は、愛するあなたにこそ見て欲しいと思っています。

 大切なものこそ、愛する人と共有したいのです」



 「ネル様…。

 ありがとうございます!あの、楽しみにしていますね!」



 「ぜひ!

 そうと決まれば、いそぎましょうか。日が暮れてしまっては、せっかくの『綺麗』が見えなくなってしまう」



 「え?………きゃあ!」





 そういうことです。

 これが、今、王宮を騒がせている原因なのです。




*****************





うららかな昼下がり。


 王宮の廊下を4人の人間が歩いている。

 いや、正しくは3人だが。

 


 一人はこの国の第四王子。

 ブサイクと名高いかの王子であるが、今日はその腕にとんでもない美貌の女性を抱いていた。いわゆるお姫様抱っこである。

 いつも無表情と言われていた王子の顔は、幸せなのかゆっるゆるだ。

 そして美貌の女性も、恥ずかしいのか頬を染めてはいるが、幸せそうにほほえんでいる。

 その微笑みに何人もの通行人が鼻を押さえてもだえていた。



 あとの2人は、こちらもある意味有名な侍女コンビ。

 鬼の侍女長アマリエと、問題児侍女ミッチェラである。

 王子のあとに続くようにして歩いている。

 アマリエはいつも通りきびきびと、ミッチェラは頬をぷくーーっと膨らませて不機嫌そうに歩く。また給湯室に呼ばれますよ?

 王子の足が長いので、遅れないように、こちらは若干小走りな感じで歩を進めている。



 とっても目立つ彼らである。

 どこかに向かっているのか、迷う事無く歩いているのだが、先ほどからしょっちゅう足止めを食らっていた。


 いわく、こうである。





 「おや、第四王子殿下ではありませんか。

 …こんなに急いで、どちらに?

 その腕の中の女性は、下ろして差し上げたほうがよろしいのではありませんか。

 王宮の廊下をそのように女性を抱えて歩くなど、あまり感心しませんな…!」



 「ドラネス卿。どうもご無沙汰しております。

 ええ、私も確かに少々ぎょうぎが悪いのは自覚しております。

 しかし6日後の女神の祝福の儀までに、結びの相手との絆を確かなものにしておかなくてはなりませんので。

 彼女は私を愛してくれておりますが、より親密になっておきたいのです。

 どうか気になさらないでもらえると助かります」



 「くっ…!

 幸せそうで、なによりですな!

 カグァム・リィカ様。

 私からあなたに、2日後のパーティの招待状を送ってあります。

 また目を通しておいていただけるととても嬉しいです。

 どうか、よろしくお願い致します!」



 「あ、はい。

 分かりました。また部屋に帰ったら、お手紙読ませていただきますね。

 とは言っても、私も王子殿下と親睦を深めることを、今は優先させたいと思っていますので…お断りすることになると思います。

 すみません」



 「なんと…!?

 この、第四王子殿下を、優先されると…?」




 たっぷりと脂肪を蓄えた、まだ年若いイケメン貴族はあんぐりと口を開けて固まった。


 この貴族。爵位は高いし家は裕福だし、顔は超イケメンだしで、今まで女性に誘いを断られたことなどなかった。

 むしろ寄せられる好意にうんざりしていたほどだ。

 そんな彼が、高いドレスを贈り直筆で手紙をしたため、本気でアプローチをかけて玉砕したのである。

 あいた口がふさがるはずもなかった。


 

 しかも相手はあの超絶ブサイク王子の婚約者である。

 あの、ブサイクに、負けた。

 イケメンたるこの俺が。





 彼の心の傷はそうとうなものだった。

 まあ勝手な話ではあるが。


 ふらふらと、うつろな目でその場をあとにしたのも仕方あるまい。

 なんとか「それではごきげんよう」の言葉をひねり出せたのは、彼の貴族としてのつつましい誇りだった。






 そんな彼の様子を、王子は「わかるわー」とでも言いたげな哀れんだ目で見ていた。

 それでも愛しの女神をゆずるつもりなど毛の先ほどもないが。



 つまり、そういうことである。

 この4人が少し進むたび、進むたびに、あまたのイケメン貴族たちがこぞって美貌の女性にアプローチをかけてきているのである。

 目的地につかないったらありゃしない。



 王宮の一番高いところ、すなわち屋上までさほど距離はないのだが、早めに向かいはじめて大正解だった。

 貴族どもがでるわでるわ。

 公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、豪商まで…

 今回は王子がブサイクなのが裏目に出たらしく、身分の低いものもアプローチに積極的である。

 ネルは王族だぞ遠慮しろ。




 王子の言う「大切なキレイなもの」は、どうやら明るいうちでないと見れないらしい。

 早いとこ貴族をけちらすために、あえて「お姫様だっこ」をして関係をアピールしているのだ。

 2人とも相思相愛なので、得しかない。

 幸せそうなピンクの気がぽわぽわしている。

 大変ごちそうさまである。





 「…おや!

 王子殿下ではありませんか!」



 また誰か来たようだ。

 これで何度目だろうか。

 

 王子は自分の人望の無さに、はぁ、と小さくため息をついて、美貌の女性に顔を寄せた。



 

 「…本当にあなたはモテますね。

 この小指の印が無かったら、不安で嫉妬にくるってしまいそうです。

 あなたが断るのが苦手なのは分かっています。

 でも、もうしばらく、私につきあって下さいますか…?」



 「そんな、私がモテるだなんて。

 きっと異世界人が珍しいだけですよ。

 もう、そんなに苦しそうな顔をしないで下さい…。

 私は、私の意思で貴族のかたの誘いを断っているのです。

 あなたといられる時間が一番、幸せなのですもの…」



 「カグァム嬢…」



 「ネル様…」

 

 

 

 はいはいごちそうさま。


 2人はくすぐったそうにクスクス笑うと、幸せそうに頬を染めた。

 どうやらまた、目の前の貴族の存在も、2人のいちゃらぶのこやしにされたようである。

 お気の毒さまな話だ。



 さっさと終わらせて屋上にいきましょうね、と王子が小さくつぶやいた。

 女性は頬を彼の胸にすりよせ、ほほえんだ。





******************





 屋上、ですーーーー!

 ここまで長かったーーー!




 こんにちは麗華です。


 

 日本はまだまだ寒い日が続いているでしょうか。

 こちらヴィエラ王国では、もう本当に春の手前のような気候で、とっても空気がさわやかです。むっちむちの肩の出たノースリーブ・ドレスを着ていますけど、ちょうどいいくらい暖かい。

 今も、優しい日差しがたっぷりと屋上を照らしていて、なんだか眠くなりますね。



 今日は、ネル様がなにやら宝物を見せてくださるそうです。

 日の明るいうちにしか見えない、綺麗で大切なもの。

 それってなんだろう。

 全然予想ができなくて、思わず首をかしげちゃいます。




 今日は快晴。

 絶好の「宝物びより」だそうで。

 ネル様は屋上についてから、ずーーっとニコニコしています。

 そんな表情も、ちょっと幼くてとっても可愛い。

 もー、誰かーカメラ持ってきてー!この表情撮りたいよおおお!可愛すぎる!

 …失礼しました。

 …それもこれも彼が魅力的なのがいけない。

 けしからんもっとやれください。




 ヴィレア王宮は、見た目で言うならシンデレラ城のような形。

 もうとっても乙女チックです。

 色はレンガ調の明るい茶色なんだけど、とんがり屋根で、いたるところにアンティークな彫刻がほどこされていたりなんかする。

 これまた乙女心を刺激する、天使や花のモチーフが多くて可愛い。



 そんな王宮の屋上って言ったら、最上階の部屋のことを言うそうです。

 特に高くつき出たとんがり屋根のすぐ真下。そこに私たちはいるわけですね。

 

 

 室内はがらんとしていて、あまり物が置かれてはいません。

 いくつかの本棚と、机とイス、紙と万年筆など。例えて言うなら、資料室、でしょうか?優雅にお茶を飲むような部屋でないことは確かです。

 大きな窓が、部屋をぐるりと囲むようにたくさんついています。



 窓は開け放されている。

 そこから風が室内に入り込み、私や侍女さんたちのスカートをふわふわと揺らしていました。




 少しまってて下さいね、なんて彼が至近距離でささやいて来ました。

 はい、どれだけでも。

 いつまででも!

 あなたのそのイタズラっぽい顔がたまりませんよおー!

 





 ネル様は置いてあった紙の中から、一番大きな物を机に敷くと、そこに何やら魔法陣を描き始めます。

 使っているのは、キラキラ光るピンクみを帯びた紫の塗料です。

 アマリエさんが引きつった声で「なんっちゅー高価な塗料どばどばと使ってんですか殿下…!」って言っていたのは聞かなかったことにしておきましょう。

 世の中知らない方がいいことがたくさんありますもの。

 え?私が遠い目をしている?

 …気のせいですよーーー?



 純白の紙に、ネル様が、塗料をつけた長い指をするするとはわせる。

 彼の伏せたまなざしが、その指の動きを追った。


 真剣な表情はかっこ良くて、私は息をのみました。

 彼の指の動きは迷いがなく、記憶している魔法陣に絶対の自信を持っているのがよく分かります。何度も使ったことがある魔法陣なのでしょうか?



 

 定規もつかっていないのにまっすぐに引かれる線。きれいな丸い円。

 ファンタジーな古代文字が、ネル様の指先で描かれていきます。

 とても複雑な魔法陣です。

 全部を書き終わるのに、15分はかかったでしょうか。

 純白だった紙はびっちりと、魔法陣の文様で埋め尽くされていました。





 ようやくネル様が顔を上げました。



 チラリ、と私の背後の侍女さんたちを見て、一瞬青くなってます。

 その変化が面白くて、くすりと笑っちゃいました。

 さっきまでは真剣でかっこ良かったのになあ。

 本当に魅力的なひとです。




 その笑い声に気づいて私の方を見ると、彼はすぐに、いたずらをする前のちょっとナマイキじみた子供の顔になりました。

 私の反応が楽しみなのか、目がキラキラとかがやいています。

 美形まぶしい。




 と。

 彼の極上の美声が部屋に響きわたります。

 それは普段の彼の声とはちょっと違ってて、何人もがネル様の声でハミングしているような、重なったような声でした。


 大きな紙がふわりと浮かび上がり、魔法陣がかがやきだす。

 古代文字が紙を飛び出て、丸く円を描きながらくるくると回りだした。

 何度も何度も回ると、キラキラと軌跡を残して消えていきます。

 ひとつ、文字が消えるたびに、薄い膜がその場にあらわれる。

 昼食の時のミッチェラさんの魔法は可愛かったけど、こちらはキレイで神秘的で、また違って目が離せません!なんてファンタジー!




 やがて全ての文字が消え、表れたのは大きな大きな、丸みを帯びたガラスのようなものでした。

 虫メガネガラスって感じでしょうか?

 限りなく透明な、1メートルはあろうかという大きなガラスが、地面から30cmほど上に浮かび上がっていたのです。





 思わず覗き込むと、ガラスなどまるで間に無いかのように鮮明に、ヴィレアの美しい町並みが広がっていました。

 他国に絶賛される、ヴィレア王国の美しい風景。


 言葉もでず、私は夢中になりました。




 花待ち月特有の、カラフルに彩られた商店街。

 家々に飾られたたくさんの花。

 見たことの無い動物に、使い込まれた剣をたずさえる冒険者。

 カラフルな髪を揺らし、にぎやかに楽しそうに、その街で生活する人々。



 思わずくいいるように見つめてしまいました。

 まるで映画の中のような世界。

 それをネル様の魔法をとおして、すぐそこに見ることができたのです!

 すっごい…!私、今、こんな世界に生きているんだ…!

 頭で思っているのと実際に見てみるのとでは大違いです。

 私はとっても感動していました。




 ネル様はそんな私を嬉しそうに見ています。

 いたずらが成功した子供の顔ですね。たまりません。






 「ネル様!あなたの宝物って、もしかして…ーーー!」





 「ええ。私の宝物は、この国です。

 この風景、人々、全てが私にとってとても大切なものなんです。

 

 ヴィレア王国は綺麗な国でしょう。私のお妃様」





 気に入って頂けましたか、なんて言って照れくさそうに彼は笑いました。


 私の旦那様は本当に私をどこまで惚れさせれば気がすむのでしょうかー!

 大好きです!







 


読んで下さってありがとうございました!

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