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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章―魔法―
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【2-1】

 ◇  ◇  ◇


 ――六月某日。

 学校は、そろそろ衣替えの時期であり、それにより今までやや暗かった廊下がだんだんと明るくなっていく。俺は格別熱さには苦手ということはないのでまだ冬服のままでいる。

 我が桜藤学園の高等部は男女共に紺色のブレザーで、その中はシャツ、女子はブラウスとなってい、そこにネクタイかリボンタイをつけることになっている。女子に限ってはスカートかパンツか自由だが、私立高校なのでごく一般的といえばそのとおりだ。

「最近一気に熱くなったよね、リョー」隣りで並んで歩く陽希はるきはもう半袖のブラウスに袖を通している。

 さっきまでは一人で登校していたが、後ろから陽希が声をかけてきて、そのまま歩いてきている。

「そうだな。でもまだ夏服には早すぎやしないか?」

「いやいや、もうそろそろ替えといた方が楽かなって思って。ブレザーだから早めにクリーニングに出したいし。それに周りちゃんと見よう」

 言葉に従って辺りを見回すと、数十名学生が居、その中、見た感じ約六割ほどが夏服を着ていた。確かに夏服のほうが比率は大きいが、それだけで「夏服を着るべきか?」

 と聞くと、

「いいの! 私は夏服が良かったんだから! 個人の自由だよ」

 だそうだ。

 そうだな、個人の自由だな。と適当に返すとおもいっきり背中を叩かれた。平手で。

「った! 結構力あるな」「それ、女子に言っちゃいけないーー!」「あーー、分かった分かった」 「返事ははい、で一回!」「はいはい」「言ったそばからーー!」

 なんて他愛のない話をしていたら、後ろから軽く背中を叩かれた。

「なにいちゃついてんや、リョー。傍からみたらただの痴話喧嘩やで」皇貴だ。思わず苦笑いしてしまう。

「決していちゃついてないからな」いったて冷静に返す。陽希は赤くなって俯いている。少しだが。フォローする意味でそう言ったのだが、陽希は気に入らなかったのか、その頬を膨らませている、ような気がした。……考えすぎか。

「そうだよ。世間話でヒートアップしただけだもん!」……陽希、そこで意地を見せなくてもいいだろうに。自分の首絞めるぞ。特にこいつには。

「そうなんや。じゃあなに話しっとんたんや?」意地悪い笑顔で聞く。

「……そ、れは……」

「言えんようなことやったんか?」

「違う。次のテストの時事ででそうなのを予想し合っていた。武器貿易についての関税がどうなるか、それともスポーツネタか。社会情勢は得意な方だが、俺はスポーツはあまり得意じゃないからな。だから聞いてたら、両方知っている選手がいたから盛り上がっていたんだ」

「誰や?」

「スポーツチャンバラの得物自由の外国の選手だ。名前は……」

「ジャン=クリスチャン。アメリカの人で得意は楯小太刀で、異種には二刀で出ることが多いんだよね」陽希に分かって良かった。普通にぼちぼち有名なだけで、興味のない人間は一切見ない。噂すらしないだろう。偶然、俺は瞬さんに勉強のために見るように勧められたので知っていたが、まさかそんな武器で殴り合う競技を陽希が見ているとは思わなかった。

「そうかいな、そりゃ良かったわ」もう適当な返事をしだす皇貴だ。自分で話を振っておきながら、なんで下衆外道な人間だ。

 もう校門に近付き、ちらほら吹奏楽部の音が聞こえてくる。朝からお疲れ様です、と内心で敬礼しておく。軽音部には朝連なんてないから少し羨ましかったり……はしない。朝早くから楽器を弾くのは少し疲れるからな。

「まあ、そういうことだ」俺は難なく、いつも通りに校門を潜り、自分の教室の棟であるS2棟の玄関に向かう。校門から駐輪場を横目に中庭に向かい右に曲がり二つの棟が見え、そのまた右側がS2棟だ。

 この学校は少し変わったつくりをしていて、綺麗な直方体の敷地をしているがそのなかの右端にあたる北西部分にC棟こと管理棟がありそのすぐ東側に体育館と講堂がくっ付いたものがある。その南にカクカクにしたSのような形のS棟が並ぶ。Sの所謂上の曲線部分はS1棟となっていて、主に三年が遣っている。三階建てだ。

 Sの曲線と曲線の間の線は渡り廊下で三階建て、その上も通れるようになっている。

 そして下の曲線がS2棟だ。一、二年が使い、四回建てとなっている。部室や移動教室系の教室もこちらに集中している。

 その南に渡り廊下があり、それは食堂につながっている。

 少し余ったスペースにT棟という天井が高めの主に戦闘技術の授業をする棟がある。

 運動場はないが、余分なものは全て取り払ったような作りになっている。

「そういうこと、ってどういう事や、リョー?」

「少しは黙れ」

 皇貴は校門を抜けてからこの玄関に着くまでずっとそう連呼している。

「お前は一つ覚えの猿か?」少しきつめに言わないと皇貴は調子にのるからな。ちゃんと言わなくては。


 ◇  ◇  ◇


「おはよー」陽希はいつも通りの元気さで教室に入っていった。俺もその後ろで小さく同じ言葉をいうが、反応はやはり違う。クラスの中で中心的存在が陽希で俺はただのクラスメートみたいな扱いなのだ。よくても「黒鉄くん? ああ、頭良いよね。それに戦闘技術の成績トップだよねー。すごいねー」だろう。つまり扱いが存在だけが確認されているが意味の分かっていない遺産だ。

「ハルキーー!! 宿題やった?」「やってなーーい!!」「じゃ、速く終わらせよーー」「おおーーー!」「ああ、オレもだ! 室長教えて!」室長とは全時代で言う所のクラス長だ。「それぐらい自分でやりなさい!」

 このように家でやるはずの課題をやらずに来、やってきた奴のを写すだけなのだ。それでは課題の意味がまったくない。

「リョー、見せてくれ」皇貴だ。

「殴ったろうか?」

「なんでや? オレがなにしたっていうんや?」

「課題は自分でやるために課せられたものだぞ」

「知らんわ。課題はダチと一緒に協力して完成させる友情の結晶やろ?」気持ち悪いな、こいつは。

「自分でやれよな」

「だからな、教えてくれよ」

「教えるだけなら良いけど、見せはしないぞ」まあ、それぐらいはいいだろう。分からないことは聞け、と瞬さんには言われ続けているから、この場合も良いだろう。

「お、おう」すると皇貴は自分の机からプリントを持ってきて、俺の席に広げた。「これなんやけどな、これの解き方は?」

 まあ、分からないところがちょっとな、「……これ中学の範囲だぞ」「マジか……」「嘘言ってどうするんだ?」低俗というかレベルの低いというか。

「私もーーー」陽希も加わってなんだか、ちょっとな。めんどくさいことになってきたぞ。数学はあまり得意ではないのだが。



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