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89 粘り気なら負けない自信がある

帰りの馬車の中で、ふと灯の家の子供達が“おにく、おにく”と叫んでいた景色を思い出した。

「ねえ、ベルンには孤児院って幾つあるの?」

「およそ30だが、どうしてだ?」

「これ要らないから、孤児院に寄付しようかと思って。」

公爵から貰った褒賞金を袋ごと熊に渡した。

「こんな大金を寄付するのか?」

「30も孤児院があったら、孤児院1つあたりだと少なくなるけど、子供達にお肉を食べさせてあげたいから。」

「いいのか?」

「俺は自分の稼いだお金で治療院を開くんだ。 何の仕事もせずに貰ったお金で治療院を建てても嬉しく無いから。 これは子供達の為に使って欲しい。」

「闇のナーベを壊滅させると言う仕事をしたぞ。」

「自分の身を守る為だよ。 これ以上暗殺者が来ない様にアジトを潰しただけ。 つまり自分の為。 誰かに依頼された訳では無いから、仕事じゃないよ。」

「それはそうだが、本当にいいのか?」

「うん。 不公平にならない様に均等に寄付してあげて。 端数が出たなら、・・。図書館に寄付して。 お世話になっているから。」

「判った。 そうさせて貰おう。 子供達が喜ぶぞ。」

「うん。」



「庭園の花を入れ替えた。」

「見に行きたいですが、今は忙しいので残念です。」


「庭園のバラが咲いた。」

「さぞ、良い香りでしょうね。行けなくて残念です。」


「茶会に来い。」

「午後は怪我人が来るから忙しくて残念です。」


「晩餐会に来い。」

「子供だから夜は出歩けません。」


“馬鹿正直に嫌だと言わない方が良い”という、熊に教わった貴族への対処法は全く役に立たない事が判った。

熊ぁぁ~!



「4家ある侯爵家全てに不正が見つかった為、4家共領地削減となったそうだ。 さらに、2家は領主が隠居、子供達は全て除籍され、5歳と3歳の孫娘が領主となった。 その2家には後見役として公爵家の家臣が送り込まれたらしい。 8家有る伯爵家は3家が御家断絶となり、家財も没収された。 3家の領地は教会再建に尽力した子爵家3家が伯爵に陞爵して新領主となった。 また、公爵家の相談役的な地位にあった貴族院が廃止され、重要事項は公爵が臨席する貴族会議で審議されることになった。」

熊に呼ばれて来たけど、熊の説明を聞いても何のことやらさっぱり判らない。



「何かあったの?」

貴族社会の事なんて全く興味が無いから、知りたいとも思わないけど、一応聞いてみた。

「表向きは過去の不正が見つかったと言う事だが、どうやらショータに追加報酬を出さなかった事や、ショータが教会の暗殺者に狙われていた事を公爵閣下の耳に入れさせない様に工作していた事を閣下に知られて処分されたらしい。」

「俺の事で?」

「公爵閣下にはショータの情報が殆ど伝えずに、自分達がショータを養子や家臣に勧誘していた事がバレたようだ。」

「勧誘があったの?」

「全部俺が断った、俺に感謝しろ。」

そう言えばそんな話を聞いた事があったような気がする。

貴族の養子や家臣になるのは嫌だから、確かに有難い。



それでも俺みたいな平民に意地悪したからと言って、東部地域に大きな力を持つ高位貴族が大勢処分される筈など無い。

恐らく前公爵暗殺に関連した事なのだろう。

闇のナーベで見つけた顧客名簿には、コローセ伯爵以外にも何人かの高位貴族らしい名前があったし、領収書も沢山あったから惚ける事も出来なかった筈だ。

隠し部屋にあった物を届けに行った時、“爺や”さんから内密にするように言われたので熊にも話さなかったから、熊は俺への工作が原因と思ったらしい。

「うん、ありがとう?」

「何で疑問形なんだ? 感謝しているようには聞こえねえぞ。 それはともかく、この間謁見の後に公爵閣下が控室に来たのも、貴族達が流した閣下とショータの仲が悪いという噂を打ち消す為だ。」



いや、噂じゃ無くて俺は公爵が嫌いだぞ。

公爵だけじゃなくて、あの指揮所にいた貴族はみんな嫌いだ。

俺は納豆気質、殺されそうになった事はいつまでも忘れない。

粘り気なら負けない自信がある。

どうだ、恐れ入ったか。

「そうなんだ。 でも俺はあの公爵が嫌いなんだけど。」

「それは貴族達が公爵を騙して、冷たい扱いをするように仕向けていたからだ。」

「そうなの?」

理由はともかくとして、俺は一度嫌いになった相手への評価はそう簡単には変えない。

決して頭が固い訳では無い。

俺は純真で一途な男なのだ、たぶん。



「まあ良い。 今日来て貰ったのは来年の事を教えておこうと思ったからだ。」

熊が笑った。

前世では、来年の事を言うと鬼が笑うと言うが、今世では熊が笑うらしい。

「うん。」

「もうすぐ年越しの祭りだ。 ショータは新年を迎えれば12歳になる。」

そう言えばそうだった。

結構色々と忙しくて、すっかり忘れていた。

「忘れてた。」

正直に言った。



「この1年は色々とあったから忘れても仕方が無いな。 それはともかくとして、今日呼んだのは、12歳になると精通があるからだ。」

前世知識では初めての射精が精通の筈だが、初めて射精したのは何時だったかといった話は、TⅤやネットでも観た事は無い。

俺もたぶん、小学校高学年か中学校の時に精通したのだろうが、自分についての記憶が殆ど無いので判らない。

「12歳になると、すぐに精通があるの?」

「そうだ。 大抵の男は、年が改まって12歳になった最初の晩に、色香のある夢を見て精通する。」

何じゃそれ。

12歳になった少年達が一斉に射精する?

正月にやる消防出初式の一斉放水か?

訳が判らない。

「そうなの?」

「精通に関してはどの国でも同じなので、女神様の恩寵だろうと言われている。」



「精通って、どうなるの?」

前世の精通ならある程度予測がつくけど、一斉放水だと想像が出来ない。

「大抵は夜のうちに子種が勝手に出て、下着の前の部分がゴワゴワになっている。」

「知らないうちに勝手に出るってこと?」

「大抵はそうだ。 朝になって出ていなくても、12歳になっていれば自分でナニをしごけば出る筈だ。」

「12歳になるまでは出ないの?」

「精通は女神様の恩寵だから、12歳までは幾らしごいてもナニが大きくなることは無いし子種も出ん。」

この世界では個人差には関係無く、12歳になったら突然勃起可能になるらしい。

変態子爵令嬢の裸を見ても、ピクリともしなかった理由が判ってちょっと安心した。



「どうして寝ている時なの?」

「12歳になった最初の晩に、色香のある夢を見るからだ。」

「色香の有る夢ってなに?」

「女性が出て来て、なんとなく嬉しくなる夢の事だが、縁起が良いのは、1乳、2ケツ、3うなじ、と言われているな。」

前世でおめでたい初夢と言われている、“1富士、2鷹、3なすび”みたいなもの?

「何で縁起が良いの?」

「乳が夢に出てきたら、女性と正面から向かい合える程豪胆な男。 ケツは女性の下半身に興味を持てる男、うなじに色香を感じるというのは、女性慣れした男になれるという事で、どれも子作りに向いた男に関係する事から、縁起の良い夢と言われている。」

「えっと、男は子作りに向いていると良いの?」

「子供は国の宝だ。 男は皆、宝を生み出す力が強くありたいと思っておる。」 

そう言えば裏ギルドのおっちゃんも“子供は国の宝”って言ってた。

「そうなんだ。」

「まあ大抵の者は、何となく嬉しい夢だったような気がする程度で、夢で何を見たかをはっきり覚えている者など殆ど居ないがな。」

まあそうだろな。

前世でも初夢を覚えていた事なんか無かった。



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