75 “竜滅御用達”の看板を掲げた風俗店
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頼運
「ぅん?」
チクッとしたような刺激を感じた。
鑑定を掛けられたらしい。
掛けたのは、今迄に見た事の無い、凶悪そうな顔をした、目つきの鋭い大男。
“鑑定“
“ホーク 46歳 人族 男 裏ギルド南鷹会総長 鑑定阻害発動中”
裏ギルドのボスだった。
”鑑定阻害って何?“
念話でレイに聞いてみた。
“鑑定を阻む魔導具じゃ。 ショータは経験値レベルと魔法練度が高いから、この程度の魔道具なら問題無く鑑定出来るが、殆どの者は鑑定を阻まれる”
そんな魔道具があるんだ。
判らない事はすぐに教えて貰えるから、レイは本当に便利。
南鷹会と言えば、いつもベロに串焼きを食べさせてくれる兄ちゃんの所。
俺がギルドに戻ったら監視の仕事が無くなるので、ベロと遊んでくれてる。
もっとも、ベロはいつも女性達に囲まれて男が入る隙間が無い。
ベロが好きな串焼きを買って来た者には、女性達が暫く場所を譲ってくれる。
南鷹会の兄ちゃんは、毎日串焼きを買って来て、ベロを撫ぜさせて貰っているのだ。
ベロがお世話になっている兄ちゃんのボスだから、お礼を言っておかなければ失礼になる。
大通りを渡ってボスの所に歩いた。
「こんにちは。」
挨拶は大事。
「あ、ああ、こんにちは。」
いきなり挨拶したからか、ボスが驚いたような顔をしている。
「お宅の若い衆には、ベロがお世話になっています。」
「鑑定を掛けたのは貴殿か?」
「うん。 俺を監視している人の所属くらいは知って置かないと不味いでしょ?」
「・・まあ、・・そうだな。 うちの若い衆に世話になっているとは何だ?」
「お宅の兄ちゃんは、いつもギルドの入り口横で、ベロに串焼きを食べさせてくれてるんだ。」
「そうなのか?」
ボスが、少し離れた所に立っていたいつもの兄ちゃんに視線を向ける。
兄ちゃんが慌てて近寄って来た。
「申し訳ありません、所属迄知られているとは全く気づきませんでした。」
「鑑定阻害の魔道具を発動しているのに、俺もあっさり鑑定された。 魔道具発動中に鑑定されたのは初めてだ。 貴様が鑑定されていても不思議ではない、気にするな。」
「は、はい。」
「お陰で竜滅殿に挨拶を頂けた。 よくやったな。」
「いえ、とんでもありません。」
「仕事に戻れ。」
「はい。」
兄ちゃんがいつもの監視位置に戻った。
「地獄の門番は初めて見るが、随分と可愛い顔をしておるのだな。」
ボスがベロを見つめている。
目付きが少し柔らかくなった気がする。
「うん、可愛いでしょ? でも、Sランクだからめっちゃ強いよ。 闇魔法も使えるし、尻尾の蛇さんは即死毒を吐くから、敵意を見せないでね。」
「貴殿が“地獄の門番”を従魔にしたと聞いて念の為に調べてみた。 ケルベロスなら闇魔法も毒も貴殿の言う通りだ。」
「ショータでいいよ。 堅苦しいのは苦手だから。」
「そうか、俺の事はホークと呼んでくれ。 うちのシマは大門ギルドの東側になる。 ギルドにも近いから、何かあったら俺の名前を出していいぞ。」
「俺も一応だけどAランクだし、ベロも居るから自分の事は自分で何とかするよ。 人に頼っていたら成長できないからね。」
「まあ、俺を鑑定出来るほど魔法練度が高いのだから、自分の身は守れそうだな。 見掛けは若いのに、しっかりしているので驚いた。 うちのシマには花街もあるから、乳が触りたくなったら気軽に声を掛けてくれ。 竜滅御用達の店にして貰えれば店の格が上がるし、女の子達も喜ぶからな。」
風俗店の表に“竜滅御用達”の看板を付ける気か?
孤児院の“来院記念植樹”は許せるけど、“竜滅御用達”の看板を掲げた風俗店は絶対にダメ。
ズンさんに知られたら、袋叩きにされる未来しか見えない。
「あはははは。」
こういう時は笑って誤魔化すのが日本人
「他のギルドの若い衆達もいるようだな。」
「大手の裏ギルドと闇ギルドは勢揃いしているみたいだね。 帝国の偉いさん達も諜報員を付けてくれているから、この中で俺に手を出したら、あっという間に帝国中に情報が広まるよ。」
「流石は竜滅、凄い人気だな。 うちの店に来て貰えば、あっという間に店の名前が帝国中に広まると言う事か。 それは面白い、今から一緒に行かないか。 良い乳してる子が大勢いるぞ。」
ちょっと心を惹かれる。
「行かねえよ。」
灰色の脳細胞がピンク色の脳細胞を抑え込んだ。
子供を風俗店に誘うな。
それよりも監視員達が大勢見ているんだぞ。
行きたくても、行けねえだろ。
「まあそうだろうな。 俺でも監視をぞろぞろ連れたまま花街に行く勇気はねえ。 母ちゃんに知られたらと思っただけでちびりそうになる、ガハハ。」
裏社会のボスでも奥さんが怖いらしい。
恐らく実質的なボスは奥さんなんだろう。
「じゃあ、俺は行くね。」
「おう、挨拶してくれてありがとうな。」
強面だけど、悪い人間では無さそうだった。
翌日も図書館通い。
いつもの道を歩いていたら、少し先の路上で建物に寄り掛かって俺の方を見ている男を見つけた。
見掛けない男なので新しい監視役かと思って鑑定を掛けた。
“鑑定“
“タイガ 51歳 人族 男 裏ギルド東虎会会長 鑑定阻害発動中”
「あれ?」
鑑定したら、裏ギルドの偉いさんだった。
昨日は南鷹会だったけど、今日は東虎会?
俺が鑑定した事に気付いたようで、つかつかと俺に近づいて来る。
殺意も悪意も無かったので、とりあえず立ち止まった。
「突然で済まぬ。 鑑定で判っているとは思うが、俺は東虎会会長のタイガだ。 英雄殿に一言挨拶させて貰おうと、ここで待たせて貰った。」
「えっと、こんにちは?」
裏ギルドのボスが、何で俺に挨拶するんだ?
「昨日、南鷹会のホークに挨拶したと若い者から聞いた。 俺も一応裏ギルドを率いる者として、南鷹会だけに挨拶されたとあっては面子が立たない。 英雄殿に東虎会としてきちんと挨拶させて貰おうと、こうして出向いて来た。」
「えっと、裏ギルドの偉いさんが、何で俺に挨拶なの?」
訳が判らないんだけど。
「裏ギルドは庶民の街で稼がせて貰っている。 庶民に大人気の英雄殿に挨拶を受けて貰ったとなれば、世話をしている街の者達が喜ぶ。 裏ギルドは庶民にそっぽを向かれたらやって行けないからな。」
「そうなの? 裏ギルドって、暴力で縄張りを守っているんじゃないの?」
「小さな裏ギルドには、暴力や違法取引で組織を維持している所もあるが、俺達4大裏ギルドは横暴な貴族や粗暴な傭兵から庶民を守る役割もしている。 庶民と俺達はお互いに持ちつ持たれつの関係という訳だ。」
「そうなんだ。 全然知らなかった。」
「だから今大人気の英雄殿に挨拶出来たら、世話をしている街の者も喜ぶと言う事だ。」
「挨拶くらいならいいよ。 でも堅苦しいのは苦手だから英雄殿じゃなくてショータと呼んでね。」
「ではショータと呼ばせて貰おう。 俺の事はタイガと呼んでくれ。 東地区で困った事が起きたら、俺の名前を出せば大抵の事は何とかなる。 遠慮なく使ってくれ。」
「うん、有難う。」




