ターン
「ああ、あれだ」
「あれか」
背後で歓声が上がった。
列を先導して清々しい初夏の堤防の上を歩く私は、歓声から間を置いて左手に広がる河川敷の方にゆっくりと視線を向けた。十人の集団の先頭に立って駅から徒歩五分の道のりを歩いてきたので、後ろの声によって目的地に気付いたと後ろのみんなにバレたくなかった。河川敷には丸太組みの建物が建っていて、たしかにそれが目的のロッジだった。遠く前方でこちらに背中を向けているあの建物が目的のロッジなのだから、そのロッジからずっとこちらの方まで河川敷に広がるこの芝生こそが、フィールドということになる。
堤防を歩いた先には、真っすぐロッジに降りていく階段があり、手すりを必要としない私たちは、軽やかな足取りで階段を降りて行った。
ロッジの重い扉を開いて中に入る。中には誰もいないが、四方の壁に加えて天井にも大きな窓が設けられていて、中は十分に明るい。
「他にお客さんもいないみたいですし、荷物はこの辺に置いておいても大丈夫でしょう」
誰かが言い、私たちはみんな、背負っていたリュックサックを下ろして、壁際に寄せた。
それじゃあ、と私たちは顔を見合わせ、胸の高鳴りを抑えながら、再び私を先頭にロッジの裏からフィールドに飛び出した。
フィールドに出て、私は真っすぐに走り出した。もう隣の人と顔を見合わせる時間も惜しかった。綺麗に刈り揃えられた芝生はふかふかと心地良く、履き慣れたスニーカーを通じて足の裏を喜ばせた。顔面が絹のような風を偏りなく均質に受け止め、風が頬の産毛を靡かせる。後ろからは子どものような黄色い笑い声が響いてきて、つられて私も笑い出した。
脚の動きに合わせて交互に振っていた両の腕を上に挙げてみた。重心が少し後退し、推進力も少し減少したが、それでも私は軽やかに走り続けた。
十人の幼気な笑い声が、雲のように柔らかく絡み合いながら河川敷を滑っていく。
「ウーーーーーーーーーー」
突然、河川敷にサイレンが鳴り響いた。
両手を挙げた私は少しずつ脚の回転を緩めて止まり、くるりと後ろを向いてまたすぐにロッジに向かって走り出した。
今度は目の前に笑いながら走るみんながいた。
みんな両手を挙げて走っている。
サイレンが鳴り響く中、笑い声が戻っていく。




