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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第1章―始まり―
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【1-6】

 ◇  ◇  ◇


「やっと帰れるね。ほんと大変だよ、教師って」隣りに並び歩く律が言った。

 先ほどあった、モンスターの出現により、緊急の職員会議が行われた。俺と律は桜藤学園の二年三組の担任副担任であり、さきほどの事件に巻き込まれた生徒がいるかいないかの確認をした。端的に言えば電話をかけるだけだ。しかし、一クラスにつきやく三十人、二人でやっても十五人。一人あたり一、二分だとしても三十分ほどかかる。それから校長に連絡していろいろと事務的作業をしたら、まあ約一時間かかった。ようやく校門を抜けた所だ。

「いいだろ。被害が少なかったから」俺は念のためにいつも持っているショルダーサックに先ほどのナイフとダガーを仕込ませている。銃刀法があえるとはいえ最近は大分緩和され『護身の為』の武器は許されている。破ったら禁固何年とかいう問題でもなくなるが。

「それもそうだね。ほんとに怖い世の中だよね。私たちが子どもの時はもっと平和だったよね」

「そうだな……それよりも最近が激化し続けているだけだな。やつらの発生が、な」付け加えて言う。実際最近はほぼ毎日駆り出されてるような気がする。

「……うん。ほんと怖いよ」

「でも大丈夫だろ。国営ギルドとか他のギルドの人達が倒してくれるでしょ。まあ人任せばかりじゃだめなんだろうが」

 すると律は口角を上げ、「そうだね」と無理に言った。

 残念なことが一つあった。

 先ほどの事件で一人生徒が死んだ。最初に遭遇した人のなかにいて、国立のほうから連絡が来た。幸い遺体は比較的綺麗な状態で出てきたので、その点は良いが、生徒が一人死んで、しかもその生徒は軽音部、律が顧問の生徒だったのだ。とても真面目な生徒で結構楽器もうまい生徒だったらしい。

 そのことを聞いて律は暫く黙っていたが、ふっきれたのか、今は明るく振るまおうとしているのが手に取るようにわかる。こいつとは付き合いが長いし、なんというかまあ好きだし、考えていることは分かって当然だ。

「まあ、めげるな……っていうのは一番駄目か。……ううん、今日は呑もう! コンビニ寄ってくぞ、今日は」強引に律の手を引いて歩いて行く。

「ちょっ、こけちゃう! 無理に引っ張んないでよ!」

「大丈夫大丈夫」「私たちもう大人だから! 恥ずかしいって!」「知らん知らん」はっきり言って俺も恥ずかしいよ。「……もう。いつまでたっても瞬は瞬だね」

 なにか小さく律が呟いたが、あまり聞こえなかったから、そのまま引っ張っていく。なにも言わないということは、特に問題はないのだろう。

 さて今日は何を呑みましょうか。


 ◇  ◇  ◇


「やっぱりねぇ、最近の街はおかしいよ! 管理が杜撰ずさんなくせに厳しくしてますオーラ放っちゃっていて、しかもそれも威張ってばっかのバカの集まりがしかも、それがどうしてもやっぱり、そうだよね、うん」

 律は何を基準として解決させたのだろうか。まず支離目茶苦茶な理論をぶちまけ、しかもそもそもの言葉遣いが間違えているので、見たとおりの酔っ払いとなっている。

 流石にウイスキーをロックでガバガバ止まらず呑み、もう二本目も空になりかけている。それなのに旧時代の父親みたいな「もっと酒持って来いーー!」とか言っているし、明日も仕事あるのにだいじょうぶなのだろうか。

 俺はあまり強い方ではないのでチビチビ呑んでいる。

「そろそろ、やめとけよ。明日はどうすんだよ? 生徒の前で酒の匂い散らかすのか?」

「それでいいのよーー。どうせ私はただの音楽教師ですからねー」なんか言われたな、今日。

「ほら、下手したら死ぬから、そろそろ、な」

「知らん! 死なん!」バタッ、とそのまま倒れ込むように律は寝た。座高の低い机を絨毯の上に置いて、クッションの上に座っているので、そのまま机に突っ伏した。

「ほら、風邪引くぞ」肩を揺すっても起きないようなので、そのままにして奥の部屋からブランケットを持ってきてそれを肩にかけてやった。

「……全く。いい歳して、酔っぱらってんじゃないよ」もう俺たちは二十六になるのだ。流石に酒に負けるような歳でもないだろう。どんな下戸でも酔っぱらない程度に抑えようとするだう、普通。「俺はもうちょっと呑んで寝るかな」グラスにウイスキーを少々入れてサイダー割りで呑む。俺は舌が子どもだな。サイダー大好きです、はい。

 そんなことを思いながらまたチビチビと呑んでいたら呼び鈴が鳴った。ビーー、と古いベルなので音が軽く割れていて、しかも騒々しい音なので律が起きないか心配になったが、まあ起きなかったのでよかった。起きたらまた律によって騒々しくなる。

 しかし、軽く時計に目を配らせると短針はもう十二を指している。こんな時間に誰だ、と玄関に行き、ドアを開ける。


「こんばんは、シュン=キタ、さん……?」


 温和な頬笑みを浮かべる少女がいた。

 しかし、まず言うことは。

「……家はどこだ? 送ってやるから。こんな深夜に出歩いて、駄目だろ」

 冷静に、かつ教師としてしなくてはいけないことを把握し、それを言った。しかし、

「ち、違う、違いますよ! ワタシは使いで来たアヤメ=ニシムラです! 手紙来てませんか?」

 手紙というと、お昼に届いたやつだろうか? だとしたら、あの写真の娘か? 確かに面影……いや、暗いから分かりづらかったが本人だろう。肩にかかるかかからないか程の短めの金髪を軽めに跳ねさせている。可愛らしい顔をしているところを見ると中学生か高校生ぐらいだろう。

「なにが違う? そんなことよりもどこだ、家は?」

「うう……、家にあたるものは長野にあるけど、それは問題じゃありません!」

「いや、それは問題だ。長野っていうと今日のお昼位に出てやっと着いたくらいか?」

「はい、たしかにそうです、けど違います。まず入れてください」

「家にか? 酒臭いぞ」玄関まで酒の匂いがしてくるほど匂いがする。

「大丈夫です。じゃあ、おじゃまします。靴は、脱ぎますね?」遠慮なしでずかずかと彼女は入ってくる。それを止める為に彼女の腕を掴みそれにより彼女が小さな悲鳴を上げたところで、奥から声が聞こえてきた。

「シュンくーーん! もう一本ーー!」律が右腕を高らかに上げ、声を上げていた。思わず掴んでいた手を離しドアを閉め、鍵をかけた。「律、うるさい! 近所迷惑だろ!」

「知らなーい! とにかくあと一本頂戴よーー」

「だから、寝ろ! ……ごめんな、えっとアヤメ、あいつの酒癖悪いんだよな。あと腕大丈夫か? ちょっと力入れすぎた」

「だ、大丈夫です。勝手に入ろうとしたからですよね? 許可、ちゃんともらってませんもんね。でも、まあ、入っちゃったんでもういいですよね?」確かに筋が通って、いや通ってなさすぎる。まずは、

「なぜここに?」

「分かりません」あっさりと答えられた。

「じゃあなんでわかんないんだ?」

「ただの指令なんで詳しく分かりません。貴方ならこの気持ち分かるはずです」目をみてはっきりと彼女は述べた。

「じゃあ、知っているのか……?」彼女は頬笑み、首を少し、ほんの数度ほど傾けた。肯定と受け取って良いのだろう。

 だとすると、ギルド長からの手回しなのだろうか? 一応俺はギルドの中では新人の教育係のような扱いになっている。理由は簡単なことで、組んだ人間が死んだことないというのと戦闘技術の教員免許を持っているということだ。だとすると若すぎる新人だな、なんて思うのは少々知慮浅すぎる。こんな時代で孤児になる子どもは五万といる。そんな子どもがほぼ一人で生計を立てようとするなら必然的に普通のバイトか、少々腕が立つならギルドで親の敵でも討ってやろうかなんて考えるのだろう。実際俺も似たような理由でギルド、()いては戦闘技術を学ぶ事にした。

 しかし、直接ギルド《EVERSOR》からの回し者なのかをを聞けるはずもないので、この話はここまでにしておこう。

「それじゃあ、ホテルとか借家とかとってないのか、アヤメは」

「うん。はい。そうです。ここに行けとしか書いていなかったんで」困ったように申し訳なさそうに彼女は言った。実際彼女は悪くはないだろう。

「まあ、女の子に野宿させるわけにはいかないしな、暫くここに居座りな。それと学校はどこだ?」

 そう聞くと彼女は首を大げさに傾げ、いや彼女は大げさにしている気はないのだろうが、「学校?」と聞いてきた。

「いえ、学校は分かるんですけど、そういう一般的にいわれる教育機関に属したことはないんです」

「いや、嘘だろ?」普通、日本国籍をもっているのならば、小中学校に通わなければいけない(正確には通わされなければいけない)のだがそのような、彼女の言葉を借りるならば教育機関に属したことがない、というと戸籍がないということを意味する、はずだ。あまり法には詳しくないので断言はできないが。

 しかし彼女は嘘を言っているような感じではない。会って数分でその人物の人格や性格、思考が理解できるわけではないが、彼女は裏表がないような感じがする、というか嘘が下手な雰囲気があるので、その放つ言葉には信頼できるだろう。つまり、

「……本当にいったことないんだな? 勉強、というか中学程度の学力があればうちに通わせれるんだけどな。アヤメは勉強好きか嫌いかで聞かれたらどっちだ?」

「苦手ではないですよ。嫌いでもないです」わざわざ逆説で言わなくても良いであろうに。

「それじゃ、手続き取るけどいいか? 住所言えば大体どの辺にあるかわかるか? というか携帯か何か持ってるか?」

「わかりますよ。住所があれば大抵の場所は。流石にまだエリア制には慣れきれていませんけど、標識とか見れば分かるんで」彼女は当然のことを言うかのように答えた。普通女性は地図に弱いというのに珍しいものだ。しかし携帯の方には一切触れずに進んでいった。

「じゃあいいな。決定。入学の手続き取ってみるな。俺も奥のリビングで寝てるのも一応同じ所で教師してるから、なんか困っても大丈夫だからな」

「はい。分かりました。ありがとうございます」

 彼女は笑い、頷いた。

「……その前に、寝る場所どうしような?」

 数十分後、結局律とアヤメが俺のベット、俺はリビングのソファで寝ることになった。俺の意見はなく、酔っぱらいの案のみが採用された。まあそれ以外に案はないけど。

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