83 信ずるものはすくわれる、足を。
「そうなんだ。 でも、子供が産まれた時に、誰が父親かは問題にならないの?」
1晩に何人もの子種を貰ったら、生まれた子の父親をどうやって特定するんだ?
「誰が父親でも、領主の子供だから領主の血筋である事に間違いは無い。 父親が誰かなどこの国では誰も問題にしない。 まあ髪や目の色、魔力属性なので大体は判るが、家の子供は皆の宝だから、父親が自分の子を特に大切にするなどと言う事は聞いた事も無いな。」
頭が混乱して来た。
確かに言われて見ればその通り。
母親が生んだ子供なら、確実に母親の血筋だ。
血筋の管理が徹底していた将軍家や大名家は別として、前世では普通の家でも、男が財産を受け継いで家の血筋を守って来た。
だが、嫁の生んだ子供が自分の子ではない可能性は当然ある。
江戸時代には、厳しく監視されていた大奥の女性ですら役者と密会していた事件もあった。
普通の家の女性が夫以外の男と子づくりするのは簡単。
特に通信手段が発達した前世では女性が性を楽しむためのサイトが沢山あり、既婚女性も結構利用していたらしい、知らんけど。
まあ魔力属性や魔力量が遺伝するこの世界とは違うから、血筋なんて支配や継承権を正当化する為の手段の1つというだけで、本当はどうでも良い事かも知れない。
前世にはDNA鑑定という手段もあったが、鑑定する父親は少ない筈。
特に日本人は髪の色も目の色も殆どの人が黒。
”あなたの子よ“、って言われれば信ずるしかない。
信ずるものはすくわれる、足を。
「平民でもそうなの?」
「相続権が女性なのは同じだが、複数の婿を貰えるのは余程の資産家か、複数の職人を婿にする工房主位だな。 まあ余程能力の有る女性なら何人かの婿を娶っていることもあるが、財産の無い平民女性の婿になろうと言う男は少ないから、次女や3女だと婿は1人かゼロだ。」
「お婿さんの居ない女性って多いの?」
「最近は婿に指図するのが面倒だと言って、結婚しない女性が増えた。」
「子供が少なくなって来たって言う事?」
前世でもおひとり様の女性が増えた事が少子化の原因の1つと言われていた。
「祭りの時には大勢の男達が来るし、花街には子種を与える為の風俗店が沢山あるから、子種を貰うのは簡単だ。 子供を産むのは人間社会を守る事でもあるから、独身女性も子供はきちんと生んでいるぞ。」
そう言えば花街には風俗男の店があるって聞いていた。
「でも一人だと、妊娠中は働けないし、子育ても大変でしょう?」
「女性は事務系や技術系の仕事が殆どだから、出産ギリギリまで働ける。 出産院は無料だし、出産祝い金が出るから経済的にも問題は無い。 子育て中は周囲の者が何かにつけて助けてくれるし、どうしても子育てが難しい場合には孤児院もある。 子供は街の宝だから近所の住民達に大切にされるし、躾も近所の者達が手伝ってくれる。」
「そうなんだ。」
前世と違って、この世界は周囲の住民達が一緒に子育てをしてくれるらしい。
近所の人が預かってくれるなら、保育園への送り迎えも要らない。
出産や育児に関しては、前世より遥かに環境が整えられているようだ。
だから若い男を捕らえて子種を搾り取る事件が起こるのかも知れないけど、子供が増える事は良い事なので問題無いのだろう。
自分が子供の姿だからかも知れないが、子供が大切にされているのは嬉しく感じる。
ファンタジー小説にはスラム街の貧しい子供がしばしば登場したが、ベルンでは貧しくとも飢える事は無いらしい。
「でも、出産院の費用や出産祝い金を出せる程、ベルン公爵はお金持ちなの?」
これだけ充実した子育て環境を維持するには、財政負担が相当大きい筈。
あのケチな公爵が子供の為にそれ程お金を使っているとは信じ難い。
「おう。 ベルン周辺は強い魔獣が多くて危険だが、強い魔獣が多いと言う事は希少素材も沢山採れると言う事だし、公爵領ではよそでは取れない希少な薬草や鉱石も採れる。」
「そうなんだ。」
「ベルンは帝国1危険な街だが、帝国1豊かな街でもある。」
「うん。」
「だから、帝国の大商会や大貴族はベルンにも屋敷を構えて、珍しい素材が採れたら直ぐに買い取れるようにしている。 当然その1部はベルンに税として納められるから、公爵の収入は他の領地よりも多い。 まあ定期討伐費や戦費など他所とは違う出費も多いから、支出も多くなるがな。」
「全然知らなかった。」
帝国1危険だけど、収入も多いんだ。
その割にケチなのは何でだ?
俺関係の時だけケチってる?
やっぱり俺は公爵に嫌われているらしい。
「周辺にいる魔獣が強いから、ベルンは冒険者にとっては帝国で一番稼ぎの良い場所だ。 おかげで、帝国中から腕に自信がある冒険者が集まって来る。」
「そうなんだ。」
他の街の事は知らないから、ベルンに冒険者が多いなんて気が付かなかった。
「だからベルンの冒険者は帝国1レベルが高いとも言われている。 よその街でそこそこのランクになって、稼ぎの良いベルンにやって来る冒険者は多いが、よそでDランだとベルンではEランク程度だな。 下手をするとベルンのEランクの方が強い事もある。 それ程ベルンの冒険者はレベルが高いし、周辺の魔獣もよそに比べて格段に強い。 まあ、ワイバーンが12頭も出て来たのは、去年が初めてだがな、ガハハハハ。」
魔獣レベルの高いベルンでもワイバーン12頭は初めてなんだ。
「あはははは。」
俺も笑うしか無かった。




