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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章―魔法―
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【2-7】

 とても驚いた。

 まさか、このような力があっても良いのだろうか、というそういう根本的な問題ではなく、まさか『あれ』が体系化されているとは思わなかったのだ。

 俺は齢十六にてギルドに加入し、そしてモンスター対峙をしている。そのより以前の小学生の時から微弱ながら、その体系化されていた力を知らずに使っていた。

 その体系化されていた力とは、『魔法』というらしい。それはその言葉のとおりで、子どもの時に想像したとおりのあの魔法だ。

 俺が使っていたというものの分類は、身体全体に魔力を張り巡らせて、その巡った魔力で身体を強化する、といったものらしい。綾芽はそれを『Qigong』――即ち気功と呼んでいる。

 その呼び方はとても意を射た表現で、俺の使い方や自分のその能力の理解の仕方がそれに近かった。

「使い方も分かっているようだしシュンさんはいいですね。リョウくんは魔力が分からないね」ワタシは見聞系の能力は皆無に等しいから。どちらかというと『引き出す』のがワタシの力だからね。と続けた。

「その、なんだ、魔力を使って俺は今まで戦っていたわけだが、今まで通りの戦い方でもいいんだよな」

「うん。というか、それ以外に戦う術はないですよね?」もうなんだか敬語とそうじゃないのが混じっているのが慣れてきた。

「療だってあるんだろ、魔力。ならなんで使えないんだ?」

「それは分からない」なぜか彼女は目を逸らし、呟いた。目を逸らした、ということは即ちなにか隠すような事があったのだろうか? 例えば、本当は魔力がありません、とか、適当に言っているだけだとかなのだろうか。

「まあ、今はいいか。気にしていたら、戦闘に支障をきたす。忘れとけよ、リョウ」

「はい」興味なさそうな伏せ目で黒鉄は頷き、左手首を見た。「……そろそろ時間ですね」

 時計の針は、約束の時間まであと数秒を指していた。

「移動だな。道中気を付けるように。今日のターゲットはモンスター一体。人型、もしくはそれに準ずるモノ。武器は被害状況から刃物と鈍器の二種類を所持とのこと、だ。まあ、いつも通りで大丈夫だろう」

 はい、と黒鉄は先ほどより心持ち大きな声で返事をした。

「もっと細かい魔法の話はまたしますね。説明しきれないから」

 最後に彼女は付け加えた。


 ◇  ◇  ◇


 夜風が涼しい。

 もう夏になるというのに、熱帯夜はほとんど存在しない言葉だけのものという解釈になりつつある。モンスターが現れた辺りからそれまでもおかしかった気候はさらに狂った。いや狂ったというよりは『整った』というのが正しいのだろう。季節のあいまいな境目である土用はないものに等しくなり、春夏秋冬が綺麗に区別されるようになった。まあモンスターの出現以降から生まれている俺たち、いや今生きている人は大抵あいまいな季節の存在を体感したことのある者は全くいないので、なんとも言えないのだが。

 そうとはいえども、世界でその時まで存在していた熱帯夜というものはなくなったのだ。なので夜はどの季節でも過ごしやすい。風も程よく吹き、少し動く程度なら清々しくなる。

「それにしても、今日みたいな日に出てくるとは驚きですね」俺は隣りを走る瞬さんに言う。

「そんなもんだろ。いつ出るか分かんないのがモンスターだ。みたいな認識あるしな」

「それもそうですね」あと、と少し気が躊躇われるが彼女に聞く。その彼女の存在自体も少し驚いていて、まさかこれが運命なのか、と本気でそう思いつつある。「綾芽が住んでいた方でもモンスターは出ていたのか?」

「うーーん……偶にでるぐらいかな。退治にそこまで苦労はしてなかったみたいですよ」彼女は俺がなにを考えていようが関係なしに、普通に答えた。

「そうか。長野だったよな? 地方は安全なんですかね? これを期に引っ越しでもしますか」

「リョウ。バカげたことは言うな」

「ですよね。はい。ジョークです」

「ならよろしい」


「仲、よろしいんですね、二人とも」綾芽が唐突にその言葉を落とした。

「そ、そうか?」瞬さんは突然な言葉に驚いて変な声で応えた。「まあ、もう四年になるだろ? だからだよ」

「いや、仕事以外も除いて五年です。家庭教師で来てたじゃないですか、教員免許試験が受かるまでは」間違いを訂正する。この人はそういう年号とかに弱いらしい。前聞いた話だ。そして三年前、俺はこのギルドに入隊した。

「そうだな」

「そういうの無頓着なんですね、シュンさんは」

「よく知ってんな、そんな単語。無頓着なんて、高校卒業になるまで使ったことない言葉だよ」

「それは流石に……」流石に絶句モノだ。

「仕方ない。俺は勉強なんて真面目にサボっていたからな」

「真面目にサボるって、矛盾してます」それなのに教員免許取ろう、と思った心は凄いと思う。まあ、今最も需要の高く倍率も高い職業に着くことができた彼は結構授業に真剣に取り組むどころか、自習もそうとう本格的にやっていたのだろう。その点彼はとても尊敬できる。苦しい所や頑張っている所を他人に全く見せようとしないその姿は、俺が目指す道の一つだ。

「ま、気にすんな」


「そろそろですね、目的地に着きますね。――エリア21A-35」

「わざわざそんな番地まで言う必要はないぞ。適当にこの辺だろ、っていうのが分かるだろう。なんて言うか……空気が変わるっていうかさ」

 そう。モンスターが現れるとされる場所は空気が変わる。具体的にこうだ、とは断定しづらいが、流れる空気や気圧温度湿度、血圧脈拍体温体感温度、視覚聴覚嗅覚触覚それに第六感。ありとあらゆる感覚事象が塗り替わるように変わる。それこそ世界がひっくり返るような感覚に陥る。

 しかし、この感覚を瞬さんに言っても、俺はただ単に温度が下がるようにしか感じないけどな、と一蹴された。別に否定するわけでもないけどな、と付け足したが。この会話したのは何年前だろうか?

「この気配が……モンスターなんですね」

 綾芽が小さく感想を呟き、それの姿が見え始めた。

 ――今回は、変な形してるな。

 なんて感想を思えるようになったのも、俺が成長したおかげだろう。

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