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6 女性は男が何処を見ているかが直感で判る

怪我をしている姉ちゃんに近寄った。

胸がめっちゃ腫れている。

ササヤカお神とはえらい違い。

胸当てを外して腫れを確認しようかと思ったが、引き摺っているのは足。

前世のおっさん心が出たらしく、つい胸に視線が行ってしまった。

自分についての記憶は殆ど無いのに、おっさん心は残っているらしい。

何も残っていないよりは良かった、と思っておこう。

すけべぇ心が暴走しないか、ちょっと不安だけど。

怪我をしている姉ちゃんが胡散臭そうに俺を睨んでいる。

女性は男が何処を見ているかが直感で判るというのは異世界でも同じらしい。



姉ちゃんに睨まれたので、視線を胸から足へと移す。

残念ながら治すのは足のようだ。

気を取り直して掌を足に翳した。

何となく掌を翳した方が回復っぽいから。

触ってないよ、ズボンを履いていたから。

生足なら撫ぜ撫ぜしながら掛けた方が回復の効果は絶対に高い筈、な訳無いか。

”俺“の記憶は殆ど無くなったのに、おっさん心だけは殆ど残っているらしい。

前世の俺はすけべぇの塊だったのか?

判らん。



「回復。」

一応言葉に出した。

回復魔法を掛けていますよ。

すけべぇな事は考えていませんよ、と言うアピール。

考えていたけど。

足がボワッと光る。

数秒で光が消えた。

「あっ、痛みが無くなったわ。」

姉ちゃんが足踏みをしている。

「本当に治ってる。」

足踏みしていた姉ちゃんが、嬉しそうにその場で何度も跳び始めた。

「いたっ!」

姉ちゃんが転んだ。

達磨さんじゃないのに転んだ。

「ぁぃたたたっ。」

着地に失敗して足首を捻ったらしい。

足首を抑えて痛がっている。

足首に掌を翳す。

「回復。」

足首がボワッと光った。

「ありがとう。何度もごめんね。」



「全く、ブンはそそっかしいんだから。」

剣の兄ちゃんが笑っている。

「今度はこっちの兄ちゃんね。」

小柄な兄ちゃんの肩に掌を翳す。

「回復。」

兄ちゃんの肩がボワッと光る。

光が収まると破れた服の間から見えていた傷が治っていた。

「本当に治しやがった。しかも短縮詠唱かよ、すげえな。」

兄ちゃんが肩をグルグルと回している。

短縮詠唱って、長い詠唱も有るのか?

判らん。



「ショータは回復師なのか?」

「知らん。スライムに襲われて足が痛くなったから、何となく“回復”って言ったら治るような気がして口に出したら、ボワッと光って治った。」

説明しながらズボンの裾を指す。

片方の足だけ、ズボンの裾が溶けてボロボロになっている。

「成程、回復魔法を使ったのはその時が初めてかい?」

「たぶん。」

「ショータは記憶を失う前は回復師をしていたのかもしれないな。気分はどうだ? 気持ち悪くなっていないか?」

「ううん。」

横に首を振る。

「魔力がかなりあるのだろうな。名のある魔導師や神官の家系かも知れない。街に戻ったら調べて貰おう。俺はベルンのDランクパーティー、“ベルンの灯”のリーダーをしている剣士のバンだ。」

「俺は斥候のビン。」

「私は風魔法使いのブン。」

「俺は槍士のベン、2人の傷を治してくれた事、感謝する。」

「うん。」

4人はめっちゃ安直な名前だった。

もう一人いたら絶対に”ボン“。

ササヤカお神が手を抜いたのかも知れない。



「ベルンは遠いの?」

「塔が見えているだろ、すぐそこだ。」

塔は結構遠い気がするんだけど。

ひたすら歩く。

バンさん達は結構歩くのが早いけど、問題無く付いて行ける。

ササヤカお神に貰ったこの体は、小さいけれど身体能力がかなり高いらしい。

「とりあえず身元が判るまでベルンの冒険者ギルドで働くのはどうだ?」

ベルンに向かって速足で歩きながら、バンさんが話し掛けて来た。

「働けるの?」

「正式な冒険者登録は12歳からだが、ベルンでは10歳から見習い冒険者として働ける。回復師ならギルドも大喜びする筈だ。」

「そうなの?」

「怪我をした時は、ポーションを使うか神殿に行って回復魔法を掛けて貰うけどどちらも凄く高い。稼ぎの少ない低ランク冒険者は家で養生するか、時々ギルドに来る流れの回復師か薬の知識がある職員に治して貰うんだ。回復師がギルドに常駐してくれればみんなが喜ぶぞ。」

「そうなんだ。」

「勿論いつでも辞められるし、本当に僅かだけど給金も出る。泊る所も食事もギルドが用意してくれるぞ。」

「だったらそうする。」

泊る所と食事があるのは有り難い。

右も左も判らないので、バンさんの言葉に従うことにした。



「あれがベルンの街よ。」

夕方まで歩いて、漸くベルンの街が見える丘に着いた。

見渡す限りの高い塀に囲まれた大きな街。

2つの塔が街の真ん中辺に立っている。

塔の向こうは緩やかな丘になっているらしく、大きな建物が幾つも見えている。

「あの塔は何?」

「ベルン大神殿の塔だ。昔はみんなお祈りに行ってたけど、大神官が代わってからは礼拝料を取る様になったし、神官の治癒料も上がったから最近は行く人が減っているな。」

お約束の悪徳宗教団体?

うん、関わらないようにしよう。

「急がないと大門が閉まっちゃうわよ。」

ブンさんに急かされ、俺達は大門へと急いだ。

異世界のすぐそこは速足で3時間掛かる所だった。


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