82 第2婿に第3婿って何だ?
熊に呼ばれた。
「ショータがこの街に来て1年だ。 実家についての問い合わせにも未だ全く返答が無いし、ショータの記憶が戻る気配も無い。 ショータはこの先も暫くはこの街で暮らしていくことになりそうだから、この大陸の基本的な知識を教えておこう。 ひょっとしたらそれがきっかけとなって、何かを思い出せるかも知れないからな。」
「うん。」
「この大陸は魔獣が多い。 魔獣は人間よりも素早くて強いし、繁殖力も高い。 それに比べて人間は1度に何人も子供を生む事は出来ないし、幼子は弱い。 生れるとすぐに立ち上がる魔獣や動物の子供とは違って、よたよた歩くだけでも1年掛かる。」
確かにそうだ。
「うん。」
「沢山の強い魔獣に囲まれたこの大陸で人間が生き延びて来れたのは、人間が知恵を伝えられる事も大きな要因だが、統率の取れた大集団で魔獣と戦う事が出来るからでもある。」
「でも、草原狼も群れを作るって本に書いてあったよ。」
街の外には出ないから、見た事は無いけど。
「魔獣の場合は、大きな群れでもせいぜい100頭だ。 人間は万を超える数が一致協力して戦う事が出来る。」
「そうか、確かにそうだね。」
「だが、繁殖力の強い魔獣と戦い続けるには、常に人間の数を増やし続けていなければならない。 魔獣は殺しても、繁殖力が高いから直ぐに元の数に戻る。 ところが人間の場合は、そう簡単には数を増やせない。」
「うん。」
「人間の数を増やすのに大事な事は、子を産む女を守る事と、1年掛かりで生まれた大切な子供をきちんと育てる事だ。 この大陸では人間の数が減れば国が亡ぶ。」
前世でも子供の生まれる数が減って問題になっていたが、この世界では人間の生存に直結しているようだ。
「うん。」
「男は同時に何人もの女性に子宝を授けられるが、女性はほぼ1年に1度しか出産出来ない。」
「うん。」
「女性が魔獣に襲われて死ぬという事は、そのまま子供の数が減る事に繋がる。」
男は数が減っても、一人の男が沢山の女性に子供を産ませることが出来る。
女性が少なくなれば、確かに子供が減る。
「うん。」
「そんな理由で、この大陸では女性の命が重くなり、男の命は軽くなった。 街の外での危険な戦いは男の役割、安全な街の中から男達を指揮するのが女性の役割になった。 だから強い攻撃魔法を使えるごく少数の女性冒険者を除いては、女性が危険な街の外に出る事は殆ど無い。 それどころか、貴族女性は屋敷を出る事も殆ど無い。」
「うん。」
「その結果、女性には大所高所から全体を把握する為の総合力を育てる教育が行われ、男は戦闘力や経営技術などの専門知識を学ぶ教育に重点が置かれるようになった。」
「そうなんだ。 じゃあ学校も別々なの?」
「学校は全て男女共学だ。 学校は女性が婿を選ぶ場でもあるからな。」
「成績とかが婿を選ぶ基準になるんだね。」
「そうだ。 だから男はそれぞれの得意な分野に力をいれて、女性の目を引こうとする。 当然の事として、苦手な分野を学ぶ時間が無くなるから、男は専門分野特化型になる。」
「でも武力特化型だったら戦闘には良いけど、領地経営とかは大丈夫なの?」
ちょっと心配になる。
「その場合には経営の専門家を第2婿や第3婿として迎えている事が多い。」
ちょっと、待った。
第2婿に第3婿って何だ?
「えっとぉ、領主さんにはお婿さんが複数いるって事?」
「高位貴族では複数の婿がいるのが当たり前だ。 領主が受胎期間に入ると、婿達は交代で何度も子種を与えるのが婿としての義務だからな。 婿が1人では何度も子種を与える事が出来ないから、子供が産まれる可能性が低くなってしまう。」
「・・・・。」
確かに何度も子種を与える事は出来ないけど・・・。
驚き過ぎて声も出なくなった。
男は只の種馬?
そこに愛はないんか?
「ベルン周辺は魔獣も多いし、侵攻して来る隣国が幾つもある。 戦いが多いから東部地域に領地を持つ高位貴族の多くは、戦いの現場で領軍の指揮を執れる戦闘型の婿を第1婿としている事が多い。」
それで大規模討伐の指揮所には脳筋ばかりだったんだ。
ちょっと納得した。
「第2婿は内政担当の実務家が多いな。 勿論、婿の中には見た目の良さや、夜伽の上手さで婿に迎えられた者もいる。 性感が高まり難い領主は夜伽の上手いものを第3婿とする事が多い。 だから、女性を喜ばせる為の技術を教える閨房技術専門の家庭教師もいるし、庶民向けの専門学校もある。 男の数が少ない事を補う為に、子づくりを専門とする風俗男という職業があるので、子づくりの技術を学ぶ者も多い。」
ホストの養成校かよ。
どんなことを教えているのか、ちょっと気になった。
シャンパンタワーの組み立て方とかも教えているのか?
「生まれた子の能力が低くなったりはしないの?」
脳筋やチャラ男の子供で領地経営は大丈夫なのかと心配になる。
「高位貴族の領主は沢山の子を産むのが仕事だ。 子供が沢山いれば、能力の低い子供は自然にふるい落とされるから問題は無い。」
ビックリ情報だった。
平民を怒鳴り散らすから嫌いだけど、男の貴族も大変らしい。
「とはいえ、出産は女性の体への負担が大きい。 特に貴族の御館様は領地経営や他家の動向把握、婿の監督など仕事が山積している。 平民女性でも、商会や工房の経営は女性の仕事だから、いつも忙しい。 そこに妊娠出産、子育てが加わると負担が大きくなりすぎる。」
「確かにそうだね。」
「それで出産はなるべく1年置きに、というのがベルンの慣習になっている。 出産に伴って体調を崩したり亡くなる事も多いから、出産で弱った体に十分な回復時間を与える為の配慮だ。 万全の体調で無いと、母体が出産に耐えられないからな。」
前世では、女性は子供を産む道具的な発言をして批判を浴びた政治家が居たが、この世界の指導者は女性の健康にも気を配っているらしい。
まあ、実質的な指導者は全員女性なのだから、当たり前か。
あれ?
という事は出産後1年間、子づくりは無し?
「回復期間の1年間は子づくりをしないの?」
「子づくりをしないと、女性の性感が衰える。 避妊薬を飲んで性感の維持に努める女性もいるし、子づくり以外にも性感を高める手段や器具があるから、そうした訓練をしながら次の受胎期間に備える。」
性感を高める手段や器具という事がちょっと気になったが、何とかスルーした。
「うん。」
「出産から1年後に来る次の子づくり時期には、月に3日の受胎適正日になると全ての婿が総出で子種を注ぎ込む。 これは女性が妊娠するまで続くから、なかなか妊娠しないと1年以上の間、毎月3日は子づくりに励む事になる。」
「そうなんだ。」
驚く事ばかりで、脳細胞が付いて行けない。
「まあ、健康な良い子供が生まれやすいのは女性が16歳から30歳迄の15年間と言われているから、子づくりに励むのはその間だけだがな。 40歳を超えて優秀な子供を産んだ例もかなりあるが、出産時の負担が大きいらしいから、早めに子供を産んで、後は政治や領地経営に注力する事が多い。 だから貴族女性は7~8人の子供を産むのが普通だ。」




