65 ササヤカお神が、やっちまった
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頼運
ササヤカお神のお陰で暗殺者が来なくなった。
良かった、良かった。
と思っていたら、そんな可愛い話では無かった。
熊が暗殺者の来なくなった理由を教えてくれた。
「大陸全土に下されたハテナ様の神託直前に、大神国の聖殿が一瞬で消えた。 大神国の神都も、街の7割が聖殿と共に消えたそうだ。」
「消えた?」
「文字通り消えた。 聖殿や街の有った所には巨大な穴が開いているだけで、何も残っていないらしい。」
「ええっ!」
「破壊直前、神都の上空に巨大なハテナ様が浮かんでいたという目撃情報がある。 また、上空のハテナ様から眩いばかりの光が聖殿の方向に降り注いだという目撃情報もある。」
お怒りになったササヤカお神が、やっちまったらしい。
「聖殿だけでなく、街も消えたの?」
「神都はベルンよりも遥かに大きく、大神国住民の半数以上が神都に住んでいた。 神都の7割が消えたと言うのは大神国自体が消えたにも等しいであろうな。」
「はあぁ?」
国が1つ消えた?
白い空間でもめっちゃ怖かったけど、これ程凄い力を持っているとは思わなかった。
ササヤカお神に逆らわなくて良かった。
「この情報を聞いた大陸諸国は慌てふためいた。 各国は“ぶくぶく太った腐れ神官どもを皆の手で処罰して、真摯にわらわを祀る心正しき神官達を守るのじゃ”、というハテナ神様の神託を果たす為に、慌てて神殿上層部の逮捕に踏み切った。 ぐずぐずしていれば、神都のように帝都や王都が破壊されるかもしれないので、各国とも総力を挙げて神殿改革に乗り出したし、ハテナ様の神託を聞いた民衆達も、一致団結して国に協力している。 さらに各国は、今までに法皇から出された、偽の神託に基づく法令や制度を一斉に廃止した。」
「ふ~ん。」
正直な所、ベルン以外の事にはあまり関心が無い。
鳩が何か落としたね、ふ~ん。
鴉が何か落としたぞ、くそ~。
下らない小話を思い出した。
「民衆はハテナ様の神託に従って、あちこちの街で高位の神官達を襲い始めた。 今や大陸中が大混乱らしい。 各国は神殿の指導者達を処刑し、王族や高潔な高位貴族を大神官に任命して教会の立て直しを始めたそうだ。」
「そうなんだ。」
「ベルンの大神殿でも司教や司祭が処刑され、公爵の弟が大神官に任命されて神殿改革に乗り出す事になった。 そのおかげでショータを狙う暗殺者が来なくなったと言う訳だ。」
神殿は俺を暗殺するどころでは無くなったらしい。
法皇をはじめとする教会の指導者達は調子に乗り過ぎたようだ。
奢れる教会は久しからず、ただ大海に放つ小便のごとし。
俺も謙虚さを忘れず、ひっそりこっそり暮らそうと心を引き締めた。
「神殿の改革に伴って、神殿の各種料金が改訂された。」
「料金?」
「神殿の礼拝料が昔通りの無料となり、治療所の料金も重傷が金貨10枚、骨折が金貨5枚、軽傷が金貨3枚となった。」
「そんなに高いの?」
「これでも今までの半額だ。 司教などの上級神官とは違い、下級神官は今迄も訓練を怠らなかったから腕は確かだ。 その分民間の治療所よりは金貨1枚程高い。」
民間の治療所では軽傷で金貨2枚らしい。
前世なら2万円。
健康保険は利かないからそんなものかも知れない。
「そうなんだ。」
俺は銀貨2枚だから、金貨と銀貨の違いがあるけど、枚数だけでも民間の治癒所と同じ。
俺は魔力量が多いので人数制限は無い。
うん、お客を取られる心配はなさそうだ。
「何よりも、神殿はいつでも治療してくれる。」
「他の治療所は違うの?」
「殆どの治療所は治癒師が1人しかいない。 1日に治療出来る人数にも限りがある。」
「うん。」
「もしも怪我人を運んだ治療所の治療師が留守だったり、偶々魔力切れだったら、又別の治療院まで運ばなければならない。」
「そう言えば、そうだね。」
前世の様に電話で問い合わせる訳にはいかないし、広いベルンで他の治療院を探すのは難しい。
タクシーも無いから、遠い治療所まで怪我人を運ぶのはめっちゃ大変そう。
「それもあって懇意の治癒師のいない者は、真っ直ぐ教会に行くのが普通だ。 ベルンのあちこちに教会があるし、高い塔が目印になって判り易いからな。」
「そうか、塔も役に立つんだ。」
何のための塔かと思っていたけど、目印としても役立つとは思わなかった。
「教会の場合は神官が多いので、必ず治癒師がいるし、神官全員の魔力が枯渇している事は無いから治癒の人数制限は無い。」
「確かにそうだね。」
「教会治療所の料金が引き下げられた事で、ギルド本部ではショータの治療料が安すぎるのではないか、と言う議論が起こった。」
「ギルド本部で?」
「ギルド本部の規定ではギルドの治療所はあくまでも臨時の治療所であって、担当する者も臨時雇用のボランティアというのが建前だ。 だから治療料を最低限にして、重傷は銀貨5枚、軽傷は銀貨2枚に抑えている。 その代わりに治癒師の安全を保障し、宿泊費と食費をギルドが負担している。 庶民の為に戦ってくれている冒険者達を少しでも支援しようという、ギルドの理念があるからだ。」
「うん。」
「ところが、ショータは大陸でも超1流の回復師で、しかもAランク冒険者。 Aランク冒険者を狭い職員寮に住まわせ、銀貨数枚で働かせるのは如何なものかという意見が出た。」
「はぁあ?」
俺としては実働2~3時間で毎日銀貨30枚前後、前世的には1日3万円程の安定した現金収入があって、住居費・食費が雇用者負担なら御の字なんだけど。
部屋もこの間から貴族用の広い部屋にして貰ったからベロと一緒でもゆっくり寝られる。警備も万全だし、治療時間以外は自由にさせてくれるので、これ以上良い待遇は有り得ないと思っている。
「そこで、これまでの貢献度も考え、ギルドが家を無償で貸与するのはどうかと言うことになった。 ショータはどう思う?」
「いらん。」
即断した。
「家を買うのがショータの夢だろ。 貸与と言っても自分の家として使えるのだぞ。 貸与としたのも、ショータをこの街に縛り付けるつもりは無い、というギルドの心遣いだ。」
「俺はまだまだ弱いから危ないよ。 ギルドに居れば安全だから、今のままがいい。 通うのにも便利だし、今の部屋は広くて住み心地が良いから何の問題も無い。 ここ、気に入ってるし。 自分の家になんか住んだら、いつ襲われるか判らないから安心できないよ。」
俺が自分の家に住むのはもっと強くなってから。
少なくとも宿敵鼠の魔獣を倒せるようになるまでは、このギルドを出るつもりは無い。
安全で快適なギルドに引き籠って、コツコツと小銭を稼ぐのが俺の生き方だ。




