表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章―魔法―
17/134

【2-9】

 ◇  ◇  ◇


「お待たせしました、北さん。今日は、また派手にやりましたね」処理班の人が泣き顔でやってきた。時刻は二時半ほどだ。連絡を入れたのが二時になる少し前だったので、すぐさま本部を発ったのだろう。とすると、もう準備していたのだろう。

 来た処理班は十三人で、それぞれ大きな鞄を背負っている。その中には大量の薬剤(血を消す薬剤や臭いを消す薬剤などいろいろ)か現場に近づけさせない為の所謂「KEEP OUT」の電子版(端末でつなぐ位置と位置をスキャンする使用になっている)が入っているらしい。これは処理班の知り合いに聞いたので確かなことだ。

「すまないな。いつも通り派手にやらせてもらったよ」悪気のない声で瞬さんは謝った。

「いえ、いいですよ」彼ら処理班の人々はもう諦めているようだ。

「じゃあ、よろしくな」

「はい」

 俺たちはその場をすぐさま離れた。


「しかし、こんなことずっと続けているんですか?」綾芽が突然と言った。

「ああ、そうだよ。俺は十年ちょっと、療は三年ぐらいやっているな」そう言えばもうそれぐらいになるのだろう。俺は十三歳からやっているのでそれぐらいになるだろう。まったく時が進むのは速いものだ。

「すごいですね。ワタシなんて、怖くて動けなかったのに」

「そんなことないさ。俺らだって怖い。死ぬか生きるかだしな」結構重い話を瞬さんは飄々と言うものだ。らしいといえばらしいのだが。

「……そうですね」彼女が呟くと、また風が動いた。『あの』風だ。


「ぎゃぁぁぁああああ!!!!」


 耳がぶち壊れるかと思うほどの悲鳴が聞こえてきた。音源は背中。先ほどまで俺たちがいた所だと思われる。

「何ごとだ?」瞬さんと俺は目を合わせて、また声のしてきた方向を見た。

 しばし沈黙が訪れ、「……行くしかないですよね。処理班が心配です」「だな。綾芽、お前も付いてきてくれると助かる」「うん、分かった」


「まさかな……」瞬さんはその有り様を見て驚いた。と言うよりは何も言えなくなっている。

 目の前には先ほどまでのモンスターの血はほぼなくなっていたのだが、人間の血はそうではなかった。前はなかったが、今はそれがそこらじゅうに散らばっている。木は、暗くて分かりにくいが、赤く染まっている。

「まだ生きてる人はいるはずです。手分けして探しましょう」

 他二人は頷き、早速行動に移した。

「大丈夫ですか?」俺は身近にいた、息を残した人に話しかけた。

「……ああ、なんとかな」話しかけたその人は俺も良く知っている人だった。その顔は血に塗れているけれど。「この通り左足、右腕が持ってかれた」彼はその痛々しい怪我を見せながら言った。

 怪我痕から想像するに、これは衝撃波、強いては爆弾のようなものでそのまま吹き飛んだような感じだ。パワーでいうとそこそこあるもので、これは怖いものだと思う。

「どんなやつでしたか?」

「そうだな、所謂ヒト型だった。それも寸分違いないほど綺麗な人の形をしていた」

 そうですか、じゃあ、助け呼ぶんでそのまま待機しててください、と彼に伝え、そして、前を見る。前にはやはり血、血血、血血血血、血血血血血血血、赤、赤赤、赤赤赤赤赤。気持ち悪くなってくる。

 この血の量からするに死んだ者もいただろう。恐らく五、六人ほど。

 無意識に奥歯から鈍い音が出ていて、拳も握りすぎて痛かった。

「瞬さん」俺は彼に近寄り、「さっさと倒しちゃいましょう。残業です」と促す。「だな」彼はもう抜刀する寸前だった。「……ちょっと、思考も何もないようなやつにするのはおかしな事かもしれないけれど、腹立たしいな」彼も何やら……怒っている? ように見える。俺もすぐに武器を取り出し、臨戦態勢を取る。

「やつはレーダーに反応しているか?」「反応ないですね。でも、なんとなく影は見えますよね? 目視できてレーダー反応はないとなると、まるで昔の兵器であったステルス機のようですね」「昔な……そうとう昔の話だけどな」「ですね」「ひとまず目に見える敵を倒せるだけ倒そう。できることはそれぐらいしかないからな」はい、小さく頷き、疾く走る。ひたすら速く、加速していく。


 ◇  ◇  ◇


 ――不思議な世界を見せましょう。

 魔術の創始者はそう言ったらしい。彼は二十に入ったころ、その力に目覚め、それをメディアに流したという。その当初はたんなる手品だろう、と揶揄されていた。しかし、それが五年もたったころ、ひたすら勉強をした彼はまた大々的に発表をした。それは今となってはできて当たり前のものだが、『治癒魔法』だ。それができた当初、魔法の素質が全くないような人間も、メディアの取り立てによって大いに話題になった。ニュース番組や新聞、ネットでの掲示板など様々な所で叩かれた。それを実行するためにした方法はまず自分の腕を自らの業で木端微塵にして、それを治癒させたのだ。そのざまは素晴らしかったという。いまでも魔術史に残っているものだ。ないものがだんだんと現れ、そして全く同じものが出来上がったという。当時の遺伝子学の判定によっても、遺伝子情報は全く同じものだったらしい。

 しかし、そこまでしても魔術は「正気の沙汰ではない」と言われたり、「人の為す業ではない」や「悪魔の成すこと」だとも言われていた。

 そうとはいうけれど、それを学ぼうとする人は多数いた。そのおかげで、中途分裂はしたが、今でも残っているものになっている。それはまた宗教のように残っている。二千年強も残っているような宗教やそれの二倍はある神話と比べる気にはなれないが、そもそも魔術の起源はある種、宗教的もしくは神話的寓話がもとになっている場合が多いので、それも当然のことなのだろう。

 ワタシは以前にもなんどか言ったが、魔術師になった理由は至って普通で、それは『強くあること』である。そのためにワタシの持つ魔術は強くあるために他人に流されず、しかし自然に身を任せる『為すがまま』な本質がある。しかしその創始者である彼はその身に『生み出す』力と『打ち壊す』力を宿したという。相反する力、例えば陽と陰、火と水、光と闇、黒と白、象徴的なものであれそれは互いに反し合うものなのに、彼はその力を使いこなし、今でも『最強の魔術師』なんて呼ばれている。最強なんて言い方は弱そうに聞こえなくもないが、ワタシも彼のシミュレーターで戦ったことがあるのだが、最弱レベルでも到底及ばなかった。やはり彼を形容するにはどちらかというと『無敵』のほうが良いのだろう。

 ともあれ、今は魔術師としてモンスターに対峙しつつある。魔術は攻撃や戦いのためのものが多い。というより九割近くがその類なのだ。とするならばだ。魔術はこの為に生まれたのではないかと考えつつある。

「綾芽、そっちの人よろしく」療さんに治癒魔法を頼まれた。

「はい。わかったよ」すぐに媒体を取りだし、呪文を詠唱し始める。彼の無敵で最強な彼が作り出した研究に成果を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ