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88 公爵の頭、虫が湧いてるんじゃね?

「竜滅がベルン最大の暗殺ギルドを壊滅させたんだって?」

「おうよ、竜滅を襲って返り討ちにあったんだとよ。」

「竜滅を襲った? 暗殺ギルドはバカばっかりか?」

「竜滅はアジトの外に立って、こう両手を上に挙げ、空に向かって”悪党殲滅“と叫んだそうだ。」

「建物の外からか?」

「そうだ。 すると建物の中で何かがぶつかり合うような大きな物音や叫び声が上がり始め、その音は20分程続いたそうだ。」

「竜滅はその間もずっと建物の外にいたのか?」

「見ていた者は皆そう言っている。 竜滅が両手を降ろして、建物の中に入った時には、暗殺ギルドの者達は全員が粉々になっていたらしい。 それなのに建物の中には血が1滴も落ちていなかったと警備隊の隊員が言っていた。」

「1滴も血を流さずに粉々って、すげえな。」

「ワイバーン討伐の時も竜滅は地上に立ったまま、遥か上空を飛んでいるワイバーンの首の骨を砕いたと聞いたぞ。」

「ワイバーンの首の骨さえ折るほどの魔法だ、人間なら離れた所からでも粉々に出来るんだろうな。」



闇ギルドのアジト壊滅の情報はあっという間に大陸全土に広がった。

20人近い監視者が一斉に情報を発信したのだから当然と言えば当然。

バンさん達が酒場で聞いた竜滅話を、身振り手振りを交えて話してくれた。

いやいや、俺はただボーっと立っていただけだから。

手も挙げてないし、叫んでもいないぞ。

人間なら離れた所からでも粉々に出来る?

そんな訳有るかい!

どうやら吟遊詩人達が、いつものように尾ひれを付けて勝手に竜滅話を作っているらしい。

尾ひれを付けるのは程々でお願いします、ほどほどで。



アジトになった家具や物品については、魔導具作りの参考になりそうな幾つかの魔道具と、レイが欲しがった希少素材を残して、残りは全て売り払った。

ちなみに、市場には出せない暗殺用の武器や毒などは、警備隊が驚くほどの価格で買い取ってくれた。

闇のナーベの殲滅に警備隊も協力させて貰ったお礼らしい。

今迄に暗殺ギルドによるものと思われる殺人事件が何件もの起こっていたのに、犯人を見付けられなくて歯がゆい思いをしていたそうだ。

俺が警備隊と一緒に現場に行ったので、世間的には警備隊と俺が協力して闇のナーベを殲滅した事になったらしく、住民達の警備隊に対する評価も上がったらしい。

殲滅したのはベロなんだけど。

俺も警備隊も後始末をしただけ。

まあ、みんなが喜んでいるならそれでいい。

警備隊長は金庫の中から見つけたあの書類を、素早くベルン宮殿に届けた事が高く評価されたようで、それまでの小隊長から中隊長に出世したそうだ。

めっちゃ馬を飛ばして急いだから、俺はかなり怖かったけど。

まあ隊長さんが誉められたのは俺も嬉しいから許してあげる。

でも、大きくなるまで馬には乗らないと心に決めた。

本当に怖かったんだから。



宮殿に呼ばれた。

エントランスに大勢の使用人達が並んで、俺を出迎えている。

大勢の使用人達に一斉に礼をされると、めっちゃ尻がこそばゆくなる。

前回の様に目を背けられた方がまだましに思えた。

案内されたのは、広くて豪華な部屋。

壺や絵画など高そうなものが一杯ある。

どれ1つでも壊したら、治療所の稼ぎでは弁償出来そうもない。

ベロが壊したらどうしようと不安になった。

広い部屋の真ん中にポツンと置かれたソファーに腰を下ろすと、メイドさんが香りの良いお茶を淹れてくれた。

目の前のテーブルには色とりどりのお菓子が並んでいる。

この菓子は食っても良いのか?

メイド達は壁際で直立不動のまま。

どうすれば良いのかさっぱり判らない。

いじめ?

これはいじめなのか?



「控室なのに、何でこんなに広いの。」

こっそりと熊に聞いてみた。

「空いている所は、貴族を護衛する騎士や執事が立つ場所だ。」

囁きお熊が教えてくれた。

貴族の場合、1人で来る事は無いらしい。

「という事は、この部屋は貴族用の控室?」

「そうだ。」

「俺は貴族じゃ無いんだけど。」

「Aランクは侯爵待遇だから、貴族だ。 細かい事は気にするな。」

部屋の中には執事っぽいおっさんが1人と、騎士が3人。 

そして4人のメイドさん達が皆壁に張り付いて直立不動で立っている。

めっちゃ居心地が悪いし、話もし難い。

狭い部屋の方が良かったな、なんて思っていたらすぐに呼ばれた。

前回は延々と待たされたのに、対応が違いすぎじゃね?

広い部屋を長い時間使わせたくない?

判らん。

何となく嫌な予感がする。



「大門冒険者ギルド所属回復師ぃ~、Aランク冒険者ぁ~、ショォォータ閣下ぁぁぁ~!」

俺の名を呼ぶ声と共に大きな扉が開く。

前回よりも呼び声が長い。

息の続く限りに叫んでいる感じ。

何となく嫌な予感が増して来た。

”真っ直ぐに進め“

中央の赤いじゅうたんを真っ直ぐに進む。

“止まれ”

熊が囁く。

今回も“囁きお熊”が付いて来てくれたので安心。

立ち止まった。

”右ひざを突いて頭を下げる“

膝を突いて頭を下げた。



「ベルン冒険者ギルド所属回復師、Aランク冒険者ショータ閣下の働きにより、ベルン最大の闇ギルド”闇のナ~ベ“が壊滅した。 その功、顕著と認めここに褒賞を授ける。 1つ、白金貨1000枚。 1つ、公爵宮殿への通行証。 1つ公爵家書庫の閲覧証。」

通行証に閲覧証?

なんじゃそれ?

「面を上げぃ。」

”頭を上げて正面を見ろ“

頭を上げた。

正面には煌びやかな服を着た公爵が一段高い所に座っている。

公爵が側にいる“爺や”さんから金袋とカードが乗ったトレーを受け取り、俺の前に立った。

「この度の働き、大儀であった。」

公爵がトレーを差し出す。

“両手で受け取れ”

両手で公爵が差し出したトレーを受け取る。

“ありがたきしあわせ”

「有り難き幸せ。」

公爵が椅子に戻る。

「下がれ。」

”腰を屈めて頭を下げたまま後ろ向きに下がれ“

え~、また後ろ向き?

後ろ向きになったまま入り口まで下がって大きな扉の外に出た。

2度目なのでちょっと慣れた?

「ふ~っ。」

疲れたのは前と一緒だった。

「上出来だ。」

熊に誉められる。

どうやら今回も首は繋がっているらしい。

首があっても帰り道は判らないけど。

宮殿って下手な迷路よりも迷い易い。



「公爵閣下の御成り~!」

控室に戻ってホッと一息吐いたと思ったら、突然公爵が来た。

立ち上がろうとする。

「そのままで良い。」

公爵に言われて、上げかけた腰を下ろした。

「この度の働き、見事であった。 そなたが倒した“闇のナーベ”の顧客リストに有った不正貴族を取り調べた所、大規模討伐の折、そなたに支払われるべき割り増し報酬の白金貨50枚が支払われていない事が判った。 更に他の貴族と謀りワインバーン討伐の分配金及び報奨金白金貨20000枚を不当に白金貨1000枚に減額していた事も発覚した。 差額の白金貨19050枚は既にそのほうの口座に振り込ませた。」

「はあ。」

俺が答えた瞬間に後ろに控えていた騎士達が口を開き掛ける。

公爵が手で騎士達を制した。

“はあ”はダメらしい。



「また、前回の拝謁の折、貴族達の差し金で我が国の英雄殿に相応しい待遇や控室を用意させなかったと聞いた。 この件も含め、配下貴族の重ね重ねの不適切な行為、公爵として謝罪する。」

「「「「う!」」」」

公爵が頭を下げた瞬間、騎士やメイド達から驚きの声を殺したうめき声が漏れた。

公爵が謝るのは珍しい?

間違いをしたなら謝るのは当然と思ったけど、公爵は違うようだ。

今回控室が随分上等になったと思ったら、前回が酷すぎだったらしい。

俺としてはやたらと広くて豪華なこの部屋より、前回の狭くて装飾品の無い部屋の方が落ち着けたんだけど。



「今回の闇ギルドで顧客リストが見つかったのは偶々ですから。 俺は自分の身を守ろうとしただけなので、褒賞は過分と思います。 それよりも、褒賞で頂いた公爵宮殿への通行証と、公爵家書庫閲覧証の意味が判らないのですが。」

「貴殿は図書館が好きと聞いた。 宮殿の書庫には中央図書館には無い本が沢山ある。 書庫に入るには宮殿に入らねばならぬ。 その為の通行証と閲覧証だ。」

辻馬車に乗っても片道3時間も掛かる宮殿まで俺が来る訳ねえだろうに。

「いや、宮殿はギルドから遠いので伺う事は無いと思います。」

使わない物を貰う訳には行かない。

「書庫の閲覧証は、何か調べたいことが見つかった折に使うが良い。 宮殿の庭園は四季折々美しさが変わる。 庭園の見学がてら余の所に遊びに来るが良い。」



待て待て、何で貴族嫌いの俺が貴族の巣窟に“遊びに来る”って思えるんだ?

公爵の頭、虫が湧いてるんじゃね?

「はあ。」

「先触れを貰えれば茶会の用意もしておくぞ。」

貴族の茶会なんてトラブルイベントに決まってる。

断ろうとしたら、囁きお熊が俺の足を踏んだ。

”その時は宜しくお願いします“

小声で囁かれる。

「その時は宜しくお願いします。」

「うむ。 時々は顔を見せよ。」

”有り難き幸せ“

「有り難き幸せ。」

公爵が出て行った。

ふぅ。

「たとえ嫌でも、一応は有り難がるのが貴族への対処法だ。 こんな所に冒険者が来れる訳が無いと言う事も知らんのだからな。 有難がっておいて足を向けなければ良いだけだ。」

熊が小さな声で教えてくれた。

成る程。

馬鹿正直に嫌だと言わない方が良いようだ。

熊に教えられて、何となく貴族対応の練度が上がったような気がした。


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