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93 公爵宮殿の1室 その5

「ショータは一向に来ぬではないか。」

“下賤な冒険者の名を呼ぶ事は、高貴なる公爵家の穢れになります“という貴族達の言葉に従って、今迄は少年という言葉を使っていたが、年が改まったのを機に少年では無く、ショータと名で呼ぶことになった。

前回、ショータが宮殿に呼び出した際、事前に命じていたにも拘らず、露骨に胡乱な目を向ける家臣や使用人が何人かいた事に公爵は気が付いていた。

貴族達が宮殿内で流したショータへの悪評を払拭する為に、公爵家の使用人達にもショータが稀に見る逸材であり、数々の偉業を成し遂げたベルンの英雄である事を徹底させる必要があった。

ショータが宮殿を訪れた時に応対した使用人が、下賤な者に対するような態度を取れば、ショータが宮殿を訪れなくなる事を危惧したのだ。

先ずは公爵自身がショータは下賤な冒険者では無く、ベルンの英雄で有る事を示すために呼び名を変える事にした。

万全の体制を整えてショータの来訪を待ったが、1向にショータは来なかった。



「誘いの書状は届けさせておりますが、どうやら忙しいようで御座います。」

「そのほうは、ショータには余に会うよりも優先させるべき事があると申すか?」

公爵が不機嫌そうに言う。

この地域最高の地位にある公爵との面会は、何よりも優先されるというのが常識。

東部地域に住んでいる以上、最高権力者の公爵に会う事以上に大切な事がある筈など無い。

「恐れながら、怪我人は待ったなしで御座います。 大門ギルドから宮殿までは乗り合い馬車で3時間。 往復すれば丸1日怪我人の治療が出来なくなります。 遠いのも一因で御座いましょう。」

「乗合馬車はそれ程時間が掛かるのか?」

公爵が首を傾げる。

公爵がベルンを出る時に使うのはベルンの正門である大門。

ショータのいるギルドは大門のすぐ近くの筈。

公爵の移動は一種のパレードなのでゆっくり進むが、大門までそれ程の時間が掛かった事は無い。

「乗合馬車は安全の為にゆっくり走っておりますし、後ろから貴族の馬車が追いついて来た時は停まって道を譲らねばなりませぬ。 また、宮殿までは数ヶ所の乗降場に停まり、暫く客待ちを致します。」



「・・・そうであるか。 仕事が休みの日にはどうしておるのじゃ。」

「ショータは日雇いの回復師ですので、決まった休日は御座いませぬ。」

「そう言えば以前、ショータが休まずに働いていると言っておったな。」

「ギルドの治療室を休んだのは、大規模討伐の間だけで御座います。」

「ギルドはAランク冒険者を、未だに1日の休みも与えず働かせておるのか。」

「御意。」

「回復師というのは休みなしでも務まる程楽な仕事なのか?」

「通常の治癒師は疲労回復の為、週に2日の休みを取ると聞いております。」

「治癒魔法とは、さほどに体への負担が大きい魔法なのか?」

「体への負担が大きいだけでなく、魔力の消費も大きい為に1日に発動出来る回数が限られております。 ショータが毎日20人もの怪我人を治療しておる事には、他の治癒師達も驚いております。」

「そうであるか。 ならば猶更ショータには休みが必要である。 その旨、ギルドに申し入れよ。」



「しかしながらショータの給金は出来高払い。 休日を与えれば給金が減る事になります。」

「ショータは金に困っておるのか?」

「困ってはおらぬ筈ですが、毎日金貨3枚程を稼ぎ、そのすべてを貯めておるようで御座います。」

「Aランク冒険者が1日に僅か金貨3枚で働かされておるのか?」

「ギルドの回復師は、冒険者支援の為に治療料を極端に低く抑えられております。」

「やはり、金に困っているのであろう。」

「振り込みましたワイバーン討伐料の不足分や、悪霊の討伐料にも全く手を付けておりませぬから、金に困っている筈は無いと思われます。 先日の暗殺ギルド討滅の褒賞金も全て孤児院に寄付いたしました。」

「全て寄付だと?」

「はい、ベルンにある30程の孤児院に均等に寄付したと報告されております。」

「ワイバーンの褒賞金も全額寄付であったな。」

「御意。」

「要するに、余が謁見の間で与えた褒賞金は全て寄付したと言う事か。」

「・・・、御意。」

爺やが公爵から目を逸らし、斜め下を向いたまま答えた。

それだけで爺やの心の中を理解できたのは、公爵が聡明だからこそであろう。

公爵からの褒賞金は東部地域に暮らす者にとってはこの上なく名誉な物。

貴族達は、公爵から下賜された褒賞金を、公爵家の紋章の入った金袋と共にガラスケースに入れて応接間に飾っている事が多いと聞いていたのだ。

1日に僅か金貨3枚しか稼げない回復師が、褒賞金である白金貨2000枚、金貨にすれば20万枚。 

ショータが回復師として稼ぐ額の200年分を孤児院に寄付すると言うのは、公爵への当てつけである事は明白だった。

それ程迄ショータに嫌われている事に公爵は愕然とした。

「・・・、左様であるか。」



「・・・そうだ、帝都にもAランク冒険者がおるな。」

「御意。」

「その者の待遇はどうなっておる?」

「帝城に近い貴族街に屋敷を与えられておると聞いております。」

「使用人はどれ程居る?」

「30名程と聞いております。」

「その費用はどうしておる。」

「詳しくは判りませぬが、どの国においてもAランク冒険者が住む屋敷の維持費は国費から支出されるのが普通かと思われます。 その他に、陛下より毎年白金貨3000枚が年金として下賜されております。」

「ショータの年金は幾らだ?」

「年金は支払われておりませぬ。」

「なんじゃと?」

「Aランク冒険者は1個師団に匹敵すると言われます。 どの国でも周辺諸国に引き抜かれぬ為に相応の待遇を致しております。 ショータがAランクに昇格した折に、貴族院に年金支払いの提案を致しましたが、子供に大金を渡すのは宜しく無いとの結論で見送りとなり、今もそのままで御座います。」



「何という事を。 今すぐに屋敷と年金の下賜について検討せよ。」

「恐れながら、ギルド本部からも無償で屋敷を提供する話があったそうですが、ショータが拒否致しました。」

「何故じゃ。」

「詳しくは判りかねますが、今の部屋から移る気は無いようで御座います。」

「では年金を与えよ。」

「如何ほどに致しましょう。」

「陛下と同額を下賜するのは恐れ多い。 年に白金貨2500枚とせよ。」

「御意。」



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