71 この木何の木、お肉の木
「折角だから、英雄が来た事をもっと宣伝しようぜ。」
バンさんが嬉しそうに言い出した。
「それなら、ちょうど庭に植える木を頂いたところじゃ。 英雄殿に来院記念の植樹をして頂こう。」
「どうせなら一番目立つ所に植えて、竜滅来院記念植樹とか竜滅お手植えの木っていう看板を立てるのも良いわね。」
インチョー先生もネーサン先生もノリノリ。
いやいや、俺は目立ちたくないんだけど。
俺はギルドの片隅でこっそりひっそり生きるのだ。
「儂たちは準備をしますので、ショータ殿は子供達と遊んでやって下され。」
院長先生に言われて、俺は庭に戻った。
「モフモフ、モフモフ。」
「ワーイ、ワーイ。」
庭に戻ると、ベロがへそ天になって子供達にお腹を撫ぜさせていた。
子供達に混じってブンさんもベロを撫ぜている。
「すっごく気持ち良いぃ~。」
「クワァン、クワァン(そうであろう、そうであろう)。」
だからどこのお代官様だよ。
「はい、交代だよ。」
ビンさんとベンさんは子供達の整理係。
長く撫ぜている子供をベロから引き離し、賢く順番を待っている子供と交代させている。
何故かブンさんだけは交代無しでずっとベロを撫ぜている。
まあ、そうなるな。
「みんな~、竜滅のお兄ちゃんが孤児院に寄付をくれたわよ。」
ネーサン先生がやって来て、子供達に声を掛けた。
「せ~の。」
「「「「りゅうめつのおにいちゃん、ありがとうござ(じゃ)います!」」」」
女の子が音頭を取ると、子供達が一斉に大きな声を上げた。
凄く慣れてる感じがするのは、寄付を貰った時にはこうしてみんなでお礼の挨拶をする事になっているからだろう。
それでも子供達に笑顔でお礼を言われると嬉しくなる。
「うん、みんなが良い子だからね。 これからも先生達の言う事をよく聞くんだよ。」
「「「「は~い!」」」」
「竜滅のお兄ちゃんが一杯寄付を下さったから、明日からは夕食のスープにお肉が入るわよ。」
お肉が入るのは、夕食のスープだけなんだ。
子供を大切にしているネーサン先生なら、寄付したお金を上手に使ってくれるだろう。
「「「おにく、おにく!」」」
子供達の顔が一斉に笑顔になる。
中にはもう涎を流している子もいた。
夕食のスープだけでもお肉が入るのは嬉しいらしい。
俺は朝昼晩とギルドの日替わり定食。
日替わり定食には必ず大きなお肉が入っている。
何の肉かは考えたくも無い青や紫の色をした肉の時もあるけれど、肉は肉。
前世でもこんなに肉を食べた事は無い。
ギルドの酒場で一番安いメニューだから粗食と思っていたが、子供達にとっては夕食のスープに肉が入っているだけでご馳走らしい。
俺は思っていた以上に贅沢な食事をしているのかも知れない。
贅沢は敵、欲しがりませんカツまでは。
時々カツが食べたくなったのは、日替わり定食に慣れて、俺の舌が奢っていたのだろう。
前世のカツを思い出したら、熱々のトンカツが食べたくなった。
カツ丼もいいな。
いやいや、奢れる舌は久しからず、ただ人ごみで放つ大きな音の屁のごとし。
ナンのこっちゃ。
日雇い労働をしている俺の目標は、コツコツとお金を貯めて治療院を開く事。
お金を貯めるのに最も大切な事は質素倹約、群馬こんにゃく。
うん、これからも無駄遣いはしない様に心がけよう。
子供達を見て、心を引き締めた。
「竜滅のお兄さんが来てくれた記念に、木を植えるわよ。」
「どうして?」
女の子が首を傾げ乍らネーサン先生に聞いた。
「竜滅のお兄ちゃんは英雄だから、英雄が来てくれた事を沢山の人に知って貰うの。 そうしたら、英雄が寄付をしたのなら私もって寄付が貰えるかもしれないでしょ。 寄付が増えたら、朝のスープにもお肉が入るかも知れないわ。」
「「「おにく、おにく!」」」
子供達が一斉に大合唱。
お肉の威力、半端ねえ!
案内されたのは、孤児院の門に近い塀の所。
小さな穴が掘られ、その横に150㎝程の細い苗木が置かれていた。
“鑑定”
”イチョウの苗木 雌“
この世界にもイチョウがある事が判った。
雌株なら銀杏がなるかも知れないな。
そう言えば前世では防災の意味も兼ねて神社やお寺、並木道にイチョウを植えたって、某国営放送の“タコちゃんに叱られる”でやっていた。
あれ?
タコじゃ無かったかな、キコ、ニコ?
“ニコちゃんに叱られる“だと、叱られてる感が無いな。
まあいいや。
「竜滅のお兄ちゃんと一緒に植えるわよ。」
「「「「は~い!」」」」
「ショータ、その木を穴の中に入れて。」
「うん。」
バンさんの指示通り、穴の中に苗木を入れた。
「竜滅のお兄ちゃんが、苗木を植えてくれたよ。みんなで一緒に土をかぶせようね。」
「「「「は~い!」」」」
俺が支えている苗木が入った穴に、子供達が横に積み上げられていた土を小さな手で次々と入れて行く。
「みんな良く出来ました。 最後は竜滅のお兄ちゃんに土をかぶせて貰いますよ。」
苗木から手を離し、俺が最後の土を掛けた。
「木が良く育つように、お水を上げましょうね。」
ネーサン先生に目配せされた院長先生が、桶に入った水を渡してくれた。
桶に入った水を少しずつ苗木に掛ける。
「は~い、上手に木が植えられました。 みんな拍手ぅ~!」
ネーサン先生の声で子供達が一斉に泥だらけの手を叩いた。
なんかほっこりとした。
「この木が朝のスープに入るお肉になるんだから、大切に育てるのよ。」
「じゃあ、この木はお肉の木ね。」
「そうよ、この木何の木、お肉の木よ。 大切に育てましょうね。」
「「「「は~い!」」」」
記念植樹って、寄付金集めなの?
良く判らないけどみんなが喜んでいるからまあ良いか。




