Happy Birthday
蝋燭の灯が微かに揺れる。
動いていない彼の影が揺らめいて、一瞬だけ私と触れ合った。
「Happy Birthday」
雰囲気を壊さないよう、静かなお祝い。
彼は何時も通りのはにかんだ笑顔を私に向けている。
電気を消したのは正解だった。
蝋燭の暖かいけれど頼りない明かりが私達の境界線を朧気にしてくれる。
「プレゼントはハンカチにしてみました」
用意しておいたハンカチを取り出すため、彼に背中を向けた私はかばんに手を伸ばす。
本当は彼が恥ずかしくて人前で使えない可愛い柄のハンカチで困らせてからにするつもりだったけれど、予定を変更する。
この落ち着いた雰囲気をそんな悪ふざけで台無しにするのはもったいない。
それに、どちらでも彼のはにかんだ笑顔は変わらないから。
そんなことを考えて私はつい笑ってしまう。
付き合い始めた3年前はお互い高校生。今にして思えば馬鹿な事をよくしていたし、彼は人一倍いたずら好きで行動力もあった。
付き合い始めたのも彼の行動力で積極的に迫られたからだ。
今の彼は随分と落ち着いたものだと思う。
プレゼントを取り出すのに手間取る私を急かさずに、彼はただ見つめるだけ。
まぁ、これは当然か。
「はい、これ」
包装紙は私の趣味で可愛いものを選んだけれど、中身のハンカチはきっと気に入ってくれたはず。
彼は照れた笑顔を私に向けている。
さぁ、次はケーキの準備をしよう。そういえば彼の好きなチーズケーキは売り切れで仕方無くショートケーキを買ったから伝えておこう。
「チーズケーキが売り切れでショートにしたの。ごめんね」
もしかすると彼の表情が変わるかと振り返る。私の期待を裏切って彼は笑っていた。
ふと蝋燭が揺らめいて私の影が彼に触れる。
彼の笑顔に落ちた影は持ち直した蝋燭の明かりに追い払われた。
この蝋燭は本当にロマンチストで皮肉屋だ。
取り留めのない考えに私は笑いをかみ殺した。
今夜は彼と二人きり。
一晩中、私は彼の遺影に笑いかけるのだろう。




