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7 こんなに可愛いなら男でも良いか

「お帰り。その子は何だ?」

大門に着くと、門番がバンさんに声を掛けてきた。

初めて街に入る時に入街税を巡って何かが起こるのは、ファンタジー小説のお約束。

ちょっとワクワクしながらバンさんと門番のやりとりを見守った。

お金は持っていないけど、バンさんが貸してくれるかもしれない。

1人では無いからちょっと心強い。

「草原に1人でいたんだ。短縮詠唱で回復魔法を使える凄い回復師なんだけど、記憶を失っているらしくて、家が判らないというから連れて来た。」

「短縮詠唱で回復魔法を使えるって? そんな小さな子供がか?」

「ビンとブンが怪我をしていたんだけど、この子が回復魔法で直してくれた、」

「そうだったのか。それは凄いな。だったら高位の魔導師か大神官の家系だな。」

「ギルドで行方不明になっている子供の回復師がいないか、調べて貰おうと思ってる。」

「そう言う事情なら入街税は免除しておこう。その子の世話は任せるぞ。」

「はい。」

何もイベントは無かった。

入街税の免除なんてあるんだ。

有難い事ではあったけど、ちょっと肩透かしを食ったような微妙な気分になった。



大門を入ると、中世スペインの様な街が広がっていた。

スペインには行った事無いけど、某スペイン村で見た街並み。

道の両側に石造り2階建ての建物が並んでいる。

大門から5分程歩いた所にある、ひと際大きな2階建ての建物が冒険者ギルドだった。

「俺は買取り場に行くからショータを頼むぞ。」

「おう。」

魔獣を担いだ槍士のベンさんは、素材の買取り場らしい向かい側の建物へと向かった。

残ったバンさんビンさんブンさんの3人と俺の4人が冒険者ギルドに向かう。

初めての冒険者ギルド。

何かのイベントが起こるのはファンタジー小説絶対のお約束。

今俺に出来る最大の攻撃手段は鼠さんすら殺せない回復弾。

ササヤカお神から剣技のスキルを貰っている筈だけど、ヒノキの棒さえ持っていない。

本物の剣なんて前世の博物館で見ただけ。

攻撃は諦めた。

最大の防御であるバリアを何時でも発動出来るように、イメージを固める。

バンさんの後について、気合を入れながら冒険者ギルドに足を踏み入れた。

夕方に冒険者ギルドが混んでいるのはファンタジー小説のお約束。

カウンター前に並ぶ冒険者達の列に並んだ。



「バン、可愛い子を連れているじゃねえか。どこで拾った?」

厳つい顔をした、見るからに凶悪そうなおっさんが声を掛けて来た。

来た~!

お約束の絡み。

めっちゃワクワクして来た。

「草原に居たんだ。記憶を失って困っていたから連れて来た。」

あれ?

バンさんが笑顔で答えている。

どうなってんの?

相手はどう見ても悪党だぞ。

「草原にはそんなに可愛い子が記憶を失って落ちているのかぁ? 明日は俺も拾いに行く。草原のどの辺だ? どの辺で拾ったんだ?」

「この子は男だぞ。」

バンさんが呆れ顔。

「はぁあ~、男だと。嘘だろ?」

声を掛けて来たおっさんが、俺の頭から足元まで何度も視線を往復させている。

凶悪な顔で舐めるように見られただけで背筋がゾワッとした。

「やっぱり女だ。」

散々見回した上で、確信を持って言うな!

「男だよ。さっき俺と一緒に立小便してたから間違い無い。」

それって、ここで言う必要があるのか?

「ええっ、本当に男か? ・・男・な。・男・・・こんなに可愛いなら男でも良いか。」

良くねえよ。

おっさんはそっち系も有りなのか?

俺は無しだぞ。

「周辺を探したけど、こいつ以外は誰も居なかったぞ。」

「そうか、・・・まあそうだよな。」

声を掛けて来たおっさんはしょんぼりして酒場へと向かった。

えっ、これで終わり?

イベントは?

「あいつは結婚相手を連れて故郷の村へ凱旋するのが夢なんだ。もういい歳だけど、未だにど田舎の村へ行ってくれるような相手が見つからなくてな。まあ、許してやってくれ。」

唯の可哀そうなおっさんだった。

あの顔では空いては見つからないよな。

何となく納得してしまった。



「バン、その子の記憶が無いってホント?」

いつの間にか俺達の順番になっていたらしい。

受付のお姉さんが声を掛けて来た。

おっさんとの話が聞こえていたようだ。

「ああ。ショータという名前で10歳らしいが、それ以外は全く覚えてないらしい。ただ、短縮詠唱の回復魔法でビンとブンの怪我をあっという間に治してくれた。」

「魔導師か神官の家族という可能性があるって事ね。」

「話が早くて助かる。その辺をギルドで調べて欲しい。その間はここで回復魔法を使ってくれると言っているから、泊る所を世話してやってくれ。」

「早速だけど回復魔法を見せて貰える? どれくらいの実力かで探す範囲が変わって来るから。」

「ショータ、まだ回復魔法を使えるか?」

「うん。」

「じゃあ、一緒に来て。向こうの治療室で回復魔法を見せて貰うわ。」

「うん。」

受付のお姉さんに連れられて隣の部屋に向かった。



隣の部屋には薬っぽい匂いが充満していた。

入った所の壁際に3人の冒険者が椅子に座っている。

部屋の奥には治療用らしいベッドが2つあり、腰掛けた兄ちゃんの足にいかつい顔のおっさんが布を巻いている。

「イーシャさん、回復師さんが来たから診て貰うわよ。」

「その子が回復師か? 随分若いな。」

「短縮詠唱が使えるらしいわ。」

「ほ~、それは凄いな。」

「ショータ君、とりあえずそこの人に回復魔法を掛けてみて。」

「うん。」

椅子に座って待っていた兄ちゃんの血だらけの太腿に掌を向ける。

「回復。」

短縮詠唱っぽく声に出す。

兄ちゃんの太腿がボワッと光った。

「どう?」

受付のお姉さんが兄ちゃんに尋ねる。

「・・・痛みが無い。本当に痛みが無くなった。」

兄ちゃんが足を曲げ伸ばししている。

「助かった。・・・ところで幾らだ?」

「ギルドの回復料は軽傷が銀貨2枚、重傷が銀貨5枚って決まっているからあなたは銀貨2枚よ。」

「本当にそれで良いのか? タケノコの薬代も銀貨2枚だぞ。」

「タケノコとは何だ。これでも最近はヤブ医者と呼ばれるようになったんだぞ。」

奥に居たおっさんが怒っている。

タケノコ医者が育つとヤブ医者になるらしい。

ヤブ医者って、こっちの世界でも言うんだと驚いた。

「イーシャさんはお医者さんなの?」

「医者は勝手にそう呼ばれているだけだ。」

「そうなの?」

「治癒師や回復師は魔法を発動出来無ければ名乗れないし、薬師には試験がある。どちらでもないのが医者だ。」

「そうなんだ。」

「ある程度の薬草知識と治療知識があれば誰でも勝手に医者を名乗れる。俺は時々ここで治療しているから医者と呼ばれているが、自分で名乗っている訳では無いぞ。」

「お医者さんじゃないの?」

「勝手に医者の看板を掲げた自称“医者”は、あちこちに生えているからヤブ医者。腕が悪すぎて、余程の事が無いと患者が来ないのがヤブにもなれないタケノコ医者だ。俺はまあヤブ医者の腕前だな?」

イーシャさんが笑って教えてくれた。

この辺は江戸時代の日本と同じらしい。


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