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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章―魔法―
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【2-4】

 ◇  ◇  ◇


 10:48.a.m.


 約16フィート位あるであろう明るいこの廊下は、人でごった返していて、歩くのが躊躇われる。ましてや彼らは統一された制服だが、ワタシは普段着なのだ。通常、学校というものは、この国では、多くの人間が集まり、集団行動をするというものらしいのだ。その集団行動の中に統一された制服が必要とされているらしい。どうやらそういう点では昔ながらの日本らしさが残っているようだ。

 しかし、そんな中のワタシは浮いていて、沢山の人に噂されているのがよくわかる。

 しかし、そんなことはどうでも良い。(二回連続でしかしだ……笑えてくる。)

「ワタシはどこに行けばいいのだろうか……」

 それのみだ。それしいか頭にない。

 今朝、学校に着いてシュンと別れてから、そのままワタシは敷地内を彷徨っている。

 校長室に行ってくれと言われたのだが、それがどこにあるのかわからず、だからといって誰かに尋ねるってことももできないし、そんなジレンマにも悩まされている。

 それに複数の声や魔力で気分が悪い。

 ワタシは人のすくない田舎で過ごしていたため、あまり人混みが得意ではないというのがある。一つ目の理由はそれだけだ。しかしそれはまだ耐えられるだろう。

 もう一つの原因である魔力は耐えられそうにない。ワタシは一応、一介の魔術師だ。普通の人間にも魔力は宿っていて、それは東洋思想では『気』と呼ばれたりとして万人に宿る魂や心の形のようなものだ。

 普通の人間はそれを察知したりすることは不可能だ。しかしワタシたち魔術師はそれが可能なのだ。いや可能ではなく、そういう体の作りになっているのだ。そのため沢山の質の違う魔力が飛び交っていることで、少し気分がわるいのだ。現代科学で言う所の3D酔いというやつに近いのだと思う。

 ふぅ、と少し息抜きのために溜息をついたら、後ろから声をかけられた。男の人の声だ。

「大丈夫かい、お嬢さん?」しゃがみ込みワタシの顔を覗きこんだのは、日本人的ではあるが結構のイケメンだと思う。ガタイがいいせいか、歳は同じほどだが、雰囲気はやや歳が上に見える。それに彼の魔力はとても優しい。

「はい、大丈夫です」「そうか。ホンマか? でも見た感じ迷子とちゃうか?」

「……しまった、忘れてた。そうです。迷子です。校長室に行かなくてはいけないのに、どこかわからなくて」すっかり目的を忘れてしまうことだった。

「なるほどな。編入かね、なあリョー」扉の奥にいる人に話しかけた。「あ?」と不機嫌そうな声が返ってくる。「何が?」

「この娘や。私服やし、カワええし、なんかええやん」

「お前さ、ホント恥ずかしくないの? 可愛いとかは良いけど、高校生になってまで『なんかええやん』で片付けるのは、どうかと思うぞ」敷居を跨いでもう一人の少年が出てきた。彼は眼鏡をかけてすこし知的な雰囲気がある。こんな時代なのになんにも染められていないとても綺麗な黒髪だ。でも、一つ疑問が。……魔力を感じない? ないなんてことはないけど、なにかおかしいのか、特異なのか。ワタシはその道のプロではないので断定はできないけど。

「君も気を付けなよ。こいつ女子だと知ったら見境なく『茶しばこけーー!』なんて意味の分からんこと言うし、近付かないのが得策だから」

「う、うん。ありがとう」

「まぁてええええええええぇぇぇぇえええぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!!!」

「煩いから、黙れ」眼鏡の彼がもう一人の彼に思い切り腹にパンチを入れた。ドスッ、と廊下に鳴る。

「い、いてぇな……リョー……おい」

「連れて行ってあげるよ。付いてきて」彼は黙って進みだす。「あ、はい。待って」

「リョー、授業はどんすんねん?」

「道案内してたって言っといて。そうすればいいだろ、目的地は校長だし」

「わかったわ。気ぃつけぇよ」

「校内だっつうの」リョーと呼ばれている眼鏡の少年は当然のことを言う。

「それもそうやな」ガタイの大きい少年は口角を上げ、大笑いする。目測では豪快な人だ。

「じゃ、行くか」「はい」

 ワタシは彼に付いて行き、二、三分ほどで目的地に辿り着いた。


 ◇  ◇  ◇


 十二時二十分。


「へぇ~。そんなことあったのに何にも言ってくれなかったんだね」

 鍛練室の高い位置にある窓から差し込む光を浴びて、とても幻想的な色となっている彼女の白髪は、すぐ目の前にあり、常に動いている。時折、木と木がぶつかりある音を響かせ、俺たちは自らの刃を重ねている。

 しかし、話し合いをする際に不必要なものがここにあるおかげか、それともそのせい( 、 、)で、彼女――八神 陽希(はるき)が途轍もなく怖く感じる。

「言う暇なかったんだって。それに言う道理もないと思ったし、さ……」

 彼女はその返事を言わずに、その両手にそれぞれ持った同じ長さの短剣をまっすぐ真上から叩きこんだ。長柄の鎌では同じ方向から同時にくる攻撃を受け流すのは簡単なことで、単純に柄を地面を並行にして、打たれるその勢いをうまく反射する。

「道理……はあるでしょ…?」

 飛ばされたが、両足で踏ん張り陽希は前屈態勢になる。顔を俯かせ、前髪で隠れた赤い眼が妖しく光り、そしてその前屈態勢から飛び込んできた。左右から少しずつずらして両方の刃を飛ばしてきて、それがまた避けにくく防ぎにくい攻撃だ。それを間合いを開けることでなんとか避けるが、少し掠った。

「お、おうっ。あるな、道理。道理あった。俺と陽希は親友だしな」

「……そうだよね。親友だしね」フフフフとさらに踏み込んでくる。

「ごめん、ごめん。なんかごめん」次々と迫りくる刃を避け、避け、避ける。なかなかいい剣筋で、避けるのに手一杯だ。華奢な体をしているくせにどこからこんなに長くも俺に噛みついていられる体力があるものだ。

「落ち着けって。皇貴、止めさせろ!」

「却下や。さっきのことよぉ思い出したからな。ジブンにはぎょぉさん文句があるんやわ」ニヤニヤしながら吐き捨てる。くそ。本当のことを言っただけなのに。八つ当たりかよ。

「じゃあ、俺の負けでいい。はい、降参する」

「審判として、それを却下しまーす。ハルはん、もっとやったって」

「はーーい」陽希が朗らかな声で言う。それに目が変わった。『遊び』の目から『捕食者』の目に。

 ……こりゃだめだ。長い長い戦いになりそうだ。

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