【2-3】
◇ ◇ ◇
「さて、行くか」
もう午前の最後の授業になり、戦闘技術の移動をし始める。一応着替えはあちらの棟でやることになっているので、そのまま、着替えを入れた袋を持って行くだけだ。
「早いな、リョー。今日が楽しみだったんかいな?」
「ああ。その通りだな。最近身体をまともに動かしていないからさ。鈍ってるだろうけど、早く動かせるようにしたい」正直そうだ。この一週間、この地区が閉鎖された時からあちらの仕事がないので、少しばかり感覚も落ちているだろう。
「なるほどな。先週の戦闘技術は全部座学だったしな」
「それが一番大きいな」また嘘なんかついて、全く俺は最低だな。
「鍵閉め完了。よし、時間ないし走るか?」
「あのさ、俺、お前のことよくわかんないわ。言動趣味動向思考性癖、ほかに出てこないからいいけど、全部わかんないわ」
「そこまで言うか? ワイかて人間やで傷つくで」
「前にも聞いたことあるような気がする。二度も聞いたら説得力がないようにしか聞こえない」
「そうかぁ? 強調されてええ感じになると思うんやが」
「よし。今日は組むか?」
「スルーかい!」
「よし。本気でやるからそっちも本気でやれよ」
「完全に無視かい?」
「さーて。頑張りましょう」
走っていったので二分もかからず鍛練棟に着いた。三階建ての建物であるこの棟の階段を駆け上り二階に着く。今日の授業の教室だ。
「軽く走るか?」
「走ったのにまたかい!」
「勿論」
二人並んでまた走り出す。どちらかと言うとただのウォーミングアップでしかない。
鐘が鳴り瞬さんが部屋に入ってきた。
この部屋は四辺五十メートルの正方形の教室になっている。ものは何も置かれていなく、三つのドアが存在している。二つは通用のドア。もう一つは武器庫に繋がっている。一つの教室に付き一つの武器庫があり、その保管されている武器類は基本的な武器十種類が三十個、個性的、民族的及び非一般的武器が二つづつだ。その中に俺の得意とする鎌も勿論ある。
武器類は授業が始まるまでは武器を持つな。というのが戦闘技術のルールである。瞬さん曰く、それを守らなかったら欠課も当然だから、成績に期待を持たないことだな、だそうだ。
理由は簡単で、武器を持ったら人は何をするか分からないからだ。それは俺でも分かる理論で、実際に俺もそういう人間でもあるからだ。仕事の時は武器を持つことにもよって気持ちを傾けている。
「全員揃ったな。よし、号令」
クラス長がいつも通りのやや張りのない声で言う。腹から声は出しているようだが、バスの声域なのだろう、低く響き、耳に届きにくい。
「はい、おねがいな。武器取ってきてまた集合な」戦闘技術の授業は基本的に整列はない。教師な周りに集まることが集合の意味することだ。
武器庫に向かうクラスメートの後を追って行く。俺は自分の武器を一応持っているのだが、この時間に使うことは禁じられている。殺傷能力があるからだ。適当に自分の手にフィットする長鎌を取った。柄の所に『E‐407‐1』と書いてある。
「全員持ってるな。じゃあまず模擬でもやるか? 二年入って初めての実用だしな。黒鉄、来い」「はい」「じゃあ、俺と黒鉄でやるから見てろ。誰か、いや皇貴、審判やってくれ」「ほい」
俺と瞬さんは十メートル四方に区切られた区域に入る。剣道の試合場より少し小さいくらいなので、長物使いの俺には間合いの点で不利だが、慣れればよい具合になる。
「軽くなら本気でもいいぞ。殺気立つとクラスに引かれるから、その点考えてだけどな」瞬さんは耳元まで近付いてそう言った。
「構え」皇貴が声を上げた。俺も瞬さんも同時に構えを取り、臨戦態勢になった。「始め」少し体を動かすようにして相手の動向を互いに探り始めた。
「……俺から行くか」呟き距離を若干詰める。詰め過ぎると大鎌がうまく使えないので駄目なので、そ辺の計算はきちんとしておく。下から刈り上げるように胴を狙う。軽やかなバックステップで避けられ、俺の隙の開いた胴体を手刀を飛ばしてくる。瞬さんは武器を持たずに試合をしているが、それでも俺の方が負けている。
飛んできた手刀を辛うじて左手で受け流し、鎌の刃の付いていない方で突く。それを向かって左側に避けられ、流れるような動きでそのまま彼の右手が俺の首元に襲った。
そのまま数メートル地面に転がり、皇貴の制止の声が響いた。なんとか受け身は取れた。
「……参りました」「お前、詰め過ぎだな、間合い。もうちょっと考えて動けるようにな」そっと立膝をついている俺に耳元でアドバイスしてくれた。授業中だというのに戦いの師としての行動をしてくれる本当に彼は教師の鑑だ。
「……さて、こんな感じにやってもらう。武器は見たとおり刃抜きは勿論、対人に対するストッパーが付けられているから大丈夫だが、ほどほどに抑える為に三人組で一つのグループとしてやってもらう。グループは自由でオッケーだからな」
「よっしゃ、さっさと立ってやるで。もう一人はいつも通りハルはんやで」皇貴はガントレットという、いわば籠手を着けている。彼が顎を向ける先には陽希がいて、彼女は二振りの長さの違う短剣を腰に吊るしている。
「了解。まずは俺と皇貴でやるか」「オッケー」「じゃあ、審判やるね!」
十二時十分。