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黒白の傀儡  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第10章―合宿3―
102/134

【10-6】

 ◇  ◇  ◇


 七月二十六日、合宿二日目の夕方、広間で夕食を取っている。

 昼食の時にここに来たが、自分の分だけ食べたらさっさと道場に戻ったので他のみんなには会っていない。だから朝ぶりに合宿参加者全員が会したわけだ。

 総勢十二人。やはり全員がそろって食事につくと圧巻だ。

 今日のメニューは白飯に味噌汁、大根おろしを添えたスズキの塩焼き、里芋の煮っ転がし、それとお新香。どれもとてもおいしい。

「そいや、リョーは何してたんや。ヴァンさんと壬生さんと三人で残っとたやろ?」

「ああ。そうだけど、なに?」

「いんや。羨ましいと思って。山を走り込み、つらかったぜ~」

「そうか。それは御苦労さん」

「他人事やなぁ。ほんま、きつかったんやで」

「でもみんなやってたんだろ? ひとりだけグチグチ言っていても格好悪いぞ」

「そんな!」

 まあ、うるさいからここから皇貴の言葉は半分聞きにしよう。それよりも食事を楽しみたい。俺も独り暮らししている身であるから、これぐらいのものがつくられるようになりたいと思う。しかし、その分時間がかかるから高校在学中はここまで凝ったものをつくるのは難しいか。でもたまに時間が空いた時、陽希でも誘ってこんな料理でも振る舞いたいところだ。

「他に何したんだ?」

 皇貴が一通り喋り終わるのを待ってから、訊く。

「ああ。今日は基礎体力を付けるぐらいしかしてない。筋トレ、走り込み、素振り。そんなもんか」

「まあ、体力がないときついスケジュールかな。実技、というか模擬戦闘みたいなことはしてないんだよな」

 パクと煮っ転がしを()みながら皇貴は、

「そやな。あ、この芋うまいな」

「今頃かよ。確かにおいしいな。どれもおいしい」

「せやな。あんま魚は食わんけど、これほどうまいもんだったら毎日でも食べたいわ」

「それはありがとさん。仕事のお礼で港の人が送ってくれるんだ。春ならタイ、シラス、シラウオ、夏ならスズキ、アジ、秋ならサンマ、イワシ、タチウオ、冬ならヒラメ、ブリ、ボラ、サバ、そんな感じでその時の旬を送ってくれるんだわ。独りだと使いきれんからたまに近所の人にふるまったりしてるんだわ。だからか料理の腕が上がった。近所のおばちゃんたち、つくりかた教えてくれるしな」

 ヴァンさんが話に入ってきた。彼は俺たちとはすこし離れた所で日本酒を飲みながら食べていたが、そこからそうやって話に入ってきた。瞬さんと話していいたが、それはほっぽりだした。

 瞬さんは最初に少し飲んだが、それから飲んでいない。今は引率をしているからというのもあるだろうが、普段から瞬さんが飲むのをあまり見たことがない。下戸なのだろうか。

「へえ、魚料理得意なんですね。来るまで山だから芋とか草とかばっかだと思ってました」

 誰にでも気楽に話しかけられるグレンが言った。人によっては不愉快に感じるだろうが、彼女の陽気さが言葉そのもの悪いイメージを払拭していた。

「ああ、川釣りもたまにするからこなくてもできるからな。もし君が欲しいんだったら毎日、草でもいいんだぞ。食べられる野草ならそこらじゅうに生えてるからな」

「ああ! それは結構です! あぁ、毎日魚料理食べたいなぁ!」

「それじゃ、毎日魚料理つくるな。ご要望に応えて」

 話を聞いているだけで、ひたすらご飯を食べていたので、気付いたらもうなくなっていた。

「ごちそうさまです。洗っておきますね」

「ああ、療、流しに置いといてくれ。一応お前らは客人だからな。やらせるわけにいかん」

「それじゃあ、置いておきますね」

 俺は食器を持ち、立ち上がったところでふと思い出す。

「瞬さん、このあと何か日程ありましたっけ」

「いんや、ない。これからも毎日一緒で、夕飯から自由だ」

「了解しました」

 台所に入り、食器を流しに入れて、軽く水を溜めておく。これぐらいはやっておいても構わないだろう。ふわぁ、と軽く欠伸が出る。今日はあの手合わせの後、瞑想やら魔術の理論だとか魔術の組み立て方だとか頭を使うことばかりしていたので、その疲れが今に出たのだろう。

 普段からこういうことをしていたら大して疲れなかったのかもしれないが、魔術の勉強となると全く分からないのでこうなった。ある程度、いろはのいぐらいは西村から聞いていたが、その程度だ。しかし学んだ上で少し理解をするともっと深く知りたくなった。構成の仕方で言えば、同じものでも少しの工夫で良いものになるというのだ。これからその構成の工夫でも考えてみよう。少し考えているものがあるので実践してみようかと思う。

「それじゃあ、お休みなさい」

「おいおい、もう寝るのか? まだこれからだぜ」

 二条だ。なにがこれからなのかよく分からないが、

「悪いが先に寝る。疲れたんだ」

「そっか。んじゃおやすー」

 軽く手で応える。視線を動かすと陽希と目が合う。

「お休み、ハル」

「ん。お休み」

 広間を出て、縁側を歩く。縁側から左側には依然、石と砂の庭が時を留め続け、右側の賑々しい雰囲気とはまったく違う。瞼を閉じ、この狭間の独特な雰囲気を楽しむ。なんだか心が落ち着いたような気がした。たまにはこういうのもいいだろう。

 いつも、モンスターと戦うときは確かに静寂そのものだ。しかしそれは静か、というよりは閑か。気味の悪い静けさだ。一方、この静けさは心地のいい、喧騒の中の静寂といったところか。俺はこういうの好きだ。こんな日は夜空でも眺めながら小一時間、時間を潰したい。

 瞼を開ける。

 ま、いいか。布団の上ででもちょろっと試してみるか。

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