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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第1章―始まり―
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【1-3】

 ◇  ◇  ◇


「なんだこれは?」俺は携帯に送られてきたメールを見て驚愕する。宛て主はギルド本部。この13地区の一部でモンスターの観測をしたとのこと。しかもこの学校も含まれているらしい。しかし“人の前で”モンスターに手を出すなとのこと。

 すなわちさっさと行けということだろう。

 ……正直めんどくさい。俺の得物は日本刀、持ち運びに手間のかかる武器だ。最近は武器の収納の研究が進み、データ化しそれを再現することもできるらしいのだが、日本刀のような伝統的な武器はそのようなものに対応してないのだ。まあ、俺のはそこまで優れた武器であるとは言えないが。気にいっているから良いだろう。

「瞬くん、閉じ込められたみたいだね。どうする?」後ろで束ねた茶髪を揺らしながら律は言った。「そうだな……」

「どうしたの? 体調悪いの?」周りにいる他の教師は各々の携帯を使ってメールを送っているようだ。おそらく家族か予定が入っていた人に謝罪のメールを送っているのだろう。中には電話をしている人もいる。

「……非常事態かな?」

「それ以外考えられないよな、瞬くん。何年この街にいるの?」

「中学入るちょっと前かな」「さて、どうする?」「だよな……ちょっと様子見てくるわ。生徒いたら一応守んないとな。そのための戦闘技術だしな」

「使えるの?」「俺の強さ分かってるだろ?」振り向かず手を上げる。「すぐ戻るから心配すんな、律」もー、と聞こえたがまあいいだろう。俺の『仕事』だしな。


 ◇  ◇  ◇


「しかしまあ、めんどくさいことになったなぁ」皇貴がポツリと言った。確かに面倒だ。この状況下、国立ギルドのメンバーが迅速に事態の収束に努めなければ一向に家に帰られない。

 ギルドは現在、主に二つに分けられる。まずは最も日本で多い私立のギルドだ。俺の属するギルドもこれにあたり、小規模のものから俺の所と同じように東京中にネットワークが張り巡らされている大規模な私立ギルドも存在する。

 もう一つが国立ギルドだ。その名が示す通り国が設立したギルドだ。このギルドは東京に限らず日本中にネットワークが存在する。

 我がギルド『EVORSOR』はトップが色々な所に顔が利くため聞いたのだが、国立ギルドは様々な機関に影で手を回しているらしい。今は特にモンスター駆除に重きを置いているらしいが、一昔前は国内は私立ギルドに任せ、かつての自衛隊のように海外派遣に力を入れていた。

 しかし、俺が思うに仕事が遅い。やはりギルドの財力によって人の数が変わり、多くなればそれだけ動かすのに時間がかかるのは仕方がないことだ。しかしだ。現在、あのブザーが鳴ってからもう三十分が経とうとしている。三十分あれば俺と『スパダさん』で駆除出来ているだろう。あり得ないが生半可なテロリストだったら倒せている。

 それが出来ていないのだ。

「リョー、怖い顔してるよ。もっとニッコリ笑ってー」赤っぽい目を爛々と輝かせ俺を見てきた。俯いていたので覗き込むような形になっている。皇貴を見たらニヤニヤと笑っている。

「……そうだったか? 気付かなかった。ボーッとしてたかもな」目で皇貴を殺気を浴びせた。

「バイトいいの?」

「もう連絡済ませてある。快く了承してくれた」陽希の瞳を見つめて言った。まあ、バレてもいいや、なんて楽観的に思ってしまった。ダメだダメだ。言ったらどうなるか分かっているだろう?

「さて、ちょっと情報聞き出してくるわ。お前ら待っててな」

 二人に向かい言いすぐに門の方へ向かう。──さて『仕事』かな。


 ◇  ◇  ◇


「この辺だよな」辺りを見回しながら呟く。誰かに確かめるわけではないが自分自身に聞くかのように呟いた。

 ここはエリア13のとある公園。石畳の道で区切られた芝があり、ベンチや木が点在している。普段ならまちまち人がいるはずなのだが、今は仕切られていて、この周辺には入ってこれないようになっている。――まあ目を盗んで入ってくる俺みたいな奴もいるのだが。

「療、何してんだ?」

「ばれてましたか。流石はスパダさんです」「スパダ呼ぶな。気分悪いから。言われても嬉しくない」

 後ろから無音で歩いてくるのは俺の担当するクラスの生徒の一人である黒鉄(くろがね)療だ。因みに同じギルドに所属しているため、彼が中学のときからの知り合いだ。

「お前もこのあたりだと思ったか? まあ、分かるか」

「ですね。この独特の空気というか、乾燥した寒さ、――初冬の夜のような空気ですね」

 ああ、と返事をする。そうモンスターは独特の空気を連れて現れる。それは人によって感じ方が違うが、少々温度が下がるような気がするのだ。実際細かい温度まで測ることのできる温度計を使うと少しばかり温度が下がっていることが分かっている。――そのため一昔前は騒々しい幽霊(ポルターガイスト)と呼ばれてもいた。

「武器はそれ使うんですか?」黒鉄は俺の腰を見ながら言った。

「ああ。まあ刀以外はこれぐらいしか使いこなせないしな」軽くその武器に触れながら言う。腰には二本の短剣、少し反りのある片刃のファイティングナイフ、もう片方は反りのない諸刃のダガーだ。それなりに切れ味はある方だ。この二本は護身用にと持ってきてあるナイフで、まさかモンスター用に使うとは思いもしなかった。まあ備えあれば憂いなしで買ったものだし、こっちにしたら少しは役に立ったかな、ぐらいにしか思っていない。「いざ、ってときはお前に任せるぞ。これじゃ多分心臓まで届かないと思う」「まあ、そうでしょうね」

 黒鉄はポケットに片手を突っ込み軽く立っている。隙が見当たらない。軽くとはいえども周りの気配に気配っているらしく目は正面に焦点を合わせていない。

「――来ますね、展開」黒鉄はポケットから手を出し、その人差し指と中指の間には一枚のカードのようなものがはさまれていた。それは黒鉄の声に反応して光を帯びたと思ったら、棒状になり、その先から大きな刃が出てきた。まるで死神が持つような大鎌だ。「お前はいいな、持ち運びが(らく)そうで」「そうですね」黒鉄は適当に流して、また軽く構えた。

 彼がこの仕事をするようになってからまだ三、四年でここまで綺麗で自然な構えをできるようにはもう才能以外感じない。俺も反りのあるナイフを右手に持ち、軽くそれを振る。

「――よし、行くか」

「はい」


 五十メートルほど南に行くと、奴を見つけた。俺たちはエリア13のなかでも南部の方にいたため、もうほぼ東京から出るような位置だ。波音も少し聞こえる。

 奴は南の方をじっと見つめ、制止していた。まる絵画のような景色だ。

 モンスターは大きく分けて三種類ある。一つが動物型(BETE)。その名の通り四足獣のフォルムをとっているモンスターだ。二つ目に幻獣型(IMAGINAIRE)。これも同じく名前の通り、実際には存在しなかったモノのフォルムをとっている。例えば西洋竜(ドラゴン)一角獣(ユニコーン)などだ。

 もう一つが今前方にいる 人型 (HUMANONIDE)だ。これも同様に名前のまま、人の形をとっている。しかし、ほぼそのままの人型をとっているのである程度経験を積んだ者が最も苦労する相手だといわれている。なぜならやはり人の形を取るからというのもあるが、その最も厄介な所は知能が発達しているということだろう。人語を理解しそれを喋り惑わすのだ。一説によるとこのモンスターは他とは違う変化の仕方をしたのだろうと言われている。例えば、『ヒトの慣れ果て』など。まあ、まだまだモンスターのことは分かり切っていないので何とも言えないのだが。

「療はいつも通り後方支援でな。相手の隙に詰め入ってくれ」

「了解しました」黒鉄は少し穂先――鎌なのでを刃先なのか?――を上げ、全身に力を送り始めた。

「……十秒後突撃してくれ」左の反りの少ないダガーを抜く。「七……六」体の力を黒鉄とは対照的に抜き、前屈姿勢になる。「……五……四」足に力を送り、一気に跳躍するように地面を滑る。もうカウントダウンはしない。後ろでは黒鉄がまだカウントダウンしているだろう。

「……奮ッ!!」左右の短剣を揃えて平行に袈裟斬りを後ろからしかける。奴は俺の間合い詰めを察したのか振り向き、それと同時に二つの剣筋を腕で受け止めた。しかしここで止まるわけがない。

 腕が金属だったので俺の短剣は上に弾かれている。即ち胴が空いている。しかしすぐさま左のナイフを体に引き、右のダガーを弾かれた勢いを利用して肩の後ろに持っていき、無理な角度から腰を入れて水平斬りの要領で振る。

 それには対応しきれなかったのか、避けられずに当たった。しかし少し浅い。死角から入っていたのにそれを感じ取り咄嗟に身体を引いたのは凄い事だと思う。ヒトにはできることではない。しかし、こいつも甘い。こっちにはもう一人いるのだ。

「……チッ!!」黒鉄は鎌を下から払い上げる。それはまともに胴を捉え普通なら身体は二つになるのだが、奴は分断されても切り口から触手のようなものを出しそれを変形させ脚にしてしまった。それが約二秒。

「……まだまだ、だッ!」少し態勢が後ろになっている奴の人間で言う所の胸骨に左のナイフで突く。突く。突く。突く。突く。突く。突く。突く。計八回突く。流石に穴だらけになるが、すぐに触手のようなもので、回復(リカバリー)する。

 しかし、回復とほぼ同時に黒鉄は首を()ね飛ばす。(コア)とよばれる他の生物でいうところの心臓は頭か胸にあるので大抵はその二つを攻撃すればモンスターは(たお)せるのだが、また再生した。ない所に触手が集まり頭を作りだすという奇妙な光景を見せてくれた。

「療!! 同時に頭と胸攻撃するぞ!! 多分二つある」黒鉄は軽く頷き、口を開けた。「……三、」タイミングを取っているのだ。もうどちらがどちらを攻撃するか分かっている。俺は心臓部に突き、黒鉄は首かその少し上だろう。

「……二……一……ゼロ!!」丁度同じタイミングで突きと払いが噛み合い、奴はバラバラになった。

「……はあ、終わったな」奴はそのまま固まり、ゆっくりと砂のようになっていった。

「はい。楽な仕事でしたね」「給料出ないぞ。つか命令無視だし、国立ギルドにとやかく言われる上層にも頭下げとこうな」黒鉄は口に手を当て、笑った。苦笑だが。

「……陽希(はるき)にも謝らないとな」彼はボソッと呟き、すぐに前を向いた。「……処理班来ますね。国立ギルドの」自重気味に目を伏せ、「……だな」俺たちは呟いた。



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