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91 前向きに善処する方向で検討

熊に呼ばれた。

「帝都に居られる皇帝陛下から拝謁の許可が出された。」

皇帝陛下って、この国で1番偉い人。

帝国中央部にめっちゃ広い直轄領を持っていて、8万騎とも言われる強力な直臣団が、東西南北の地域を治める4公爵家に睨みを利かせていると図書館の本に書いてあった。

何で拝謁許可が出たのかは判らないけど、帝都はめっちゃ遠いって聞いた事がある。

ベルンの街の外には強い魔獣が一杯いる。

街の中も危険だけど、街の外はもっと危険。

そんな危険な所を何日も、ひょっとしたら何10日も掛けて行くような無謀な事をする気は無い。



「許可って言う事はいかなくてもいいって事だよね。」

「拝謁の許可が出たと言う事は拝謁しなければならんという事だ。」

「だって、許可でしょ?」

「陛下が“目通り許す“と言うのは挨拶に来いと言う事なんだ。」

「挨拶する為にわざわざ行くの?」

「皇帝陛下に目通りするのは高位貴族でさえなかなか許されない名誉な事だぞ。」

「そうなんだ。 でも、嫌。」

「何故だ? 有難い話だぞ。」

「遠い、危険、貴族は嫌い。」



「俺も行くから大丈夫だ。 何か言われてもショータはAランクだから断る事が出来る。 この為にギルド本部はショータをAランクにしたのだからな。」

「前向きに善処する方向で検討します。」

前世の政治家が使っていた言い回しを借りた。

「なんだそりゃ。 行くって言う事で良いのか?」

「検討するんだから、検討の結果行くのを止めるかも知れないって言う事。」

「要するに行きたくないんだな。」

「うん。理由も無いのに街から出る気は無い。 街の外は危ないもの。」

「護衛が付く。 陛下に会えるなんて1生に1度しかないかも知れんぞ。」

「無くて良い。 会いに行く暇があったら素振りをしたいし、魔法の練習もしたい。 時間の無駄。」

「・・・、仕方が無い。 ショータは心身の鍛錬と魔法の研究で忙しいから辞退すると返答しておこう。 俺の手紙だけでは俺が辞退させたように思われるから、ショータも手紙を書け。」

「え~っ、俺も書くの?」

「当り前だ。 断るのはショータなんだから手紙位は書け。」

熊に怒られた。

仕方なく前世の知識を思い出しながら断りの手紙を書いた。




帝宮の1室 その1


「拝謁を辞退だと!」

「はい。 ベルンのギルドマスターより、“ショータは心身の鍛錬と魔法の研究で忙しいので今回の拝謁は辞退させて頂きます”という連絡が参りました。」

「それはギルドマスターが引きとめたと言う事か?」

「ショータ本人からも、“前向きに善処する方向で検討致しましたが、残念ながら今回は御縁が無かったものと辞退させて頂きます。 皇帝陛下の御活躍をお祈り致します。”という自筆の辞退届が送られて参りました。」

「前向きに善処する方向で検討? 皇帝陛下の御活躍をお祈り? なんじゃそれは。」

「文書部の祐筆達に解読させた所、“拝謁する方向で考えてはみたが、今回は拝謁する理由が無いので断る。 皇帝陛下に敵対する気は無い“という意味であろう、との事です。」

「ショータは11歳であったな。」

「左様で御座います。」

「そなたはこれが11歳の子供の文章と思うか?」

「私にも理解出来ぬ文章ですので、かなりの知識を持った人物の文章かと思われます。」

「・・・皇帝陛下に判断して頂いた方が良さそうだな。」




「ワッハッハ。」

ショータの手紙を見た瞬間に皇帝が腹を抱えて笑った。

「ァア~ッハハハッ、面白い。 “前向きに善処する方向で検討“だと、一体何処の政治家じゃ。 ”御活躍をお祈り致します“? 後ろは就職の不採用通知ではないか、ブハハハ。」

「陛下。」

側近が心配そうに声を掛ける。

賢帝と呼ばれる皇帝陛下が大笑いするところなど見た事が無かった。



「これは古代文書にある難解至極な言い回しじゃ。 前半は要望を出された政治家の断り文句。 後半は職員採用試験の不合格通知じゃ。 10歳で突然現れての大活躍、納得した。」

「どのような意味なのでございましょう。」

「要約すれば、前半は話を聞いたが拝謁に行く気は無い。 後半は敵対する気は無いから俺に手を出すな、という意味じゃ。」

「ぶ、無礼な。」

「無礼にはならぬように絶妙な言い回しを使っておる。 面白い。」

「面白いで御座いますか?」

「皆にショータという少年には手出し無用と伝えよ。 監視はいままで通り、少年や少年の周囲に何か起こった時には最速で報告させよ。」

「拝謁辞退については如何致しましょう。」

「不問にせよ。」

「はは~っ。」

「・・・一度会ってみたいものよ。」

皇帝の小さな呟きは側近にも聞き取れなかった。



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