69 花は食えん
お星様を頂きました。
評価を頂けると、応援して下さっているのだからと頑張れます。
これから女性社会でショータの活躍?が本格化する予定です。
”婿殿”にならずにどうやって生きて行くのか、楽しみにして頂けるよう頑張ります。
あくまでもフライノベルですし、R15なので深刻な話や如何わしい場面にならないよう努力します。
頼運
「もうすぐ花咲き月だぞ。」
カウンターの所でバンさんに話し掛けられた。
「花咲き月だと何なの?」
「花咲き月は、初代ベルン公がこの地に砦を築いて、東部地域の統治を始めた月だ。 それを祝って、毎年この月の最初の週はベルンを挙げてのお祭りなんだ。」
「そうなの?」
「屋台は勿論だが、芝居小屋や見せ物小屋も出るし、大道芸人や吟遊詩人達も大勢がベルンにやって来る。」
芝居小屋や吟遊詩人が来るって。
それでなくても訳の分からない竜滅話が広がっているのだから、これ以上は勘弁して欲しい。
「はあ。」
「この1週間だけは平民でも宮殿の庭に入れるんだ。 春の宮殿は、うっとりする程綺麗で、花の香りが凄いんだぞ。」
宮殿なら、以前熊と一緒に行ったけど、冬だと言うのに沢山の花が咲いていた。
春はもっと凄いのかも知れないが、興味はない。
鑑定の練度確認をする為に中央公園の花や木をじっと見る事は多いけど、俺はその日暮らしの日雇い小市民。
花を愛でるような余裕は無い。
そもそも、花は食えん。
「毎日朝の10時と午後3時には、ベルン公がバルコニーに出て手を振ってくれるぞ。」
「はあ。」
俺を殺そうとした、ケチな兄ちゃんに手を振って貰っても嬉しくねえ。
「色々なパレードも行われるから周辺の街からも大勢の見物人が集まるんだ。」
「人が集まると言う事は、この街が今よりも危険になるって事じゃん。」
俺にとっては良い事が1つも無い。
「まあ当日は人混みが酷いから危険だが、今なら人も少ないから準備の様子も見られる。 教会も公爵様の弟君が大司教に就任してからは本来の姿に戻りつつあるから、教会も安全になった。 たまには街に出るのもいいぞ。」
「教会の本来の姿?」
「金持ちから集めた寄進や治癒費で、貧しい者への炊き出しや孤児院の運営をするのが教会本来の有り方だ。」
「そうなんだ。」
ササヤカお神が作った教会は、元々は良い教会だったらしい。
ササヤカお神のショタコン趣味に関してはちょっと、いやかなりアレだけど。
思い上がった指導者達のせいで無茶苦茶になっていた教会も、今は元に戻りつつあるらしい。
「ショータもこの街の事をもっと知っておいた方が良いな。」
偶々カウンター横にいた熊が横から口を挟んで来た。
「そうかも知れないね。」
ベルンの街に住んでいるのだから、街の事位は知っていても良いかも知れない。
「1度教会や孤児院を覗いてみるのも良いぞ。 護衛がてら、ベルンの灯に案内して貰え。 こいつらが育った“灯の家”は教会が運営する孤児院だからな。」
「そうか、“灯の家”で育ったから“ベルンの灯”っていうパーティー名にしたんだ。」
パーティー名の由来が判った。
「少しでも“灯の家”が有名になったら、寄付が集まり易いでしょ。 何とか子供達を飢えさせずにいるけど、運営は結構大変なの。 私達も時々寄付をしてるのよ。」
ブンさんが教えてくれた。
胸を張って誇らしげに言ったので、”ベルンの灯“と名付けたのはブンさんらしい。
ベルンの灯に、祭りの準備をしている街を案内して貰うことになった。
服屋と図書館以外では初めての街歩き。
教会の暗殺者はいなくなったが、街には気性の荒い傭兵が大勢いるし、横暴な貴族も居るので安全ではない。
何と言っても、ベルン周辺には魔獣が多いし敵対国が沢山ある。
祭でなくともベルンは傭兵や荒くれ男が多い、大陸1危険な街なのだ。
祭になったらもっと危険になるのは目に見えている。
今はまだ観光客もさほど来ていない。
ベルンの灯がいるし、ベロも居るので安心して街を歩けるだろう。
ベルンの灯と一緒に、いつもの道を図書館に向かって歩いた。
「図書館に行くの?」
「中央公園が一番賑わう場所になるのよ。 屋台はまだ準備もしていないけど、芝居小屋や見世物小屋はもう建てられている筈よ。」
「見世物小屋って何を見せるの?」
「大抵は、珍しい魔獣のはく製だな。 今年の目玉は、ワイバーンの全身骨格だって。」
「それって、俺が倒した奴?」
「本当ははく製を手に入れたかったらしいけど、皮が高すぎて無理だったらしい。 無傷の皮なんて前代未聞だからな。」
それでなくとも変な噂が広まっているので、これ以上評判になるのは勘弁して欲しい。
「骨だけでも凄い値段だったって聞いたぞ。」
ビンさんも横から教えてくれた。
「そうなんだ。」
「竜滅が倒した竜を見られるって、始まる前から凄い人気らしいぞ。」
ベンさんも口を挟んで来た。
ブンさんはベロをモフモフしながら蕩けた顔で歩いている。
うん、ブンさんは平常運転だ。
図書館を通り過ぎて中央公園に入ると、あちこちに大きな小屋が建っていた。
「今年は芝居小屋が5つも出るって聞いたぞ。」
「そうなの?」
「全部竜滅を主人公にした芝居らしい。」
あちゃ~!
「女神様と竜滅が一緒に大神国を懲らしめる芝居も有るらしいぞ。」
だからぁ、俺はずっとギルドに引き籠っていたんだって。
何で大神国に行った事になるんだ?
「クライマックスでは、女神様に後ろから抱えられた竜滅が、空の上から聖殿にションベンを掛けるらしいな。」
誰だよ、そんな筋書きを考えたのは。
空の上で下半身丸出しはさすがに拙いぞ。
「芝居が始まったら、ショータも一緒に見に行かないか? 俺達が守るから大丈夫だぞ。」
何で俺が空の上から小便する芝居を観なくちゃいけないんだ?
いじめ?
羞恥プレイ?
どっちにしても絶対に嫌。
「行かねえよ!」
頬をプク~っと膨らませた。
「教会に入ってみるか? 今はもうショータを襲うような騎士や神官はいないから大丈夫だぞ。」
「教会の改革で礼拝料も無料に戻ったから、見るのはタダだ。」
タダになったと聞いて、俺の勿体ない精神が疼く。
今迄有料だった所をタダで見られると言われると、凄くお得に感じてしまう。
タダなら中に入って見るのもいいかと思った。
「うん。」
何と言ってもここはササヤカお神を祀る神殿。
神託の件では助けて貰ったので、お礼位は言っておきたい。
タダで見学するついでだけど。
神殿の入り口から中に入った。
“成る程、これが神殿か”
”ふむ、遠視では見たが、こうして実際に入って見ると、印象が違うのう。“
ベロもレイも神殿に入るのは初めてらしい。
”レイは生きていた時には神殿に行ったんじゃないの?“
“儂は闇属性じゃ。 聖属性の神官は苦手であったから神殿に入った事は無い”
闇属性と聖俗性は相性が悪いようだ。
“そうなんだ”
ベロやレイと念話しながら礼拝室に入った。
体育館程の広さの礼拝室は天井がめっちゃ高い。
全体に薄暗い礼拝室には、色ガラスをはめ込まれた窓から太陽の光が色とりどりに降り注いで荘厳な雰囲気を醸し出している。
手前には沢山のベンチが並んでいて、4~500人は座れそう。
礼拝室の奥は1段高くなっていて、説教台の様な演台が置かれていた。
演台の奥には3m以上あるササヤカお神?の立像。
胸をちょっと、いやだいぶ盛ってるから別人見たいだけど、顔は間違い無くササヤカお神。
真っ白な空間で会った時の様なミニ丈では無く、裾迄ある薄衣を纏っている。
ササヤカお神がツルツルな事は知られていないらしい。
いや、知られていても見せちゃダメなのだろう。
前の方の空いているベンチに座り、ササヤカお神の像に向かって祈りを奉げた。
“法皇を倒してくれて、ありがとうございます。 お陰でベルンから逃げ出さずに済みました。 これからも見守っていて下さい”
うん、俺はちゃんとお礼を言える人間だ。




