昼食にて
長くなりそうだったので切りました。
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ヴィレア王国の薔薇庭園は、花待ち月にもかかわらず一足早く薔薇の開花を迎えていた。
まだつぼみを付けたものもいくらか見られるが、ほとんどは3分~8分咲きで、十分に美しい薔薇が楽しめる。
色ごとに丁寧に植えられた大輪の株薔薇、可憐な小さめの花をつけるアーチ状のツル薔薇と、種類豊富な薔薇がそこかしこに咲き誇っている。
朝、ていねいに撒かれた水が、花弁の上で水滴となってキラキラとかがやく。
その合間をぬうように植えられたハーブ、背丈が低めの観葉樹木などが、イングリッシュガーデンを彷彿とさせた。
ヴィレア王国のものは皆が美しいものが大好きだ。
この薔薇庭園も、彼らの自慢の一つでもあった。
いつも、国内外の貴族たちの目を楽しませている、ヴィレア自慢の薔薇庭園。
その中に、庭師以外は王族とその客しか入れない特別な一角があった。
そこには庭園の中でもめったに見かけないような、珍しい品種や、形の特に整った薔薇が植えられているようだ。
赤、ピンク、白、黄、紫、青、黄緑なんて色もある。
それらがバランスよく配置され、優雅な空間をつくりあげていた。
今日はそこで昼食をとっている一団が見える。
白く四角い形のガーデンテーブルに、繊細なレースのテーブルクロスが揺れる。
その上には湯気をたてる豪華な食事が、ところせましと並んでいた。
メインとなる肉料理から、前菜用であろうサラダ、とろとろになるまで煮込んだスープにたくさんのデザート。最高級の茶葉を使ったフレーバー・ティまで…
どれも王宮の一流のシェフが腕を振るったのであろう。
おそろしく食欲を刺激する、芳しいにおいが辺りにただよっていた。
そんなテーブルをかこむのは4名の男女。
一人は乳白の髪に空色の瞳を持った、この国の第四王子である。
大きな目にすっと通ったひかえめな鼻、桜色のうすい唇。鍛えられた体は細身で、余分な脂肪など見当たらない。間違いなくかなりのブサイクと言えよう。
その他の三人は皆女性だ。
まず、王子の正面に座っているのは、白髪まじりの金髪の女性。
この王宮内に彼女を知らぬものはいない、ともっぱらの評判である、仕事の鬼の侍女長である。
ほんのりと脂肪のついた体は、しかし日々のメイド業で十分に筋肉もついている。
肌は色白だが、目尻と唇の横にうかんだホクロが彼女のチャームポイントとなっていた。大きくもないが小さくもない、鋭い瞳は明るめの赤。
少し丸い鼻にピンクの唇。良くも悪くも『すっごくふつー』な見た目の女性だった。
侍女長の隣に座っているのは、派手なカールの紅髪の少女。
王宮ではある意味有名な、入ったばかりの見習い侍女である。
顔色は少々青ざめ、表情は放心しているようにも見える。だが、みな理由を知っているからなのか、彼女を痛ましげに見るものと、放置しているものがいた。
彼女のつり目がちの瞳は大きく、薄紫色だ。長いまつげにいろどられている。
つんと尖った鼻には少しだけそばかすが浮いていた。
体は、胸とお尻は大きいが、基本的に細く脂肪の少ない体系をしていた。
いわゆる『ブス』の類いの少女である。
最後は王子の隣に座る、黒髪の女性。
彼女はまさしく『絶世の美女』だった。
クセの強い黒髪に同色のちいさなひとえの目、大きく華やかな鼻と唇。象牙の肌にはホクロが散りばめられている。
小柄でふわふわと脂肪をまとった身体は、えもいわれぬ愛らしさだ。
てんでバラバラな見た目、そして身分差があるにもかかわらず、彼らはそろってテーブルにつき昼食を楽しんでいた。
マナーうんぬんなどというものは一旦は置かれ、各々に好きなものを好きなように皿に盛り、食事をしている。
それは美貌の彼女が望み、また第四王子が、プライベートでは比較的身分や格式を気にしないためであろう。
テーブルはなごやかな空気に包まれていた。
「あっ、これも美味しいです」
美貌の女性がパクパクと、次から次へ料理をたいらげる。
その表情は幸せそうで、食べる量を抑えたいのに美味しすぎて止まらない!と語っているようだ。
「良かった!
カグァム嬢は甘い物が好きだと聞いて、肉料理にもフルーツソースのものを多めにしてもらったんです。
ふふ、大正解だったみたいですね?」
王子も幸せそう。
美貌の女性を横に、顔を緩めきってニコニコ笑っている。
手にはトングを持ち、次から次へと見た目も美しい盛り合わせを作り、かいがいしく愛しい人の世話をやく。
合コンの時の女子か。
「う。
ネル様、私そんなに入り…ますけれども。
あの、貴方にそんな給仕させる訳には…」
「ふふ、今日の昼食は無礼講と決めたじゃありませんか。
アマリエも了承していますし、かまいませんよ。
それとも、私が取った料理は食べたくないですか?」
「そんなはずないです!
むしろ味も見た目も、付加価値でさらに良く感じますよ?」
「カグァム嬢…」
「ネル様…」
あいもかわらずお熱いようでなにより…。
濃ーいピンクの気でむせそうだ。
料理をよそう、そして食べるという行為でここまで盛り上がれるのも、彼らならではと言うしかない。
お互いに相手をうっとりと見やって、もう完全に2人の世界である。
周りには完全に迷惑だが。
侍女長は呆れたように彼らを見ていた。
「少々狙って、二人きりにさせてみましたが、効果がありすぎたようですね。
一体、どこまで進んだんでしょうか…気になります」
下世話な話である。
顎に手を当て、むーん、と考えている。
どこまで、と聞いて見習い侍女の肩がピクリと動く。
気付かない3人。
「ほらほら、見つめあっていると料理が冷めますわよ?
好き同士なのはよく分かりますが、もう少し落ち着いて食べることを進言いたしますわ」
「ちょっ!?」
「好き同士、だなんて…!」
侍女長は手を軽くパンパンとならし言い放つ。燃料投下。
王子と女性はまたもお互いを見、自分好みの相手の姿を眺めて、パッと頬を染めた。
見習い侍女の肩がまたも、ピクピクッと動く。
あ。
少し意識も戻ってきたようで、目が若干ギラついている。
そんな彼女に、3人はまたも気付かない。
…いや、侍女長は気付かないフリをしている。何か、思うところがあるのだろう。
そのまま、さらに2人をあおるあおる。
「本当に、女神様には感謝しなくてはね。
こんなに、お互い相性のいい相手を巡り合わせてくれたんですもの。
ネルシェリアス殿下、良かったですね。
こんなに可愛らしい方を妻に迎えられるだなんて!」
アマリエの撒く餌に食いつく王子。
チョロい。
「ええ…本当に!
こんな素晴らしい女性に、私は初めて出会いました。
美しくて、可愛くて、優しくて、もう…ああカグァム嬢!
愛してます!」
「ネル様…!
ネル様こそ、最高にカッコいいですーー!」
ひしっ、と手を取り合う。
これはひどい。
…燃料投下が過ぎたようだ。
チラリ、と見習い侍女の方に目をやると、薄紫の瞳をまん丸くしていた。
侍女長の顔にも『げっ、しまったやりすぎたか』と書いてある。
2人ともなんともとろけた表情で、締まりなく笑っていた。
これが幸せにダダ浸りになった人間の姿である。
この空気に当てられ、見習い侍女がついに完全再起動した。
妬ましさに耐えに耐えたのか、その表情は一周してもはや無表情だ。
唯一、ギラギラと怪しくひかる瞳とあいまって、非常にブキミな形相になっている。
手はきつく握りしめていたのか、血の気がなく蒼白だった。
だが2人は気付かない。
自分たちに降りかかってくる事だろうに、対岸の火事状態だ。
ただ一人が、はぁ、と悩ましいため息をついていた。
さっき全力で彼女に施した、気合いの入ったお説教は何だったのかしら、と。
「ーーーっ納得いきませんわぁーーッ!」
キンキンと甲高い見習い侍女の声が、麗しの薔薇園にひびきわたった。
ああ、王子よ覚悟せよ。
ある意味、この見習い侍女が貴方の最強のライバルだ。
次は…ミッチェラ視点かな?
読んで下さってありがとうございました!