おっさんといっしょ
毎度の異世界ネタです
「いやー、普通、異世界とか行って初めて会う人間って、命の危機にさらされた美少女とか、森の奥に一人で住んでる偏屈な魔法使いとか、腹黒い王様とか、そういうもんじゃね?」
「なにを言ってるのか分からないが、とにかく人の上からどけ!」
「それが見るからに小悪党なおっさんだもんなぁ・・・。」
「ワシを馬鹿にするのか!」
「いや、その一人称は余計小物臭いからやめた方がいいって! むしろ『私』とか使って少しへりくだり気味の丁寧な口調で喋った方が『実はこいつ見かけによらないキレ者じゃね?』とか思わせられて効果的だぞ? 『ワシ』って一人称は見るからに威厳のあるヤツか、年食った爺さんか、ギャップ萌え狙ったロリババアでもないと意味ねーよ。」
「なっ・・・・・・!」
「まあ、丁度いいところにいいクッションがあって助かったってことで、少しは感謝してあげよう!」
「人をクッション扱いするな! いいから早くどけっ!」
「で、ここどこよ?」
「いい加減にしろ、貴様! この剣で斬ってくれる!」
「あー、やめといた方がいいよ? 貰ったチートによって差はあるけど、俺ら応急措置で飛ばされた人間は、その飛ばされた世界の人間の平均の最低でも三倍のスペック持ってるから、「実は剣の達人」とかでない限り無茶だよ?」
「ええい、ちょこまかと!」
「いや、だからさ、速さも力も三倍以上あるんだって、おっさんだって三歳児とかが殴りかかってきても楽勝で相手出来るだろ? それとおんなじ様なもんだよ。まともに相手する気もおきないくらい差があるんだ、な?」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、くそ、馬鹿にしおって!」
「『馬鹿にされる様な事をしているヤツが居たら、馬鹿にしていると馬鹿でも分かるくらい徹底的に馬鹿にしろ』ってのが家訓でね。なんでも成長や反省のいいチャンスなんだから、そうしてやる方が相手にとっていいだろう、って話らしい。」
「なんて嫌な一族だ。」
「そうでもないぞ? 俺の姉貴なんか、いじめをしている連中をフルボッコした上で、見て見ぬふりした教師を退職まで追い込んだし・・・えっとなんだっけ? 『嫌われて当然なヤツは居てもいじめられて当然のヤツはいねえよ! それとも何か? 嫌いなヤツはいじめていいのか? じゃあ、アタシ、アンタのこと嫌いだから、今日からアンタいじめるわ! 当然なんだろ? 大人しく受け入れるよな?』だったかな?」
「お前の姉とお前が一緒に来なかったことを神に感謝しよう・・・。」
「まあ、それは俺も同感だ。一緒だったらマジでこき使われるからな・・・。で、ここ、どこよ?」
「・・・バーガー王国のテリヤキチキン村の側だ。」
「美味そうな名前だな。他にもベーコンレタスとか、メキシカンチリとか、トンカツとかあるんじゃね?」
「知っているのではないか!」
「マジであんのかよ・・・。」
「もう相手にするのも疲れたからどっかに行ってくれ!」
「いやいや、俺、この世界の知識ないからさ。これから生きてくのに最低限の知識はねえとやべえし、この辺、おっさんしかいねえし?」
「そもそも『応急措置』とはなんなのだ?」
「あ、聞いちゃう? それを聞いちゃう? めんどくせえー! キ○グ・クリ○ゾン! 俺がバッチシ説明をしておっさんが理解した、という結果だけが残る! という訳だわかったよな?」
「なにを言っておるのだ? 分かる訳が無いだろう。」
「て言っても俺も良くは分かってねえんだけどさ・・・俺らが住んでた『世界』が滅んだんだと。」
「戦争にでも負けたのか?」
「いや、国でも無く、星でも無く、世界全体がってことなんだけど、分岐世界の全てが滅んだのか、分岐した先の俺の居たトコだけなのかとかも分からねえ・・・。」
「星? 分岐世界? なんのことだ?」
「あー、星、惑星って概念自体がねえか、いやそもそも俺らの世界と同じ構造とは限らねえよな。象や亀が支えてたり、星が糸で吊るされてたりなんてこともあり得るのか・・・。」
「さっぱり分からぬ。」
「まあ、ともかく俺らの世界が滅んで世界と一緒に消滅した生き物の数が余りに多過ぎてな? その魂をいきなり輪廻の流れに放り込むと問題があるってことで、その内の九割を別の世界に落として調整することになったんだと。小さな子どもとか、重い病人とか、自力で何か出来ない寝たきり老人とかは落としても生きていけないから一割の輪廻組で、それ以外はもう細かい調整無しに異世界送り。酷え話だろ?」
「お前ほどではないと思うが?」
「いやいや、おっさんの髪の毛ほどじゃねえよ?」
「か、髪のことは言うな!」
「いや・・・な? 半端に伸ばして隠そうとするとカッコ悪くなるからな? 短めに刈り込んでヒゲでも伸ばした方が見栄え良くなるぞ? これはマジ忠告だからな? ヒゲとか、あるいはメガネとか、最初に目に付くポイントを髪以外に作って、髪は短めにするだろ? そうすんと髪の毛の印象は相手に残らないんだよ。姑息に隠そうとするとかえって目立つからな?」
「ふん、まあ、忠告だというのなら聞いてやろう。それで落とされてワシの上に落ちて来たのか?」
「三倍以上の調整と一人一つの能力プラスだとさ。なんでも魔法があったり、モンスターが居たり、環境が苛酷だったりと、下手すんと一日も生きられない場合があるからとか書いてあったな。」
「書いてあった? 誰かに聞いたのでは無いのか?」
「数が多過ぎて対処は輪廻組優先、なんか矢印に従って説明のパネル見て、くじを引いて、歩いてたら足元無くなってそのまんま落ちてココだよ。あの説明のパネルとかろくに読んでねえヤツ結構いたんじゃねえかな?」
「そういうモノを面倒臭がりそうな割に良く読んだな。」
「いや、活字中毒を舐めちゃいけねえよ? 読む物無くなると吊り公告やらチラシやら、商品のパッケージの成分表示やら、ともかく文字がありゃ片っ端から読むからな? 説明の前に待機所みてえなのがあってな? なんも無くて人しかいねえけど、知らんやつばっかりどころか外人ならまだマシで、異星人とか普通に居たからな。近くに居るだけで命の危険感じる様なやつ居たし。ま、そんなトコで時間とかはわからねえけど、ともかくやたら待たされたからな。そりゃ文字ありゃ興味無くても読むって。」
「ワシには理解出来ない人種であるということは分かった。」
「・・・まあ、いいや。そんな感じであちこちの世界に俺みたいなヤツを落としたのが『応急措置』な? 細かい個別対応も、アフターサービスも一切なし。自力で頑張るしかないってわけだ。だから、俺がこの世界に慣れるか、おっさんより頼れる相手を見つけるまではよろしく頼むわ!」
「ワシに拒否権は無いのか?」
「言論の自由の範囲は往々にして思想の自由より範囲が狭いもんだよ?」
「ワシ程度でこの報いというなら、人を殺したヤツはどんな報いを受けるというのだろうな? 考えるだけでも恐ろしい・・・。」
「まあな、おっさんは横領とかの金メインだもんな。」
「何故知っている!」
「ん? なんかポケットにメモが入ってた。特別サービスかね?」
「こうなったら、街に一刻も早く行って、他の誰かに押し付けてやる!」
「出来れば美人の姉ちゃんがいいな。よろしくー!」
「そんな相手はワシが紹介して欲しいわ!」
「まあ、そうだろうね?」
「納得されるのも屈辱だな・・・。」
「この世界って魔法とかスキルとかあるんだろ? おっさんなんか持ってんの?」
「『鑑定』を持っている・・・。」
「お、良スキルじゃん。なに凹んでんの?」
「5年前に『鑑定』の付与がなされたメガネが発明されてな。金さえあれば誰でも出来る様になってしまったのだ・・・。初歩の付与ゆえ価格も安い・・・。」
「うわぁ・・・・・・。」
「昔は商人や役人には引っ張りだこのスキルだったのだがな・・・。」
「時間の流れは残酷だねぇ・・・。」
「人の髪を見ながら言うなっ!」
主人公の能力は「複製」でおっさんと組んで質屋を異世界でやるとか考えてました