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見習い侍女vs王子

ミッチェラさん独り語り長いです。

難産だった…!


 皆さま、初めまして!

 ヴィレア王国の王宮見習い侍女、ミッチェラと申しますわぁ。

 ごきげんうるわしゅう。

 まぁ、私は今とっっても機嫌が悪いのですけれど!





 この小説ではまだ少ししか出てないから、覚えてらっしゃらない方も多いかと思いますわ。

 濃い派手な紅色の髪に、薄紫の目、容姿は…自分で言うのもへこみますけど侍女の中でもぶっちぎりの『ブス』な女です。


 普段は王宮で、アマリエ先輩の下で見習いとして侍女の仕事をしています。昨日からは異世界人のリィカ様のお世話も任せてもらえるようになりました!

 これから私の事について自己紹介するので、心の片隅にでも覚えておいてくれたら嬉しいです。

 



 

 私は豊かなヴィレア王国の、これまた裕福な伯爵家の正妻の三女として生まれました。

 正式な名前は、ミッチェラ・デリ・チュチェリアと申します。


 私が生まれた時、チュチェリア伯爵家はみな歓喜にわいたそうですわ。

 私はこの伯爵家の歴代の誰よりも、濃い髪色をしていたのです。それはひとえに優秀な魔法師になれるという事。

 女児ではありましたけど、家の力が強まる事になりますもの。

 それはそれは喜んで、しばらくはパーティ三昧だったそうです。

 

 生まれたての赤ちゃんの容姿など、誰もそう変わりません。

 父も母も美形でしたし、血筋的にも私はきっと美しく育つだろうと思われておりました。私は、兄と姉よりもよっぽど、両親の愛情を受けて育ったのです。



 最初のうちは。



 まず始めに、両親が『ん?』と思い出したのは、私の目がやたら大きくぱっちりとしていたことですわ。チュチェリア家の血筋的には、小さくて優しいたれ目が一般的でしたから。

 それでも、ふっくらしたら肉に埋もれて小さく美しい目になるだろう、と愛情は変わりませんでした。

 豪華な食事をこれでもかと私に与えてくれました。

 そして、そこでまた『ん?』と思う事になったのです。

 太らない。

 どれだけ、食べても食べても、私は一向に太りませんでしたわ。手足も顔もほっそりしたままで、脂肪がつくのは胸とお尻くらい。指も長く、華奢な手をしていました。



 そこでようやく、私が『ブス』である可能性に気づいたのです。

 なんてこと!

 美形ばかりなのがウリの、伝統ある伯爵家で、せっかく生まれた濃い髪をもつ娘はとんでもないブスだったのです!

 これまで可愛がってきた分、彼らのショックは相当なものだったようですわ。

 冗談ではなく号泣したと聞いています。




 そこからの私の扱いはヒドいものでした。

 皆、それまでとはうってかわって、態度が正反対になったのです。誰からも冷たくあたられましたわぁ。


 両親がそっぽむいてしまったことに始まって、使用人はよそよそしくなり視線も合わせないし、兄と姉もこぞって私をいじめました。殴りかえしましたけど。

 「ブスがチュチェリアの名を名乗るな」「魔力の他に価値のない娘」…

 さんざん言われましたわ!

 毎日泣いて過ごしていました。




 私は人の悪意に敏感になりましたわ。

 それが私に向けられているかに関わらず、どんなに小さな悪意も感じ取ることができるのです。誰かの悪口、裏口取引、後ろめたいことは全てかぎつけることができました。

 私はブスです。

 だからいじめられる。


 それなら、強くならなくてはいけない。

 悪事…すなわち相手の弱みは全て、自作の映像記録魔法で記録しておきました。

 そしてそれをもとに、貴族界を牛耳ったのですわぁ。

 なつかしいです。

 私の実家を筆頭に、今や貴族たちは私のにぎっている秘密に戦々恐々としているようです。ざまあみやがれ、ですわぁー!




 

 そんな黒い遊びで日々の心を満たしていた幼少期。

 そして、年頃になった私は、王宮に侍女見習いに行く事になったのです。

 さすが王宮、貴族の娘が召し使えているだけあって、当然美形ばかりでしたわ。

 さっそくブスとしていじめられたので、倍返しで仕返ししては、アマリエ侍女長に叱られる毎日でしたぁ。





 正直、くさってしまいそうでした。

 でもそんな時です。

 私に、『人生の』といっても過言ではない転機が訪れたのは。





 城の廊下でやる気無く、花瓶の水をかえていた時ですわ。

 ふと、甘く華やかな青薔薇のかおりが鼻をくすぐりました。

 これはある意味有名な、ヴィレア王国の第四王子殿下の香りだとすぐに分かりましたわ。

 彼には一度、面接の時に会っただけですが…超絶ブサイクな容姿と華やかな香りがアンバランスで、爆笑しそうになったのを覚えていたのです。

 げー、顔直視しないようにしよっと、なんて思いながらチラリとだけそちらに目を向けました。

 王族に会釈しないわけにはいきませんから。






 そして私は固まりました。





 あの、無表情と名高いブサイク殿下がほほえんでいる。


 いや、そんなことはどうでもいい!


 彼の腕の中で眠るひとに目が釘付けになる。





 

 あの…絶世の美貌の女性は誰ですのーー!?




 もう全身にイナズマが走ったかのような衝撃でしたわぁ…!

 世の中にこんなに美しい人が存在していただなんて。

 羨ましくすら思わなかった。

 芸術。

 そうよ、これは最高の美術家が描いた美の女神様なのだわぁー…!

 本気で心よりそう思ったのです。





 王宮の廊下なんてだだっ広いですし、私は彼女に視認されることもなく。

 美の女神様は(なぜ、ブサイク王子にお姫様だっこされていたのか?犯罪かと思いました)するりと私の視界から遠ざかって行きました。

 固まって会釈すらできなかった私。

 周りにも、そんな人はたくさんいました。みな彼女の美貌に当てられていたのです。



 正気に戻った時、私は思わず壁に自分のあたまを打ちつけていました。

 本当にバカ!なんでさりげなく側に行かなかったのよ!

 もっと近くで見たかったーーーーーー!!!




 それは強烈な渇望でした。

 私だってブスだけど乙女の端くれ、可愛いもの、美しいものは大ッッ好きなのですわー。

 私の中には間違いなく、美しいものが大好きなヴィレアの血が流れていました。

 彼女は間違いなく至高の美しさ。

 これからの人生であんな美しい人を目にする事なんて、まずありえないでしょう。

 




 その日の業務中、ひたすら落ち込んでおりました。

 が、天はブスの味方でした。


 『異世界より来られた奥方様の世話係を求む。』


 なんと彼女は異世界人で、こちらの王宮ですごされる事になったのです!

 このおふれが出された時、私は神にはじめて感謝しましたわぁ!

 もう、有象無象の侍女だの執事だのを脅して殴ってけちらして、全力で世話係のイスをとりにいったのです。

 戦闘力も、身分の高いひとのお付きには必要ですから、殴ってもおとがめなしです。

 この時ほど、情報収集にたけていて良かったと思った事はありませんでしたわ。

 もちろんイスはがっちりゲット致しました!





 次の日の朝。

 失礼の無いように身なりを隅々までチェックし、自慢の紅髪を整え、カチコチに緊張してアマリエ先輩と合流しました。

 「あなたが緊張しているだなんて、笑えるわね」なんて言われましたけれど。

 失礼な。

 私だって緊張しますよう。

 待ちに待った、女神様との逢瀬なんだものー。


 ビビるレベルの豪奢なドレスを手にたずさえ(贈り物だって。さっすがー)、アマリエ先輩と一緒にベッドの脇につきました。

 ドキドキドキ!可愛い寝息が聞こえていたのを今でも覚えていますわぁ!





 結論から言いましょう。

 


 女神様マジ女神様。ほんとこれ。







 最高の魔力を持っている証の黒髪に、目もくらむような美貌、鈴鳴りの声。

 彼女が息を吐くだけで、その空間が甘くかおるようでしたわーー!

 もう、始終うっとりしちゃいましたぁ。

 同じ空間にいるだけで、幸せに溺れそうでしたわぁ。



 彼女が美しいのは見た目だけではありません。

 性格もさいっこーーに可愛らしい方だったの!



 

 「色が濃くなくっていいの、愛する人の色を身につけたいの」




 このミッチェラ、このセリフを一生忘れません。


 貴族連中がこぞって贈った、目が飛び出るような豪華なドレス、そんなもの彼女には価値がなかったのよ愛する人のドレスこそ彼女がただ望んでいたものだったのですわぁーーーーー!きゃあああああああー!

 

 


 

 ああもう私の中のめが…いいえリィカ様の可愛さゲージは振り切れましたわ!

 なんて愛情深いかたなのかしら。

 私の小指の爪ほどの乙女心にズギューーンときました。



 こらえきれなくて彼女の手を取ると、私を漆黒のまなざしで見つめてこられました。あなたの瞳に映る事ができるなんて、ミッチェラ感激ですわ…!


 髪と同じ、漆黒の瞳はどこまでも他の色がまじらない。

 多くの者が持つ、光が当たると別の色が混じるという髪や瞳とちがい、ほんとうに純粋でキレイな黒でした。

 こっそりばっちり映像記録魔法つかっちゃったのは内緒です。えへへ





 リィカ様のかわいい望みを叶えてあげたい。

 そう思ってからの私の行動は早かったですわ。



 空色のドレスを手に入れるために、あんなことそんなことを持ち出し伯爵家を脅し。

 王国有数の衣装店をかたっぱしから集めて、店にあった空色のドレスを全て持ってこさせました。(支払いは伯爵家持ちです)

 なんとか王子殿下の瞳そっくりのものを見つける事ができました!





 空色のドレスを身にまとったリィカ様の、なんと愛らしかったことか。

 嬉しそうに幸せそうに、笑うんですよう。

 何度も何度も、こんな私にありがとうって言うの。

 もう本当に生きてて良かったって、涙がにじみましたわぁ。

 ありがとうなんていつ言われたかしら。自業自得もあるけれど、私に向けられる言葉はいつだってきつく、叱るものや傷つけるためのものばかりだったから。




 リィカ様の笑顔はあったかい。

 手は柔らかくて、まとう気の色はふわふわで優しい。

 私に美しい声でキレイな言葉をかけてくれて、幸せにしてくれるの。




 この人のために生きたい!




 私、生まれて初めてそう思いました。

 言葉にするとまるで初恋のようですね、でもこの言葉以外でてこなかったのです。



 初めてそう思えたひとがこの方だなんて、なんて幸運かしら。

 リィカ様のそばで、彼女のいろんな顔を見たい。

 笑った顔が一番美しいのだろうけど、怒った顔も困った顔も泣いた顔も、全部みたい!

 彼女のことを色々知って、なんでも話せる友達みたいな関係になって。

 美しい人が幸せになるところを、隣で見ていたいなって。

 そう思ったんです。

 


 そう言いました。

 リィカ様に。

 そしたら小さな目をまんまるにして、嬉しい、って笑った。

 嬉しい?私なんかに好かれる事が?本当に?

 嬉しいのは私のほうですわぁーーーーー!!!

 大好き!




 これからきゃっきゃうふふの専属侍女生活が幕をあける!

 私は舞い上がっていました。

 ええ、ええ、そう思っておりました。

 




 しかし現実は厳しかった。


 今更ながら、リィカ様の隣にはいつも第四王子殿下がいらっしゃる。

 ブサイクです。もう、ものっそいブサイクなのですわぁ。

 まるで鏡を見ているようで、なんだか気分が悪くなるのです。

 彼に罪はないのですけれどね…

 そしてブサイクにも関わらず、私の愛しのリィカ様の視線を独占するのですよー!

 なんてことなのよー!?


 

 いえ、当たり前のことなのですけれどね。

 リィカ様は王子殿下の婚約者?として呼ばれたそうですし。

 そ、相思相愛な、ようですしーー…?

 見た目つりあってないのに(ボソッ)




 ……嫉妬だって分かってます。

 

 ………でも、羨ましい羨ましい羨ましい!



 私だってリィカ様と仲良しこよししたいのですわぁーー!

 ちょっとは時間ゆずってくれたって、いいじゃないですかぁ!

 「給湯室」ごめんなさい!回想にまで入ってこないで下さい先輩!






 うう。

 王子様。

 


 リィカ様の夫になりたくば、このミッチェラを倒してからにしなさいな?


 リィカ様を男性として幸せにするのは、おそらく、貴方なのでしょう。

 リィカ様、本当に貴方のことが好きですから。



 でも私も譲りませんわ?

 ととと友達として、彼女を幸せにするのは、きっと私なんですからね!




 今からリィカ様の注目の取り合いですわよ?

 



 リィカ様ぁーーーーー!

 こっちみてくださーーーーーーい!


 貴方のミッチェラはここd「給湯室」きゃあああああー!







*******************








 「…納得いきませんわぁーッ!

 王子殿下、リィカ様といちゃいちゃ!ラブラブ!しすぎですわ羨ましいのよぉーーー!」


  


 優雅な薔薇園で、派手な紅髪の見習い侍女が吠える。

 キィーーーとハンカチを噛み締めそうな勢いだ。


 

 先ほどまで甘ったるいピンクの気をふわふわさせていた男女は、いきなりの侍女の主張に目を白黒させている。

 侍女長は、疲れた顔をして、頭痛と戦っているようだ。

 



 

 見習い侍女は、華奢なひとさし指をピンと立てると、そこを経由してテーブルにふっと息を吐きかけた。

 吐いた息はやわらかな黄色の気をまとっている。


 テーブルに乗っていた料理に吐息がかかると、なんと魔法がかかったようだ。

 遠距離魔法はとても高度な技術である。

 それを無詠唱ですんなりと使えてしまうところに、見習い侍女の(無駄な)技術の高さがみえた。



 3人がかたずを飲んでテーブルを見ている。

 と、まず動き出したのは、デザートのジンジャーマン・クッキーだった。

 いちに、いちに、とコミカルに行進を始める。

 その後ろでは、アイスクリームが白うさぎの形になり飛び跳ね、ベリーの妖精がくるくるとカラフルなスカートを揺らしていた。

 白身魚のソテーはナイフ・フォークと一緒にダンスを踊っている。

 スープは空中に浮かび、無数のハートマークになって飛び舞う。

 まさにファンタジー。

 いうなればアリスの食卓のようだった。






 「かわいい!」


 「そうでしょうそうでしょう」




 美貌の女性があまりの乙女空間に、目をキラキラさせてとびついた。

 頬はうっとりと赤らんでいて、なんとも愛らしい。

 見習い侍女は、自分のもくろみが当たって嬉しいのか、つんとした鼻を更に上むかせて横目でチラリと王子を見た。

 自慢げな視線である。

 ふっ、と鼻息までもれている。





 「もっと褒めたっていいんですよリィカ様!

 むしろ褒めて下さいお願いしますーー!」




 見習い侍女、自重しろ。





 先ほどまでの甘い空気を持っていかれて悔しいのか、王子は苦々しげに侍女を見ていた。

 だが、彼は魔法を使えないのだ。

 このフィールドでは少々彼に分が悪い。


 王子はトングとフォークを手に取ると、ささっと皿に料理を盛りつけ、何やらツル薔薇のほうに向かっていった。

 懐から小さなハサミを取り出すと、いくらかの薔薇を皿に飾り付けた。




 「カグァム嬢」



 「えっ。うわあぁー!キレイ!」




 皿には様々な料理が少しずつ、芸術的に盛りつけられている。

 光沢のあるソースのかかったものを選んでいるため、肉も野菜も表面はキラキラしていて、薔薇の華やかさとあいまって美しいしあがりである。

 芸の細かい事に、薔薇はそのまま咲き誇っているものと、花びらのみ散らされているものがある。色はどちらも乙女の大好きなピンク色だ。




 「きーーー!

 なんの、リィカ様こちらをご覧下さい!」



 「うわあああ、かわいいい!!」




 「負けません、

 カグァム嬢、こちらを!」



 「きれーーーー!」





 薔薇園のテーブル付近のいたるところで料理が踊り、盛り合わせが次から次へと作られていく。

 見習い侍女と王子はどちらも譲らず、美貌の女性の気を引くのに必死だ。

 渦中の女性は、盛り合わせを平らげつつクッキーやアイスにも手を伸ばしている。

 かわいいから食べられない、は彼女には通用しないようだ。

 可愛いけどおいしいから食べるようである。

 むしろ可愛さに、食欲が止まらないようである。




 食べ物で遊んではいけませんね。



 

 王子と見習い侍女が、顔をつきあわせてにらみ合っている。

 どちらもつり目がちの瞳をさらにつり上げて、大きな瞳で相手を凝視している。


 真ん中の取り合われている女性は、少し羨ましそうにその2人の距離を眺めていた。

 ただし口は動いている。





 …どうしてこうなった、と、侍女長のみが遠い目をして彼らを見ていた。


 



読んで下さってありがとうございました!

明日はイラスト更新予定です

(1/25/イラスト追加/ミッチェラ)

(次話の前書きにおいてあります)


ミッチェラですわぁ!楽しかったです♥︎

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