84 暗殺ギルドは、わんこ蕎麦か?
いつものように図書館に向かっていたら、探知にじっと動かずにいる怪しい白い点5つが掛かった。
1人や2人なら動かない事も有るが、5人もの人間が全く動かないのは不自然だし、白い点が他の白い点よりもやや薄い。
”探知に映っている色が薄いんだけど、何で?“
AI搭載型検索エンジンのレイに聞いてみた。
”隠蔽を使っておるからじゃ。 ショータは探知レベルが高いから見えておるが、普通の魔術師レベルの探知なら擦り抜けられる程、高い練度の隠蔽を使っておる“
相当隠蔽レベルの高い者達らしい。
褌を締め直して、気合を入れた。
褌は締めてないけど。
監視の人達の青い点はいつもの配置にいるし、俺に合わせて動いているから、監視の交代員では無い。
少し近づくと、4つの白い点が激しく瞬いているのが判った。
殺る気満々の暗殺者らしい。
離れた屋根の上にいる、瞬きが微かな1人は、見届け人だろう。
教会が雇った暗殺者よりもだいぶ腕の良い暗殺者のようだ。
相手が暗殺者なら遠慮はいらない。
“離れた屋根の上にいる男はベロが麻痺させて。 他はレイが倒して。 自白魔法の実験をしたいから殺さないでね”
”ワカッタ“
”承知“
こんな時は念話が便利。
俺が気付かぬ振りをして歩き続け、待ち構えている4つの点の近くに差し掛かった時、4人が同時に動いた。
針のような物を投げようと路上で構えた男と、槍の様なものを構えて飛び出そうとした植え込みの後ろの男が倒れた。
同時に、木の上で弓に矢をつがえていた男が、堕ちて来た。
レイの麻痺魔法。
路地から俺に向かって突進して来た男がナイフを構えたまま頭から結界に突っ込んだ。
ゴン。
俺の結界に到達する前にレイの麻痺魔法で体が動かなくなり、前のめりになって勢いそのままに頭から結界に衝突したようだ。
結構大きな音がしたから脳震盪を起こしているかもしれない。
離れた所にいる4人を同時に麻痺させるなんて、レイの魔法は流石に凄い。
Sランクは伊達じゃない。
1600年以上生きて、いや、死んでいるだけの事はある。
ベロが屋根の上にいた男を咥えて戻って来た。
男達の服を脱がせてパンツ1丁にする。
教会が送りつけて来た暗殺者を倒した時に警備員達に教えて貰ったので、暗殺者が服の下に色々な武器を隠している事は知っている。
教会が大勢の暗殺者を送って来たお陰で、色々と勉強出来た。
感謝はしていないけど、色々と経験や実験が出来て有難かったのは事実。
パンツを残したのはお情けでは無くその下を見たくないから。
女性の裸は好きだけど、男の裸を見る趣味は無い、キリッ!
パンツ1丁にした男達を、収納から出したロープで縛り上げた。
”一人ずつ起こして“
レイにお願いすると、ナイフの男が起きた。
”自白“
「誰に頼まれたの?」
「そん・・ボスの命令だ。」
「組織の名前は?」
「闇のナ~ベ。」
闇鍋って訳の分からない物が入っている鍋だよね。
箸でつまんだ物は絶対に食べなくちゃいけないって聞いた事がある。
いや、闇鍋じゃなくて闇のナ~ベだ。
「構成員は何人。」
「360人位。」
”自白“がきちんと発動する事が判った。
1人だけでなく、他の男にも効果があるかを検証するのは大事。
“弓の男を起こして”
レイに念話でお願いする。
弓の男が起きた。
”自白“
「闇のナーべのアジトはどこ?」
「なん・・スラム街中程の路地。」
「今、ボスはいる?」
「居る。」
自白の効かない男がいるかも知れない。
“針の男を起こして”
毒針の男が起きる。
”自白“
「アジトには今、何人いる?」
「80人位だ。」
「見張りはいるの?」
「向かいの建物の前に居る浮浪者2人が見張りだ。」
今の所全員に効果があった。
“槍の男を起こして”
槍の男が起きる。
”自白“
「依頼者は誰?」
暗殺者を尋問していた所に警備隊が到着した。
邪魔だけど、“自白“は無詠唱なので横で見ていても判らない筈。
尋問を続けた。
警備隊も俺が尋問中とみて、黙って待ってくれた。
「ヨクーボケ子爵。」
「狙いは何?」
「魔法袋とケルベロスの毛皮。」
「報酬は?」
「白金貨3百枚。」
聞いた瞬間にベロの毛が逆立った。
えっとぉ、白金貨3百枚だと、前世の3億。
ワイバーン1頭の6分の1。
この世界に1頭しかいない神獣の毛皮が、ワイバーンの6分の1は安すぎだろう。
ベロが怒るのも当然だ。
“屋根にいた男を起こして”
ベロが咥えて来た男が起きる。
”自白“
「失敗したら他の奴が襲いに来る?」
「必ず来る。」
「どうしてそう言えるの?」
「闇のナーベに失敗は無い。」
「失敗が無いの?」
現に今回の暗殺は失敗しているんだけど。
「成功するまで何度でも襲うから必ず成功する。」
諦めないから失敗が無いらしい。
不味いじゃん。
1つ片付けても、次々とお替りが来る。
暗殺ギルドは、わんこ蕎麦か?
「こいつは、何でペラペラしゃべってるんですか?」
警備隊の兄ちゃんが不思議そうに聞く。
「俺の光属性が強いから?」
“自白”魔法の事は秘密なので惚けた。
もしも知られたら、権力を持っている人間に都合よく使われる未来しか見えない。
「この5人が俺を襲って魔法袋を奪おうとした。 闇のナーベっていう闇ギルドの暗殺者だって言うから、今からアジトを潰しに行くよ。 1緒に来る?」
ボスの居場所が判っている今のうちに闇のナーベを潰して置かないと、ボスの居場所が判らなくなる恐れがある。
ボスが生きていれば、俺は延々と暗殺者に狙われる事になる。
それは絶対に嫌。
俺には戦闘能力が無いけど、闇属性のベロは闇属性の魔法や毒を得意とする暗殺ギルドとの相性が良い。
ベロを殺せる程力のある組織なら、俺なんかこの襲撃で瞬殺されていた筈なのでベロ一人でも何とかなると思った。
最近ベロは運動不足みたいだから、この機会に好きなだけ暴れて貰うのも有りだと思った。
「無茶を言わないで下さい。 闇のナーベと言えばベルン最大の暗殺ギルドですぞ。」
「そうなの?」
「はい。 構成員も300人以上と言われている大組織です。 警備隊も長年に渡って追い続けていますが、未だにアジトが判らない謎の組織です。」
「あの男が360人位って言ってた。 でも、今アジトに居るのは80人で、都合良くボスも居るらしいんだ。 何度も襲われるのは嫌だから、俺はこれから闇のナーベを潰す。 付いて来るなら来ても良いけど、離れて見ていた方が良いかも知れないかな?」
「竜滅殿お一人で乗り込むのですか?」
警備隊長は腰が引けている。
「俺は戦いが苦手だから、戦いはベロに頼む。」
「ベロだけで大丈夫ですか?」
警備隊長が可愛いベロを見て不安そうに言う。
「ベロはSランクだし、殺されても死なないから。」
ベロは殺されても再召喚すれば生き返る。
暗殺ギルドが得意な毒も麻痺も幻影も効かないから、この仕事には適役の筈だ。




