肩ごしの数センチ
こんにちは、浜焼き三太郎です。
君を知って、恋を知る(旧題:完璧聖女様は俺の前でしかオタクになれない 〜秘密を知ったら推し活デートに連れ回される日々〜)
の原稿が間に合いませんでした!!
その代わりなのですが、今度の文化祭用の短編として、青春と恋愛をテーマにしたお話を書いてみました。
派手な展開や劇的な告白ではなく、誰かを好きになった時のどうしようもない気持ちや、人との距離感を意識しながら描いています。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「ごめん悠太君。待たせちゃった?」
「いや全然。」
「そう?なら良かった。」
快活に振舞うショートカットの少女。
その子の隣で、自転車のハンドルを握った。
「それじゃあ帰ろっか。」
「おう。」
ぶっきらぼうに言って歩き出した。
***
「でさー、恵梨香ちゃんがこんなんなって~。」
「うん。」
「んで月子ちゃんが、ツッコミ入れてさ。もうお腹抱えて笑っちゃったよ。」
「それは確かに面白いな。」
でしょー。
そう言ってカラカラと笑う彼女。
殆ど棒読みなのに、本人は満足そうだった。
「で、その後なんだけど―――」
「あのさ、田中。」
彼女の話を遮るように口を開いた。
「何かあった?」
田中の口数がいつもより多い気がして、少しだけ変に映った。
「田中?」
言ってから隣を見ると、そこに彼女の姿は無かった。
止まったまま、数歩後ろで佇んでいた。
「……。」
黙ったまま俯いている。
それから意を決して顔を上げると、
「まったく、悠太君には敵わないなぁ……。」
そうして諦めたかのように笑った。
「もしかして、最初から気づいてた?」
「……なんとなく。」
「そっか、バレてたか~。」
肩をすくめながら、後ろに手を組んで僕の隣へ歩み寄る。
「私さ。」
「今日、フラれたんだよね……正吾くんに。」
「……そう。」
ぽつりと一言だけ呟く。
ハンドルを握る手に、無意識に力が入った。
「リアクション薄いな~。慰めろし。」
「無茶言うな。僕にそんな気遣い出来ないっての。」
「だよね……。悠太君に、彼女が出来ない理由がよく分かったわ。」
「ほっとけ。」
んぁ~っと、笑いながら大きく伸びをする田中。
一見するといつもの笑顔。
けれど僕には、どこか無理をしているようにも見えた。
「にしても急だな。」
「ん、何が?」
「ほら、告白の件。卒業式まで取っておくんじゃなかったか?」
「あぁ~、それね。」
思い出したように言う彼女。
それから視線を斜め下に落とした。
「なんか、ダメだったわ。」
「というと?」
田中の方を見て、返事を待った。
う~ん、っと彼女は唸っている。
「……今日、部活で二人きりの時間があってさ。」
「はぁ。」
「そこで話してるうちにこう、色々と抑えが効かなくなって……。」
指を絡めたりほどいたりしている。
「で、気づいたら全部ぶちまけてた。」
淡々と、さも当然のように彼女は言った。
「マジか。」
「マジです。」
「……。」
お互いに無言の時間が続く。
何を言ったらいいか分からず、僕は言葉を探していた。
「正吾くんの話さ、全部若菜ちゃんの事ばっかなんだよ。」
「わかなちゃん?」
言われて思い出す。
確か彼女は、僕が元居たバンドのキーボード担当。
僕がギターで、田中がベース、正吾がドラムの四人バンド。
「若菜さんのことが好きとか、直接言ってたの?」
彼女は首を横に振った。
「でも話してる時の顔つきで、なんとなくだけど分かっちゃった……。」
その顔にさっきまでの余裕は無く、ひどく悲しそうな表情だった。
「だから告白したのか?」
「……そうだよ。」
ブレザーを握る手は、少しだけ震えていた。
「どうして私じゃダメなの?って。」
「……っ。」
「最初言った時さ、告白だって分かってくれてなかった。」
「ならそれで終わりにすれば―――」
「“こうはならなかった”でしょ?」
言葉の先を読まれてしまって、僕はなにも言えなかった。
「でも仕方ないじゃん、自分じゃ止められなかったんだから。」
「でも……。」
「ねぇ、悠太君。」
言いかけた僕の言葉は遮られた。
「君にもいつか、分かる日が来るよ。」
田中は言った。
「好きな人への気持ちが抑えきれなくて、一気に爆発しちゃうこの感覚。」
近くにカバンを放り投げた。
「それが―――」
勢いよく駆け出して、橋の欄干に両手をつく。
「恋なんだーーーって!!」
黒くて静かな夜の河川に、彼女の叫びが響いていた。
生ぬるい夏の風が、ふわりと頬を撫でる。
「そういうもんなのかね。」
自転車を置いて田中のカバンを拾い上げる。
それから、ハンカチで瞳を拭っている彼女に手渡した。
「そういうもんだとも。」
そう言って鼻先を親指で軽く擦る。
その笑顔はどこか痛々しいのに、それでも格好良かった。
失恋の痛みって、簡単には治らないって聞く。
それでも田中は、必死に前を向こうとしてる。
だからこそ、
“やっぱりコイツは強いんだな”
心の底から思えるのだった。
「そういえば、今年の夏どうする?」
田中が言った。
「そうだな。花火大会とか、バーベキューしたいかも。」
歩き出しながら僕は答える。
「いいじゃん~。ちなみに私は―――」
それに続くように彼女も歩き始めた。
恋人でも、友達でもない。
隣を歩く彼女との距離は、近いようで遠かった。
だけど、この距離感が丁度いい。
田中の傍に居られるなら、それでいい。
今だけは。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は「恋を知っている人」と、「まだ気付いていない人」の対比を意識して書きました。
田中は失恋という形で自分の恋と向き合いましたが、悠太自身もまた、自分では気付いていないだけで何かを抱えているのかもしれません。
タイトルの意味やラストの「今だけは。」という言葉を、それぞれ自由に受け取っていただけたら嬉しいです。
もし少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、感想をいただけると励みになります。
それではまた次の作品で。
浜焼き三太郎




