86 尻尾の蛇さんもブンブンと頭を振っていた。
応援の隊員達が来るまで暇になったので、隊長さんと一緒に金庫の中にあった書類を調べる事にした。
俺の暗殺依頼金は白金貨3百枚だった。
前世の3億円だが、ベロが余りの安さに激オコになった程安い。
この世に1頭しかいない神獣の毛皮が、ワイバーンの6分の1なんて有り得ない。
魔法袋も容量が特大なので、ごく稀にオークションに出た時は数十億で落札される希少品だとズンさんが言っていた。
だったら、俺の命だけの値段って幾らなんだ?
まあ鼠の魔獣1匹倒せない俺だから、俺の暗殺というよりも、魔法袋とベロの毛皮が目的で、俺自身には価値が無いのだろうけど。
時間が出来たので、闇のナーベが今までにどんな相手を幾らの報酬で暗殺したのかが気になって、金庫の中にあった暗殺依頼書や領収書などを調べる事にした。
警備隊長も書類を一緒に調べている。
「こ、これは、前公爵家閣下の暗殺依頼書ではないか! 前公爵閣下の突然死も闇のナーベの仕業だったのか。」
突然、警備隊長が声を上げた。
驚きの余りか、警備隊長の顔色が青ざめている。
警備隊長が手にしている書類を覗いてみると、暗殺のターゲットがベルン公爵家となっていた。
他にも前公爵家暗殺に関連する書類が無いかと、警備隊長と一緒に金庫の中の書類を全部出して調べた。
金庫の書類を調べたところ、前公爵暗殺の依頼書だけでなく、依頼人の貴族らしい署名が入った領収書や顧客人のリストなど、これまでに依頼された暗殺に関する記録が沢山見つかった。
特に顧客名簿には依頼人の名前と依頼日時、暗殺対象に依頼金の金額がきちんと整理されていた。
「すぐに宮殿にお届けしたいですが、これは非常に危険な書類ですので、仲間が奪い返しに来るかもしれません。 暫くの間、ショータ殿の魔法袋に預かって頂けますか?」
「うん。」
書類を収納に入れた。
「お金やインゴットについては問題無いのでショータ殿が貰って置いて下さい。宝石や貴金属製品については盗品の可能性を調べさせて頂きます。 盗品と判明した場合は、鑑定士に価格を見積もって貰い、その価格でも買い取りたいと希望されれば元の持ち主にその価格で引き取らせます。 勿論その代金はショータ殿のものとなります。」
「うん。 じゃあこれも魔法袋に入れて置くね。」
お金や宝石、貴金属などを魔法袋に入れる振りをして収納に入れた。
「前公爵暗殺について、ボスに聞いてみる?」
これだけ大きな組織のボスだから、ひょっとして自白耐性を持っているかも知れないと思って試したくなった。
「暗殺ギルドのボスですから、拷問に掛けても喋らないと思いますよ。」
「闇属性の人間は光属性に弱いらしくて、俺に聞かれたら逆らい難いみたいなんだ。 襲って来た暗殺者も正直にペラペラしゃべったでしょ?」
「そう言えば、不思議なほど素直にアジト迄案内しておりましたね。」
「良く判らないけど、光属性のオーラって言うのが有るらしいね。 闇属性には凄く効くらしい。」
口から出まかせ、嘘八百。
今日は灰色の脳細胞がご機嫌らしい。
「これだけの組織のボスともなれば、何も話さないのが普通ですが、一応試してみて貰えますか?」
「うん。」
隠し部屋を出て、ボスの寝ている部屋に戻った。
「眠っているうちに服を脱がせます。 どこかに武器を隠している可能性が有りますから。 それと、口の中に自殺用の毒を隠していないかも確認しますので少しお待ち下さい。」
隊長さんがボスの服を脱がせて、スッポンポンにした。
見たくない物が目に入って、思わず顔を背ける。
女性の裸は反射的にガン見してしまって目を逸らせられなくなるが、男の場合にはすぐに目を逸らせる。
うん、男の裸には価値が無い。
警備隊長がボスを縛り上げた。
「用意が出来ました。 尋問をお願いします。」
「うん。 ベロ、ボスを起こして。」
「ワウ(判った)。」
ベロが睡眠を解くと、ボスが目を覚ました。
俺の回復でも目を覚ますが、人前で魔法は使いたくないので、なるべく目立たない様にベロの力を借りた。
「な、何をしや・」
“自白“
「黙れ! 俺の質問に答えろ。」
「・・・・。」
「前公爵の急死も貴様らの仕業か?」
「そうだ。」
「依頼主は?」
「コローセ伯爵。」
発見した書類に書かれていた名前と同じだった。
「理由は?」
「知らん。 金さえ貰えれば、理由など聞く必要は無い。」
そう言われると、これ以上は聞いても無駄だろう。
「だそうです。」
振り返って隊長さんを見ると、両拳を握りしめ怒りでブルブルと震えていた。
「応援部隊、到着致しました。」
警備隊本部に向かった伝令が、応援部隊を引き連れて戻って来た。
「ご苦労。 家の中の物は全て警備隊本部に運ぶ。 荷物や家具は全て外に運び出せ。 量が多いから追加の荷車と人夫も手配しろ。 手の空いている者は、部屋の中の捜索だ。 隠し部屋や隠し戸棚にも注意しろ。 運び出した物が盗まれない様にしっかり見張るんだぞ。」
「「「「はい。」」」」
大勢の警備隊員が捜索と荷物の運び出しを始めた。
「もう帰っていい?」
「恐れ入りますが、見つけた書類が書類ですので、警備本部迄御足労願います。」
“書類が書類”って当たり前じゃん。
書類が煮込み料理とかだったらびっくりだけど。
俺が首を傾げた。
「書類に書かれていた前公爵閣下の暗殺など、絶対に外には出せない情報で御座います。 今後の事については私の一存では判断出来かねます。 是非とも御同道下さる様、平にお願い申し上げます。」
書類の内容が問題らしい。
隊長さんが困るらしいので本部に行く事にした。
まだ運び出しを続けている警備隊員達を残し、隊長さんと一緒にベルン宮殿にある警備本部に向かう事になった。
「急ぎますので、馬で参りたいのですが、馬にはお乗りになれますか?」
応援部隊が乗って来た馬を借りるつもりらしい。
建物の前には数頭の馬がいた。
お乗りになれますかって、無理に決まっているだろ。
俺は140㎝しかない。
馬の背中は俺の身長よりも高いし、胴もめっちゃ太い。
馬に跨ったら、大股開きをしても乗っかっているだけで精一杯。
馬を操る事なんて出来ないぞ。
「乗った事は無いし、たぶん鐙に足が届かないと思う。」
「恐れ入りますが、私の前に座って頂いても宜しいでしょうか。」
「うん、いいよ。」
ちょっと高くて怖そうだけど、2人乗りなら安心。
大きくなったら馬に乗る機会もある筈だから、1度乗っておきたいと思った。
隊長が俺を持ち上げて馬に乗せ、俺の後ろに軽々と飛び乗った。
鞍の前に着いている突起を掴んだ俺を、隊長が後ろから片手で抱きかかえてくれる。
乗ってから思ったが、馬の背というのは予想以上に高い。
何よりも不安なのは足の裏が宙に浮いている事。
たいした高さでは無い筈なのに、下を見たら股間がヒュンっとなった。
どうやら俺は高い所が苦手らしい。
“地に足を着けた生活をしろ”、親父の遺言を思い出したような気がする。
自分の事も家族の事も殆ど覚えていないし、父親は早死にしていなければまだ生きている年齢だが、きっとそう遺言するに違いない。
馬の背はそれほど怖い所だった。
そう言えば栂池高原スキー場にある“馬の背コース”は上級スキーヤー向けの難しいコース。
あれ?
俺ってスキーをした事があるのか?
時々前世の自分事をちょろっと思い出すのは何なんだ?
そんな事を考えていたら馬が走り出した。
鞍にしがみ付いているのが精一杯で、何かを思い出し掛けた事など頭から消し飛んだ。
あっと言う間にベルン宮殿にある警備隊の本部に着いた。
「恐れ入りますが、ここで暫くお待ち下さい。」
「うん。」
警備隊長は俺が収納から出した書類の束を持って部屋を出て行った。
直ぐに隊員らしい兄ちゃんが、お茶とお菓子を持って来てくれた。
警備隊にしては豪華な応接室で、ソファーで寛ぎながらお茶とお菓子を頂いた。
ワイバーン討伐の祝賀会でベルン宮殿に来た時よりも遥かに待遇が良い。
のんびりと待っていたら、暫くして髭を生やしたお爺さんが来た。
確か大規模討伐の褒賞金を貰った時、謁見の間で公爵の横に立っていたお爺さん。
「公爵閣下の側役を務めさせて頂いているジー=イーヤと申します。お見知り置き下さい。」
お爺さんは“爺や“さんだった。
「ショータです。」
「ショータ殿が見つけて下さった書類をざっと見せて頂きました。 驚くべきというか恐ろしい内容が書かれておりました。」
「はあ。」
「この書類が公になれば、公爵家の体面にも傷が付きますし、ベルンは大混乱に陥ります。 どうかこの件については内密にして頂きたいのですが。」
「書類には関心が無いし、ベルンが混乱するのは嫌だから書類は見なかった事にするよ。 そっちで勝手に処分して。」
「宜しいのでしょうか。」
「うん。 書類は食べられないから公爵様にあげる。 用事がそれだけなら、もう帰っていい?」
俺は山羊じゃ無いから書類は食わん。
要らない物を持っていても邪魔なだけなので、公爵にあげる事にした。
部屋を出ると警備隊長が待っていた。
“爺や”さんに外で待てと言われたらしい。
「恐れ入りますが、隠し部屋にあった荷物を確認させて頂きたいので、あちらの部屋で出して頂けないでしょうか。 勿論所有権は滅殿にありますので、ただ品目の確認だけです。」
「うん。」
かなり広い部屋に案内され、隠し部屋の荷物を出した。
「ご苦労様でした。 ここに出して頂いた品物と、アジトから運び出した物の一覧表は後日お届けします。 不要な物についてはその時に申し出て頂ければこちらで売却して代金をお渡しします。」
「うん、それで良いよ。 宜しくお願いするね。」
「恐れ入ります。」
「ベロ、ご苦労さま。 帰ろうか。」
頑張ってくれたベロにお礼を言った。
「ワゥ。」
ベロが3つの頭を高く上げて嬉しそうにしている。
尻尾の蛇さんもブンブンと頭を振っていた。
”レイもありがとうね“
念話でレイにもお礼を言う。
”たやすい事じゃ“
レイも機嫌が良さそうだった。




