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全員集合!

雨が激しく降っている。

秋雨前線が日本列島に停滞していて、雨が三日も続いている。


⦅あ~~ぁ、うっとおしいなぁ……。

 ……仕事は変わり映えがしないし、変わっても困るし……。

 今更、どこか別の仕事を探す気にならないし……。

 あ~~ぁ、このまま年老いて……ああああああああ!

 何も無い! 何も無いなぁ……私。

 何か人に認めて貰いたいなぁ……。⦆


40歳が近づいても愛恋(あいこ)は、実家に住んでいる未婚女性だ。

食事の支度も自室以外の部屋の掃除も母・広美がしている。

お気楽な独身生活とも言える―と思われている。


会社を出ると、傘に大粒の雨が叩きつけるように降り注いでいる。

同時に会社を出た同僚の溜息交じりの呟きが耳に入って来た。


「あ~~ぁ、萌音ちゃん、帰ってるかなぁ……。」

「萌音ちゃん……お嬢さんですか?」

「うん、そうなの。

 家に帰ったら、ちゃんとしてくれてるかな……と。

 ちょっと気になってね。」

「お幾つですか?」

「高校生よ。まだまだ頼りなくって……。」

「大丈夫ですよ。榊さんのお嬢さんなら!」

「まぁ、そんなこと言っても、何も出ないわよ。」

「あぁ、残念でした。」


そういう会話も聞こえ辛い雨の音だった。


「こりゃあ、土砂降りだわ。」

「早く駅に!」


そう言って駅に向かっていると車が軽くクラクションを鳴らして止まった。


「おい!」

「……?」

「あらっ、伸ちゃん。

 ……あ、うちの人。」

「早く乗れよ。そっちの人、同僚?」

「うん。

 ……野口さん、どっち方面?」

「あ……電車の方が早いですから……

 気に掛けて頂いてありがとうございます。」

「そう? じゃあ、また明日ね。」

「はい。お疲れ様でした。」

「お疲れ様。」

「失礼しますね。」

「はい。」


去って行く車をぼんやりと眺めてしまっている愛恋(あいこ)

「いいなぁ……。」という言葉が出そうになった。

そう、愛恋(あいこ)は恋愛経験もなかった。


電車の乗って車窓から眺めると、雨がガラス窓に叩きつき流れる景色に自分の姿が映し出されている。

⦅うぅ~~ん、ぼやけてるから私が若い姿に近いなぁ……。⦆と愛恋(あいこ)は思った。

そして、若い頃も何も無かったから、もう何も無いまま枯れて朽ち果てるのだと思った。

「寂しい……。」という言葉が出てしまった。

車内アナウンスが愛恋(あいこ)の「寂しい……。」を消した。


電車を降りると雨は小降りになっていた。

気持ちを上げるために⦅そういえば、おじいちゃん、歌ってたなぁ。♪シンギ リン ザ レイン♪……って。⦆と祖父が歌っていた歌を歌いたかったが、愛恋(あいこ)は歌詞を知らなかった。

⦅あはっ! 私らしいや。⦆と、笑ってしまった。



帰宅すると、直ぐに母の声がした。

玄関ドアの音だけで家の中から母の「お帰り。」が聞こえてくる。

「ただいま。」と、返事だけして、愛恋(あいこ)は手洗いして自室で着替えをする。

毎日、同じことの繰り返しだ。

リビングに行くと、何故だか兄が居た。


「あれっ? お兄ちゃん、なんで?」

「おい、いらっしゃいませ、は無いのかい!」

「ああ、そうだね。じゃあ、一応、いらっしゃいませ。」

「一応、って何だよ。」


「もう、仲がいいんだから……。」という義姉の声がした。

キッチンからリビングに義姉が入って来た。


「どこが!」

「どこが!」

「ほら、合ってるでしょ。」

「あ!……お姉さん、いらっしゃい。」

「お邪魔してます。」

「えぇ―――っ、今日は何の日?」

「忘れたのかよ。」

「お義父さんの再就職の初日よ。」

「へっ? そうだった?」

「もう、こんなんだからなぁ……。」


「こんな娘よ。」と言いながら、母もキッチンからリビングに入って来た。


「でっ、お父さんは?」

「もうすぐ帰って来るわ。」

「帰ってきたら、喜ぶわよ。凪咲ちゃんが来てくれて。」

「俺は?」

「まぁ……お兄ちゃんも……じゃない。」

「なんだよ。それっ!」

愛恋(あいこ)、岳にそんなこと言わないの。

 お兄ちゃんよ。

 凪咲ちゃんの前で恥ずかしいわ。」

「はぁ~~い。」


「はい。は、短く。」と、父の声がした。


「はい。」

「お父さん、お帰りなさい。」

「お義父さん、お帰りなさい。」

「お帰りなさい。」

「お帰りなさい。あなた……。」

「うん。ただいま。

 ……ところで、凪咲さん、岳、いらっしゃい。」

「お邪魔しています。」

 

「お帰り。」と、祖父がリビングへやって来た。


「ただいま帰りました。」

「どうだったんだ。」

「はい。まぁ、初日ですからね。」

「そうだな。身体だけは気をつけて働きなさい。」

「はい。」

「お前も若くないんだからね。」

「ははは……その通り。気をつけますよ。お父さん。」

「さぁ、座って! 晩御飯、頂きましょう。」


それからは、久し振りに全員揃った夕食を摂り、リビングで話が弾んだ。

話が弾んだ時に玄関のインターホンが鳴って、従兄弟がやって来た。

再就職のお祝いに来てくれたのだ。


「これで、あの子が居たら、全員なのにな……。」

「お父さん……。」

「おじいちゃん、母さんが亡くなっても俺たちが来るからね。」

「そうだよ。おじいちゃん!」

「お義父さん、おやつに果物でもどうですか?」

「頂こうか、な。」


賑やかに過ごす時間。

愛恋(あいこ)に矛先が向かった。

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