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8 男じゃあるまいし、女が悲鳴を上げるな

「凄いわね。魔力は大丈夫?」

「うん。」

「じゃあこの人もお願いね。」

次の兄ちゃんは魔獣の爪で背中を掻かれたのか、30㎝程ある大きな傷が3本背中に並んでいる。

背中に掌を向ける。

「回復。」

兄ちゃんの背中がボワッと光る。

光が収まると傷が塞がっていた。

「凄い。魔力は大丈夫?」

「うん。」

「じゃあ次はこの人ね。」

「そいつは腕の骨が折れているから後回しだ。そのまま回復魔法を掛けると折れたままくっついちまうからな。こいつも骨が折れたが、俺が元の位置に戻して添え木した。こいつを先に治してくれ。その間にそいつの骨を基の位置に戻す。」

そうなんだ。

折れたまま回復させちゃダメだとは知らなかった。



奥の診察台に居るおっさんの所に行く。

脛の所に添え木がされている。

「回復。」

脛がボワッと光った。

「おっ、傷みが消えたぞ。ヤブ医者、添え木を外しても良いか?」

「その子の腕前なら治っている筈だ。添え木を外して動いてみろ。」

イーシャさんはタケノコでは無くヤブ医者と呼ばれたせいで機嫌が良い。

「おう。」

おっさんが脛に巻かれた布を解いて添え木を外す。

何度か床を踏み付けている。

「本当に治ってる。有難い、これで明日も仕事が出来る。助かった。」



ギャ~!

悲鳴が聞こえた。

声の方を見ると、向こうにある診察台で、ヤブ医者が女性冒険者に馬乗りになっている。

どう見ても人相の悪い悪漢が若い女性を襲っているようにしか見えない。

「じゃかましい。男じゃあるまいし、女が悲鳴を上げるな。」

えっ、男なら悲鳴を上げても良いの?

ヤブ医者の言葉に頭が混乱した。

この世界の女性は強い?

体格的には前世と同様に見えるけど、何かが違うのかも知れない。



「骨の位置を直したから回復してやってくれ。魔力はまだいけるんだろ。」

「うん。」

さっきの悲鳴はおっさんが襲ったからではなく、折れてズレた骨を、元の位置に戻した時の痛みで上げた悲鳴だったらしい。

お姉さんの腕に掌を向ける。

「回復。」

腕がボワッと光った。

「痛くない。本当に痛くないわ、ありがとう。」

「凄いわね。魔力は大丈夫?」

受付のお姉さんが驚いている。

「うん。」



「短縮詠唱も凄いけど、回復に掛かる時間の短さや、10歳の子供なのに4人連続でも尽きない大きな魔力量。これはかなり上位の家柄の子ね。早速行方不明の子供がいないか問い合わせてみるわ。ねえ、生まれた家が見つかるまではここで働いてくれるのよね。」

「うん。」

「じゃあ見習い登録しましょ。」

お姉さんに連れられて受付に戻った。

「どうだった?」

治療室を出ると、バンさんが受付のお姉さんに声を掛けて来た。

俺を心配して待っていてくれたらしい。

「凄いなんてものじゃないわね。腕前は大神官より上かも知れないわ。早速問い合わせてみるけど、腕前については暫く秘密にした方が良いかもね。この子を取り込もうとして嘘の申告をする貴族がいるかもしれないから。」

「そうだな。」

「まずは見習い登録よ。」



お姉さんがカウンターの後ろに入り、そのカウンターの前に俺が立つ・・・。

背伸びしてもカウンターの上が見えない。

ぐぬぬ。

「これに乗れ。」

バンさんが何処からか木箱を持って来てくれた。

箱の上に乗ったらカウンターの上が見えるようになった。

“金も要らなきゃ、女も要らぬ。わたしゃも少し、背が欲しい♫“

前世のTⅤで見た昭和の寄席芸人が歌っていたフレーズを思い出す。

10歳の設定とは言え、もう少し背が欲しかった。



「字は書ける?」

「たぶん?」

標準装備の言語理解があるから書けると思うが、この世界で字を書くのは初めてだからちょっと不安。

「書ける所だけで良いから書いてみて。」

「うん。」

名前・年齢は書けた。

他は判らない・・事にした。

お姉さんが頷いているのでこの世界の文字で書けているのだろう。



「じゃあ、属性を調べるからこの水晶に手を乗せて。」

少し背伸びをして水晶に手を乗せると、水晶が白く光る。

「属性は光だけ、回復特化の人がいる家を探した方が良さそうね。」

俺には火・風・水・土というファンタジー小説お馴染みの4大属性は無いらしい。

「属性が無い魔法は使えないの?」

「そうよ。でも光属性は凄く少ないから大切にされているわ。」

やっぱり水や火は出せないらしい。

上位魔法どころか初級魔法も使えないらしい。

容姿にこだわり過ぎて時間配分出来なかったササヤカお神のせい。

ササヤカお神のバカヤロー!

「ギルマスに報告するから一緒に来て。」

書類を持ったお姉さんに連れられて2階に上がった。


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