【10-4】
◇ ◇ ◇
「お疲れさん」
どこからかペットボトル入りのスポーツ飲料を取り出して、投げ渡してきた。
「ありがとうございます」
「休憩はどれぐらいとるのですか」
「二十分。いや、十分だな。おしてるし」
時計をみると十一時少し前ぐらいだった。
「一時前には他のやつらが帰ってくるらしいから、十二時には母屋に戻りたい。それまでに今日の分を終わらせる。それでいいか?」
「はい」
「よし。それじゃあ、卯月、少しミーティングといこう」
壬生は肯いてヴァンさんに近づいていった。そして、何をするかの打ち合わせをし始めた。
それにしても、ヴァンさんは強かった。
勿論、瞬さんも強い。俺も稽古を付けてもらっているし、近くで戦うのを見てきた。しかし、単純な剣技だけならヴァンさんの方が強い。剣術に詳しくなくても分かる。普通、槍と剣とで戦えば大抵槍が勝つものだ。長物の方が有利だからだ。しかしその優劣など関係なく負けてしまった。それは人と戦い慣れていない俺の経験不足というのもあるであろうが、それ以上に実力の差が目立った。
稽古だから彼に勝つことが良いことと言うわけではない。しかし、勝てなくても槍と剣とで同じぐらいの実力にならなければと肝に銘じた。それが俺のすべきこと。
「そう言えば、療は普段大鎌使ってるんだよな」
「はい、そうですよ」
「モンスター相手にだよな」
「はい。相手の大小にもよりますけど、大抵のモンスターは大鎌で」
「そうか。ありがと」
またヴァンさんは壬生と話し始めた。
◇ ◇ ◇
療たちが屋敷のほうで特訓をしているであろう間、
「よーし、あと5回ー」
私たちは地面の上で腹筋をしていた。
基礎的な体力を伸ばすために筋トレをさせられている。一応うちの高校には戦闘技術教師は十人ほどいて、その十人それぞれが別の場所でこのような合宿をしているらしい。その合宿の中には筋トレもきちんと共通で組み込まれているそうで、不満はないけど、速く武器を握った実践的なものをしたいと思っている。
まあ、その必要性はわかっているから別にいいんだけど。
「はーい、しゅうりょー。五分休憩な」
「「はーい」」
八人八色の返事をして地べたに座り込む。
「大丈夫だった?」
私はこの中で一番体力がなくてバテている沙紀ちゃんに話しかける。
「ええ……、なんとか」
息も切れ切れだったけど、口ではそう言った。まあ、大丈夫そうには見えないかな。
「大変だったね。鍛えてるわけじゃないからきつかったよ」
「それでも、私ほどではないでしょう? それだけで十分だと」
沙紀ちゃんは普段の堅苦しい喋り方が、疲労のせいかすっかり抜けていて少し驚いた。でもこの方がなんか可愛い。
「まあ、たまに走ってるからね。その成果かな」
「そうですか。私もしようかな、走り込み」
「しなよ! むしろ一緒にしよ!」
後半は消えるような声で独り言のようだったけど、しっかりと拾った。それに沙紀ちゃんと一緒に走ったら楽しいと思う!
「そう。……どこで走っているの?」
「基本、家の周りだよ。エリア10だよ」
「そうするとちょっと遠いです。私はエリア13、学校から近い所ですから」
「むしろそれならちょうどいいよ! この合宿終わったらまた連絡するよ。そっちのほうが走れる距離長いからね」
「そうですか。まあ、陽希さんがそう言うのなら」
「よしっ! 決定!」
やった、計画遂行! ああ、楽しみだな。もちろん療とも会いたいけど、やっぱり女子同士の集まりも捨てがたい。
「賑々しく話してるとこすまんなー。5分経ったからまた再開するぞー。次は走り込みだ」
お、北先生、タイミング最高! 沙紀ちゃんと走れる! 周りのみんなはえー、とか、まじかー、とか感嘆の声を上げているけど、私はただ楽しみだ。